誰そ彼時の夢②
目を開けたとき、黒一色の空間に莉愛と二人で立っていた。
「…ここは」
「少女たちが生まれたのは、『十二天』と呼ばれる日本のハンターたちの最高戦力である十二の家系の一つ…天宮家でした」
莉愛は静かに語り続けた。
「生まれた双子にはそれぞれ、『紗優』と『莉愛』という名前がつけられました。十二天の家系と言っても、ハンターとしての教育を強制されることもなく、双子は自由に成長していきました」
莉愛はどこか悲しそうに何もない空間へ手を伸ばす。
「っ!」
何もなかったはずの空間には、大量のモンスターたちに攻められ、崩壊していく街並みを映した映像が流れた。
「これは双子が3歳の頃に天宮本家のある大分で起きた、瀬戸内海一斉海中ゲート崩壊の被害の様子です」
彼女がそう言うと、映像が徐々に広がり、気づいた時には俺たちは映像で見ていた景色の中にいた。
「……これが」
平和だった日常は消え去り、いたるところから悲鳴や、モンスターの鳴き声が聞こえる。
「この時、双子とその母親は花畑にいました」
莉愛の言葉に連動し、目の前に広がる光景が一瞬にして花畑へ変化した。
『大丈夫、ここでじっとしててね』
目の前には木を背もたれに、莉愛と紗優を抱きしめている美晴さんがいて、彼女は携帯で誰かと連絡を取ろうとしていた。
『もしもし、他の『十二天』はどうなっているんですか?……うそ……、緊急事態です。早くハンターたちを集めてください!このままじゃ、ここにいる人たちは、全員殺されます』
必死に話している三春さんから視線を外し、紗優を見ると、彼女は俺たちの遥か後方を見ていた。
「?」
俺はつられて背後を確認する。
そこにいたのは、モンスターだった。
『お母さま、モンスターがいる』
『っ!?』
莉愛の言葉を聞いた三春さんは、モンスターへ視線を向けた。
『大丈夫だからね…。二人とも、そこを動かないで』
三春さんは優しく双子の頭を撫でると、銃を握った。
無理だ…。
誰が見てもそう思うだろう。
なぜなら、相手は――
『水竜…。災害級もいるなんて……』
災害級……俺たちが戦ったイビルジラーフとほぼ同等な脅威だから。
見た目はイビルジラーフほど巨大ではないものの、平均的な一軒家と同じぐらいで、カメのように大きい甲羅のようなものがある。
さらに、体表を隙間が無いほどに覆っている硬そうな鱗は、どう見ても銃との相性が悪い。
水竜が徐々に花畑へ近づき、あともう一歩のところまで近づいた頃だった。
「っ!?」
突然周囲に走る衝撃波のようなものが花びらを宙へと舞い上げる。
『亀モドキ、ここは私のお気に入りだよ。もし…この花畑を壊そうとするんだったら…』
いつの間にか、誰かが水竜の前に立ちふさがっていた。
いや…この声で俺が気づかないはずがない。
俺たちと同じぐらい…いやそれよりも少し若い頃の母さんだ。
『私が逆に壊すよ?』
母さんの構えた刀が光り輝く。
次の瞬間、迸る光の一閃が水竜の首を過ぎ去った。
母さんの姿は水竜よりはるか上空にある。
〈グァ…ァ……〉
水竜は呻き声のようなものを挙げつつ、その巨大な首を地に落とした。
その後、地面に軽やかに着地した母さんは、三春さんたちへ近づく。
『大丈夫だった?』
『ええ、本当にありがとう』
『ちょっ!三春さん、そこまでの事はしてないよ。ここは私にとっても大切な場所なんだから』
母さんは少し慌てた様子で、深々と頭を下げる三春さんの頭を上げようとしていた。
『……それで、状況はどんな感じになってる?』
『賀茂さんや、『十二天』の出雲、柊、佐野家は、大阪で行われる会議に出席していたらしく…その…』
『こっちに来るのは遅れる…ってこと?』
『いいえ、あちらでもモンスターの進行が確認されてるの。だから賀茂さんたちの応援はほぼあり得ないかも』
母さんは顎に手を当てて考える素振りを見せる。
『状況が悪いね。その流れだと手の空いている『十二天』がくるだろうけど…、最短でも1、2時間ってところかな…』
そう言いつつ母さんは、遠くにいる複数の水竜や、大量の小型、中型のモンスターたちの進行の様子を見る。
『三春さん、その子たちを連れて天宮本家へ行って。あそこなら豪造と、勇人がいる。一番安全な場所だよ』
三春さんは心配そうな視線を母さんに向けた。
『ユウナちゃんは、どうするの?』
母さんは三春さんや莉愛と紗優を見て微笑み、自信に満ちた表情で言い放った。
『私は、あそこに見える敵全部倒すよ』
そんな母さんの姿を見て、自分がかつて憧れた人がどんな人なのかを思い出す。
それと同時に気づいた。
この瀬戸内海一斉海中ゲート崩壊は、『大英雄』東雲優凪を作った始まりの事件であったことに。
「これで十分ですね」
今まで黙っていた莉愛がようやく声を出した。
その途端、周囲の景色はボヤけ、徐々に黒一色の空間へ戻る。
「今のは莉愛の…私の憧れの始まり…そして、同時にこの事件の始まりでもありました……」
「この事件…か」
彼女の表情はより一層曇って見えた。
「こうして振り返ると私と東雲君、似たもの同士ですね」
「ん?」
「どちらも、優凪さんの存在で人生が大きく変わっている」
言われてみれば、確かにその通りだ。
母さんが一人で戦い続けていた俺を拾ってくれなかったら、今頃こうして生きていなかっただろう。
そして、莉愛も師匠と出会わなければ、ハンターの道を歩まなかったのかもしれない。
そう考えると、俺たちが出会ったこの物語の中心には、東雲優凪がいる。
「確かに、そうだな」
俺がそう答えると、莉愛は小さく笑う。
「ふふっ…運命というのはあるものですね。…東雲君、追憶の旅の続きをする前に、少しだけ…私について話しますね」




