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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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燃やす命があるのなら②

 一呼吸の間を置き、再び攻防が始まる。

 ラルドは素早く距離を詰めてきた。

 剣を持つ手から技を予測する。


「ハッ!」


 刀を持つ手を狙ってきたが、すでに予測済みだ。

 刀を手放し、ラルドの剣を避ける。


「っ!?」


 流石のラルドも俺が刀を手放すのは予想外だったらしい。

 ジャンプし、空中で体を捻り繰り出す渾身の回し蹴りは、ラルドの頭部に直撃した。


「これしき…」


 確実に入ったと思ったのだが、ラルドは左手で防御していた。

 だが、それも想定内だ。

  

「らぁっ!!」


 力を振り絞り、左手の防御を突破しようと試みる。

 

「くっ!」


 勢いよくノックバックするラルドを確認し、落ちた刀を手に取り構える。

 舞い上がった砂埃が晴れ、ラルドの姿がはっきりと見える。

 左手の籠手がなくなり、赤黒くなった肌が露出していた。

 

「あれ、結構全力だったんだけど…」

「私は騎士だ。そして、帝国最強の称号をもらい受けた国の剣であり、盾でもある騎士だ。負けるなど、許されない…許されなかったんだっ!」

「は?」


 一瞬にして身に覚えのない空間にいた。

 豪華な装飾が至る所に施され、真っすぐと続く廊下には扉が幾つも並んでいる。

 屋敷…か?

 なんでこんな場所にいる?

 浮かび上がる疑問を払いのけ、周囲の警戒を強める。

 その時、微かに音が聞こえた。

 なんの音か判別はできない。

 でも、本能がここにいてはいけないと警鐘を鳴らしていた。

 だから、本能に従って全力で走った。

 直後――


「『閃斬神威』」


 先程まで立っていた場所が、床から見事に切り刻まれる。

 もしもあの場に立っていたら、全身バラバラになって終わりだっただろうな。

 破壊によって開いた穴からラルドが現れる。

 剣を振り切っているところを見るに、攻撃直後のようだ。

 絶好の機会だと判断し、距離を縮めた。

 いざ目の前にチャンスが生まれればそれに食いついてしまう。

 人間というのは目の前のチャンスと、限定という言葉に弱い。

 そう思い知らされた瞬間だった。


「っ!」


 ラルドの目は俺を捉えていた。

 確実に隙をつかれた側の目じゃないことを理解する。

 

「クソっ!!」


 殺気のようなものは感じないし、本能も危険を察知しない。

 でも、俺は自分の目と直感を信じることにした。

 これがもしフェイクなら、俺の負けは濃厚になる。

 だが、そんな心配はすぐに必要なくなった。


「グッ」


 腹部を防御した刀に、ものすごい衝撃が走る。

 ラルドは1ミリも動いていない。

 だったらこれは何だ?

 勢いに負け、吹き飛ばされる。

 

「見誤ったか?」

「何がだよっ!」


 飛ばされる最中、体勢を立て直し、足元に風を集める。

 そして、着地すると同時に風を暴発させ、高速でラルドの懐へ足を踏み入れた。


「っ!?」


(東雲一刀流『山紫水明』)


 ようやく俺の刀はラルドに届いた。

 彼の頬には切り傷があり、血が流れている。


「掠ったか…」


 そう言いつつ、ラルドは床をすり抜けて消えた。


「は?何し――」


 直後、俺は走り出す。

 止まったら死ぬ、そんな気がしたからだ。

 長い廊下を全力で走り抜ける。

 しかし、どれだけ走っても廊下が続くばかり。


「なんなんだ、ここは」

「私の領域だ」

「ちっ!」


 突然、斜め右前の扉が開いた。

 刀を構えつつ、開いた扉を注意深く観察する。

 そこでふと、疑問が生まれた。

 攻撃を仕掛けるなら、扉をゆっくり開けるんじゃなくて、先ほどのように建造物ごと切り裂いて、奇襲をする方がよっぽど効果的だ。

 それをしない理由はいくつかあるが、定番で考えれば――

 

「背後からだろっ!」


 ほぼ勘で背後を向き、全力で刀を振るった。


「ふむ…」


 刀はラルドの剣とぶつかり、甲高い音が響く。

 

「音を出した覚えないが…。魔力のない貴様は、探知魔法を使えないはず。なぜわかったんだ?」

「魔力が全てじゃないんだよ。それに、どうせ探知なんて使っても対策はしてあったんじゃないのか?」

「鋭いな。…五感の強化か…」

「ブツブツ言ってる余裕あるのか?」


 素早くラルドへ一撃を放つ。


「それもそうだな」


 ラルドはバックステップをし、距離を取ろうとする。

 しかし、彼のすぐ後ろは壁だ。

 また、嫌な予感がした。

 

「まさか…」


 予感は的中した。

 ラルドは壁をすり抜けるように消えていった。

 

