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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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誰そ彼時の夢④

 俺の足は無意識に莉愛の元まで歩いていく。


「ここで、何をしているんだ?」


 口が自然に言葉を紡ぐ。

 まるで、俺の喋る内容が決められているかのように。


「?」


 少女はこちらを振り向く。

 最初は少し驚いていたが、すぐに表情は柔らかくなり、俺の質問に答えた。


「自分を探していたんです」

「自分を?どういうこと?」

「説明するのが難しいですね…」


 莉愛は考える素振りを見せた後、自信なさげに言った。


「私は自分がよくわからないんです。こんな話をしても信じてくれるかわかりませんが、実は私の中にはもう一人、女の子がいるんですよ」

「え?」

「多重人格というものです」


 知っている。

 すでに未来の莉愛から、その原因も聞いているから。

 しかし、この記憶の中の俺は何も知らない。


「へぇ、すごい事になっているんだな」

「……」

「……」


 俺を見つめる莉愛の目には、警戒の色が見えた。

 

「もしかして信じてるんですか?」

「え?嘘なのか?」

「え…、いや、嘘じゃないです。…不気味だと思いませんか?」

「不気味?なんで?」

「いや、だって私の言っていることって、現実的に考えればありえない話なんですよ」

「確かにありえないような話だ。でも、君は現実的に考えてありえないと認識ができている。それに、嘘つきはそんな悲しそうな顔をしない」

「ポーカーフェイスかもしれませんよ?」

「正直なとこ、騙されてもいいと思ったんだ。君の悲しそうな顔が笑顔に変わってくれるなら」


 過去の俺の口から放たれた、背中がかゆくなるような発言で精神的ダメージを食らう。

 

(良いこと言ってんじゃん…俺だけど…)


 そんなことを思っていると、莉愛は笑いながら遠くを眺めた。


「なんかあなた見た目よりずっと大人っぽいですね」

「そういう君だって、すごく年上の人っぽい」


 そう言って莉愛の横顔を見る。

 彼女の表情には迷いが見て取れる。

 まだ足りないんだ。

 この記憶ときの俺の言葉は、彼女の心を動かすには値しなかった。

 だったら――


(今の俺の出番だろ!)


 自分の意思とは無関係に喋るときは感覚がないほど軽いくせに、今は真逆で唇が重い。

 俺の意思の介入を防いでいるのだろう。

 もちろん、意味のない行為なのかもしれない。

 というか、その可能性のほうが高い。

 ここはおそらく、俺の過去の記憶の中であり、目の前にいる莉愛の姿をした人も、空も、木も、花も全部が偽物なんだろう。

 でも……それでも……変えたいと思う強い意志があれば、変わるものがきっとあるはずだ。

 なぜなら――


(意思は力だ)

『意思は力だ』


 気のせいかもしれないが、今の一瞬、母さんの声が重なって聞こえた気がした。

 それと同時に、ほんの僅かに声が出た。


「…ぁ……」


 いける。

 そう確信したと同時――


「今まで誰にも話せなくて、辛かったよな」

「っ!?」


 ようやく彼女に伝えることができた。

 いきなりそんなことを言った俺に対し、不信感と怒りを覚えたのか、彼女は睨んでくる。


「あなたに何が――」

「――わかっている。莉愛の性格は理解しているからな」

「何を言っているのか、わかりません…」


 妙に俺に気迫があったのか、彼女はたじろぐ。

 それと同時に、周囲の空間が揺らいだように見えた。


「なあ…」


 たった1か月ぐらいの付き合いだとしても、クラス対抗戦やスタンピード、なかなか濃いイベントを二人で乗り切ったんだ。

 これで莉愛の性格を何も理解していないほうがおかしい。

 もう、無知じゃない。

 無関係じゃない。

 俺は莉愛を知ってしまった。 


「…やめてください…。私は…私…は……」


 いや、知ってしまったものは、もう一つあった。

 いいや…正しく言うならようやく気付けたことか…。

 ずっと感じてた違和感だったのに、俺は肝心なところで鈍感らしい。


「気づくのが遅れてごめん。()()、話してくれ」


 目の前の少女の動きが止まる。

 大きく見開かれた目から、涙が頬を伝い落ちる。

 彼女は泣いていた。

 

「……なんで…そこまで気づいちゃうんですか…」


 結乃を中心に周囲の空間に亀裂が入り、夕焼けに覆われた花畑で、元の姿に戻った俺たち二人は向かい合っていた。

 

「このまま……思い出す前に終わらせてほしかった」


 潤んだ目から零れる涙を、夕焼けが照らす。

 その光景は、俺の鼓動を少しだけ乱した。

 そして、彼女の莉愛と瓜二つだった蒼い瞳が、紅く染まり始めたことに気づく。

 本当に、誰そ彼時とは上手いことを言ったものだと実感した。

 ここまで必死に頑張って、ようやく本当の顔が見えた。


「遅すぎだ…結乃」


 ()()()()は、静かに…そして悲しそうに俺を見つめていた。


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