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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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雷光一閃

――天宮豪造視点――



「逃げるつもりはないぜ。来いよ、鯨!」


〈グアァァァァ!!〉


 巨大な体からは想像できないほど速く、禍鯨まがくじらが突進してきた。

 最大限の身体強化をし、突進から逃れる。

 地面に衝突する直前で方向転換でもするのかと思いきや、禍鯨はそのまま地面に激突し、大地に大きな亀裂を生み出した。


「くっ!」


 発生した衝撃波と砂埃から顔を守る。

 土煙が残る中、正面に藍色に光る薄気味悪い刻印が見えた。

 ほぼ直感でその場から跳躍し、距離を取る。

 

〈ガァ!!〉


 直後、土煙が全て吹き飛ばされた。


「っ!?」


 先程まで立っていた場所の地面は大きく抉れている。

 それだけならよかったが、目算で500m以上先まで一直線上に地面が見事に抉れていた。

 戦いを長引かせてしまえば、この地が原型を失う可能性があるということか…。

 

「ふぅ…」


 軽く深呼吸をして、禍鯨を睨む。

 現状、俺と神葬が協力してもこいつを倒すことは不可能に近い。

 だから、狙うべきは撃退だ。

 この地にハンターが徐々に集まっていることは理解している。

 しかし、並みの火力じゃこいつは倒せない。

 あの『凶弾』もこの地に来ているが、紗優たちの加勢をしている。

 諸々を考慮すれば…


「俺が一人でやるしかないってことだな…」

 

 好都合なことに、この鯨は先程の煽りがかなり効いてるように感じる。

 ならば、このまま逃げ続けて隙を窺おう。

 どのみちチャンスは1回だ。

 魔石の入った布袋を握る力を強くする。


「おい、ちっぽけな人間に対して随分な火力じゃねーか。あ、もしかして…昔、人間に殺されかけてビビったのか?」


〈グギャァァァ!!〉


 禍鯨の周囲に巨大な水塊が生成される。

 その全てが一撃即死級の攻撃となり得ると、本能で分かる。


「光!準備!」


 遠くで魚人バロックたちの相手をしている光に向かって叫んだ。

 

「え、マジ!?」

「マジだ!気張れ!」


 叫んですぐ、水塊が勢いよく飛んでくる。


「っと」


 回避だけに集中すれば、容易ではないが回避はできる。

 すべての水塊を避け、本体に向かって走る。

 禍鯨は大口を開け、口内に魔力を集め始めた。


「今!」


 禍鯨の口内に溜まった魔力は高密度の水塊となった。

 大きさは今までの2倍ぐらいだった。

 その水塊が口内から放たれたと同時に、光が物凄いスピードで横を走り抜ける。


「あとで奢ってよ!」

「もちろんだ」


 光は水塊に向かって手を伸ばした。

 次の瞬間、水塊は速度を失い、その場に停滞する。


〈グァ!?〉


 水塊を止められるのは流石に予想外だったのだろう。

 禍鯨は少し驚いたような鳴き声を上げる。

 少なくとも、地球に存在するありとあらゆる飛び道具を使っても、神葬光を殺すことは不可能に近いだろう。

 もちろん魔法でもほぼ同様のことが言える。

 だからこそ、信じれるんだ。

 禍鯨に向かって真っすぐに走らず、少し斜めに進んで横腹が良く見える位置に移動する。


「見つけた」


〈グァッ!〉


 どうやら禍鯨も俺の存在に気づいたらしいが、もう遅い。

 空中に浮かぶ禍鯨よりも高く跳躍する。

 少し下へ視線を落とせば、深く抉られた傷跡が良く見える。

 布袋を真上に振り、中身の魔石を空中にばらまいた。


「13年前の借り、利子付けて返してやる」


 自分の中のありったけの魔力を解放すると、周囲にばらまいた魔石が徐々に輝いていく。

 

「だから墜ちろ、クソ鯨」


 周囲一帯の闇を取り払う閃光が発生したと思えば、魔石が一斉に砕けた。

 そこから顕現したのは、巨大な雷だった。

 残った魔力を必死に操作し、禍鯨の傷跡に直撃する軌道に強引に誘導する。


「うぉぉぉぉぉ!!」


〈ッ!?グギャァァァ!!!〉


 耳をつんざくような禍鯨の叫びが響き渡った。

 雷が消失し、周囲に帯電現象と肉が焦げたようなにおいが充満する中、禍鯨はまだ地に落ちていない。

 傷跡とその付近の皮膚は焼け爛れ、裂けた部分からは血が流れている。

 

〈ギィィィ…〉


 禍鯨は、口から血と涎を流しつつ、俺をまっすぐに睨んでくる。

 余裕を見せたいところだが、俺も魔力の過剰使用のおかげで足が震えて、視界が安定していない。

 魔法を行使した右手は酷いやけどを負っている。

 だから、せいぜい睨み返すぐらいしかできない。

 ここで弱みを見せれば負ける。

 1秒が1分にも感じられる中、俺の隣に光が立った。


「まだやるなら俺も相手になるよ」

 

 後ろを向くと、無数のバロックの死体が転がっていた。

 

「全く…、お前は心強いな」

「最強目指してますから」


 禍鯨は目から血を流しながら、海の方へ素早く移動を開始した。

 それを追おうとした光を止める。


「待て。お前でもあれは仕留められない。今は見逃してやれ」

「いいの?」

「しょうがないだろ。ここで無理にお前を追わせて、失うリスクを抱えるよりマシだ」


 これはお世辞でもなんでもない。

 光という存在を失うのは、今の日本にはリスクが高すぎる。

 

「リスクね…。この前の()()()()()()()()()()の内容のこと?」

「そう…だ」


 踏ん張りがきかなくなり、その場に座り込む。


「あ、連絡めっちゃ来てる」

「俺を心配しないのか?」

「いや、だって豪造さんだから」


 俺を何だと思ってるんだ、とツッコミの一つでも入れてやりたいが、流石に限界だ。

 

「おー、豪造…ん……よ。あれ?…さ…」


 徐々に耳が遠くなり、意識もぼんやりとしてきた。

 まだ意識を手放すワケにはいかない。

 

「…俺……は、ま…だ……」


 俺は意識を手放してしまった。

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