崩壊
――神葬光視点 天宮家へ転移直後――
「東雲君、先行きな」
「それはダメだね」
「っ!?」
東雲君たちを先に行かせようと声をかけたと同時、背後で爆発が起きた。
俺は平気だけど、この規模の爆発なら、東雲君たちは少なからずダメージを負ったはずだ。
さて、どうしたものか…。
「考え事か?」
目前に迫っていたのは豪造さんの拳だった。
「考え事だよ」
流石というべきか、そこらの超級ハンターとは比べ物にならない速度だ。
でも――
「それじゃあ、俺には届かないよ?」
豪造さんの拳は俺に届く前に、ほぼ停止した並みの速度まで落ちた。
「まったく厄介なスキルだ」
そう言った直後、豪造さんの拳が加速する。
「厄介なスキルは誉め言葉だね」
そう言いつつ豪造さんの拳を回避した。
「流石、『元神童』なだけあるじゃないか」
「謙遜はよしてくださいよー。あなただって、『異例』なんてかっこいい称号があるじゃないですか」
会話をしている間も、攻防は止まることはない。
毎回、豪造さんの拳は不自然に止まり、再び加速する。
それを回避しつつ、反撃を試みているが全部防がれる。
「将来はハンター協会の代表でも目指すか?」
「んー、興味ないかな」
放った右ストレートがいなされた直後、跳躍し回し蹴りをする。
「っと、体の使い方、昔に比べたら多少は良くなったな」
豪造さんはそう言いつつ、回し蹴りを簡単に受け止めた。
そして、カウンター気味の右ストレートが飛んでくる。
すぐに防御しようとしたが、不自然に豪造さんの動きに変化が見えた。
この動きは――
「後ろ回し蹴りですよね?」
予測ができれば回避も余裕、と思った。
「体術の訓練ならな?」
後ろ回し蹴りの体勢をしていたから、豪造さんの手の動きを把握するのが遅れた。
一瞬だけ見えた、魔力によって空中に描かれた魔法陣のようなもので察する。
(無詠唱ね…。もう使いこなしてるなんて、流石だな)
見えたところで、時すでに遅しだ。
俺に向かって上空より雷が落ちてきている。
無詠唱の利点である、発動時間の短縮と、奇襲性能の向上を実感しつつ、スキルを発動する。
落雷は俺に当たる直前で動きを止めた。
「待っていたぞ」
落雷にスキルを使った隙を狙われたか。
すでに豪造さんは目と鼻の先にいて、拳を握りこんでいる。
身体強化と同時に、豪造さんの拳に合わせて右ストレートを放った。
「はっ!」
「ふっ!」
拳同士がぶつかり、周囲に衝撃波が走る。
「いってー」
お互い後退したことを確認し、自身の手に目を向ける。
「うわー…手の皮、昔より厚くなったと思うんだけど、豪造さん流石ですね」
俺の右手の指の付け根辺りの皮は見事に剥け、流血していた。
対して、豪造さんの手に外傷は全くない。
「…まだまだ相手をしてやりたいところだが、どうやらここまでみたいだ」
「ん?それ、どういうこと?」
一瞬、豪造さんが何を言っているのか理解できなかった。
が、すぐに理解できた。
「あー、またか」
俺と豪造さんは、同じ方向を見つめる。
――東雲優視点――
「凪!早く行って!」
そう言って、走り去る凪の姿を見た後、正面に立つ男を睨む。
(まず最重要は時間を稼ぐことね)
そう考え、踏み出した瞬間――
「!?」
目の前が爆発した。
でも、この程度で怯んでいられない。
煙を極力吸わないように、前進する。
「優さん!」
突如、背後の方から沢田先生の声が聞こえた。
その直後、私は『転移』する。
「お?」
目の前には櫻がいて、こちらを見て驚いている。
その隙を逃さないように、即座に刀を握り技を放つ。
(東雲一刀流『行雲流水』)
刀を振るうが、最小限の動作で回避された。
