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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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絶望はより濃くなる一方で

――天宮紗優視点 ゲート崩壊前――



「泣いて拒んでも連れて帰ってくる」


 東雲君はそう言って、ゲートの中へ入っていった。

 

「大丈夫か?紗優ちゃん」


 どこか不安そうな花田さんと、私を心配そうに見る白井が歩み寄ってくる。


「想定外はありましたが、今のところ大丈夫です」


 莉愛たちのことは東雲君に任せるしかない。

 私たちができるのは……

 ふと、視界の端が赤く光る。


「え?」


 直後、ゲートから凄まじい衝撃波が走り、土煙が舞い上がる。

 嫌な予感がした。

 辛うじて周囲が見えるようになった頃、ゲートへ視線を向ける。

 すると――


「どういうことなの?」


 ゲート崩壊は起きていなかった。

 それなら、今の衝撃波は何だったの?

 ふと、背後に気配を感じ、振り向く。


「っ!?」


 そこには――


〈ガァ…〉


 体長が10mぐらいありそうなワニに酷似した生物が、私を食らおうと大口を開いていた。

 おかしい…。

 こんなに大きいのに、音がしなかった。

 まずい…。

 思考を加速させるが、無傷で回避できる未来が想像できない。


(こんなところで――)


 諦めが脳裏をよぎった時、私と鰐のようなモンスターの間の地面から、巨大な木の根のようなものが出現した。


「これは…」

「誰を食おうとしてやがる…」


 怒気の籠った声を出したのは花田さんだった。


「クソ鰐野郎が」


 複数の木の根は絡み合い、一つの巨大な根になる。

 そして、その根は鰐を勢いよく叩き、その巨体を宙へと突き飛ばす。

 甘く見ていたつもりはなかったけど、やはり超級ハンターともなれば力は別格だ。


「助かりました。しかし、あのモンスターはどこから…」

「紗優ちゃん、あれを見てくれ」


 花田さんが指さす方へ視線を向ける。

 そこには――


「あれは…ゲート、それに崩壊している…」

「ああ、この時点でかなり信じたくない状況なんだが…」

「お嬢様…こちらも…」


 背後から白井の声が聞こえ振り向く。

 そこにも崩壊したゲートが存在していた。


「これは悪夢でしょうか…」


 S級ゲートはそのままで、その周囲に崩壊したゲートが二つ出現。

 こんなの見たことも聞いたこともない。

 

