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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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絶望はより濃くなる一方で②

――凪が封印された直後 天宮三春視点――



 目の前に倒れた東雲君を見て呟く

 

「これが、あの子のお願い…」


 結乃…いや、莉愛が私たちにした最後のお願いは東雲君がゲートへ向かうことの阻止だった。

 正直、そんなことにはならないと思っていた。

 どこまで行っても彼は子供だ。

 S級ゲートの危険性も理解でき、一時の感情で行動をしないタイプだと評価していた。

 しかし、彼はこの地に来た…。

 

「……いい友人を持ったのね…莉愛」


 莉愛との約束をようやく守れたというのに、私は嬉しさを微塵も感じない。

 それどころか、この行動が正しかったのかすら分からなくなっていた。


「本当、に……」


 自分の行動を正当化しようとする度に、莉愛のお願いを思い出す。


『東雲君をゲートに近づけないでください。彼は、絶対助けに来ちゃうから…』


 これまでいくつもの選択を間違えてきた。

 その結果が、今の莉愛だ。

 だから…私はもう、私を信じることができない。

 

「…莉愛、これでいいの?」


 私のその質問に、答えてくれる人はこの場にいなかった。

 訪れた静寂の中で、風に揺られた花々が音を立てる。

 だからなのだろうか…私は第三者の接近に気づけなかった。


「よくない。と、言えば満足ですか?」

「っ!?」


 凛とした声が聞こえたと思えば、私と倒れた東雲君の間に少女が立っていた。

 水色の長髪と色白の肌が特徴的な少女だった。

 見たことのない少女…でも、どこか既視感がある。

 

「貴方は?」


 質問をすると同時に、目の前の少女の動きに意識を集中させる。


「名乗るほどではありません」


 そう言って彼女はそっと、東雲君の額に手を当てた。


「貴方は、そこにいるんですね」


 行動と口調からあふれ出ている余裕の出どころが分からない以上、下手なことはできない。


「……あなたは、何が目的なの?」


 それに対して微笑みながら人差し指を口にあて、少女は言った。


「それは秘密です。ただ、私の目的を達成するために、凪君にあのゲートを攻略してもらわないと困るんです」

「そうですか…」


 莉愛の願いに反するものなら、私は止めなければならない。

 あの子に多くを背負わせ、苦しめてきた罪滅ぼしとして。

 ナイフと拳銃を構える。


「私も『十二天』天宮の人間です。戦闘に向いていないとはいえ、あなた程度なら――」

「――どうにでもできる、と?」


 彼女は微笑みながら、近づいてくる。

 

「止まりなさい。これ以上は痛い目をみますよ」


 できれば怪我なんてさせたくない。

 しかし、警告をしても少女の足は止まらない。

 もう…しょうがない…。

 私は引き金を引いた。


「っ!?」


 放たれた銃弾は、少女の足に飛んでいくも平然と回避された。

 偶然ではない。

 そんな確信があった。

 この子は生半可な攻撃じゃ止められない。

 素早く銃を2発撃ち、ナイフを投擲する。

 そのすべてを、彼女はまたも平然と回避したのだ。


「あなた…一体…」

「驚きました。まさか、()()()()()()()()()とは」


 彼女の意味が分からない発言に、思考がほんの1秒ほど停止した。

 私の攻撃が当たっていた?

 どういうこと?

 私の目がおかしくなければ、彼女はすべての攻撃を余裕をもって回避していたはずだ。


「放送の時間も迫ってますので、少し強引な手段を取らせてもらいます」


 そう言った直後、彼女は何かを手に持った。

 嫌な予感がした私は咄嗟に手を伸ばし、少女を掴もうとした。


「待――」

「では、天宮本家の護衛、頼みますよ」


 気づけば天宮本家の前に立っていた。


「え?」


 予備動作も音も…何もしなかった。

 一瞬で人を動かす力なんて、スキルじゃないと考えられない。

 彼女は一体…


「三春様」


 駆け寄ってきたのはうちの使用人だった。


「どうかし――」


 直後、家の付近に大きな落雷が発生した。

 多分、夫のものだ。

 東雲君が花畑まで来れていたから、足止めは仲間に任せていると察しはしていた。

 櫻ならまだしも、夫相手にこれほど時間を稼げる人間はそうそういないはず…。


「夫は誰と戦っているの?」


 私の質問に気まずそうに使用人は答える。


「神葬…光です」

「神葬…」


 どうする…。

 夫も櫻もまだ時間を稼がれている。

 先程の少女が東雲君をゲートまで連れていくのだろうか…。

 だとしたら、私が走れば間に合う?

