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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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希望の原点

――記憶の結晶――



 闇が覆う空間。

 そこに二つの光があった。

 二つの光は眩しいぐらいに輝いている。

 対して、自分が放つ光は今にも消えそうなほど弱々しい。


「…さ…の……り…」


 どこからかは分からないが、誰かの声がこの空間に響いた。

 その声は温かく感じると同時に、悲しそうにも聞こえた。

 

『あーあー、テステス…』


 ふと、光の一つから声が聞こえた。

 

『誰かいませんか?……魔法…いや、魔道具のせいかな?はぁ…、せっかく今日は魔物討伐の実習だったのに…。こんなところいたら、授業出れない…』


 何かを探すような動きをしている光に、もう一つの光が近づく。


『ん?誰かいるの?』


 近づいていた光と、私の存在に気づいたようだ。

 この時、私たち()()はお互いをはっきりと認識した。




 よく喋る光は、いつも色々な話をしてくれた。

 もちろん最初は言語なんて理解していなかった。

 しかし、この不思議な空間は彼女の話に合わせ変化し、視覚的に物語を体験することができた。

 だから、物と知識が結び付き、私たちは自然と言葉を覚えた。

 ただ、言葉を覚えても、私ともう一つの光は声を出すことができない。

 でも、色々な話をしてくれる光がいたから、そこまで気にすることはなかった。 

 ある時、ハッキリと誰かの声が響く。


「紗優、結乃、莉愛…どうか無事に……」


 紗優と言った時、一つの光が強く揺らぐ。

 結乃の時は、いつも喋っている光が強く揺らいだ。

 そして、莉愛…。

 その声に強く反応したのは私だった。


「……で……おそら……、無……」


 その後も話し声は聞こえ続けた。

 私と『紗優』に反応した光は、『結乃』と呼ばれた光を見守る。

 この場で唯一彼女だけが、薄っすらと聞こえるこの言葉を理解している、そう感じ取っていたからだ。


『……』


 声が聞こえなくなると、『結乃』は私に近づく。

 

『そういうことだったのね…。今、全部思い出すなんて…。莉愛、少し私と二人で話しましょう』


 その瞬間、周囲の景色が変化した。


「ここ…は……え?」

「喋れるようになったね」

「ゆ…の?」


 いつもの暗い空間では、『結乃』以外だれも言葉を発することができなったのに、今はなぜか喋ることができる。

 ただ、姿に変化はなく、お互い光のままだ。

 

「今までいろいろな話をしてきたおかげかな?…会話ができるなら、スムーズにいくからラッキーだね。じゃあ、最後の話をしよう」

「さい…ごの…はなし?」

「そう。異世界のとある国のお姫様の話よ」


 周囲を確認するが、『紗優』がいない。

 

「紗優はいないよ。言ったでしょ、二人で話しましょうって」


 『結乃』がそう言った直後、空間は豪華な一室に変化した。

 そこには、赤子を抱いている女の人と、それを見守る男性と、鎧で身を包んだ騎士がいる。


「あの女性に抱かれている子の名前は、ユーリ・ラギリア。ラギリア帝国の王族に生まれた彼女は、とても元気な女の子だったわ」


 『結乃』の言葉で場面が変わる。

 その中でユーリは、母親に似た真っ白な白髪に、父親似の深紅の瞳をした少女に成長していた。

 場面は次々に変化していき、母親らしき人物と楽しそうに会話をしている様子や、騎士と共に剣を振るっている様子など…彼女の成長の過程を見ていく。


「彼女は生まれも、交友関係も全部、誰もが羨む人生だった」

「…?」


 彼女の言葉は、他人事のようには感じられなかった。

 というかまるで……

 その考えを口にしようとした瞬間――


「まるで自分のことみたい、でしょ?」

「え…なんで?」


 どうして私の考えていることが分かったんだろう。

 疑問に思っていると、『結乃』は喋り出す。


「表情も仕草も見えないけど、なんとなくあなたの事が分かる。長い時間、一緒にいたからかな」


 空間がまた変化する。

 ユーリと同じ年齢ぐらいの子供たちが、椅子に座り、机の上で何か作業をしている。

 

