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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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現実を知った日

――凪たちが天宮本家へ転移後 佐藤茂視点――


 目の前で、東雲凪が消えた。

 中には沢田先生の姿もあったから、おそらく転移したんだ。

 

「くそ…」


 でも、どこへ…。

 考えていても仕方ない。

 転移を使われた以上、俺じゃ追い付くこともできないし、行先もわからない。

 スマホで時間を確認し、急いで学校へ戻る。

 校門前が見えてきた頃から、違和感を感じた。

 授業時間であるはずなのに、多くの学生たちが校門から出てきていたから。

 

「どういうことだ…」


 急いで教室まで行く。

 その道中、明石がいた。


「おい、明石」

「ん?佐藤君か、どこ行って――」

「――そんなことはどうでもいい。何が起きてる?」


 明石の余計なセリフを遮り、状況の説明を求めると、彼はスマホを見せてくる。


「ニュース見てないんだね。ほら、これ」


 スマホの画面にはニュースが表示されており、内容は天宮本家の周辺にてS級ゲートが発見された、というものだった。


「なんだ、と」

「だから、うちの教師たちも現場に応援に行くみたい」

「ありがとな」 


 そう明石に言い残し、急いで職員室へ向かう。


「え?あぁって、ちょっ!佐藤君!?どこに――」


 S級ゲートの出現、しかも天宮の本家なら、ここからそう遠いとも言えない距離だ。

 S級ゲートが現れれば何が動く?

 超級ハンター、ハンター協会…そして……『十二天』と呼ばれる日本の最高戦力。

 なら、きっといるはずだ。

 職員室が見えてきたあたりで話声が聞こえてきたため、反射的に物陰から様子をうかがう。

 

「私たちも協力します」

「それはダメだ」

「なん――」

「唯、落ち着け。先生、なぜですか?俺たちは子供ですが、『十二天』を背負う家の者です」


 会話の内容と声から、風見と彩霞が楠乃先生と話しているようだ。


「だからなんだよ。今、お前言ったろ?子供だって」

「先生!」


 楠乃先生は、ため息交じりに頭の搔きながら風見たちの説得を始めた。


「あのなぁ、お前ら立場を理解するのも大事だぞ。お前らがこの事件に首突っ込んで死んでしまえば、数年後、数十年後の『十二天』がどうなるかぐらい考えられるだろ?確かにお前らは『十二天』の家に生まれたんだ、後々S級ゲートの攻略には嫌でも行くことになるだろうよ。でもな、今はその時じゃない」


 風見も彩霞も喋らなくなった。

 二人とも頭がいいから、楠乃先生の言い分も分かるのだろう。

 

「…私たちは…」

「唯、帰るぞ」

「辰馬!」

「仕方ないだろ。俺たちじゃ足手まといってことだ。そうでしょ?先生?」

「まあ、ハッキリいえばそうだな」

「……」

「…失礼しました」


 歩き去る風見と彩霞、それを見届ける楠乃先生。

 出ようか迷っていると、風見が振り返る。


「先生」

「何だ?」

「もし、今日この場に来たのが、東雲なら…。先生は連れて行きましたか?」

「……何を言うかと思えば…、答えは変わらない。あいつも子供だ」


 風見は納得したのか、再び歩き始めた。

 

「……」


 風見が最後に見せたあの目。

 あれは諦めないタイプの人間の目だ。

 職員室内に楠乃先生が戻ったタイミングで、風見たちに追いつくために走る。

 そして――


「なぁ」

「ん?誰だ?」

「俺は2組の佐藤茂。お前たちは行くんだろ?S級ゲートまで」

「……」


 風見は見定めるような目で俺を見てくる。

 

「…そうだ。S級ゲートの中に入るわけじゃない。あくまで最悪を想定し、ゲート周辺の警戒をするだけだ」


 最悪を想定、つまりゲート崩壊が起きた際、外に出てくるモンスターたちの制圧ということか。

 

「それなら、俺も連れて行ってくれないか?」

「それはできない」

「いやいや、できるでしょー?」


 俺の背後から現れたのは、淡いピンクの髪色が特徴的な女子だった。

 確か3組にいた――


「美香ちゃん…」


 彩霞の呟きで思い出した。

 そうだ、望美香だ。

 

「S級ゲート見たいから、連れてってよ。私、戦力になると思うなー」


 美香の発言に風見も彩霞も考える素振りを見せる。

 彼らの美香に対する評価は高いようだ。

 対して俺は――


「佐藤君も戦力になると思うよ?この学校の1年の中じゃ、そこそこやれる方だし」


 思わず望を見つめた。

 まさかそんな事を言われるとは思っていなかったし、第一俺は彼女の前で実力を見せるような事をした記憶がない。


「根拠はあるのか?」


 風見は真剣な表情を崩さずに望に問いかける。


「あるよ。この前、放課後に東雲君とやり合ってるところみてさー、この子意外とセンスが良いんだよね」

 

 あの放課後の…でも、こんな目立つ容姿をしている望を見逃すほど、俺は目が悪くないはず。

 遠くから隠れてみていたのか?

