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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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誰そ彼時の夢③

 息をのみこみつつ、莉愛の声に集中する。


「今見てもらった記憶からわかったと思います…。私は東雲優凪…『英雄』であるあなたのお母さんと出会ったことで、人生の目標ができていたんです」


 空間に一つの映像が現れる。

 その映像が映していたもの…それは豪造さんや三春さんに一生懸命に「ハンターになりたい!」、そう伝えている莉愛と紗優の姿だった。


「お父様もお母様も最初は困惑していましたが、私たちの頼みを受け入れてくれました」


 映像が変わり、莉愛と紗優が戦う姿や、それぞれが必死に剣を振るう姿が映された。


「世の中、不思議なものですね。『十二天』というだけで、周囲からは天才や才能なんて言葉で簡単に片づけられてしまう。私も紗優も必死に努力を積んできたんです。目標に…優凪さんに近づくために。ですが――」


 莉愛の雰囲気が変わったと感じたと同時に、この空間が先程と同じように一場面に変化した。

 そこには、笑う莉愛と……


「…結乃?」


 顔はボヤけて見えないが、そのほかはほぼ莉愛と同じ特徴を持った誰かだ。

 一見、紗優にも見えなくないが、無意識に呼んだ名前は結乃だった。

 

「良くわかりましたね。莉愛…私が、結乃を認識するようになって、その順調な生活は崩れました。結乃と話す時間は、当時の私にとってとても楽しい時間になっていて…いつの間にか、お母様に彼女のことを話すようになったんです。…ここからは、察してくれますよね?」


 そう言って、周囲の光景は変化する。

 莉愛の話を複雑な表情で聞く三春さんの姿に、莉愛が周囲にいる子供から距離を置かれている姿……

 俺は先程の結乃…顔のボヤけていた人物を思い出す。


「莉愛にしか、結乃の姿が見えなかった?」


 莉愛は自嘲気味に笑った。


「そうですね。これが積み重なって起きた事件をあなたは私に聞いたはずです」

「あぁ…三春さんと豪造さんの話を聞いた莉愛は、結乃の魂を『封印』することになった…だろ」

「そうです。東雲君は、気づいているんじゃないですか?私の中に結乃の魂がある、なんて現実離れした状況になっている原因に」

「……」


 もちろん、予測はなんとなくできている。

 でも…彼女の前で口にするには、俺の覚悟が…倫理がブレーキを踏む。

 それを察したのだろう。

 彼女は俺に背を向けて言った。


「二つの魂が一つの器に入る。そんな芸当ができる力は私の『合成』ぐらいです。つまり…結乃は私が――」


 言わせちゃいけない。

 脳がそう判断すると同時に、無意識に莉愛の肩をつかんで、背けられた顔を半ば強引にこちらへ向けさせた。


「――わかってる。だから、それ以上は言わなくていい」


 一瞬、見開かれた莉愛の目は俺を見つめ、少しだけ震えた声で俺の胸に額を押し当てる。


「ありがとう…ございます」


 しばらく無言だった莉愛は、落ち着いたのか俺から離れる。


「すいません。時間は有限なのに…。東雲君、次は最後の追憶の旅になりそうです」

「準備はできている」


 そう答えると莉愛は頷き、手のひらを上に向けたまま前へ出す。

 

「…」

 

 彼女の手のひらの上に、淡く光る結晶の欠片のようなものが現れた。

 瞬く間に、周囲の景色が変わっていた。


「家の中…か」


 目の前には豪造と三春さん、そして莉愛がいる。


「っ!」


 記憶の中であろうこの場所にいた莉愛は、俺のよく知っている姿だった。

 ということは、この記憶はつい最近…それどころか、今日であった可能性もあるのか。

 窓の外を見ると、まだ薄暗い。

 感覚的に午前5時~6時の間あたりか。


「莉愛は…ここで何を……え?莉愛?」


 先程まで共に過去の記憶を見てきた莉愛はいなくなっていた。

 

