第140話 陽の当たる場所
それからの毎日は、目まぐるしく過ぎていった。
文化祭準備。
後夜祭の調整。
受験。
推薦書類。
気付けば九月は、まるで坂道を転がり落ちるみたいな速さで過ぎていく。
昼休みは文化祭実行委員との打ち合わせ。
放課後は生徒会室にて業務に追われ。
帰宅後は推薦課題と小論文。
「受験生ってこんな忙しいの!?」
「生徒会長ってこんなにやることあんの!?」
と陽向が騒いでいるうちに。
文化祭本番は、あっという間にやって来た。
───ついに迎えた、文化祭初日。
一般来場者の入場が始まった直後から、校内はすでにお祭り騒ぎだった。
廊下には各クラスが趣向を凝らした装飾。
教室から漏れる呼び込み練習の声。
中庭では軽音部が機材確認をしている。
創立五十周年記念の横断幕が正門に掲げられ、学校全体が高揚感に包まれていた。
そんな中。
「待って!!スタンプ台紙足りない!!!」
生徒会ブースから、聞き慣れた悲鳴が響く。
生徒会企画。
フォトスポット兼スタンプラリー受付。
文化祭来場者の案内拠点にもなっているため、生徒会メンバーは朝からフル稼働だった。
「あんだけ大量に持って来たんだから、足りないわけないですよ。」
陽向の悲鳴に、阿久津孝明が呆れたように返す。
「えーだよねー…どこ入れたっけなぁ」
陽向が段ボール箱を漁ろうと身を屈めた、その瞬間だった。
「会長!フォトスポット列とスタンプラリー列がごっちゃになってます!」
一年生役員の悲鳴が飛ぶ。
「は!?なんでよ!!」
「会長ーー!!迷子きましたー!!」
「待って今行くーー!!」
完全に大炎上である。
陽向は受付机の前を右へ左へ走り回っていた。
首から下げたスタッフ証は既にぐちゃぐちゃ。
髪も少し乱れている。
開始三十分で、すでに体力ゲージは半分以下だった。
ようやく迷子対応を無事に終えた、その矢先。
「スタンプ台紙なくなりましたー!!」
「だから待ってってばーーー!!」
悲痛な叫びが響く。
陽向は慌てて箱を漁る。
完全にパニック状態だった。
その時。
「そこ、フォトスポット列は右側へ移動するように呼びかけて。」
一年生役員へ指示を出す、落ち着いた懐かしい女性の声。
その一言だけで。
陽向の動きが、ぴたりと止まった。
「……え?」
振り返る。
そして。
「台紙は職員室前の予備箱に百枚ありますから。取り敢えず君、急いで取りに行って。星野さんが台紙探すの待ってたら日が暮れますから。」
メガネの奥の瞳が鋭く光り、その場にいた役員へ指示を出した。
「スタンプラリーの列はここまで伸びたら二列にすんの。あと撮影係を一人増やす。去年藤崎がそうやって回してたの覚えてない?」
冷静沈着な男性の声が、陽向へ向けられた。
首からは卒業生パスが下がっている。
そこに立っていたのは。
「橘先輩!はるる!水野先輩っっっ!!!」
昨年度生徒会役員の卒業生。
元書記、橘梨愛。
元副会長、瀬戸晴翔。
元会計、水野慧。
陽向の瞳は、ぱあぁぁぁっと輝く。
あまりの安心感と懐かしさに、胸がじんわりほどけて、思わず泣きそうになるくらい嬉しかった。
立て続けに指示が飛ぶ。
生徒会メンバー達が、一斉に動き始めた。
数十秒前まで大混乱だったブースが。
みるみる整っていく。
「まったく。相変わらずのポンコツっぷりね。」
橘梨愛は肩を竦めながら、少しだけ口元を緩めた。
その瞬間。
「梨愛っ!!」
阿久津孝明が勢いよく駆け寄った。
「俺、休憩午後って伝えてたのに、こんなに早く来てくれたの?」
「うん。みんなとも話したかったからね。」
