雷光一閃
――天宮豪造視点――
「逃げるつもりはないぜ。来いよ、鯨!」
〈グアァァァァ!!〉
巨大な体からは想像できないほど速く、禍鯨が突進してきた。
最大限の身体強化をし、突進から逃れる。
地面に衝突する直前で方向転換でもするのかと思いきや、禍鯨はそのまま地面に激突し、大地に大きな亀裂を生み出した。
「くっ!」
発生した衝撃波と砂埃から顔を守る。
土煙が残る中、正面に藍色に光る薄気味悪い刻印が見えた。
ほぼ直感でその場から跳躍し、距離を取る。
〈ガァ!!〉
直後、土煙が全て吹き飛ばされた。
「っ!?」
先程まで立っていた場所の地面は大きく抉れている。
それだけならよかったが、目算で500m以上先まで一直線上に地面が見事に抉れていた。
戦いを長引かせてしまえば、この地が原型を失う可能性があるということか…。
「ふぅ…」
軽く深呼吸をして、禍鯨を睨む。
現状、俺と神葬が協力してもこいつを倒すことは不可能に近い。
だから、狙うべきは撃退だ。
この地にハンターが徐々に集まっていることは理解している。
しかし、並みの火力じゃこいつは倒せない。
あの『凶弾』もこの地に来ているが、紗優たちの加勢をしている。
諸々を考慮すれば…
「俺が一人でやるしかないってことだな…」
好都合なことに、この鯨は先程の煽りがかなり効いてるように感じる。
ならば、このまま逃げ続けて隙を窺おう。
どのみちチャンスは1回だ。
魔石の入った布袋を握る力を強くする。
「おい、ちっぽけな人間に対して随分な火力じゃねーか。あ、もしかして…昔、人間に殺されかけてビビったのか?」
〈グギャァァァ!!〉
禍鯨の周囲に巨大な水塊が生成される。
その全てが一撃即死級の攻撃となり得ると、本能で分かる。
「光!準備!」
遠くで魚人たちの相手をしている光に向かって叫んだ。
「え、マジ!?」
「マジだ!気張れ!」
叫んですぐ、水塊が勢いよく飛んでくる。
「っと」
回避だけに集中すれば、容易ではないが回避はできる。
すべての水塊を避け、本体に向かって走る。
禍鯨は大口を開け、口内に魔力を集め始めた。
「今!」
禍鯨の口内に溜まった魔力は高密度の水塊となった。
大きさは今までの2倍ぐらいだった。
その水塊が口内から放たれたと同時に、光が物凄いスピードで横を走り抜ける。
「あとで奢ってよ!」
「もちろんだ」
光は水塊に向かって手を伸ばした。
次の瞬間、水塊は速度を失い、その場に停滞する。
〈グァ!?〉
水塊を止められるのは流石に予想外だったのだろう。
禍鯨は少し驚いたような鳴き声を上げる。
少なくとも、地球に存在するありとあらゆる飛び道具を使っても、神葬光を殺すことは不可能に近いだろう。
もちろん魔法でもほぼ同様のことが言える。
だからこそ、信じれるんだ。
禍鯨に向かって真っすぐに走らず、少し斜めに進んで横腹が良く見える位置に移動する。
「見つけた」
〈グァッ!〉
どうやら禍鯨も俺の存在に気づいたらしいが、もう遅い。
空中に浮かぶ禍鯨よりも高く跳躍する。
少し下へ視線を落とせば、深く抉られた傷跡が良く見える。
布袋を真上に振り、中身の魔石を空中にばらまいた。
「13年前の借り、利子付けて返してやる」
自分の中のありったけの魔力を解放すると、周囲にばらまいた魔石が徐々に輝いていく。
「だから墜ちろ、クソ鯨」
周囲一帯の闇を取り払う閃光が発生したと思えば、魔石が一斉に砕けた。
そこから顕現したのは、巨大な雷だった。
残った魔力を必死に操作し、禍鯨の傷跡に直撃する軌道に強引に誘導する。
「うぉぉぉぉぉ!!」
〈ッ!?グギャァァァ!!!〉
耳をつんざくような禍鯨の叫びが響き渡った。
雷が消失し、周囲に帯電現象と肉が焦げたようなにおいが充満する中、禍鯨はまだ地に落ちていない。
傷跡とその付近の皮膚は焼け爛れ、裂けた部分からは血が流れている。
〈ギィィィ…〉
禍鯨は、口から血と涎を流しつつ、俺をまっすぐに睨んでくる。
余裕を見せたいところだが、俺も魔力の過剰使用のおかげで足が震えて、視界が安定していない。
魔法を行使した右手は酷いやけどを負っている。
だから、せいぜい睨み返すぐらいしかできない。
ここで弱みを見せれば負ける。
1秒が1分にも感じられる中、俺の隣に光が立った。
「まだやるなら俺も相手になるよ」
後ろを向くと、無数のバロックの死体が転がっていた。
「全く…、お前は心強いな」
「最強目指してますから」
禍鯨は目から血を流しながら、海の方へ素早く移動を開始した。
それを追おうとした光を止める。
「待て。お前でもあれは仕留められない。今は見逃してやれ」
「いいの?」
「しょうがないだろ。ここで無理にお前を追わせて、失うリスクを抱えるよりマシだ」
これはお世辞でもなんでもない。
光という存在を失うのは、今の日本にはリスクが高すぎる。
「リスクね…。この前の『十二天』だけの会議の内容のこと?」
「そう…だ」
踏ん張りがきかなくなり、その場に座り込む。
「あ、連絡めっちゃ来てる」
「俺を心配しないのか?」
「いや、だって豪造さんだから」
俺を何だと思ってるんだ、とツッコミの一つでも入れてやりたいが、流石に限界だ。
「おー、豪造…ん……よ。あれ?…さ…」
徐々に耳が遠くなり、意識もぼんやりとしてきた。
まだ意識を手放すワケにはいかない。
「…俺……は、ま…だ……」
俺は意識を手放してしまった。




