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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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守られたもの

――佐藤茂視点――



 天宮豪造と神葬光が立ち去ってすぐ、本家から一人の女性がこちらへ走ってきていた。


「あれは…」

「三春さん!」


 女性の名前らしきものを呼んだのは彩霞だった。


「唯ちゃん!?なんでここに?」


 三春さんは俺たち4人の顔が順番に見つつ、困惑していた。

 

「すいません…S級ゲートの出現を聞いて、いてもたってもいられず…」

  

 彩霞に代わって風見が説明する。


「…勢いで来たってことね…。説教は後よ。4人とも、早く中へ――」

「っ!?来るよ…」


 彩霞は突然振り向いたかと思えば、そんなことを言い出した。

 まさか、と思い彩霞の視線を辿った先には、多数のモンスターがこちらへ向かってくる姿が見える。


「多い…な」

「何をしているの!早く中に避難して」

「ごめんなさい…それはできないの」


 彩霞は剣を抜きながら、本家から離れていく。


「ここは私がどうにかするから、あ――」

「――それができないんですよね?現に、中に避難してる人を守るために【封印】の力で、結界を作ってるんですから」


 風見は弓を握り、彩霞の後を追うように歩き出す。

 俺は三春という人物のスキルを知らないからはっきりとはわからないが、確かにこの本家周辺には変な膜のようなものが見える。

 俺や望が普通に入れたことと、風見の発言を踏まえれば、おそらくモンスターだけを侵入させないもの、といったところか。

 二人に続いて俺も望も、モンスターの大群へ向かって移動を始める。


「もし、あなたがその結界を維持しているなら、俺たちが前に出た方がいい」

「そうそう、こういう時の被害を最小限にするために動くのがハンターってね」


 俺と望の発言を聞いて、三春さんは何かを察したのだろう。

 一度、深く呼吸をし、俺たちを見つめた。


「……わかったわ。でも、危なくなったら結界の中に入ってきなさい」

「はい」

「はーい」


 望とほぼ被る形で返事をし、結界の外へ出る。


「で、茂」

「お前、距離感どうなってんの?」

「弟じゃんねー?」

「は?」


 こいつは何を言ってるんだ?

 少し殺意が湧いてきた。


「二人とも、集中!」

「みんな!低級の小鬼ゴブリン牙獣ハウンドの群れだよ!」


 武器を構え、こちらに向かってくるモンスターたちを視界に入れる。

 上級ハンターたちがくる気配はない。

 やはり、俺たちだけ…か。


「初手の『流星』で半分は削ってみせる、唯」

「了解。佐藤君、美香ちゃん、すぐに走れるようにその場待機ね」


 風見が弓を構えたあたりで、なんとなく状況を察し、おとなしくその場に待機する。

 俺たちとモンスターの間の距離がおよそ50mを切ったと同時に、風見は3本の矢を同時に放った。

 

〈ギャッ〉

〈ヴァゥ〉


 先頭にいたゴブリンとハウンドに命中する。

 技量はすごい。

 だが、これじゃ大した削りには――


〈ギィ!〉

〈ゴギャ〉

〈ガゥ!〉


 そんな事を思っている間に、3体のモンスターが倒れた。

 咄嗟に風見を見る。

 彼は物凄い速さで矢を放ち続けていた。

 それも最初と同じ、3本の矢を同時にだ。

 敵の数が目に見えて減ってきたあたりで、風見が口を開く。

 

「今!」

「っ!二人とも行くよ!」


 走りだした彩霞に遅れないように、俺と望も続いて走る。

 モンスターの集団は風見の射撃を警戒してか、散開し始めていた。

 これが狙いだったか…。


「はぁ!」


 彩霞の剣が、流れるように複数のゴブリンの首を切り落としていく。

 俺も負けてたまるか。


「頑強なる大岩よ……」


 詠唱しつつ、飛び掛かってくるハウンドを切り裂く。

 ゴブリンが魔法の詠唱に気づき声をあげるが、もう遅い。


「我が前に顕現し敵を潰せ」


 地面から土壁が2枚出現し、勢いよく目の前にいる複数のゴブリンとハウンドを挟み潰した。

 

「おぉ~やるねー」


 望は呑気な声を出しつつ、土壁の上に乗った。

 

「私の出番だね」


 彼女は近くにいたゴブリンの心臓を一突きする。

 直後、ゴブリンの体が崩壊した。

 