そう言って生徒会ブースを見回して、呆れたようにため息を吐く。
「早く来て正解だったわ…横溝くんや相田さんや加賀さんは?」
「桜子は今クラスシフト入ってますよ」
橘梨愛の問いに答えたのは、瀬戸晴翔だった。
続いて陽向がひょいっと顔を上げる。
「琉嘉と優音ちゃんは2人で朝いちフリーにしてあげたんだ!」
「なんで?」
水野慧は、何気なく聞いた。
すると、それに答えたのは阿久津孝明だった。
「2人付き合ったんだよ。文化祭の買い出しペアで。付き合いたてホヤホヤ。」
「はっ!?まじ!?」
橘梨愛の声が裏返った。
そのまま続ける。
「もはやジンクス化してない?」
「また星野さんがけしかけたんですか?」
「けしかけたって何だ!!はるるは私に感謝するべきだろー!!」
瀬戸晴翔の言葉に、即座に陽向が言い返した。
そんな中、水野慧が改めて辺りを見回した。
「あの3人のうち誰か1人でもいればまた違ったんだろうけど…副会長のくせに頼りないぞ孝明。」
「頼りないのは生徒会長ですよっ!!!」
反射的に飛び出した阿久津孝明の叫びに、その場が笑いに包まれる。
そして、水野慧はフッと表情を緩めた。
どこか嬉しそうな笑みを陽向へ向ける。
「星野….やっぱ生徒会続けたんだな。」
すると、橘梨愛が続けた。
「孝明から星野さんが生徒会長になったって聞いて、すぐに藤崎くんに伝えたらLINEでめちゃくちゃ喜んでたよ。」
「はっ!!!??」
橘梨愛の衝撃的な発言に、陽向の全身が飛び跳ねた。
「橘先輩っ!!俊ちゃんとLINEしてるんですかっ!!??」
「するわよLINEくらい…同級生だもん…」
「俊ちゃんどう!?元気!?まさもう彼女いたりしないよね!?」
「知らないわよそんなのっ!!」
ついに橘梨愛の声が弾けた。
そんな陽向の騒ぎ立てる様子に、少し意地悪そうに口元を釣り上げた。
「まぁ藤崎くんの事だから?今頃ニューヨークのブロンド美女達から爆モテのキャンパスライフ送ってるかもね〜」
「ギャー!!!」
陽向は頭を抱えて絶叫した。
「…爆モテ……キャンパスライフの…俊ちゃん…」
次の瞬間。
「かっこいいだろうなあぁぁ〜〜〜〜♡♡♡」
「「「おい。」」」
頬へ両手を当てた陽向の顔がぽわぁっと蕩けて、全員のツッコミが綺麗に重なった。
ここ最近、ずっと胸の奥に抜けない棘が刺さっているように感じていた陽向は、心が健康的に満たされていく感覚に幸せを感じていた。
その時。
「えっ!橘先輩!?」
「瀬戸副会長と、水野先輩も!!」
生徒会ブースに響いた声に、全員が振り向いた。
「横溝くん!加賀さん!」
橘梨愛が声を上げた。
「お久しぶりっすね!」
「わー!先輩達に会えて嬉しいですー!」
横溝琉嘉と加賀優音は足早に駆け寄り、卒業生三人との再会を喜んだ。
「2人とも今フリータイムっしょ?どこか向かう途中?」
水野慧が尋ねると、横溝琉嘉が答えた。
「いや…ポンコツ会長が無事に回せてんのか気になっちゃって。」
「ちょっと様子見に来たんですよ」
そして二人は揃って視線を向けた。
その先では。
「もぉー!!どこ消えたぁ…?」
ダンボール箱へ上半身を突っ込みながら、必死に何かを探している陽向の姿。
「で、お前はさっきから何を探してんだ?」
横溝琉嘉が呆れ顔で歩み寄ると、陽向は箱の中から顔を出す。
「大量に持って来たはずのスタンプ台紙が見つからなくて…もーどこに入れたっけなぁ」
その直後、横溝琉嘉は無言で受付カウンターの下へしゃがみ込む。
パカッ。
プラスチックケースの蓋を開ける。
そして。
バシィィンッ!!