 疑問は多くあるが、今はついていけるなら何でもいい。

 おそらくそこに、東雲がいるはずだ。


「……わかった。美香と佐藤、ついてきてくれ。先生にチクられたら、たまったものじゃない」


 そう言うと風見と彩霞は歩き出し、俺と望もそれについて行く。

 校門を出て少し歩いた場所に、風見が手配したと思われる車が停車しており、それに俺たちは乗り込んだ。


「天宮本家まで頼む」

「了解しました」


 運転をしてくれている執事のような恰好をしている老人、おそらく相当強い。

 まあ、シンプルに考えて子供4人だけで行かせるわけがないか。

 望はショート動画を見ており、俺含めたそれ以外はS級ゲートの最新情報を追っているみたいだ。

 数十分もの無言の時間が続いた後、車は停車した。


「坊ちゃま、着きました」

「同級生の前で、坊ちゃま呼びはやめてくれ」


 風見に続いて俺たちは車を降りる。

 

「君たち、ここがどんな場所かわかっているのかい?今はゲートが…」


 降車し早々、中年ぐらいの男性と、若い男性の警官に絡まれた。

 最悪だな…と思っていると、風見が何かを警官たちに見せつける。

 途端に警官の態度は変わった。


「っ!これは、風見家の方でしたか。S級ゲートの応援ですか?」

「そうです」

「では、お通り――」

〈グァァァァァ!!〉


 地面が揺れていると錯覚するほどの咆哮だった。

 確実にヤバイモンスターが近くにいる証拠だ。

 

「な、なんだ?」


 戸惑いを隠せずにいた中年の警官の無線から声が聞こえた。


「先輩、無線」

「ん?あぁ…。こちら山口です」

〈山口さん!大変です〉


 先輩の警官が無線を手に取ったあたりで、とても焦った男性の声が聞こえてくる。


「落ち着け。その声は…竹田だな。お前住民の避難誘導だろ?何か事件か?」

〈事件なんてものじゃないんです!。ゲートは崩壊するわ、海――〉

「あ?」


 無線は途中で途切れた。

 それと同時に、遠くから何かが爆発するような音が聞こえた。

 方角的に…天宮本家方面か…。

 というか、この一連のイベントはどこか不自然だ…。

 まず、最初に公開された情報から怪しすぎる。

 ゲートの出現が発表されて、1時間程度で崩壊なんてこれまでの常識じゃあり得ない。

 思考を巡らせていると、望が耳元で囁いてきた。


「おかしいよね?」

「は?」


 その行動に思わず望を見つめる。


「何言ってんだ?」

「いくらなんでも早すぎるって思ってるでしょ?」

「そりゃな」

「でもさー、あのニュース…いや、ハンター協会を信じていいのかな?もしかすると、ずっと前からS級ゲートが確認されていたけど、黙っていた…なんてありえるよね?」


 確かに…。

 その可能性も無いわけじゃない。

 でも、それならなんでハンター協会は――


「っ!唯!!待て!」


 風見の叫び声がし、思考を一時中断し声のした方へ視線を向ける。

 

「待てない!ゲートが崩壊したんだよ!」


 彩霞がそう言って、走り去っていた。

 

「だからって…。あぁ、クソ!佐藤と望はここにいてくれ!武富たけとみさんはついてきてくれ」


 風見と武富さんと呼ばれた老人も彩霞の後を追って行ってしまった。

 この場に残されたのは俺と望、そして警察の二人だけ…。


「風見たちはここにいてくれなんて言ってたけど…」


 望を見る。

 すると、彼女は悪い笑みを浮かべながら言った。


「そんなの無理じゃん」

「君たちは『十二天』の関係者じゃないだろう。早く逃げるんだ!」

「逃げないよ。S級のゲートを見るためにここまできたんだから」


 警察の注意を聞かず、望は歩き出す。


「ダメだ!子供を見殺しにできるか」


 一人の警察が彼女の前に立ちふさがる。


「えー…、本気で止める気?」

「当たり前だ」


 もう一人の警察の人までも、望の前に立ってしまった。

 この様子じゃ、俺も入れないだろう。

 最悪、この警察たちを――。

 そこまで考えた時だった。


「はぁ~、ホントは嫌なんだよね。こんな手を使うの…」


 望はポケットから何かを取り出し、警察二人にだけ見えるように手に持った。

 俺の視点からじゃ、彼女が何を持っているのかは見えない。

 だが、警察二人が驚いているのははっきりと見える。


「秘密の旅行中だから、広めないでね?ほら、行くよ♡茂」


 望の口調は急に甘くなる。

 理解が追いつかない中、望は振り警察に言った。


「私の弟なんだから、この子もいいよね?」

「は?俺が――んぐぅ!」


 彼女の手は、俺の口を抑えた。

 そして、小声で話しかけてくる。


「この先に行きたいなら、合わせて」


 口を押さえていた手が離れた。

 

「ダメとか言わないよな?姉…ちゃんが良くて、俺だけ悪いなんて、おかしいだろ?」

「あ、あぁ。通行は許可する。ただ、危険を感じたらすぐに戻ってくるんだ」


 こうして、俺と望は先に進むことができた。


「まったく、警察って本当に面倒だねー」


 どこか楽し気な望の背中を見ながら、警戒を怠らないようにしようと意識を強める。


(望美香……一体何者なんだ)


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