 それとも、ゲート前に待機しているはずの紗優に連絡する?

 最善の選択を探す中、自分の不甲斐なさに視界が滲む。


「私は、莉愛のお願い一つすら…」

「それと重大な報告です…。周辺海域で…巨大な魔力反応を検知しています」

「巨大な魔力反応?」

「はい」


 もしかして海中ゲートが出現したのだろうか…。

 いや、ここから探知できるほど巨大な反応ならゲート崩壊もあり得る…。

 

「住民の避難は?」

「大方できています。元よりS級ゲートの公表による規制作業が入ると同時にしていましたので」


 不幸中の幸い…ということからしら。

 S級ゲートを公表する手段を取った以上、ゲートの方も落としどころを見つけないといけない。

 紗優に東雲君がそちらに行くかもしれないとメールし、状況把握のために本家へ向かって歩いた。

 


――ゲート崩壊後 東雲優視点――



〈グァァァァァ!!〉


 耳を塞ぎたくなるほどうるさいナニカの咆哮が響く。

 変な轟音の次は、正体不明な何かの咆哮…もう、何が起きているのかわからない。

 

「やっぱ、私たちもあのゲートに行くべきよ。今の放送が真実とは限らないじゃない」

「落ち着いてください。まずは――」


 沢田先生の言葉を遮る形で、櫻は喋りだす。


「放送は天宮本家付近のゲートから強力なモンスターが出る、そう言ってたろ?今、真実になったよ」


 櫻の視線を辿り、同じ方角を見る。

 そこには、崩壊したゲートがいつの間にか存在していた。

 そして、私がちょうど視線を送った瞬間、ゲートから漆黒の鎧を纏う人型のモンスターが出てきていた。

 

「カオス…ナイト」


 町一つを壊滅に追い込むとされる災厄級のモンスター…。

 スタンピードの時にも見たが、あの時は賀茂さんがいた。

 今は賀茂さんどころか、私と天宮櫻の二人しかいない…。

 刀を握る手は震え、呼吸が早くなるのを感じる。

 

「落ち着いて。焦っても状況は変わらない」

「わかってるわよ。あんたどうにかできないの?」

「残念だけど、俺はまだ発展途上な男だからさー、急に父さんとか賀茂さんクラスの実力を求められても困るんだよね」


 櫻が軽口をたたく間にも、カオスナイトはこちらに狙いを定めていた。

 

「来るよ」

「わかってるわよ!」


 カオスナイトが素早く距離を詰め、漆黒の剣を振るう。


「舐めないで」


 相手の剣の軌道に合わせ、刀で攻撃を受け流す。

 元からモンスター相手に力で張り合おうなんて凪みたいな思考を、持ち合わせてはいない。

 力の規格が違うなら、技術で補えばいい。

 受け流した直後、雷を刀身に集め反撃に出る。

 

「ハッ!」


 私の放つ『一閃』は見事にカオスナイトの首を捉えた。

 しかし――


「なっ!」


 私の刀は剣で受け止められていた。


「沢田さん!」

「はい!」

 

 櫻の声を合図に沢田さんの転移が発動し、カオスナイトから離れた位置に転移させられた。

 直後、正面に大規模な爆発が発生する。

 

「面倒なほど固いね」

「豪造さんの手を借りますか?」


 沢田先生が櫻に提案する。


「いや、それは多分無理だよ。さっきの放送と馬鹿みたいにうるさい鳴き声を聞いたでしょ?父さんと神葬光はあれの対応だよ。いや…避難している人の安全を考えれば、どちらか片方…かな」