大量のスタンプ台紙を、受付カウンターへ叩き置いた。
「昨日!!」
怒号が飛ぶ。
「ここに!!」
さらに飛ぶ。
「すぐ取り出せるように入れたのを伝えただろうがーーーーー!!!!」
最後は絶叫が生徒会ブースに響き渡った。
「あぁぁぁ〜〜〜そんなところに居たのかあぁぁ〜〜〜!!!」
陽向は涙目になりながら、両手でスタンプ台紙を抱き締める。
「会いたかったよお前たちいぃぃ〜〜〜」
頬を擦り寄せるその姿は、もはや感動の再会。
瀬戸晴翔は、遠い目をした。
「副会長の横溝くんと阿久津くんの日頃の苦労が目に浮かびます…」
数々のトラウマが呼び起こされたように、瀬戸晴翔の背筋にゾクリと冷たいものが走った。
その刹那────
「晴翔くんっ!」
聞き慣れた愛しい声に呼ばれて、瀬戸晴翔は振り返る。
「桜子!」
駆け寄るその姿を視界に捉えた瞬間、苦渋に歪んでいた表情は一瞬でほどけた。
「橘先輩、水野先輩!お久しぶりです〜!」
水野慧が小さく笑う。
「久しぶり。元気そうだな。」
「あれ、相田さんクラスシフトは?」
橘梨愛が橘が首を傾げると、相田桜子は明るく答えた。
「人手に余裕ありそうだったんで、早めに切り上げてきたんです。陽向ちゃんの事が心配だったんで!」
パッと満開の笑顔で、さも当たり前かのように言った相田桜子に、卒業生三人の溜め息が綺麗に落ちる。
「全く誰からも信用されてないのね…」
「まぁ、晴翔が“信用するな”ってスローガンを掲げたからな」
「スローガンに忠実な役員達で頼もしいですよ」
そして瀬戸晴翔は、相田桜子に向き直る。
「桜子がシフトに入ってる時にクラス催し行きたかったのに、こんなに早く戻って来たら駄目だろ」
「えーごめん…明日もシフト入るから、その時来てよ」
そのやり取りに、陽向が悪戯な笑みを浮かべて瀬戸晴翔の横に滑り込んだ。
「随分上からじゃんはるる〜、はるるって意外と亭主関白?」
「これくらい上からでもなんでもないですよ!彼氏なんですから!」
「さこちゃんが、受験で忙しいのに束縛彼氏のデートの誘いがしつこくて困ってるってぼやいてたなぁ〜」
「え"っ!!!」
「ひ、陽向ちゃん!言ってないよそんなこと!」
「うっそーん♡」
「先輩を揶揄うなーーー!!!!!!」
役員達にどっと笑いが広がる。
怒号を響かせた瀬戸晴翔は、息をつきながらクッと眼鏡を抑えた。
「僕は、ちゃんと桜子の受験を考慮して、しっかり勉強もサポートしてますから!」
フン、と腕を組みながら続ける。
「最近は桜子の時間を無駄にしないように、毎回会う時は家庭教師として僕が桜子の家に行って…」
そこで橘梨愛が遮った。
「毎回お家デート?いやらしわねー」
「受験に差し支えない程度にな。ほどほどにしてやれよ晴翔っ」
「だから勉強してるんですよっ!!!!」
橘梨愛と水野慧の言葉に、ボンッと顔から同時に火を吹いた瀬戸晴翔と相田桜子。
その視線は揺れて、泳いでいた。
「星野さんが余計なこと言うから話しが変な方向に行くんです!!あなたはそうやって!生徒会長になってまで節度の欠片もない態度で!全校生徒の代表としての自覚ってものが───」
あの頃と変わらない、いつも生徒会室で聞いてた瀬戸晴翔のお説教が始まり、自然とその場の役員達に笑いが落ちる。
あの頃の日々が、まるで昨日の事のようで。
でもどこか懐かしい。
昨年度生徒会役員のメンバーが勢揃いする中。
この輪の中で、いつも一番の中心にいて柔らかく笑っていたあの人。
