第72幕・合流
「うぅ…結局一睡も出来なかった…。」
僕は重い瞼を擦りながら、狭いテントを抜け出した。
「…無理もないさ…。マワリさんは"大丈夫だ"と言っていたが…火柱やら地響きやら、あんな天変地異の中で安眠出来る人間は、世界中探しても見つからないだろうな…。」
アレフさんは、ぼうっと空を見上げながら呟いていた。
その目元には、くっきりと隈が現れている。
言うまでもなく、彼も眠れなかったのだろう。
そして、マワリさんだが…
「……日が出てからずっと、あの様子ですね。」
森の出入口を見つめたまま、案山子のように立ち尽くしている。
その背から放たれる妙な緊張感が、彼に何かを尋ねようという発想を奪い去っていた。
…とは言え、このままでは埒が明かない。
「あの…マワリさん?さっきから何してるんですか?まるで何かを待っているかのような様子ですけど…。」
長い沈黙の末、アレフさんが恐る恐る問いかけた。
だが、マワリさんの反応はない。
「マワリさん?マワリさーん!」
「…聞こえてませんね。」
アレフさんは引き続き呼び掛ける…が、マワリさんに声が届いている様子はない。
「元ボロ小屋在住のマワリさーん!」
「おい…アレフ、今俺の事を"元ボロ小屋在住"って言ったか?」
(その手があったか…。)
僕は心の中で、アレフさんに拍手を捧げていた。
「やっぱり悪口には敏感なんですね…じゃなくて、さっきから何を?」
「一昨日の晩、仲間を呼んだ。ソイツらの到着を待っているんだ。」
「仲間…?いつの間に…」
「この窮状を打破するには、最早村内の人材だけでは不十分だ。無理を承知で国外から来てもらう事にした。」
「国外から!?でも…この村はモンスターに包囲されてるって…」
僕は、思わずそう口にしていた。
マワリさんは言っていた。
この村への物資供給は、モンスターによって断たれていると。
同時に、人の出入りも困難になっている筈だ。
だが…それを指摘しても尚、マワリさんに焦りは見られない。
「自分の口から出した問題を、俺が想定していないとでも思ったのか?」
「べ…別にそんな事は…。」
「心配するな。今回俺が呼んだのは、元"レイダース"の連中だ。」
「レ…?何ですか、それ?」
「…そうか、知らないんだったな。」
マワリさんは、照れ隠しのように頭を掻きむしった。
「いいか、レイダースというのは――」
「――レイダース!?それってマワリさんがかつて所属していた、世界最強の軍事大国であるウェザー帝国が擁していた特殊部隊であるあのレイダースですか!?」
「おわっ!?」
マワリさんが口を開いた瞬間、アレフさんがミサイルのような勢いで割り込んできた。
僕は驚きのあまり短い悲鳴を上げ、後退りする。
「…アレフが説明した通りだ。これから来る奴等は、こんな田舎であっさり死ぬような質じゃない。」
「軍事大国…特殊部隊!?そんな厳ついのがこの村に――」
「レイダースの主な役割は帝国にとっての危険因子の排除…例えばテロリストとかなんだけど、隊員皆が人間離れした実力者だらけの伝説的存在だったんだ!30年以上前に解散したと聞いていたから、伝説をこの目で見られると思うと夢のよ」
「…ああ分かったもういい!もういいアレフ!伝わったから落ち着け!」
まるで機関銃のように、絶え間なく喋り続けるアレフさんを、マワリさんが静止した。
「す、すいません…つい興奮して…。」
「呼んだのは"仲間"って言ってましたよね。つまりマワリさんもその…レイダースって所に所属してたんですか?」
「ああ。」
マワリさんが小さく頷く。
「そうだったんですね…!道理であんなに強い訳だ…。」
「…だから実戦訓練の話が出た時、生きた心地がしなかったんだよね…。」
アレフさんがぼそりと呟いた。
訓練中に彼が伝えようとしていたのは、この事だったのか…。
「ハァ…俺相手に絶望しているようでは早いぞ。これから来る奴等は――」
その時、大地が微かに鳴動した。
「…ん?今、揺れたか?」
アレフさんが呟く。
僕達の意識は、林へと向けられる。
地響きは徐々に大きくなり、鈍い音がどんどん近付いてくる。
「なっ…何だ何だ!?」
慌てて辺りを見渡すと、恐れ慄いた野鳥が、次々と木々から飛び立っていく姿が見えた。
「…来たか…。」
「マワリさん!?本当に大丈――」
ズンズンドカドカと地が揺れる。
アレフさんの言葉を最後に、戦慄する僕達の声は、響き渡る音に掻き消されてしまった。
僕は息を呑み、林に続く道へと目を向ける――
「――よっしゃァ〜ッ!俺が一番乗りだぜェ〜ッ!!!」
叫び声と共に、林から巨大な影が飛び出した。
それは歓喜の表情を浮かべた、タンクトップを纏った男。
人間…しかし、モンスターと見間違う程の迫力を前に――
「ゎ……ぁ………!?」
僕は声すら、失っていた。
To Be Continued