「どうなっているんだ…この空間…」


 耳をすませ、目を閉じる。

 あの戦法に対して、目に映る情報はあまり役に立たない。

 だから、感覚を研ぎ澄ませ、確実に反撃できるようにする。

 右の壁が破壊される音がした瞬間、その方向へ刀を振るう。


「なっ!?」


 確かに壁は壊れていたが、そこに誰もいない。

 脳裏に過るのは、先程ラルドが見せた不可視の攻撃手段。

 咄嗟に体をひねる。


「ぐっ…」


 横腹に鋭い痛みが走る。


「ずれたか」


 ラルドは俺の横腹を貫く剣を引き抜き、血を払う。

 

「この程度じゃ、俺は――」

「止まらないだろうな」

「あ?」


 足場の感覚が無くなったと思えば、俺は転んでいた。

 

「何が…!」


 即座に状況を把握するため、周囲を見回す。

 目の前にいたラルドは俺に背を向け、数歩前に踏み出した後、静かに跪いた。

 その先には――


「結乃…」


 彼女を見間違うはずがない。

 虚ろな目をした結乃が、豪華な装飾が施された椅子に座っている。

 彼女の左右にも同様に豪華な椅子があり、そこには男性と女性が腰かけている。

 どちらの人物からも、生気を感じない。

 これもまた、ラルドの作り出した幻覚、もしくは領域なのだろう。

 結乃は以前、自身が元姫だと言っていた。

 ならば、その親は王様と女王様となるはずだ。

 そうなると、ラルドがこの状況で跪く理由に納得がいく。

 ただ――

 

「状況が読めないな…」


 いくら何でも、読めないにも限度がある。

 なぜ俺を前にして、背を向ける余裕があるんだ。

 刀を握る手に力を入れた瞬間、耳元で声がした。


『動くな、見届けろ』

「?」


 初代の声だ。

 

「どういうこと?」


 小さく訊いてみるが、声は聞こえなくなってしまった。

 ラルドを見る。

 完全に隙だらけだ。 

 どれだけ注意深く見ても、危険を感じない。

 嘘を吐かれたか?と思ったが、この場面で嘘を吐くぐらいなら、俺を助けるようなことはしていないだろう。

 ふと、視線を感じた。


「…っ!」


 結乃の母親、女王は俺を見たまま1ミリも動いていない。

 瞬きすらしないから、余計に恐怖を感じる。

 ここがラルドの生み出した領域内部である限り、ロクなことはしないと簡単に予想できる。

 そんなことを考えている間に、王は一振りの剣を手に持ったまま、ラルドの前まで移動した。

 ラルドは丁寧にその剣を受け取る。

 剣を渡し終えた王らしき男は、一直線に戻っていった。

 おそらく彼に…いや、あそこにいる女性や結乃にも意識はない。

 

「まさか、この剣を握れる時がもう一度来るとは…。王よ、私の最後の使命、必ずや成し遂げてみせましょう」


 ラルドが立ち上がると、結乃たちは消えていった。

 ゆっくりと立ち上がる俺に、ラルドが手を伸ばしてきた。

 攻撃かと思い身構えると、全身から痛みが消える。


「?」

「勘違いをするな。これはハンデだ。異国の少年よ」

「ハンデか。結構追い詰められていなかったか?」

「それは認めよう。私をこれほど追い詰めた人間は数少ない。まして、こちらの世界の人間ではな。どことなく、貴様は()()()似ている」


 ラルドの言葉に引っかかりを覚えた。

 彼ほどの強者を追い詰める人間がいた。

 それも女性。

 心臓の鼓動が強くなる。


「彼女って誰だ?」

「……」


 ラルドは俺を見つめたまま動かない。

 何かを見定めているような視線だ。

 

「…あぁ、そういうことか」

「何一人で納得したような声を出しているんだ?」

「すまないな。名前は知らない。ただ、お前よりも遥かに強い人間だった」

「……そっか…」


 刀を強く握りしめ、構えをとる。

 

「話は良いのか?」

「良いよ。とりあえずお前をぶっ倒して、その後話を聞くことにする」

「気づいているんだろう。お前のその力は、もうすぐ終わりだ」

「その前に倒せば問題ないだろ」


 ラルドも鞘に納めたままの剣を、体の前に出した。


「『龍剣』よ、見定めよ」


 『龍剣』と呼ばれた剣は光り輝き、鞘から刀身を少しだけ覗かせた。

 

「?」


 俺の握る万象龍の刀が震えている…。

 

「資格あり…か」


 ラルドはゆっくりと鞘から剣を引き抜いた。

 『龍剣』の美しい刀身からは、何かオーラのようなものが出ている。


「では、始めよう。私と貴様の最後の戦いを」


 龍剣を静かに構えるラルドを睨み、俺も刀を構え直す。

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