「…スキル…なのか」


 懲りずにゴブリンたちは望に近づく。

 結果は予想通り、望の剣はゴブリンたちの頭と心臓を貫く。

 そして、同じようにゴブリンたちの体は崩壊する。

 スキルなのは確かっぽいが、流石に絵面が……

 

「美香ちゃん、さすがにグロいよ…ん?何か…聞こえない?」


 彩霞が空を見上げる。


「聞こえる?何が…」


 俺も空に意識を向けつつ、周囲のゴブリンやハウンドを睨む。


「……ぁ…」


 ほんの少しだけ、声のようなものが遠くから聞こえた気がする。


「ぁぁ……」


 いや、違う!


「辰馬!!」


 彩霞の叫びとほぼ同じタイミングで、正面から勢いよく()()が飛んでくる。


「あぁぁぁぁ!」


 悲痛な叫びをあげ飛んできた()()は、後方にいた風見にぶつかった。


「ぐぁ!」

 

 倒れた風見の頭からは血が流れている。

 すぐに起き上がらないところを見るに、脳震盪…もしくは気絶している可能性が高い。


「ぁ…あ…」


 飛ばされてきたハンターらしき人も、手足が変な方向に曲がっていてマズイ状態だ。 

 正面へ視線を戻す。

 

「クソが…」


 遠くからわざとらしく足音を立てながら進行してきているのは、黒大鬼ブラックオーガだった。

 胸を張った歩き方からは、傲慢さがにじみ出ている。

 推定危険度はあいつだけでも上級…で、周りに子分か…。

 ブラックオーガの後ろについて歩く10体の大鬼オーガを睨む。

 俺だって馬鹿じゃない。

 戦力差は明白、風見の後方支援があったとしても、勝てる勝負とは思えない。

 

「佐藤君、美香ちゃん…逃げて」


 彩霞は静かにそう言った。

 彼女も理解しているのだろう、あれには勝てないと。

 実際、彩霞の呼吸は少し荒いし、手に持つ剣も小刻みに震えていた。

 勝てないから、せめて俺たちを逃がす。

 そして自分は時間稼ぎ…ってか。

 そうか…俺はそんだけ弱く見えてんのか…

 

「舐めんじゃねぇ。お前ら『十二天』がそんな偉いのかよ」


 俺は『十二天』を越えるために英専に入ったんだ。

 ()()()を見殺しにした旧時代の偽物どもを引きずり落とすために。

 剣を力強く握り、走り出す。


「待って!佐藤君!」

〈アノ…ニンゲン、コロセ〉


 ブラックオーガの背後にいたオーガ2体が突進してくる。

 

「東雲をぶっ倒すための努力の初披露がここかよ!」


 指先に魔力を籠め、空中に魔法陣を生成する。

 迫る2体のオーガとの距離を見極める。

 完璧だと判断したタイミングで、魔法を発動する。

 

「っ!」


 足元の地面が隆起した後、石柱が少し前傾に伸びる。

 その勢いを利用し、オーガ2体と交戦することなくブラックオーガの頭上をとった。

 

「大いなる地は、全てをねじ伏せる」


 詠唱を素早く終えると、手に持つ剣の周囲に石が生成され、巨大なこん棒のような形状になった。

 俺のありったけの魔力を使った地魔法、流石に無傷ではいられないはず。

 

「うらぁぁ!」


 岩の塊となった剣を力いっぱいに振り下ろす。


〈ヤルナ…、ダガ!!〉


 ブラックオーガは大振りに手を振り、魔法で生成した岩を砕いた。

 その衝撃波はすさまじく、空中にいた俺はいとも簡単に吹き飛ばされた。


「が…く、そ」


 地面に叩きつけられ、背中に強い痛みを覚える。


「佐藤君!」


 彩霞は焦った声をあげ近づいてくるが、望は立ったままだった。

 何を考えているのか分からない。

 なんであいつは動かない…。


「くそっ!遠回りしすぎた!大丈夫か!」


 背後から複数の人間の足音が聞こえた。

 

「そこの君、その男の子は大丈夫か?」

「あ、あなたたちは?」

「俺は高瀬、S級ゲートの攻略のために招集されていたハンターだよ。心配しなくていい。この場にいる子供は誰も殺させない。手当のできるやつは負傷者を頼む!」


 高瀬の指示で、数名のハンターが風見たちの元へ走った。

 