 戦力が圧倒的に足りなさすぎる。

 それは私たちのところだけじゃない。

 放送の通りなら、おそらくゲート前にいるはずの紗優たちの方も似た状況だろう。

 目の前にいるカオスナイトと同等レベルのモンスターがもう一体に…あの咆哮したモンスター…。

 これならまだ、普通にゲート崩壊した方がマシだと思えた。



――ゲート崩壊後 豪造視点――



 紗優と花田に連絡がついた事に一安心し、三春や櫻にも確認を取ろうとしていた。

 状況は最悪だが、全員が生きてくれているならまだ希望はある。

 

【要点だけ言います】


 突然、街全体に放送が流れた。


【S級ゲート付近と天宮本家付近のゲートから強力なモンスターが出――】


 声に聞き覚えがなかった。

 少し疑問に思いつつも連絡を優先し、電話をしようとした瞬間――


〈グァァァァァ!!〉


 耳を塞ぎたくなるほどの咆哮が聞こえた。


「くっ…光…大丈…」


 海から山に向かって、高速で飛んでいく水塊が視界に入った。

 その瞬間、あれほどうるさかった音が聞こえなくなり、時間の流れが遅く感じる。

 

「あれ…は」


 声を発したとほぼ同じくして、水塊は山へ直撃した。

 木々は簡単に粉砕され、着弾した地面には大小様々なクレーターを形成していた。

 ゆっくりと視線を咆哮が聞こえた場所へと移す。

 そこには、空へ向かって飛ぶ大きな鯨のようなモンスターが見えた。

 頭に血が上るのを感じる。

 

「豪造さん、あの場所ってもしかして…」


 表情に出てしまっていたのだろう、事情を察した光が訊いてくる。


「S級ゲートがある場所だ。だが……」


 スマホを取り出し、執事に電話を掛ける。


「早急に家にある雷の魔法が刻まれた魔石を全て持ってきてくれ」

〈了解しました〉


 話が早い執事で助かると思いつつ、電話を切り本家の方角へ振り向く。


「ついてくよ」

「…いや、お前は天宮本家に避難している人たちを守れ」


 俺の発言に納得できなかったのか、光は目を細める。


「死ぬ気?」

「……」

「豪造さん、俺はあんたを死なせたくない」


 真剣な空気を濁すかのように、スマホから着信音が鳴った。

 

「……」


 相手を確認しようと画面を見るが、ラインでの着信ではなく、非通知の電話だった。

 普段なら無視をするが、状況が状況なだけに必要な連絡の可能性がある…か。

 静かに画面をタップし、通話を繋ぐ。


「もしもし…」

[紗優ちゃんに白井ちゃん、それに花田の奴もちゃんと無事ですよ。招集していた上級ハンターは何人か亡くなってしまったけど、もう立て直して本家に移動している]


 聞き覚えのある女性の声だった。

 

「その声…まさか」

[それにもうすぐ心強い援軍が来ます。沼の捕食者(スワンプイーター)は私が何とかするので、豪造さんは前だけに集中してくださいよ?]


 電話はすぐに切れてしまった。

 

「光」

「ん?何?」

「すまないが、鯨狩りに付き合ってくれ」


 光は少し驚いた後、口角を上げて答えた。


「もちろん」

「とりあえず本家で、魔石を回収する。走るぞ」


 そこまで距離はないが、今は1秒すら惜しい。

 走っていると、天宮本家の正門付近に見覚えのある子供が数人いた。

 

「やはり君たちはくるよな」


 足を止めて、4人の子供たちを見る。


「お久しぶりです、豪造さん」

「ああ、唯ちゃんも元気そうでなによりだ。それで…辰馬は分かるが、二人は誰だ?」


 見覚えのない顔だから『十二天』の人間じゃないことは分かる。

 ただ、連れてきた意図が読めない。

 

「私は望美香って言います。そしてこっちは佐藤茂」


 望美香、その名前をどこかで聞いたような気がする。

 どこだったか…っと、今はそれどころじゃないんだったな。

 

「えっと、風見と彩霞の子は良いんだけど、佐藤君と望さんは実戦経験ある?」

「私はあるよー」

「俺はあまりないです」

 

 光のその質問で、彼が何を考えているか察した。

 正気か?と視線で問いただすも、光は普段とは違って割と真剣な表情だった。

 本来なら、精神的に傷つけてでもここから離脱させるが、そんな時間も人手もない。

 ハンター協会に連絡して時間はかなり経つが、憲明が来ない。

 あいつなら泉朱里の転移魔法で真っ先に来ると予想していたが、向こうでも何かが起きているのか?