でも、それは想定通りだ。
刀を振りきる前に、燕返しのように軌道を変化させる。
「すごいね」
初見のはずなのに、櫻は無駄な動作なく再び回避する。
「相当努力を積み重ね――っ!」
さらに、刃の向きを変え櫻へ斬りこむ。
それすらも櫻は回避する。
だが、流石の彼も驚いた影響で、体勢が不安定になっていた。
(好機)
時には円を描くように、時には線を描くように。
形を持たない奇抜な技、『行雲流水』は櫻の体に数か所ほどの浅い切り傷を作った。
一度バックステップで距離を取り、体勢を整える。
「驚いたよ。やっぱり『大英雄』の最年少記録を塗り替えた天才は違う」
「上級ハンターの最年少記録なんて、あまり嬉しくないわ」
「謙虚だね。今更なんだけど、なんで東雲凪を行かせたんだ?彼の目的は知っているだろう?君が行った方が確実だったんじゃないかな?強さ的な意味で」
凪が弱い。
そう言う櫻を見て、思わず笑ってしまった。
「あははは」
「笑うようなこと言った?」
本気で不思議に思っている櫻を見て、笑いを収める。
「あんたは何もわかってないわ」
「多少は分かっているつもりだよ。東雲凪については、白井の報告や、過去のゲート攻略の情報から、ある程度把握できている。その結果と、実際に見てわかった。彼は君より遥かに弱い。良くて上級下位程度の実力だ」
「白井さんに調べさせていたんだ。だったら、最近の凪の行動を知っているはずよね?」
「もちろん。ここ最近、彼は帰宅が早かったみたいだね。流石に下校後は調べさせていないから、その後は知らないけどね。あくまで白井は、校内での紗優と結乃の護衛が仕事だよ」
予想通りだった。
だって、下校後の事を知っていたら…白井さんが見ていたら彼はあんな態度をとらないだろうから。
「じゃあ、教えてあげるわ。ここ数日の間、凪は私とずっと模擬戦をしていたの」
「へぇ、そうなんだ。君たちの流派の練習かな?でも、たった数日の努力でこの状況は変えることは不可能だと思うよ。そもそも、剣術一つで――」
「――情報が遅いわね」
一歩踏み出し、切先を櫻へと向け言い放った。
「たった数日の努力?天宮家は情報収集は苦手らしいわね。凪は、あの日から一日も欠かすことなく、鍛錬を続けていたわ」
私の言葉を聞いた櫻の表情は少し硬くなっていた。
「それはどういうことかな?」
「そのままの意味よ。凪は自分にお母さんの技を使う資格はないって言う割に、毎日技の練習をしていたわ」
「……」
その理由を私は確信している。
凪が時雨と舞花を家族として迎え入れたいと亜優さんに相談した頃から、薄々気づいていたんだ。
久しぶりに凪たちと過ごして、何度も聞こうとした。
でも、私にその勇気はなかった。
「…あいつね。弟と妹に東雲一刀流を託そうとしてたのよ。だから、忘れないように、最高の完成度を保っていた」
櫻は何かを察した様子で、口を開いた。
「ということは…」
「あんたは勘違いしているっぽいから、教えてあげるわ。戦いは心の在り方…意志が大事だってことを――」
その直後、思わず耳を塞ぐぐらいの轟音が周囲に響く。
「くっ!?何っ!?」
「これ…は」
数秒程度が経過したころ、音が止んだ。
目の前に立っていた櫻の表情は、より一層険しくなっている。
「これもあんた達の作戦?」
そう訊くと、彼は私を見ないまま口を開く。
「あはは…、これはちょっと予想外かなー」
「ちょっと、だからどういう――」
「――ゲートが崩壊した」
どこのゲートが?なんて言わない。
なぜなら、ここ周辺にあるゲートは元々1つだけだからだ。
「『追憶ノ双生』のゲート崩壊」
状況は最悪に近づいた。