「あぁ、悪夢ならよかったと本気で思ってる…」


 今は崩壊したゲートからモンスターが現れてないからいい。

 だが、もし二つのゲートからモンスターが現れ始めたのなら、最悪全滅なんて結果もあり得る。


「なぁ、紗優ちゃん。今回のこれ…ゲートとゲートの衝突ってありえないか?」


 同じ位置にゲートが重複し、起きる現象…。

 もし本当に重複したのなら、世界で2回目の事象に立ち会ったことになる。

 だが、ゲートの発生予想はまだ1ヵ月以上先のはずだった。

 これは偶然なのかしら…

 ポケットのスマホから着信音が聞こえてきた。

 電話をかけてきている人物を確認し、すぐに通話に出る。


「お父様」

「紗優、どこにいる?無事か?」


 珍しくお父様の声に焦りの色が見える。


「はい。今はS級ゲート付近にいます。怪我とかはないです」

「そうか。周辺地域のほぼ全ての住民は本家の方に避難してもらっている」


 天宮本家に避難してもらっているなら、被害を心配しなくてもいい。

 あそこなら、お父様やお母様、お兄様が――


「ただ、私と神葬は厄介なやつの相手をしなければならない」

「え?」


 消えかけた不安が、再び私に付きまとう。


「櫻もまだ戻ってきていない。おそらくだが…複数の崩壊した小規模なゲートが原因――」

「――ちょっと待ってください…」


 お父様の発言で、私は背筋が冷えていく。

 まさか…この現象はここだけじゃなく…周辺にも……。


「どうした?」

「…お父様、S級ゲート付近でも、崩壊した小規模なゲートが複数出現しています…」

「何?……まさか、いるのか?そこにも…。モンスターの種類はわかるか?」

「いいえ、私の知識には――」

「――紗優ちゃん、横からですまない。豪造さん」


 花田さんは私の手からスマホを取り、お父様の名前を呼んだ。


「その声は花田か」

「はい。今俺たちが対峙しているモンスターは、沼の捕食者(スワンプイーター)だ」

「沼の捕食者……災厄級、か……くそ、どうなっているんだ…。花田、正直に言ってくれ。勝てそうか?」


 お父様の質問に花田さんの表情は苦みの混じったものになる。

 その表情で察した。


「すいませんが、ここにいる戦力じゃ無理だ」


 その発言を聞いていた上級ハンターたちは驚きの表情を見せる。

 彼らの気持ちはわかる…。

 ハンターの平均を基準に見れば、決して弱い人たちじゃない。

 ただ…相手が悪すぎる…。

 

「そうか」

「ただ、時間は稼げる。豪造さん、誰でもいい。手の空いた超級ハンターを――くっ!」


 再びこちらへ突進してくるスワンプイーターに花田さんがいち早く反応する。

 巨大な根を操作し、スワンプイーターの巨体を拘束した。

 しかし……

 

「長くは持たないな…」


 花田さんの言う通り、激しく暴れ、口からは大量に泥を吐いているスワンプイーターを見ている感じ、持ってあと数分程度だろう。

 

「豪造さん、何かあったらすぐ連絡する。紗優ちゃん、逃げてくれ」

「何を――」

【マイクテスト】


 突然、誰かの声が辺りに響いた。


「これは、誰かが町内放送を使っているのか」

「白井」

「町内放送をしている人物の特定ですね」

「お願い」


 拘束を解こうと暴れるスワンプイーターを警戒しつつ、放送に耳を傾ける。


【要点だけ言います。S級ゲート付近と天宮本家付近のゲートから強力なモンスターが出るので警戒してください。そして、最も厄介な敵がこの地に現れました。場所は――】


〈グァァァァァ!!〉


 咄嗟に耳を塞いだ。

 鼓膜が破れそうなほどの咆哮だった。

 まるで地面が揺れていると錯覚…いや、揺れている。

 

「く…耳が…」

 

 数秒後、凄まじい咆哮は収まる。

 

「一体――」

「――お嬢様!」


 直後、視界が暗転した。





「……さ…。お…う……」


 ぼんやりと誰かの声が聞こえる。

 その声は徐々にはっきりして…。


「お嬢様!!」


 白井の焦ったような声で、意識は一気に覚醒した。


「白井?…なにが…んっ…」


 強烈な異臭に一瞬、体が拒絶反応をみせる。

 スワンプイーターが作り出した泥の匂いに、海水のようなにおい、そして――


「っ!?」


 ――濃厚な血の匂いが鼻腔を満たした。

 目の前にいる白井と私に怪我はない。

 じゃあ、このにおいは……。

 周囲の様子を見た。

 

「……」


 鼓動が強くなり、強い耳鳴りがする。

 脳が状況の把握を拒んでいる感覚だ。

 目の前には、左の手首から先をなくして倒れている花田さん。

 その奥はまさに地獄だった。

 

「あぁ……」

「痛てぇ…くそっ!」

「おい!大丈夫か!?」

「ダメだ!誰か治療系のスキルは!?」

 

 手足の一部をなくした人、下半身がなくなっている死体、もがき苦しむ人…。

 知っていた…、これがハンターの現実だって。

 でも…これは、あまりにも地獄すぎる。

 私たちのいる位置のすぐ横は、一直線に地面が抉られていた。

 他の場所でも似たような抉れ方をしていたり、小さなクレーターが形成されている。

 何かが…飛んできていた?


