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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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燃やす命があるのなら

――東雲凪視点――



「…ただ、貴様は英雄になるには程遠いな」


 ぼんやりとした意識の中、首に走る鋭い痛みを感じながら自問する。

 俺は自分に期待でもしていたのだろうか、と。

 視界は明滅し、妙な浮遊感が全身を包む。

 そんな中、ラルドの言葉が何度も繰り返し響く…。

 

(なんで英雄を俺に求めようとするんだよ…)


 ふと、脳裏に莉愛の言葉が過る。


『私にはあなたが、昔見た物語の英雄みたいに見えましたよ』


 なんで今そんな記憶が…なんて思っていると、さらに結乃の言葉も聞こえ始めた。


『あなたはもう…私の『英雄』になりましたよ』


 どんだけ都合の良い妄想だよ…。

 でも…そうだったな。

 これは俺の覚悟の問題だった。 


「――っ!?…なんだ、と?」


 首を切り落とされる寸前でラルドの剣を握り、受け止めた。

 手のひらに刃が食い込むが、痛みは不思議と感じない。

 それどころか、半分ほど切り裂かれた首すらも痛まない。

 握った状態の剣を首からゆっくりと離していく。


「ゲホッ」


 空気が肺までうまく届かず、血で溺れそうな感覚と、頭が締め付けられるような閉塞感を感じつつもまだ意識は残っている。

 もう一度拳に力を籠め、ラルドの腹部へ全力の一撃を放つ。


「グッ……」


 苦しそうな声を上げ、ラルドは数十メートルほど後退した。

 

「強い意志が意識をつなぎ止め、私に一撃を見舞ったか…。もしくは、貴様の『祝福』(特異体質)か何かか。だが、どこまで必死に足掻こうが、その傷では死から逃れられない」


 ついに足に力が入らなくなり、前のめりに倒れる。

 まだ力のある手で、上半身を支える。

 そして、素早くポケットから飴玉を取りだし、ラッピングをはがした。


「む?」


 吐血するタイミングに合わせ、口を手で押さえるフリをして、飴玉を口の中へ放り込む。

 その瞬間、 過去にミチ婆が師匠に何かを渡す時、言っていた言葉を思い出した。


『この飴玉はね、一時的に限界を越える力がある。ただ、覚悟はしときな。限界を越えるという行為は、自身の命を削ることと同義さね。だから、自分の命を賭してでも守りたい何かのために使うんだよ』


 そうだ、確かあれは母さんを最後に見た日だった。

 飴玉を嚙み砕くと、口から全身に温かい何かが流れる感覚がした。

 それと同時に、体中の麻痺したような感覚が消え、意識もはっきりとする。

 以前、莉愛にエリクサーを合成してもらったおかげか。

 口の中に残っていた血を吐き出し、目の前にいるラルドを見つめる。

 視界がいつもよりクリアに感じ、先程まで重かった体も嘘のように軽い。

 

「……なぜ、そこまでする?」


 ラルドの声色は険しさを増していた。

 

「…言ってなかったか?莉愛を消させないためだ」


 興奮状態に近い感覚だ。

 それに感情の起伏が激しくなっている感じもする。

 飴玉の効果か…?

 

「だが、本人が望んでいるのだろう?」

「知ったことじゃない」

「……」


 静寂が訪れる。

 もう互いに言葉は必要ないと、理解している。

 ここからは、それぞれの望む未来をかけて殺し合うだけだ。

 最初に動いたのはラルドだった。

 

「フッ!」


 すさまじい剣速で斬りかかってくる。

 さっきよりも速いはずなのに、不思議と目で追えるし体も追いつく。

 

「っ!」


 ラルドの剣を受け止め、つばぜり合いの状況に持ち込む。

 そして――


「ハッ!」

 

 彼の剣を弾き、追撃のために刀を構えた。

 

(東雲一刀流『山紫水明』)


 美しさを感じるほど真っ直ぐな太刀筋で、ラルドに攻撃を仕掛ける。

 刀と剣がぶつかり、甲高い音が響いた。

 防御されるのは想定内だったため、続けて刀を振るう。

 飴玉の効果が消える前に、どうにか決着をつけたい。

 再び放つ攻撃を防がれる度に、刀の振り方を変えてみたり、狙う箇所を変えてみたりと試行錯誤を繰り返す。

 だが、あと一歩でラルドに届かない。

 切れる手札を切って、彼に一撃も与えていない今の状況は、はっきり言って最悪だ。

 

「お前の覚悟…受け取った。では、試練の続きだ」


 ラルドの声が聞こえた瞬間、悪寒を感じ、攻撃の手を止めつつ即座にバックステップする。

 

「我が生の証、三つの剣技を受け止めてみろ。それが試練の合格条件だ」


 何を急に、と言おうとした次の瞬間、頭の中でかつての記憶が過る。

 それは、ラルドに一瞬で腹部を切り裂かれた記憶。

 

「一つ…剣技『閃斬神威せんざんかむい』」


 ラルドの姿が揺れたように見えたと同時、ものすごい速度で接近してきた。

 

「っ!!」


 剣先がブレるタイミングに合わせ、全神経を剣の挙動に集中させる。

 狙いは前回同様、腹部だった。

 刀でラルドの剣を迎え撃つ。

 刀身どうしがぶつかり、火花が散る。

 

「まだまだ」


 ラルドはすぐさま剣を引いた。

 そこから再び振られた剣は、初撃と同等の速さと力強さがある。

 