「佐藤君も後方に連れて行ってもらえますか?」


 突然、彩霞がそんな事を口にした。


「お…い、勝手な…こと…ぐっ!」


 体の芯に響くような痛みに襲われ、言葉が途切れた。


「無理に喋るな。すまないが、これ以上人員は割けそうにない。向こうにいる2人が安全地帯に運ばれた後でいいかな?」

「はい、ありがとうございます。それと、私も戦います!これでも『十二天』の彩霞家の娘です」


 彩霞は武器を手に、素早く立ち上がった。


「それだけはダメだ!君たちが子供であることに変わりはない」

「子供子供って…、私は!」

「今までは『十二天』なんて称号のせいで、フィルター越しに君たちを見ていたよ。生まれながらの天才、小さくても俺たちより頼りになるってね。でも、今日で俺の…いや、俺たちの考えは変わった」


 高瀬がそう言うと、俺と彩霞、望をを守るように数十人のハンターが前に出た。


「君と同じ『十二天』の紗優さん。強くて、大人よりも大人びて見えていた子の、悲しそうな…苦しそうな表情をみたよ。その時、感じたんだ。この子は…いや、『十二天』ってのはただの称号で、君たちは普通の子供だってね。まあ、そうはいってもその子供に間接的に俺たちは足手まといって言われて、天宮本家ここに戻ってきたんだけどな」


 高瀬は自嘲気味に笑った後、真剣な顔に戻った。

 気づけば全員がゆっくりと武器を引き抜き、構えだす。

 

「君たちに対して失礼だが、安心したよ。子供が『十二天』かどうかなんて微々たる差だって思えたから」

〈アイツラ、ミナゴロシ、シロ〉


 ブラックオーガの声を合図に、10体のオーガがこちらに走ってくる。

 いや、それだけならよかった。

 

〈ギィィ!〉

〈ギャ!〉


 先程までオーガたちを警戒してか、動かなかったゴブリンたちまで攻めてきた。

 

「戦場に出ればどんな人だっていつか死ぬ。あの『大英雄』がそう証明した」


 ふと、視界に彼らの静かに震える手足が見えた。

 こらえるように手を握りしめる者もいれば、はっきりとわかるぐらい震えている者もいる。

 みんな同じで恐怖を感じているんだ。


「でも、覚えておいてくれ。ここで死ぬって選択肢があるのは子供《君たち》じゃない、大人である俺たちだ。……お前ら!雷だ!詠唱開始!」


 高瀬の声に合わせ、数人が詠唱を始めた。


「「「迸る雷よ、我が前に顕現し敵を貫け」」」


 雷撃はゴブリンやハウンドを焦がし、オーガたちの動きを一時的に止めた。


「行くぞ!」

「「うぉぉぉ!!」」


 その隙を逃さないようにと、ハンターたちが一斉に攻める。

 実力からして、おそらく上級に位置するハンターだとわかる。

 でも――


〈ウゴケルモノ、マエニデロ!〉


 ブラックオーガの声で、感電していないオーガが一斉に前に出てきた。

 これじゃ、せっかくのチャンスが無駄に終わってしまう。

 そう考えた時だった。


「ゴミが、全部死ね」


 聞き覚えのある声がしたと思えば、高速でオーガに走っていく見知った姿を捉えた。


「お…い」

「美香ちゃん!?」


 望美香の顔は憎悪に満ちていた。

 彼女はオーガの懐へ入ると、剣を心臓に一突きする。


〈グォ!!〉


 次の瞬間、オーガの上半身が砕けた。


「!?」


 この場の半数がその光景に驚く。


〈アイツ、オレガアイテスル。…ゼンイン!ホカノニンゲンヲコロセ!〉


 ブラックオーガの叫びで、遠くから多くのゴブリンとハウンド、5体のオーガが近づいてきていた。

 そして――


〈オマエ、キケン!〉

 

 ブラックオーガは拳を振り上げ、望めがけて振り下ろす。

 舞い上がる土煙の中、望の姿が見えた。

 どうやら、回避できたらしい。


「くそっ!誰か手の空いてるやつ!あの子の援護を!!」

「無理だ!こっちも手が――ぐあっ!!」


 ゴブリンが一人のハンターの腹部に短剣を刺した。

 

