第73幕・英雄同窓会
目の前に現れた大男を、僕は見上げる。
大男もまた、僕を見下ろした。
「…誰だ?お前。」
"こっちの台詞だ"とでも言いたいが、巨体に気圧され声が出ない。
気まずい沈黙が流れる中、マワリさんが僕の前へと歩み出た。
「久しぶりだな、"ペプシ"。」
「おう!随分と老けたなあ、マワリ!」
マワリさんは、大男と握手をする。
"久しぶり"って、この2人は…知り合い…?
もしかして彼が、マワリさんの言っていた――
「――"断頭台"だ…!」
…僕の背後で、アレフさんが震える声で呟いた。
「ぎろちん…?レイダースじゃなくて?」
「レイダースの構成員の実名は伏せられていてね…彼等には、それに代わる"コードネーム"が与えられていたんだ。」
アレフさんは、大男の背中を指差す。
「彼と出会した悪党は皆、処刑台にかけられた罪人のように為す術なく斬られた…。彼の"断頭台"というコードネームは、そこから来ているらしい。」
「為す術なく…悪党が皆…。恐ろしいですね…。」
「でも、格好良いとも思わないかい?彼等は、"帝国の平和の象徴"だったんだから…。」
"平和の象徴"、それにコードネーム…。
まるで、映画に出てくるスーパーヒーローみたいだ。
アレフさんが"断頭台"に向ける目もまた、英雄を前にした子供の、憧憬の眼差しに似ている。
一方、目の前では2人が、互いの肩を叩き合っていた。
「それにしても…何年振りだ?10年振りじゃないか?」
「そこまで経ってはいないだろう。9年振りだ。」
「――9年半よ。」
2人の会話に割り込むように、林の方から声がした。
「…最後に集まったのは3月だったでしょう?どっちも不正解よ。」
いつの間にか、2人の背後に誰かが立っていた。
声からして、恐らく女性。しかしその顔は、纏ったローブに隠れされている。
「…おい、俺は9年と言ったぞ。」
「9年と9年半じゃ全然違うでしょう?…と言うか貴方、私を異国の地から呼びつけておいて、第一声がそれなの?」
「いや、それは――」
「――"業火"だ!」
突然、アレフさんは僕の隣から飛び出し、ローブの女性の元へ駆け寄っていった。
業火…それが彼女が持っていたコードネームなのか…。
「…この坊やは誰なの?マワリ。」
「俺の弟子だ。コイツがアレフ。向こうで立っているのがヨシヒコだ。」
マワリさんは、僕を指して答える。
「ど、どうも…。」
僕に"業火"の顔は見えない。しかし、彼女にじっと見られている気がして、どこか落ち着かない気分だ。
僕はぎこちない会釈をした。
「弟子…ね。貴方が私に求めるものが、一つ分かった気がするわ。」
「会えて嬉しいです"業火"さん!もしかして、昨晩の炎は貴女が――」
アレフさんは興奮した様子で、"業火"に詰め寄っていく。
「…止めて頂戴。50過ぎになってまで"業火"なんて高尚な名で呼ばれたくないわ。むず痒いったらありゃしない。」
"業火"は、何処か不機嫌そうにアレフさんを押し退ける。
「えっ?俺は格好良いと思うけどなあ…」
隣で"断頭台"が首を傾げる。
「この男の言葉は無視しなさい。」
「あっ…はい。」
「私はアミノ。今は魔術学会に所属しているわ。魔法の事なら、この2人より理解しているつもりだから…質問があれば答えてあげてもいいわ。」
"業火"…いや、アミノさんは、ローブの裾を整えながら呟いた。
「あの…魔法って、僕にも使えるんですか…?」
そして僕の心は、彼女の言葉に惹き付けられている。
僕は思わず、問いを口にしていた。
「あっそれ、僕も知りたいです!」
アレフさんが、勢いよく手を挙げる。
「確かに質問を認めはしたけど…早いわね。」
アミノさんは、少し困った様子で俯いた。
「すみません、初対面なのに…。」
「いいわ。迷いが無いのは素敵な事よ。
…でも貴方、何の為に魔法を会得したいの?」
「…強くなる為です。」
「随分とアバウトな回答ね。まあ、私は質問に答える立場だから…今は追及しないでおくわ。」
「あの…アミノさん!僕はどうですか!?」
アレフさんが、アミノさんの目の前へ飛び出した。
「…とんだファンボーイね、貴方。別に誰だったとしても、回答は一緒よ。"分からない"わ。」
「えっ?分からないって…それって、分からないって事ですか?」
…戸惑いからか、アレフさんが訳の分からない質問を口走っている。
「まだ一度も授業をしていないのに、新入生の得意科目に気付ける教師なんて居ないわ。…それと同じよ。」
つまり魔法の素質というのも、見ただけでは判断出来ない、という事か…。
その答えを知って、安堵か不安か区別のつかない感情が湧き上がってきた。
「じゃあ尚更、初対面でするべき質問じゃなかったですよね…すみません…。」
「意欲は伝わったわよ。教え甲斐があるわね…」
…ん?"教え甲斐"…?
「なあ、俺も喋っていいか?」
"断頭台"が手を振りながら、アミノさんへと呼び掛けた。
「好きになさい。」
「おう!じゃあ喋るぜ!俺はペプシ!」
…某炭酸飲料が脳裏を駆け抜けていった気がする。
「好きな食べ物はハンバーグだ!それから…えーっと…」
「話す内容位、予め考えときなさいよ…。」
「考えてたけど忘れちまったんだ!アミノが長々と難しい話してるからだぜ…!」
「長くもなければ難しくもないわよ、この馬鹿…!」
「ああお前ら、ちょっと待て…!今思い出すから…!」
「マワリさん…この人達、普段からこんな様子だったんですか?」
「ああ。数年前から、全く変わっていない…。」
マワリさんは、呆れたように呟く。
だがその表情は、どこか弛んでいるように見えた。
「――随分盛り上がっているみたいだね。」
その時、林の方から再び声がした。
立っていたのは、瞳が赤い金髪の少女。
背格好は小さく、顔立ちも幼い。
…僕より年下に見える位だ。
「…誰だ?」
マワリさんが怪訝そうに少女を見る。
「マワリ、彼女は魔術学会の会長…私の上司よ。」
「冗談だろう…呼んでないぞ?」
「彼女の希望で、私が連れてきたのよ…。」
小声で囁き合う2人の事など、まるで意に介さずに、少女は僕に歩み迫る。
「…えっ、あの…」
「御託はいい。」
少女は、僕に用があるようだ。
だが、僕が言葉を発する事すら望んでいない様子だ。
「早く、君の"剣"を見せてくれ。」
To Be Continued