「っ!」


 ギリギリ防御が間に合った。

 だが、安堵する間もなく次、また次とラルドは剣を振るう。

 状況は先程の真逆、防戦一方だ。

 何度も反撃しようと試みてはいるが、隙が全くない。

 

「ふむ…」


 ラルドは攻撃の手を止め、俺から距離を取った。

 

「やはり、今の貴様を簡単に切り捨てる事は出来ないな」


 荒れた息を整えつつ、ラルドの一挙手一投足を見逃さないように、注意する。

 『閃斬神威』と打ち合えたのは、経験によるものが大きい。

 あの技は『行雲流水』に似ていたから、予測もある程度できた。

 でも、次はどうなるかわからない。

 彼は3つの剣技と言っていた。

 1つが『閃斬神威』だとして、あと2つある。

 

「これには耐えれるか?」


 来る…。

 そう感じたと同時に、ラルドの圧が一層強くなった。


「2つ、剣技『迅閃じんせん双月そうげつ』」


 ずっと、意識していたはずのラルドの姿を見失い、気づけば目と鼻の先にいた。

 

「は?」


 先程の剣戟ですら全力じゃなかったと気づくが遅い。

 防御はもう間に合わない。

 エリクサーもないから、食らえば確実に死ぬ。


『また、奇跡に期待するのか?』


 聞き覚えのある声だった。

 確か、以前……『継承の間』とかいう空間にいた『初代継承者』の男の声…。


「っ!?」


 意識をラルドから逸らしてしまったと後悔するも、目の前にいるラルドは、1ミリも動く気配がない。

 そして――

 

「な…」


 俺も指先一つ動かない。

 

「……奇跡に期待…って、なんだよ」


『俺は間違った事を言ったか?思い出してみろ、お前は言ったんだ。天宮莉愛を救うと。諦めるか?いや、諦めるしか選択肢のない状況だ。時が進めば、あの剣はお前を見事に切り裂き、殺すだろう』


 言い返す言葉が無い。

 思い返せばいつも、大口叩いておきながら、肝心な時は運任せ。

 ラルドと初めて対峙した時も、たまたま莉愛の言葉を聞いてくれたから俺は生きていた。

 イビルジラーフの時だって、沢田先生と優が来てくれなければ死んでいた。

 俺は一度だって自分の力で状況を変えちゃいない。

 だから、ここで逃げたくない。

 運じゃなくて、自分の力で勝利を掴みたい。

 そのために、使えるものは全部使う…使ったんだ…。

 いや…違う。

 まだ、使えるものがあるじゃないか。

 

「…俺の命を、今…この戦いのためだけに削れば…。それで力で引き出せば…どうなる?」


『今の状態でもすでに命を削っているようなものだ』


「まだ、何かあるんだろ?何もないなら、声なんて聞こえちゃいないはずだ」


 少し間を置き、初代は聞いてくる。


『覚悟はできているんだな?』


「あぁ」


『………神継技の力か、『祝福』の力か。どっちを満足に使いたいか選べ』


 言葉の理由を探るよりも、現状を考える。

 神継技の力はイビルジラーフの時の斬撃みたいな絶大な威力を誇るだろう。

 でも、神継技を使った戦闘経験が少なすぎるし、力の制御も今の俺じゃ不安定だ。

 安定を取るなら『祝福』じゃないだろうか。

 慣れない力より、慣れてる力だ。


「『祝福』」


『分かった。ならば『祝福』のリミッターを外そう。神継技の力はある程度は使えるが、以前の斬撃程は無理だ、覚えておけ』


「ちょっと待ってくれ。なんで、そんな事ができるのかと、俺を助ける理由を教えてくれ」


 疑問が多く残っていた。

 初代の神継技の継承者だから、神継技の力の制御ならわかる。

 でも、『祝福』のリミッターを外すなんて芸当がなぜできるのか。

 そして、なぜ俺を助けようとするのか…。

 神継技の継承者だから…か?

 

『生きて乗り越えれば、そのうち知る時が来るだろう。だから今は勝つことに集中しろ。もうすぐこの意識空間は終わりを迎え、時間が動く。あとは死ぬ気でくらいつけ』


「……わかった。初代…ありがとう」


『感謝はいらない。命を削るのは全てお前で、俺は多少力のコントロールを手伝ってやるだけだからな』


「それでも、感謝してる」


『…そうか』


 初代の声が徐々に遠のき、全身に電気が走ったような感覚がした。

 それと同時に時間が動きだしたらしく、ラルドの剣が迫る。


「っ!?」


 咄嗟に刀でラルドの剣を力技で打ち返し、距離を取る。


「なんだ……」


 彼の鋭い視線が俺を射貫く。

 ラルドの動きは鮮明に把握できるし、体も先程とは比べ物にならないほど、動きが良くなっている。

 ただ…今の一瞬の攻防で理解してしまった。

 互角だ…。

 命をガンガン削ってる今の状態で、ほぼ互角とかどんなぶっ壊れ性能してんだ…。

 しかし、この状態も永遠ではない。

 全身を襲う倦怠感と痛みを薄っすらと感じ始めている。

 これは、俺の体が本気で持たなくなり始めている証拠だろう。

 もうエリクサーはない。

 だから、次に致命傷を食らえば死ぬ。

 でも不思議と恐怖とか緊張はない。

 切先をラルドに向け、言い放った。

 

「第2ラウンドだ。騎士ラルド」

「ほう…」


 俺の発言にラルドは口角をほんの僅かに上げ応える。


「受けて立とう」


 ラルドはそう言って剣を構えた。

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