「ここは…」

「学園ね。ここで、私たちは剣術や魔法を学んでいたの」


 子供たちの服装に注目すると、ユーリ含めほぼ全員が同じか似た服を着ている。


「がく…えん」


 鐘の音と同時に、大人の人が前に立ち、「授業はここまで」と短く言った直後、子供たちが一斉に動き出した。

 近くの子と楽しそうに話したり、まだ作業を続けている子もいたり。

 

「この日、私たちはいつも通りの日常を送っていたの」

「これが、にちじょう?…たのしそう」

 

 こんな多くの人と話したり、同じ事をしたり。

 そんな経験は私にはない。

 だから、羨ましいと思った。

 

「学園って嫌いな人もいるんだよ」

「そうなの?」

「まあ、私が学園が好きな理由は、友達と話したりできるからかな。授業は本当に面倒なんだよ。あ、でも剣術とか魔法の授業なら楽しいよ。…楽しかったんだ」 


 次の瞬間、何かが爆発したような音が聞こえた。

 それと同時に、私たちが見ていた学園が崩壊し、炎に包まれた。

 崩壊した建物の下敷きになっている人、炎に身を焼かれ苦しんでいる人。

 その他にも、負傷した子供たちの苦し気な声が聞こえ続けていた。

 地獄のような光景だ。


「なにが……」


 結乃を見て言葉を失った。

 先程まで私と同じような光だったのに、今は人に…いや、『結乃』が見せていた物語のユーリになっていた。


「ゆー…り」

「えぇ」

「あなたは、しんだ?」

「そうね」


 光じゃなくなったから、『結乃』の表情がはっきりと見える。

 燃え盛る炎や、苦しみながら燃える人たちを見つめ、顔を苦しそうに歪ませた。

 

「すごく…かなしい?」


 私の言葉を聞いた『結乃』は自嘲気味に言う。


「まあ、多少悲しさはあるよ。自分の生まれ育った国、友達、これからの人生…。全部壊されたんだからね。でも、どちらかと言えば、悲しいより悔しいが勝ってる。せめて一撃、与えれたらってね」


 そう言った結乃は、学園の遥か上空へ視線を向ける。

 私もつられて見る。

 そこには――


「どら…ごん」


 炎を纏った巨大な龍がいた。

 体よりも巨大な羽根を動かし、上空に留まっている。

 

「私と二人で話す前、声が聞こえたでしょ?何て言ってたか聞き取れた?」

「ききとれ、なかった」

「そう…。私は嘘とか苦手だから、ここでハッキリ言うわ」


 結乃の力強い視線が私を捉えた。


「あなたは、消える」


 特に驚いたりはしなかった。

 今の私にとって、消えることは怖い事じゃない。

 失うものは無いのだから当然だ。


「まあ、驚いたりしないよね」


 結乃は少し笑いながら言った。

 

「わたしは、ゆののはなしをきくだけで、たのしい。きえてもこうかいはないよ?」

「私の話を聞くのが楽しい…か、嬉しいこと言ってくれるね。でもね、私はあなたと紗優には人生を楽しんでもらいたいと思っているの」

「じん、せい?」

「そう、人生。今は魂だけの存在だから、まだ莉愛たちの人生は始まってない。これから莉愛は、人として生まれて、いろんな事を経験していくの。楽しいとか、悲しいとか、たくさん。口じゃ全部説明することなんてできないぐらいだよ」


