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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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夢の終わりに

 目が覚めると、そこには見覚えのない天井があった。


「…ここ最近、見覚えのない天井ばかり見るな…」


 そっと天井に向かって手を伸ばす。

 その途中、横から寝息のようなものが聞こえた。


「ん?」


 首だけ動かすと、そこには莉愛が椅子に座ったまま寝ていた。

 どうやら、軽くない負担をかけてしまっていたようだ。

 莉愛を起こさないように、静かに上半身を起こす。

 物凄く怠いし、力が上手く入らない。

 

「っと」


 ベッドから足を出し、立ち上がろうとしていた矢先、莉愛の体勢が崩れ、倒れそうになった。


「あぶなっ」


 咄嗟に莉愛の体を支える。


「いてっ…」


 腕と横腹に痛みが走った。

 

「……ん…」

「あ…」


 莉愛の瞼がゆっくりと開かれ、俺と目があった。

 数秒間の沈黙の後――


「東雲君っ!」


 彼女は勢いよく抱き着いてきて、耐えられなかった俺はベットに倒れこむ。

 

「いてて…莉愛さん、痛いです…」

「東雲君っ!東雲君!」


 全身の広がる痛みのせいで、抱き着かれることの恥ずかしさなんて感じる暇がない。

 突然、部屋の扉が開かれる。


「あ……」


 入ってきたのはミチ婆だった。

 そして、その後ろには肩まで伸びた茶髪の女性…佐野亜優さんがいた。

 

「ミチ婆に亜優さん」


 二人はゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。

 莉愛も二人の登場で冷静になったのか、俺から離れ椅子に座りなおした。


「凪君、心配…したんだからね」

「すいませんでした」


 亜優さんとは少なくない時間、一緒に過ごしていた時期がある。

 だからこそ、安堵したような声の裏にある心配と怒りの色がはっきりとわかった。


「凪…」


 頭を下げていると、ミチ婆が俺の名前を呼びつつ、頭を優しくなでてきた。


「よく頑張った」


 その言葉に、胸を強く打たれたような感覚と、温もりが体の芯を覆う感覚を覚えた。

 よく頑張ったなんて言葉をかけられるとは思ってもいなかった。

 自分の命を代償に、人を救う。

 確かに美しい行動かもしれないが、褒められるべき行動じゃないことも確かだ。

 だからこそ、ミチ婆は怒って説教をすると思っていた。 

 ただその推測でいくと、一つおかしな点がある。


「ミチ婆、あの飴玉のことなんだけど。もしかして、気づいてた?」

「いいや、知らなかったよ。凪が何と戦うかなんてね。でも、亜優と優ちゃんが言ってきたんだよ。『凪がおかしい』って」


 亜優さんに視線を向ける。

 確かにここ1か月の間に何度か家に来ていた。

 優はまだしも、亜優さんがあの短時間の間に俺の変化を見抜いていたのは驚いた。


「てっきり、それを知ったら止めにくると思ってたよ」


 そう言うと、ミチ婆はどこか悲しそうな顔をする。


「止まらないって知ってるからねぇ…。だから、保険としてその飴を凪に届けてもらったんだ。まさか、本当に使ってしまうなんて、まったく…悪いところばかりあの子に似てくるね」

「ミチ婆…それって――」

「――バカ凪!」


 勢いよく開かれた扉から飛び込んできたのは、優だった。

 

「…優」

「勝手に死ぬなんて許さないからっ!!」

「ちょっ!優ちゃん!落ち着いて」

「そうです!優さん」


 亜優さんと莉愛が殴り掛かる勢いで俺に近づく優を止める。

 俺は苦笑いしつつ、その光景を見ていた。

 結局、興奮状態の優は亜優さんとミチ婆に連れられ、病室の外へ。

 入れ替わるように入ってきたのは、ハルと紗優、白井さんだった。


「よっ、こんなジャストなタイミングでお目覚めとは」

「お前の顔すげー久しぶりに見るわ」

「ほんとそれ」


 ハルといつも通りのやり取りをしていると、紗優が一歩前に踏み出した。


「東雲君、莉愛の件ありがとうございました」


 紗優に続き白井さんも俺に対して頭を下げてくる。

 

「え?いやいやっ、二人が頭を下げる必要は――」

「――ありますよ」


 頭を上げた紗優は真っすぐにこちらを見つめてくる。


「本来なら、天宮の中で解決する問題でした。なのに、東雲君は自身の命を懸けて、莉愛を救った。だから、私たちは頭を下げる必要がある。それに…私はあなたを利用しようとしたんです。どんな罵倒も…処罰も受け入れましょう」

「っ!?お嬢様、それは…」

「白井、これは私なりのケジメってやつです」


 俺はベットから不安定ながらも、紗優の前に立った。

 責められると思ったのか紗優は目を閉じ、どこか構える素振りを見せる。


「俺が紗優を責めることはない」

「え?」

「だって、俺も莉愛を救いたいって気持ちは一緒だったからな。多分、紗優に言われなくても同じ事をした。だから責めない」


 呆然としていた紗優は、少しして状況を呑み込んだのか、どこか安心した顔になった。


「ありがとうございます」


 今のは紛れもない俺の本心だ。

 莉愛を救いたいそれは……。

 そこまで考えてふと気づく。


「あ…」


 後ろを振り向くと莉愛がいる。

 少し俯きがちで、耳は薄っすらと赤く染まっている。

 普段、紗優と話している時、莉愛はいなかった。

 だから、多少小恥ずかしいようなセリフを吐けていたのだが…いざいるとなったら、こっちも恥ずかしいな。

 

