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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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正と善②

「見事…だ」


 そう言ったラルドの腹部に視線を向ける。

 出血量がかなり多い、そう長くはもたないだろう。

 いつの間にか、背後から莉愛が近づいてくる。

 あの『天聖』というスキルを使用した影響か、白くなっていた莉愛の髪色は、すっかり元の黒色に戻っていた。

 髪色の変化や先程の力に興味はあるが、今はラルドの方が優先だ。


「勝負…ついたんですね」

「あぁ。莉愛、さっきの力で出血を止めたりできるか?」


 莉愛はラルドの深く切り裂かれた胴へ視線を向け、静かに首を横に振る。


「…無理です。私の力じゃ、この人は救えない」


 静かにラルドを見下ろす。


「ふっ、なぜそんな顔をする…。私は貴様に負けた…。貴様の善が証明されたなら…負けた私は悪なのだろう?」

「そう、だな…。聞きたい事がある。いいよな?」

「もちろんだ。そのための戦いでもあったんだろう?私の事は気にするな、この程度の傷なら、1時間は平気で喋れる」


 ラルドの強がりは素直に冗談として受け取れないから困る。

 本当に1時間ぐらい持ちそうだし、この状態から復活なんて可能性すら無いとはいえない。


「どのみち時間がない。手早くいくぞ。この世界が終わる、お前はそう言った。その根拠はなんだ?」

「すまないが…その質問は答えるべきじゃない。貴様のためにもな」

「俺のため?本気か?」

「…」


 睨むがラルドは口を開こうとはしない。

 体の一部分にほんの少しだが、痛みを感じ始める。

 くそっ…時間さえあれば…。

 

「わかった、質問を変える。時間的にもこれが最後だ。昔、お前を追い詰めた女性の話を聞かせてくれ」


 俺のその質問にラルドは目を丸くする。


「…貴様はそれを選ぶのか?他に聞くべきこと…いや、無粋だったな。その質問に答えよう……彼女の名は、東雲優凪。『英雄』を背負った人間だ」


 その言葉には、不思議な重さがあった。

 

「名前は知らないなんて言ってたのにな」

「すまない、それは嘘だ。元々、彼女の話を貴様にするつもりはなかったからな。だが、貴様は思っていた以上に…()()()()()()()


 似ている。

 彼のその言葉に、心が締め付けられた。

 

「私に敗北を刻んだ彼女の存在を忘れることは絶対にない…」


 ラルドが呼吸を整える間に思考する。

 母さんは知っていたのか…『追憶ノ双生』もラルドのことも…。

 だったら、尚更理解できない。

 なぜ、母さんはこのゲートを…ラルドにトドメを刺さずに放置したのか…。

 それに、このゲートはなぜ十数年間消えずに残っているんだ。

 疑問は徐々に大きくなっていくが、時間はゆっくりと思考する時間を与えてはくれない。


「私はこの戦いに満足したぞ…東雲凪。あの『英雄』が最後まで見せることのなかったその力を、ようやく見ることができた…。やはり、今日まで待っていてよかった」


 ラルドは俺の顔をじっと見てくる。


「貴様はすべてを知ることはできない。正確に言えば、この場で知るべきじゃない」


 彼の発言は、まるで俺がこの後も生き続けるみたいな言い方だった。

 何を根拠にそう思っているのか理解不能だ。


「少し寄ってくれ」

「なんでだ?」

「いいから寄れ…、もう時間が無いんだろう?」

「……」


 死にゆく俺たちのみの会話が何になるのか。

 そんなことを思いつつ、ラルドの顔付近で膝をついたと同時――


「っ!!」


 彼は俺の胸倉をつかんで引き寄せる。


「聞け…。東雲優凪の死には、確かに獄炎龍は関係している。だが、真実は貴様が予想するよりもずっと深く…重い。英雄の弟子…龍を追え。その先に、お前の知りたい答えのすべてがある」

「あ…は?…ちょっと待て、真実ってなんだ?それも言うべきじゃないことなのか?」

「そうだ…。これは、その力を継いだ()()()()の物語…ぐ…。だから、自分の目で…真実を見る事に意味がある…。伝えるべきことはそれだけだ…。最後に、天宮莉愛を傍に…」


 胸倉を掴まれていた手は、そっと地面に落ちた。

 正直なところ無理矢理にでも聞きたい。

 だが、ここでそれをしてはいけない。 

 ラルドは最後まで騎士だった。

 なら、仮にも『英雄』を名乗った俺は、恥じない行動をとるべきだ。

 