 そう語る結乃に疑問を投げかける。


「でも、わたし…きえるんでしょ」

「普通ならね」


 結乃の纏う雰囲気が変わったように感じた。

 彼女は私へ歩み寄る。


「あなたは消えるべき存在じゃない。どちらかと言えば、消えるべきは私だよ」

「どうして?」

「だって、私はもう人生を歩んだから」

「でも、ゆのくやしそうだった」

「そうだね。でも、それを含めて人生だと思うよ」

「それでも…」

「莉愛は優しい子だね。…そんなあなただから、人生を歩んでほしい。そう思えたの」


 私に『結乃』が触れた瞬間、何かが抜け落ちるような感覚がした。


「――え?…あれ…」


 気づけば変な空間にいた。

 目の前には知らない女の人がいる。

 なんだろう、初対面のはずなのに、何度も会っているような感覚がある。

 そんな事を考えていると、目の前の女の人が口を開いた。


「どんな物語も例外なく動く。幸せは永遠には続かない。あなたの人生《物語》は、ここから始まるの」


 何を言っているのか理解ができない。

 ここはどこで、彼女は誰なんだろうという疑問が思考を独占する。

 

「少し言い方がキツかったかもね。でも、莉愛の進む先に多くの困難が待っているのは間違いないよ」


 女の人はゆっくりと私に近づき、光である私を優しく抱き込む。

 

「もし、私を思い出してしまったら、自分を責めないで。て言っても、思い出しちゃったらあなたは自分を責めるよね。だってとても優しい子だもん。だから、今から言う言葉は、魂に刻むわ。大事な時に、思い出せるように……」


 そう言った彼女は、深く呼吸をする。

 そして、囁くように言った。


「忘れないで、これは私の意思なの」


 最後に見えたのは、光り輝きつつ、消えていく結乃の姿だった。



――――



「っ!」


 気づけば元の白一色の空間へ戻ってきていた。

 正面には結乃…いや……


「ユーリさん」

「結乃で良いよ。せっかく忘れさせたのに、まさか私の手で全部思い出せることになるなんてね」


 彼女の口調は今までとは違い、記憶の中で見たユーリのものになっていた。


「口調が変わって驚いたでしょ。私も()が抜けなくてね。でも、莉愛だってそんな硬い喋り方しなくていいんじゃない?」

「……私は別に、これが普通です…」


 これは本心で、喋り方なんて意識したことがない。

 

「ふぅん…。ま、それは良いとして、聞きたい事あるんじゃない?」

 

 最初に目についたのは、彼女の手の平の上にある、弱々しい光を放つ結晶だった。


「その結晶は、もしかしてあなたが忘れさせた記憶ですか?」

「そうだよ」


 記憶を操作するスキルなのだろうか。 

 だとすれば――


「多分勘違いをしていると思うけど、記憶の操作はスキルじゃない。魔法だよ」

「…魔法?」

「記憶関連の魔法は()()()にはないから、知らなくて当然かな。本来は、術者が忘却させた記憶を結晶化して渡さないと、思い出すことなんてないんだけど、莉愛はなぜか、一部の記憶は思い出しかけていたね」

「……生まれる前の記憶…。でも…それでも分からなかったことがあります。どうやって消えかけのような私の魂を守れたんですか?」


 記憶を見て、彼女が私を救ってくれた動機や、前世の彼女についてある程度理解した。

 でも、方法が……。


『私は()()()()()『合成』を理解しています』


 脳裏で結乃の言葉が過る。

 それと同時に、結乃が見せてくれた過去の記憶の一番最後を思い返す。

 私の視点が消える前に見た光、見間違えじゃないのなら… 


「『合成』は、私の力じゃなかった……。なら……」


 あくまで推測だ。

 でも、どこか確信している。

 