「おいっ!ダイジョ――」


 それを心配し、隙ができたハンターはオーガの拳に潰された。


「くそっ!数が多すぎる!」


 近くにいる彩霞の顔を覗く。

 彼女は茫然と血を流し倒れていくハンターを見ている。

 その様子から俺は察した。

 彩霞唯もまた、本物の戦場を知らなかった。

 

「おいっ!お前ら!!」


 一人の叫びが響く。

 皆は一斉に、叫んだ人物が指さす方角へ視線を向ける。

 そこには――


「……嘘…だろ」


 15体にも及ぶゴブリンが、弓を構えていた。

 

「ぐっ!」


 遠くから誰かが飛ばされてきた。

 

「えっ!?美香ちゃん!!」


 飛ばされてきたのは、望だったらしい。

 首を動かして確認すると、望は頭から血を流していた。

 もう…終わりだ…。

 諦めた直後、大量の矢がこちらへ飛んでくる。

 死の恐怖から少しでも逃れるためか、反射的に俺は目を閉じた。


「……」


 だが、いつまで経っても痛みがない。

 ゆっくりと瞼を持ち上げる。

 そこには――


「…は?……なん、でだよ」


 俺たちを庇うようにして高瀬が立っていた。

 

「う…そ」


 彩霞の気の抜けた声が聞こえると同時に、男は無言でその場に倒れた。

 目玉、首、胸、太ももに矢が深々と刺さっている。


「ぁ…」


 ずっと、目を背けてきた。

 いや、この表現は違うな。

 俺たちはモンスターと戦うということを甘くみすぎていた。

  

「よ…よくもっ!」


 ついに激昂した彩霞がオーガに向かって突撃しようと、足を踏み出す。

 俺はその足を全力で掴んだ。

 

「ぐっ!!」


 背中から全身に激痛が走るが堪え、彩霞の足を離さないように強く握る。


「佐藤君!手を放して!!」

「おまえ…だけじゃねぇ!」


 叫んだら痛みがひどくなることは分かっていた。

 でも、それを知ってなお俺は叫ばずにはいられなかった。

 わかっているからだ。

 今、この場で死んだハンターは全員、俺たちを守るために死んだことを。

 大量のモンスター相手に引くことができない戦いを強いたのは、間違えなく俺たちだ。

 いや、正確に言うなら俺のせいだ。

 そして、守られた俺たちはするべきことがある。

 それは死なずに生き残ること。


「守ってくれた人たちのために…生きる選択する。これが大事だろ!ガハッ…」

 

 吐血しながらも、彩霞を睨む。

 彼女だってバカじゃない、だから理解できるはずだ。


「なんで…私は守るために…」


 彼女はおそらく、俺が動けないことを知っている。

 だから、ここにずっといるんだ。

 誰も死なせたくない、そんな正義の塊のような人間が彩霞唯なんだ。

 でも…もう、俺は――


「大丈夫かい?」

「「っ!!」」


 気づけば、俺たちの目の前に見知らぬ男が立っていた。

 少し髭の生えた顎に、服の上からでもわかるほど鍛え抜かれた体をしている。

 パッと見は30代後半といったところで、一般人の身の丈はあるだろう大剣を背負っていた。

 

「よくこらえたな…。全員!!俺の後ろに下がれ!!」

 

 男の叫び声に反応したハンターたちは、なぜか全員がおとなしく指示に従った。

 そのハンターたちは共通して、男の顔を見るなり表情が明るくなったように見える。

 彼は一体……

 そんなことを考えているうちに、男は動きだす。

 背負っていた大剣を降ろし、鞘から引き抜いて静かに構えた。


「さて…、死にたいやつから攻めてこい」


 モンスターたちも彼のナニカに気づいたのか、警戒を強めているように見える。


〈コロセ!〉


 ブラックオーガの指示で、ゴブリンとハウンドを先頭に攻めてくる。

 流石にあの数はマズ――


「お前ら化け物どももここ10年で頭が悪くなったようだ」


 そこからは一瞬だった。

 男は両手で大剣を握り占め、その場で大きく横凪に振った。

 直後、すさまじい風圧と共に、前方にいたモンスターがバラバラになる。

 あのオーガすらも、半分以上が息絶えた。


「ふぅ……」

〈ナ、ナニヲシテル!ヤレ!!〉


 男がゆっくりと息を吐いている間にも、残りのオーガが攻めてくる。


「…本当に質が悪い。ただ、それはそれでありがたい限りだ」

 