「……莉愛、こっちに来てくれ」

「…はい」


 俺は少し左側にずれ、莉愛の場所を作る。


「天宮莉愛…。姫様の魂を持つ者よ。もしも、姫に会ったら伝えて欲しい。『私は、騎士である前に姫の…いや、孫娘の成長を見守るただの祖父として生きたかったと』」


 その言葉に、莉愛は目を大きく見開く。

 そして、言葉の意味を追求することなく「わかりました」と、静かに言った。


「…天宮莉愛、どうやら『龍剣』はこの物語の結末を見届けたいらしい」


 ラルドは『龍剣』を手に取り、莉愛へ差し出す。


「でも…これはあなたの……」

「姫や王…いや、家族を守るために取った剣。最早、私にその剣は必要ない。だから、姫…ユーリが守ろうとしたあなたが持つべきだ」


 莉愛は差し出された『龍剣』を数秒の間見つめた後、手に取った。


「…大切に使わせてもらいます」


 その様子を見たラルドは静かに笑い、瞼を閉じた。

 

「東雲君…行きましょう」


 莉愛はそっと立ち上がり、ラルドに背を向け歩き出す。

 先程まで聞こえていた、ラルドの苦しそうな呼吸音もすっかりなくなっている。

 俺はその場でラルドに向かって頭を下げた。

 彼の世界の騎士道なんて知らないし、礼儀正しい作法なんて身に着けた覚えもない。

 でも、この瞬間だけはラルドに対して、敬意を払おうと決意した。

 数秒間頭を下げた後、莉愛に追いつくために彼に背を向けた。

 最後に見た『異国の英雄』は、どこか満足したような表情で眠っていた。

 『追憶ノ双生』の空に徐々にヒビが入っていく。

 すぐに走し出し、莉愛に追いつく。


「莉愛、入口はどっちの方角かわかるか?」


 足が地面に着くたびに蓄積される痛みを堪えつつ、莉愛に聞く。


「東雲君、そのことですが…私は結乃を迎え…に……」

「どうした、り…あ」


 驚愕の表情をしていた莉愛の視線を追う。

 視線の先はこの空間の中心部である柱であり、その柱の前に少女が佇んでいた。

 その姿は莉愛や紗優と酷似しているが唯一違う部分がある。

 それは赤色の瞳だった。

 俺は…俺たちはその少女を知っている。

 心臓が強く鼓動し、思考がその少女のことで埋め尽くされ、気づけば足が動いていた。


「結乃!早く逃げ――」

「――近づかないで!!」


 同時に駆け出していた俺と莉愛に、結乃は叫んだ。

 

「こっちに来ちゃダメ。この柱には()の魂が眠っているの…。ラルドが作ったこの空間が壊れれば、私たちの魂はあるべき場所、あるべき時間に戻る。だから、あなたたちは来ないで」


 莉愛の顔が歪む。

 彼女もきっと色々な葛藤をして、苦しんで、決断した末にこの場に立っている。

 結乃に対しての想いは尋常じゃないだろう。

 俺だって結乃と莉愛、両方を救う方法があるなら死んでもそちらを選ぶ。

 でも、そんな方法はもう存在しない。

 

「……東雲君?」


 前に踏み出そうとしていた莉愛の前を塞ぐように立った。

 そして、結乃の顔を見つめる。


「結乃…。俺は、莉愛を選んだ」


 彼女は俺の言葉を聞いて、小さく笑う。


「知っているよ。私も莉愛を選んだ。だから、凪君は何も背負わなくていい」

「結乃」

「ん?」


 莉愛が結乃の話に割って入る。


「ラルドの最後の言葉です。あなたの騎士である前に、孫娘の成長を見守るただの祖父でありたかった、と」

「それも知ってるよ。ラルドって隠し事下手だから。天国でもしも会ったら、最初からあなたの事をおじいちゃんと思って接していたから、変わりないよって伝えないとね」


 結乃の見せる笑顔は、どこかわざとらしさを感じた。


「……これは私からの質問です。貴方は以前、私に似せた口調を癖と言いましたね」


 その話題になった途端、結乃の肩がほんの少しだけ震えた。

 

「…いいよ、莉愛。それ以上は言わなくても分かる。莉愛にはここに来るまでに、たくさん嘘をついてしまった。言いたいこと、聞きたいこといっぱいあるよね…」


 結乃の頬に涙が流れる。

 

「前にも言ったけど、あなたの半分は私。だから、あなたはもう答えを知っているはず」

「っ!?いいんですか…それで。あなたは…満足ですか?」


 涙をぬぐった彼女は、笑顔を向けてくる。

 今度はわざとらしさを感じない、本心からの笑顔だ。

 直後、周囲の景色が歪む。

 現実に戻される、そう直感した。

 それは莉愛も同じだったのだろう。

 咄嗟に俺の体を避けて、結乃の元へ走ろうとしていた。


「待っ――」

「――大丈夫…きっと、また話せるから」


 気づけば俺たちはゲートから出されていた。

 あまりにも呆気がない。

 現実というより、夢…悪夢を見ているようなやるせなさが残る。

 