「……正解」


 長い沈黙の後、ようやく開いた結乃の口から放たれた答えに、私は体の力が抜けていくのを感じた。


「元々『合成』は私、天宮結乃の力。あなたが使えた理由は、『合成』によって、私の魂と繋がっていたからよ」


 彼女の説明を聞き、頭が真っ白になった。

 だって、『合成』が私の力じゃないとするなら。


「私は……」

「勘違い、ってこと」

「っ!?」


 他人から貰った命で生きるなんて、好きじゃない。

 私はそう思って生きていた。

 でも、それは嘘だ。

 薄々気づいていることがあった。

 『合成』という力。

 お父様やお母様たちが隠してきた存在である天宮結乃。

 私の中に結乃の魂がある理由。

 そこから導きだした、私の答えは――


「私は…『合成』の力を使ってあなたを……」

「殺した。と思っていたんだね」


 足の力が抜け、その場に座り込んだ。

 

「怖かった…だけ…。他人に貰った命、そう自分に言い聞かせて…。私は誰も殺してなんていないって。自分が生きるために、誰かの命を奪ったなんて認めたくなくて…」


 言葉が、涙が止まらない。

 そんな私を結乃は優しく抱きしめた。

 

「大丈夫だよ。全部知ってる。ずっと、傍にいたもん。誰よりも近くにね。でもね、泣く暇はないよ」

「え?」

「ほら、立って」


 結乃が私の手を取り、立ち上がらせる。


「私は自分の意思で、あなたが生きる物語を選んだ。だから、後悔とか罪悪感とかあなたには必要ないよ。で、どう?あなたはまだ消えたいって、そう思う?」

「え?」


 私はわからなくなってしまった。

 今まで自分の意志を尊重なんてしてこなかった弊害だろうか。

 

「わからない?なら、あなたは生きて何がしたい?」

「生きて…したいこと……。東雲君の……あっ!今のは――」

「――いいじゃん。凪君がこの先どうなるか、そばで見ておきたいんでしょ?」

「っ!?」

「今のあなたは半分私なんだから、嘘は通用しない。これでわかったでしょ?あなたは莉愛として生きたいと思っている。だったら――」


 結乃が私の後ろに移動し、背中を押してきた。


「結乃……。っ!?」


 突然、私は光に包まれた。


「私は背中を押すだけだよ」

「なんでっ!私、まだあなたと…」

「思った以上に長話しすぎて時間がないの。だから、これだけ言うわ。あなたのもつ力は、どんな絶望的な状況でも希望の灯となれる。言わば希望の原点」


 希望の原点?

 全く話が見えない。


「わからない。どういうことなの?」

「莉愛の持つ本当のスキルの話」

「本当の…スキル…。私にあるの?」

「もちろん」


 私自身、スキルの自覚はない。

 スキルがあるなら、所有者に自覚がないわけがない。

 生まれつきスキル保有者は、脳内でイメージが流れ自然とスキルの扱いを理解していくから。

 でも、今はスキルの話以上に結乃に訊きたい事とか、伝えたい事が山ほどある。

 あるのに、もう時間がない。


「凪君が助けてくれたように、莉愛も凪君を助けて。この状況で、それができるのはあなただけなの」


 光の輝きは徐々に強くなる。

 もうすぐ私は、この空間から追い出される。

 そう察した。

 だから、追い出される前に結乃に言いたい事があった。


「また話せる?」


 私の言葉に少しの間をおいて、結乃は答えた。


「……もちろん、また話せるよ」


 視界が光に覆われ、どこかに落下していく感覚に襲われる。

 それと同時に、何かが抜けていく感じがした。

 何かわからないけど、無性に寂しく感じる。

 直後、あるイメージが頭の中に流れ込んできた。

 

「…これ、は…私の……」

「そう、それがあなたの力。名前を付けるなら、シンプルに――」


 結乃の姿は見えず、声だけが聞こえた。


「――希望の原点オリジン・オブ・ホープ――ってどう?」 


 自信満々な声で命名する結乃に、私は思わず微笑んだ。


「いい名付けですね」


 『追憶ノ双生』に終止符を打つ。

 そして、全部終わった後、結乃と話そう。

 聞けなかった事とか何気ない話、向こうの世界の話、飽きるまで…いや、飽きても話す。

 ようやく私は、彼女と…天宮結乃と本当の意味で向き合えた気がしたから。

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