「豪造さん、過保護すぎるってのは――」

「――わかってる」


 光の言葉を遮りつつ、4人の顔を見つめる。

 唯ちゃんも辰馬も実力はある程度把握している。

 他二人も『英専』の生徒なら、馬鹿な真似はしないだろう。

 今はそれを願うしかない、か。


「君たちはこの場所を守ってほしい。もちろん無理にとは言わない。もうすぐここに上級ハンターの集団が到着する。危険だと思ったら彼らを頼るんだ」


 そう告げた後、複数の使用人たちが大袋を持ってやってくる。


「…きたか」

「豪造様!ありったけの魔石です」


 大袋を受け取り、中身を確認した。

 中にはびっしりと魔石が詰まっている。

 

「ありがとう。じゃあ、俺と神葬はあの鯨野郎のところへ行く」


 4人の学生へ再度視線を向け、1人1人の顔を見ながら静かに、力強い声で忠告をした。


「これだけは覚えておいて欲しい。誰かが助けに来てくれるなんて信じるんじゃねぇぞ。どれだけ強い人間だとしても、救えない命はある」


 彼らの返答を待たずに、力強く地面を蹴って跳躍する。

 このペースならすぐにあの鯨の元まで辿り着くだろう。

 振り返れば平然とついてくる光の姿がある。

 

「どしたんすか?」

「いいや、お前も成長したなと思ってな」

「これも豪造さんの教育の賜物。っと…もうすぐっすよ、豪造さん」

「わかってる」


 視線を進行方向に戻し、勢いよく地面に着地する。

 

「さてと…」


 視界を上げた先にはいるのは、巨大な鯨型のモンスター。

 海面から体半分を露出した状態で、俺たち姿を捉えている。


「あれは…」

「あぁ、遠くじゃ認識できなかったな」


 鯨型モンスターの横腹にある大きくえぐられた傷跡を見て、思わず口角が上がった。

 

「なぁ鯨。なんで一度は逃げれたのに、また戻ってきたんだ?」


 鯨は目を細めた。

 言語が分かってるのかは定かじゃないが、自分が馬鹿にされているのは分かるらしい。

 

「もしかして…なんだけどよぉ。お前にトラウマ植え付けた大英雄がいなくなったから、戻ってきたのか?」

「え?豪造さん、それ初――」


〈グァァァァ!〉


 間近で聞くと本当にうるさくて不愉快だ。

 でも、こいつが不機嫌になっていると分かる今は逆に心地良さすらある。

 咆哮の影響か、海からは魚人(バロック)が大量にはい出てきた。

 目算で約50体といったところか…。

 そんな大量に出てきているにも関わらず、1体1体が上級下位に匹敵するモンスター…、光を連れてきて正解だったな。

 

「光。バロックの相手任せた」


 多対一…それもモンスター相手なら『十二天』で光の横に立てる者はいない。

 

「へい了解」


 光は足元にあった小石を拾い、こちらへ向かってくるバロックに向けて軽い動作で投げた。


〈ギョッ…〉


 投げられた石は目にも止まらぬ速度で、バロックの頭部に風穴を開ける。

 光は表情を変えることなく、そのままバロックの集団を目掛けて歩き出す。

 

「さて、タイマンだぜ鯨。いや【禍鯨まがくじら】なんて立派な名前があったな」


〈グァ…〉


 禍鯨はゆっくりと海から体を出し、最終的に空中に浮いた。

 見下ろしてくる【禍鯨】は口角を上げ笑っているようだ。

 空を飛ぶことができることを見せつけて、逃げ場はない絶望しろってか…。

 知能が高いモンスターってのは、これだから厄介で不快だ。

 負けんばかりの挑発するような笑みを【禍鯨】へ向け、言い放った。

 

「逃げるつもりはないぜ。来いよ、鯨!」


〈グアァァァァ!!〉


 巨大な体からは想像できないほど速く、禍鯨が突進してきた。

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