「…結乃、これが最後なのか…」

「っ!?莉愛!!東雲君!!」


 呆然と縮小していくゲートを見ていた俺たちを呼ぶ声がした。

 振り返ると、所々泥で汚れている紗優がいた。

 

「紗優か」

「お嬢様っ!下がってください!花田さんの拘束が破られました。私の攻撃も…効果、が…。結乃様」


 どこからか飛ばされ、俺たちの傍に着地したのは白井だった。

 彼女は紗優に報告がてら、視線を俺から莉愛に向け、目を見開いたまま固まる。


「白井さん、私は結乃じゃありません。莉愛です」


 莉愛のその声には、以前にはなかった力強さ…自信のようなものを感じた。

 

「えっ、あ…」


 白井はすぐに紗優へ視線を送る。

 

「大丈夫ですよ」

「わかりました…。莉愛様も紗優様を連れて本家へ向かってください」


 彼女の様子から、焦っているのが十分に伝わってくる。

 現実の方でも何かが起きて…。

 その時、以前紗優が言っていたゲート同士の衝突の話を思い出した。

 

「…まさか」

「そうです。以前話したゲートの衝突が起きました。東雲君がゲートに入ったすぐあとです」

 

〈ガァァ!!〉


 ここから少し離れた場所から、モンスターの鳴き声が聞こえてきた。

 

「白井、私がもう一度スキルを使います」

「っ!?それはいけません。次は魔力の過剰使用になります」

「そうですね。でも、私の力が無ければ、花田さんやあなたが沼の捕食者(スワンプイーター)と正面から戦うことはできないでしょう?」


 直後、木々を大量の泥が呑み込む。


「何だ…」


〈ガァァァァァ!!〉


「くそっ!」


 周囲の木を足場に、巨大な鰐に攻撃を仕掛けている男の姿が視界に入る。

 

「あれは、花田さんか」


 以前、莉愛とこの地に来た時に会った花屋の店長だ。

 よく見ると片腕が無くなっている。

 

「すぐに加勢っ!!」


 まっすぐ走ったはずなのに、気づけば地面に倒れていた。


「あ…がぁ……」


 全身にまともに力が入らず、心臓に鋭い痛みが走る。


「しっ!東雲君!!しっかりしてください、まだ私たちは結乃とちゃんとしたお別れができてない!」


 やっぱり見違えるほど、莉愛は精神的に強くなった。

 いや、強くなったじゃなくて強さの性質が変わった。

 今までみたいに、無感情という全てを受け入れない強さじゃない。

 受け入れつつも前に進もうとする強さへと。

 

「わかっ…てる。はぁ…はぁ…莉愛、まずはあのモンスターを…」


 明滅する視界の中、息切れしつつも言葉を吐き出し、俺は手を伸ばす。

 もう一度…力は入らずとも風の斬撃は放てるはず…。

 どのみち死ぬなら、後悔しない選択をする。

 

(二人ともごめん…。どうやらお別れの場に、俺は立ち会えそうにない)


 力が徐々に手に集まり、風の斬撃を形成しようとした瞬間――

 

「――君は休みな」


 突如、視界の大半が女性の背中で埋まる。

 視線を上げ横顔を確認するが、見覚えのない人だった。

 藍色のショートヘアが特徴的で、右手には狙撃銃のようなものを持っている。

 

「あんたら3人、その場を動かないでね。動いたら、最悪死んじゃうかもよ。ふぅ……花田!自力で避けてね!」


 大きく息を吸った後、女性は大声でそう叫んだ。


「はぁ!?って、お前まさか――」


 遠くで花田さんの声が聞こえたと同時に、女性は狙撃銃を巨大な鰐に向ける。


「さて、十分に溜めてきたんだから。派手に消し飛んじゃいな!『100%(フルチャージ)』」


 女性が引き金を引いた瞬間、光に包まれた弾丸が物凄い速度で巨大な鰐に向かって飛び、頭を消し飛ばした。

 遅れて衝撃波と発砲音が周囲に響き渡る。


「なっ…」


 薄く弾道が残るなか、周囲の木々も地面も抉れ、その先には頭部のない鰐の死体と血だまりができていた

 『祝福』のおかげで常人よりも動体視力の良い俺でも、目で追うのが精一杯だった。

 この人は何者…

 そこまで考えた時点で、俺の意識は闇へと沈んでいく。

 どうやら限界みたいだ。


「し…め君!」

 

 ぼんやりと莉愛の叫び声が聞こえる中、意識を完全に手放した。

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