「紗優…ちゃん、無事で…よかった」


 痛みに顔を歪ませつつ、花田さんが立ち上がる。


「花田さん!大丈夫ですか」

「ギリギリ大丈夫だ。利き腕が残るとは運がいい」


〈グァァァ〉


 再び低い咆哮が聞こえる。

 でも、先程よりもうるさくはない。

 

「おい…、なんだよ…あれは」


 一人のハンターが、木々がなぎ倒され見晴らしの良くなった方角を指さす。

 そちらの方向にはたしか…街がある。

 ゆっくりと振り返った。

 街より先、海から大量のしぶきをあげて空へ飛んでいる巨大な鯨のようなバケモノがいた。

 体色は藍色で、不気味な刻印が全身に刻まれ、薄っすらと光を放っている。

 大きさはおよそ50mほど…、数キロほど距離があるこの場所からでもはっきりと確認できる。

 誰も何も言葉を発さない。

 静かに皆が絶望に堕ちていく。

 おそらく、この状況を作ったのはあの鯨のようなモンスターだ。

 だとしたら、一体…誰があれに勝てる。

 脳裏に東雲君の言葉が過る。


『引きずってでも連れて戻るよ』


 …そうだ。

 思い出しなさい…私はまだやるべきことがある。

 東雲君と莉愛の帰る場所を確保すること。

 そして、莉愛に言いたい事全部言ってやること。

 だから、ここで私が折れてどうする…。

 あの鯨のようなモンスターはきっと、お父様や神葬さんたちが対応してくれる。

 絶望するには早すぎる。

 

「ふふっ、私も馬鹿でしたね」

「お嬢…様?」


 自分の頬を強く叩いた。


「っ!?お嬢――」

「立ってください!」


 白井の言葉を遮る形で声を上げ、ハンターたちの視線を集める。 

 私は先程の放送を思い出しながら思考を巡らせる。

 他の強力なモンスターが出るゲートの場所が本当か知らないけど、少なくともS級ゲート付近であるここの情報は正しい。

 実際に私たちは確認しているから間違いない。

 ならあの情報はそれなりに信用していいと思う。

 だったら――


「あのモンスターの対応は、お父様と神葬光さんがしてくれるはずです。だから、私たちは私たちのできる事をしましょう。皆さんには天宮本家で、避難している人たちを守ってほしいんです」

「ですが…」


 弱気な声を上げる男性の顔を見つめながら言う。


「ハンターの本質は何かを守ることにある。それをはき違えないでください。そしてこれは『十二天』天宮家の一人としての命令です。この場は私と花田さん、白井で十分に対応できます」

「紗優さんが?でもそれは…」

「私は守られるために『天宮』の名を背負っていません。安心してください、この程度の相手じゃ、死にはしませんよ」


 ハンターさんたちは何か言いたげだった。

 私の強がりには何名か気づいたかもしれない。

 でも…さっきのあの光景が私に再認識させてくれた。

 ハンターの世界の残酷さを。

 自分可愛さに誰かを犠牲にする手段なんて、取ってたまるものか。

 

「本家の安全を確保し次第、必ず援軍を連れて戻ってきます」


 私の意志の固さを察したのか、ハンターさんたちは怪我人を運びつつ、本家の方角へ小走りに去っていく。


「援軍、期待していますよ」


 信頼のできる人たちを選んでおいてよかったと心の中で安堵する。

 今回集まってくれたハンターたちは、半数以上がこのあたりの地域の出身者で構成されている。

 だからみんな守りたいんだ。

 生まれ育った故郷を、親しんだこの街と人々たちを。

 スワンプイーターはついに拘束している根を嚙みちぎる。

 

「よし…止血は済んだ。紗優ちゃん、あいつらを逃がしたのは良い判断だったぜ」

「ありがとうございます…。でも、その言い方、量がいても勝てなかったということになりますよ?」

「そういう認識でいい」


 花田さんがそう言った直後、スワンプイーターの足元から大量の泥が生成された。

 いや、違う。

 あれは生成されたんじゃない。

 既存の地面の土が軟化し、泥のようになったんだ。

 

「そう、あれだ。量が意味をなさない理由、そして沼の捕食者と名付けられた理由」


 地面の軟化は徐々に広がっている。

 気づいたときには、私たちの足元の土も軟化が始まっていた。


「確かに、いい判断でしたね」


 スワンプイーターは頭だけを地上に出し、こちらを睨んできている。


「花田さんと白井…本当にごめんなさい。巻き込んでしまいましたね」

「謝らないでください。私はお嬢様がなんと言おうと、この場に残ってあなたと共に戦います」


 白井は私の隣に立ち、剣を握る。


「白井…」

「もちろん俺もだぜ」

「花田さん…」

 

 私は本当に運がいい。

 この状況で、こんなに頼もしい人が二人もいるんだから。

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