「…どこに」

『お父様、お母様…お話があります』


 莉愛を探していると、記憶の中の莉愛が話始めた。

 

『結乃…』 


 三春さんがどこか気遣うような声を出した時、莉愛はきっぱりと言った。


『いいえ、お母様。私は莉愛です。なので、今からするお願いは莉愛としてのものです』

『……え…』

『莉愛、お願いとはなんだ?』

 

 驚きで声を失っている三春さんとは反対に、豪造さんはいつもより真剣かつ、冷静な様子で莉愛に聞き返していた。

 

『私は今から、あのゲートへ向かい、この体を結乃へ返します』

『何を…』

『莉愛っ!あなたは何を言っているのか――』


 勢いよく立ち上がり莉愛に詰め寄ろうとしていた三春さんに莉愛は冷たい視線を送る。


『――わかっています。だから、ここで…お父様とお母様の前で話したんです。それに、私はもう長くない』

『は?』


 思わず声が漏れた。

 

『それは違うわ!あなたは――』

『お母様のスキルで、結乃の魂を封印したから、私は助かった』

『そうよ!だから…っ!?』

『っ!?』


 莉愛の目から涙がこぼれる。

 その光景に、豪造も三春さんも固まった。

 そうだ…莉愛が感情を表に出すようになったのは、あのスタンピードの事件以降だ…。

 それから莉愛が実家に帰る暇はなかったはず。

 だから、知らなくて当然だ。

 そして、二人ならきっと気づく…莉愛が感情を表に出せるということは――


『封印が解けた…のか』

『嘘……』


 冷静さを保っていた豪造の頬には焦りからか、大粒の冷や汗のようなものが流れ、三春さんは顔を真っ青にしている。


『聞かせてくれ、どうしてあのゲートへ向かう。どうして、体を返すなんて言葉が出るんだ?』

『詳しくは話せません』

『だったら――』


 ついに豪造さんが立ち上がる。

 

『お父様…お母様、私のためを想ってくれるなら止めないでください』


 莉愛の声は震えている。

 今にも崩れ落ちそうなほど。


『いいや止める。莉愛、道はまだあるは――』

『それを数年以上探していたんでしょ?』

『っ!?』


 莉愛の一言に、豪造さんの動きが止まる。


『知らないと思っていましたか?お母様が結乃の魂を封印したあの日から、罪悪感で苦しめられていること。お父様が隠れて必死に、おじい様と同じ力を持った人物を探していること。…もう、私は十分に満足できたんです。未練は…無いんですよ…。それに――』


 莉愛の儚げな笑みが両親へ…そして――


「な…」


 見えていないはずの俺へと向けられる。


『ずっと前から、私は自分の意志で、私を……天宮莉愛を消そうとしていました』


 その瞬間、背後の空間に亀裂が走った。


「っ!?」


 直後、亀裂は裂け、見えない何かが俺を引っ張る。

 

「くそっ!なんだこれっ!」


 抵抗も空しく、亀裂の中へと引きずり込まれた俺は、乱暴にどこかへ放り出される。

 地面に手をつき、立ち上がろうとした時、違和感を覚えた。


「は?」

 

 自分の手がいつもより小さくなっていたからだ。


「冗談だろ…」


 両手を広げ確認する。

 見間違いじゃない。

 確実に俺の手は小さくなっている。

 立ち上がり、足元を見る。

 

「地面が近い…」


 身長も縮んでいる。

 ここまでくれば、鏡を見るまでもない。

 追憶の旅が続いているのなら、ここは――


「俺の過去の記憶…なのか」


 目の前に広がる花畑、その中心にある大きな木へと視線を向ける。

 そこには、予想通りの人物が木を背もたれに座り、遠くの景色を眺めていた。


「莉愛…」


 莉愛は、俺と同様に幼い頃の姿だった。

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