何も変わらない空気の中で、その存在だけがいない。
(ここに…俊ちゃんがいたらな…)
ふと。
胸の奥が少しだけきゅっと締め付けられた。
そんな寂しさを抱えながらも、陽向は。
「会長ー!貴重品の落とし物が届いたんでBOXの鍵開けてくださーい!」
「はいよーっ!」
陽向は大きく手を上げる。
そして笑った。
今度は自分が。
俊輔が残してくれた場所で。
俊輔が信じてくれた自分として。
陽向は駆け出した。
文化祭の喧騒の中へ。
まるで太陽みたいな笑顔で。
今度は自分がその中心となって、逞しく笑っていた。
────────。
そして翌日。
文化祭最終日。
朝から校内は熱気に包まれていた。
来場者達の楽しそうな声があちこちで弾けている。
校庭には模擬店のテントが並び、焼きそばのソースの香りやフランクフルトを焼く匂いが風に乗って流れてきた。
クレープを片手に歩く中学生達。
制服姿の卒業生。
小さな子供の手を引く保護者達。
中庭ではダンス部のパフォーマンスが始まろうとしている。
軽音部のリハーサル音が遠くから聞こえ、歓声が時折風に乗って届いた。
文化祭実行委員が走り回り。
放送委員が館内アナウンスを流し。
写真撮影をする生徒達が校内のあちこちで笑い合っている。
二日間に渡る文化祭も、今日で終わり。
そして夜には、創立五十周年記念企画───後夜祭が待っていた。
生徒達の表情には、夜に訪れるビッグイベントに胸を弾ませて、例年とは違う熱と高揚感が滲んでいる。
そんな祭りの空気の中。
「あのー……綾真……?」
文化祭の喧騒の中、陽向の声がぽそりとこぼれた。
休憩時間の開始から、既に三十分。
模擬店を二つ回り。
吹奏楽部の演奏を少し見て。
お化け屋敷に入り。
「文化祭、一緒に回るのは全然いいんだけど……」
「んー?」
綾真は上機嫌だった。
いや、上機嫌というレベルではない。
人生の全盛期を迎えている男の顔だった。
そして、陽向の声が弾ける。
「こんなに堂々と校内中手ぇ繋いで練り歩いてたら恋人未満どころか完全カップルだよっ!!!」
陽向の怒号にも近い叫びが、文化祭の喧騒に紛れながら廊下へ響いた。
「いいじゃんかよおぉぉーー!!!陽向と手を繋いで文化祭を一緒に回るのが100億年前から俺の夢だったんだよおぉぉーー!!!」
「人生何周目だよっ!!!」
即座に飛んだ陽向のツッコミ。
けれど綾真は、まったく怯まない。
さらにぎゅうっと陽向の手を握り締めながら、全力で楽しんでいた。
周囲を通り過ぎる生徒達がヒソヒソ話す。
「えっ…生徒会長じゃね?」
「まじ?付き合ったの?」
その声を気にする陽向とは対照的に、綾真は一切気にしない。
むしろ、本当に嬉しそうに。
心の底から幸せそうに笑いながら。
繋いだ手を離さない。
彼氏候補(仮)。
友達以上恋人未満(9対1)。
花火大会の夜。
綾真が三年目越しの片想いの末にようやく手に入れた、その特別な称号。
綾真は、その権利を最大限に行使して、長年温め続けた陽向との夢を一つずつ回収するみたいに、片っ端から実現していく二学期の日々。
LINEのやり取りは毎日欠かさず。
毎日一緒にお弁当を食べて二人で昼休みを過ごし。
時々放課後に寄り道デートをして。
たまに週末はファミレスやお家で一緒に勉強し。
こうして二人で手を繋いで文化祭を回ること。
どれもこれも。
これまでの綾真には、陽向とのそれを妄想するだけで終わって叶わなかったことばかり。
だからこそ。
今の綾真は、誰が見ても人生の全盛期だった。