「ふふっ、今更何恥ずかしがっているんですか?あなたは命を懸けて莉愛を救ったんです。並大抵の覚悟じゃないことは、私含め皆さんがある程度理解しています」


 紗優のその言葉に白井さんは静かに頷き、ハルは真顔で首を少し傾げた。


「とりあえず、あなたは寝ていて下さい。安静にしないとまた死にかけますよ?」

「え?俺、そんなひどいの?」

「おや?莉愛から聞いていないんですか?」

「何を?」

「あー…、ということは莉愛が必死にな――」

「――紗優、後は私が話します」


 紗優の言葉をかき消すように莉愛は声を出した後、これまでの出来事を教えてくれた。

 俺たちがゲートに入った後、外では各地に崩壊したゲートが出現し、モンスターがあふれ出ていたこと。

 そのモンスターたちは駆けつけてくれた超級ハンターたちによって制圧されたこと。

 数十年前に観測されていた壊滅級モンスターである『禍鯨』が再び現れ、それを天宮豪造と神葬光の二人が撃退したこと。

 一番驚いたのは、俺の体についてだった。


「東雲君、今のあなたの体の状態は誰にも分かりません」

「マジ?」


 正直なところ、特に痛みを感じたりとかはない。 

 だから完治したと思っていたのだが…どうやら勘違いらしい。

 

「私はあなたに確かにエリクサーを食べさせました。ただ…、あなたの体にはヒビが入ってたんです」


 そこまで聞いてゾッとした。

 

「え?ヒビ?」

「はい、皮膚が裂けたりしてましたよ。あの部位欠損や致命傷すらも直すエリクサーを飲ませても傷があったぐらいです」

「つまり、命1つ分の生命力じゃ、到底持たなかったってことか…。ん?なんで生きてんの?」

「エリクサーの摂取限度に達してからは、美知枝さんと亜優さんのスキルで治癒を1週間継続していました。その結果、ようやくあなたは目覚めたんです」


 そうか…俺は一週間も……。


「は?一週間!?」

「はい」


 冗談だろうと思い、病室にあるカレンダーを見る。

 俺の最後の記憶している日から確かに一週間経過していた。

 

「一週間も寝てたのか」

「美知枝さんや亜優さんが必死に治療してくれたからこそ、あなたは生き残れたんです」

「……絶対に安静か。了解」


 二人には大きな負担をかけてしまっていたか…。

 もう一度、しっかりと謝っておこう。


「莉愛、暗い話はこれぐらいにして明るい話をしましょう」

「そうですね」


 そこからは最近の学校の様子や、天宮家周辺の様子などの話を聞いた。

 俺と莉愛もいくつかゲート内で何をしていたか聞かれたが、ラルドのことは喋らず適当な嘘をついた。

 最近、物事に対する考え方が変わってきている。

 以前じゃ、ラルドのことを紗優たちに話していただろう。

 でも今は、俺と莉愛だけが知っていればいい。

 そう思ってしまっている。

 合理的じゃない…でも、今だけはこの感情を優先したいと思った。

 気づけば窓から見える景色が赤く染まり始めていた。


「そろそろ解散しましょう。白井、行きますよ」

「俺も日が暮れる前に帰るわ。じゃあな、凪」

「あぁ」


 無言で俺を一瞥しつつ、病室の扉へ移動する白井さん。

 やはりまだクラス対抗戦の事を根に持っているのだろう…。

 その後ろを追いかけるように紗優とハルは病室を出ていった。

 残ったのは俺と莉愛だけ。


「東雲君、退院したらあの花畑へ行きましょう」

「それはちょうどいい。俺も向かおうと思っていたんだ?」

「東雲君も結乃に聞いたんですか?」

「ん?いいや、ただなんとなく顔を出した方がいいかなって…思ったんだが。莉愛の方は違うみたいだな」

「はい、夢のような…『双生ノ追憶』の中で体験したような意識空間に似た場所で、花畑へ東雲君と行くように言われました。おそらくですが、『合成』された結乃の魂の影響ですね」


 結乃の魂…か。

 そう言えば、俺は何か夢を見ていたような気がする。

 どんなものだったのか覚えてはいないけど、大切な何かを見ていた気がする。

 窓の外へ視線を向け景色を眺めていると、莉愛が何かを差し出してくる。


「ん?」

「東雲君のスマホです。無いと退屈でしょう?」

「あぁ、そうだな。ありがとう」

「退院まで、安静にしてくださいね」


 彼女はそう言って立ち上がり、病室の扉の前に立った。

 

「……」

「……」


 すぐに出ていくと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 いつまで経っても莉愛は病室から出ていく気配がない。

 

「…莉愛?どうした?」


 どこか悪いのか心配になり始めた頃、彼女は振り向かずに静かに言った。


「東雲君、本当にありがとうございました」


 どういたしまして、と返そうとする前に、彼女は病室から出ていった。


「え…、なにそれ」


 新種の照れ隠しか何かか?

 まさか、莉愛に限ってそんなことは無いと思うが…。

 

「はぁ…当分は入院か…」


 本当に退屈な時間になりそうだ。

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