表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/81

夢の続き

――東雲凪視点――



 目の前に広がる花畑、その中心にある大きな木へと視線を向ける。

 そこには、俺と同じぐらいの年齢の女の子が木を背もたれに座り、遠くの景色を眺めていた。


「莉愛…」


 母さんの話じゃ、今日は白井さんも紗優さんも家にいないらしいから、多分間違いない。

 足早に近づいて声をかけてみた。


「ここで、何をしているんだ?」

「?」


 莉愛はこちらを振り向く。

 最初は少し驚いていたが、すぐに表情は柔らかくなり、俺の質問に答えた。


「自分を探していたんです」

「自分を?どういうこと?」

「説明するのが難しいですね…」


 莉愛は考える素振りを見せた後、自信なさげに言った。


「私は自分がよくわからないんです。こんな話をしても信じてくれるかわかりませんが、実は私の中にはもう一人、女の子がいるんですよ」

「え?」

「多重人格というものです」


 多重人格…、言っている意味は分かるが、どういうことかわからない。

 そんな矛盾を抱えつつ、難しい事を言うんだなと思った。


「へぇ、すごい事になっているんだな」

「……」

「……」


 俺を見つめる莉愛の目には、警戒の色が見えた。

 

「もしかして信じてるんですか?」

「え?嘘なのか?」

「え…、いや、嘘じゃないです。…不気味だと思いませんか?」

「不気味?なんで?」

「いや、だって私の言っていることって、現実的に考えればありえない話なんですよ」

「確かにありえないような話だ。でも、君は現実的に考えてありえないと認識ができている。それに、嘘つきはそんな悲しそうな顔をしない」


 そう言われ顔を背ける莉愛だが、すでに俺は彼女の悲しそうな顔をしっかりと記憶しているから、意味はない。


「ポーカーフェイスかもしれませんよ?」


 多分、母さんなら…英雄ならこう言うはず。

 そう考えたときには、すでに口が自然と動いていた。


「正直なとこ、騙されてもいいと思ったんだ。君の悲しそうな顔が笑顔に変わってくれるなら」

「えっ?……」


 莉愛は唖然とした表情で俺の顔を見つめてくる。

 そしてしばらくすると、莉愛は笑いながら遠くを眺めた。


「なんかあなた見た目よりずっと大人っぽいですね」

「そういう君だって、すごく年上の人っぽい」


 そんな事を言い合って、自然と二人で笑った。

 

「自己紹介をしないとね」

「あぁ、そうだった。俺だけ知ってるのもあれだし…」

「……そっか。いや、私から自己紹介するね。私は天宮結乃」

「結乃?莉愛じゃなくて?」


 聞いていた話と違った。

 確か母さんは天宮本家に遊びに来る前に、莉愛ちゃんの名前は間違えないようにね、と言っていたはず…。

 これもさっき言った多重人格というやつだろうか…。


「うん…、私は結乃だよ」

「そっか。俺は東雲凪」

「凪君ね。よし、じゃあ遊ぼう」


 半ば強引に結乃に手を引っ張られ、立ち上がる。


「遊ぶって?」

「良い遊び場があるんだ」


 そう言って結乃について行った先には、ゲームセンターがあった。


「子供だけで大丈夫なのか?」

「ここは大丈夫なんだ。店長さんと仲いいし、変な人はいないよ」


 なら大丈夫なのか?

 疑問に思いつつも、結乃と共にゲームセンターの中へ入った。


「んー、なんかいいのないかな」


 そう言ってクレーンゲームが並ぶコーナーを歩き回る。

 そして、キャラメルベージュ色の毛並みをした、小さいクマの人形の前で立ち止まる。


「あ、これ新しいやつだ」


 そう言って結乃は即座に100円を投入し、クレーンゲームを始めた。

 景品を見た感じ、500円程度で取れるだろうな…なんて思ってみていると、いつの間にか800円目を消費していた。


「……結乃?」

「きょ、今日は運が悪いんだよ」


 このままじゃ1000円超えそうだな…。

 そう思い、ポケットから財布を取りだした。


「俺に100円分、挑戦させてくれないか?」

「え?別にいいけど…大丈夫?」

「あぁ、こういうの意外と得意だったりするんだ」


 結果、呆気なくクマの人形は確保できた。

 

「わぁ…す、すごい……」


 これに関しては結乃が下手すぎる、と心の中で呟きつつ彼女へ人形を差し出した。


「はい」

「…いいの?」

「結乃のために取ったんだ」

「……ありがとう」


 結乃は嬉しそうにクマの人形を受け取った。

 

「じゃあ、帰るか…」

「え?もう?」

「もうっていうか、夕方には母さんと帰らないといけないからな」

「…一か所だけ寄り道していい?」

「良いよ」


 結乃の言う行きたい場所、それは最初の花畑だった。

 中心にある木の傍で、花畑全体を見渡す。


「何か忘れ物でもあったのか?」

「いや、そういうわけじゃないの…」


 爽やかな風が吹き、結乃は心地よさそうな表情で全身に風を浴びる。

 その姿に思わず見とれてしまった。

 

「……」

「凪君?」

「ん?あ、あぁ。なんだ?」

「凪君はさ、きっと良い人なんだろうね」


 突然、変な事を言いだした。

 良い人…か。

 自分じゃ思ったこともない。


「そんな風に見えた?」

「そうだね。良い人に見えたよ。だからきっと、変な事に首を突っ込みがちなタイプだよね」

「どうしたんだ?突然…」


 そう訊くと彼女はどこか寂しそうな表情で、空を見上げた。


「また、一緒にゲームセンター行きたいね」

「え?あぁ、そうだな」

「今度はさ、ごはんとかも一緒に食べて、服とかアクセサリーとか…。凪君はアニメ見る?」

「まあ、優とたまに見るな」

「だったら、アニメのグッズとかも買いたいね。で、夜になったらこの花畑に来て景色を楽しむの」


 おかしい…。

 楽しい未来の話をしているんじゃないのか…。

 そう思ってしまうほどに、結乃の顔は徐々に悲しみに歪んでいく。

 

「知ってた?この花畑、夜になったら昼とは全く違う景色になるんだよ」

「なぁ…結乃」

「…凪君、目を瞑ってくれる」


 そう言われて、結乃の横顔を見る。

 そして、察した。

 彼女が空を見上げていた理由を。

 

「わかった」


 だから、黙って目を瞑る。

 すると、足音が徐々に近づいてきた。


「っ!」


 気づいた時には抱きしめられていた。

 温かく…ほんのわずかに震えが伝わってくる。

 

「消えたくない……」

「え?」


 その言葉に思わず目を開いてしまった。

 

「っ!目空けちゃダメって言ったのに」


 大粒の涙を流しながら彼女は俺の顔を見つめて怒る。


「ご、ごめん。その…結乃。消えるって――」

「――ほら…、だからやらなきゃいけないことなんだ…」

「?」

「凪君、また会おうね」

「え?何――」


 何かが抜け落ちるような感覚と共に、意識が朦朧とする。

 必死に耐えようとするが、呆気なく意識を手放してしまう。

 すると、視点が変わり、目の前には意識を失った俺を抱きしめる結乃が映っていた。

 これは…追憶の旅以来の感覚だ。

 結乃は意識のない状態の俺をそっと木を背もたれに座らせて、手に輝く結晶を握る。

 

「凪君は知らずにいてよ。私も莉愛の事も…」


 そう彼女の懇願するような声と共に、周囲の空間が徐々のボヤけていく。

 夢から覚める…。

 そう直感すると同時に、世界が暗転した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