 再び大剣が高速で振りぬかれた。

 1体…また1体と、豆腐を切るかのように簡単にオーガは切り裂かれていく。

 

〈クソ…〉


 あっという間にオーガは殲滅された。

 残ったのはブラックオーガのみ。


「あとはお前だけだな」

〈ニンゲンゴトキガ…ニンゲンゴトキガァァァ!!〉


 ブラックオーガは魔力を周囲に放ちながら男に向かって走る。

 

「やる気にさせて申し訳ないが、お前の相手は俺だけか?」


 直後、別方向から飛んできた水の刃がブラックオーガの足を切り裂いた。


〈グ…、ハッ!〉


 態勢が崩れたブラックオーガを囲むように、剣や斧、槍といった武器が空中に浮かんでいた。

 そして――


〈ヤ、ヤメロ!〉


 一斉に武器がブラックオーガめがけて飛んでいき、肉体に深々と突き刺っていった。

 

「あなたたち大丈夫ですか?」


 突然かけられた声に、彩霞は驚きつつも振り返り、返事をする。


「はい、大丈……水野先生!それに…楠乃先生……」


 今の攻撃はうちの学校の教師、水野楓先生と楠乃直人のものだと理解すると同時にここへ来る前の楠乃と彩霞たちの会話を思い出す。

 先生はおそらく、俺たちがこうなることを危惧して言ってくれていたんだ。

 今更気づいたところで…だな。


「はぁ…だから言ったんだ。来るべきじゃない…いや、お前たちがここに来るには早すぎだって。どうだ、彩霞。『十二天』のする()()()()()()は、この本物の戦場と同じだったか?」


 彩霞は少しだけ肩を震わせつつ、静かに答えた。


「違い…ました」

「……本来なら、停学処分でも下してやりたいが…。まあ、生きてたんだ、反省文の提出で勘弁してやる。ったく…だから嫌なんだよ。生徒を戦場に出すのは」


 普段の楠乃からは感じられることのないだろう言葉の重さだった。

 俺たちは今一度、考え直さないといけない。

 ハンターになることを…いや、英雄に憧れるという意味を…。

 そこでふと思った。


 あの人は…『大英雄』は、本当に『英雄』で在りたかったのか…と。



――楠乃直人視点――


「葛城さん、スタンピード以来ですね」

「あぁ、楠乃先生。お久しぶりです」


 大剣を背負い直す葛城に、軽く挨拶を交わしながら本題に入る。


「天宮の使用人の話によれば、強力なモンスターが3体いるそうです。私たちも――」

「――その必要はないですよ。他の場所には私よりも有能な人が対応します」 

「葛城さんよりも有能…ですか。13年前の『瀬戸内海一斉海中ゲート崩壊』の数少ない生き残りって時点で十分有能だと思いますが」

「これは恐れ多い。あの『英専』の楠乃直人さんそう言ってくれるとは。実は私も聞きたいことがあるんですよ。楠乃先生、多分あなたは教師には向いていない」


 彼の真意はなんとなく伝わった。

 確かに、俺は先生なんて向いてない。

 自分が一番理解している。


「この雰囲気で話すことじゃなかったですね。すいません」

「気にしないでください。では、私は一度生徒たちを避難所まで連れていきます。死んだフリをしているあのブラックオーガのトドメは任せます」


 振り返りって、次の目的のために歩き出す。


「あ、楠乃先生」

「ん?」

「私に敬語は不要ですよ」

「わかり…わかったよ」


 進行方向に転がる佐藤と望、そして二人のそばにいる彩霞へ順番に視線を向ける。

 かなり本気で後悔をしている。

 学生のうちは、こんな現実に目を向けてほしくなかった。

 順々に学校で学び、戦場に…人の死にゆっくり耐性をつけてほしかった。

 今日、彼らは痛いほど理解しただろう。

 ハンターとして戦うことの厳しさ。

 そして、自分たちの憧れた英雄という言葉の重さに。

黒大鬼ブラックオーガ 危険度:上級上位

 人間並みの知性と圧倒的な膂力を持ち、従えている部下の数によっては上級ハンター20人でも勝てないと報告あり

 危険度は上級上位…限りなく災害級に近いモンスターだ。

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