しかしながら、今年の陽向は生徒会長として文化祭運営の中心に立っている。
忙しさは例年とは比べ物にならない。
朝から晩まで走り回り。
一般来場者の対応をし。
後夜祭の準備を進め。
トラブル処理に追われる。
文化祭を楽しむ余裕など、本来ほとんど無かった。
だからこそ。
この時間は、綾真がどうにか捻じ込んだ貴重な休憩時間だった。
例年なら、クラスシフトを決める時期になると、咲が真っ先に騒ぎ始める。
「絶対絶対陽向と回る!!」
そんな事を毎年言っていた本人が、今年に限っては違った。
「綾真と回ってよ!!」
「絶対綾真と休憩合わせなきゃ怒るよ!!」
ものすごい剣幕でそう言い切った。
当然、三年四組も全面協力だった。
生徒会優先で動く陽向のスケジュールを確認し。
その僅かな空き時間へ綾真の休憩時間をねじ込み。
クラスシフトの配置まで二人が一緒になるよう調整して。
気付けばクラス総出で、二人の文化祭デートを成立させる方向へ動いていた。
その結果。
陽向は生徒会シフト以外のほとんど全ての時間を、綾真と一緒に過ごすことになった。
クラスシフトに入る時も。
模擬店を回る時も。
ステージを見る時も。
他クラスの催しに行く時も。
隣には常に綾真がいる。
そして何より。
一緒に歩くその手だけは、離してくれなかった。
「あ!陽向が気になるっつってた一年三組の動物園行くか。」
綾真がパンフレットを開いて視線を落とす。
「あー!そうだー!」
陽向の目がパッと輝いた。
「動物園って癖強すぎだろっ!文化祭で動物園死ぬ!」
「普通に生徒が動物になってんのかな。」
ケラケラッと笑う陽向に、綾真も釣られて笑顔になった。
そして、陽向が両手を軽く前へ出しながら。
「ライオンとかになって、ガオーッて出てくんじゃね?」
「なに今のガオーッ!めっちゃ可愛い!もっかいやって!
ライオンの真似をした陽向に、綾真が即座に反応した。
陽向は再び綾真へ向けて。
「ガオーッ!」
「可愛っ!!えぐっ!!」
陽向のファンサに、綾真は思わずオーバーリアクション。
ギュンッ!と撃ち抜かれたように胸を押さえた。
陽向がキャッキャと笑った後、ふと思い付いたように言う。
「綾真行ったらゴリラ役やるんでしょ?」
綾真は即前屈みになり、腕をだらんと垂らして、鼻の下を伸ばしながら、見えない木の上のバナナを取る仕草を始める。
「きゃははははっ!!」
陽向は手をパンパン叩いて笑った。
「やばーーーい!!めっちゃ似てるーーー!!」
スマホを取り出し、カメラを向けて動画を回す。
「ちょ、もっかいもっかい!ゴリラさーん♡こっち向いてー♡」
綾真は再び無言でゴリラになる。
完全にゴリラだった。
「ぎゃははは!!クオリティ高すぎーー!!」
「ウホホッ。ウホ。ウホウホ。」
隣に見えないゴリラの友達がいるかのように話をする演技まで入る。
「会話してんの死ぬーーーーーっっ!!!!!」
文化祭の廊下に陽向の大爆笑が響く。
「…って、誰がゴリラ役じゃいっっっ!!!」
ようやく綾真のツッコミが炸裂した。
陽向はピョンピョン足をバタつかせながら手を叩いて笑う。
二人の笑い声が文化祭の喧騒へ溶けていく。
そんなやり取りをしている間だけは。
図書室で泣いたことも。
俊輔への想いも。
胸の奥に残る説明のつかない痛みも。
少しだけ忘れられる気がした。
秋晴れの青空の下。
文化祭の喧騒の中。
陽向は久しぶりに、何も考えず声を上げて笑っていた。




