第70幕・断頭断行
弾けるような、叩きつけるような乾いた轟音。
突風で灰は舞い上がり、生き残った草花は薙ぎ倒される。
コナードゥは的に突き刺さった矢のように、脚を突き出したまま止まっていた。
その軌跡は大きく抉れ、溶岩のように赤く光っている。
「何だと――!?」
コナードゥの目の前に居るのは、ローブの魔導士ではなくなっていた。
筋骨隆々とした上裸の男が…標的と自身の間に割り込んだのだ。
それも地中から…地面を突き破って…!
(…いや、重要なのはそこじゃない!この男…装甲車すら粉砕する俺の蹴りを――)
「生身で…受け止めただと…!?有り得ねえ!」
コナードゥは、困惑の最中に脚を下ろした。
男は、ニヤリと笑みを浮かべている。
「"有り得ねえ"?筋肉より脆い鎧なんて邪魔なだけだろ?」
「……ハァ???」
男の言葉が、コナードゥの戸惑いを上書きする。
(何言ってんだコイツ…?いや、それより…デケェ!)
2mを超える自身すら上回る体躯。
目の前の男の巨体が、コナードゥにプレッシャーを与えていた。
「――ペプシ!そいつはとんでもなく速いわ!引き付けた今がチャンスよ!」
アミノが男――ペプシの後方で叫んだ。
「ああ…?ああ!おう!」
一瞬戸惑う様子を見せた後、ペプシは両腕を振り上げた。
その手には、目測2mを超える大剣が握られている――
(ヤベェ…逃げ――)
コナードゥの身体は、反射的に走り出していた。
「 "断頭斬"!!! 」
ペプシは大剣を振り下ろした。
大剣は虚空をなぞり、激しく地面に打ち付けられる。
「ハッ!?…ハハッ!何が来るかと思ったら…そんなノロマな剣撃で俺を殺せるとへもおろっはおはあ?ほんはあはいはんは――」
違和感。
呂律が回らない。
今すぐこの男から離れたいのに、脚が動かない。
そして――視界が2つに割れ、狭窄し…
「――はへ?」
…コナードゥの身体は、鼻筋に沿って縦に両断されていた。
左半身と右半身が無数の赤い糸を引いて、乖離していく。
"速い"も"遅い"も、この身にはもう存在しない。
残されたのは、"停止"。
"死"。
それを意識した時には既に、コナードゥの肉体は地へと崩れ落ちていた。
「オイオイ、刃で触れた物しか斬れない素人と一緒にしないで欲しいぜ!斬撃は飛ばすモンだ、覚えとけ!」
ペプシは誇らしげに、自身の胸を叩いた。
「それじゃあアンタ以外の人類、全員死ぬまで素人ね…。」
アミノは呆れた様子で呟く。
その目線の先では、コナードゥが描いた軌跡の上を、ペプシの斬撃が走り続けていた。
巻き上がる土石と砂埃が、コナードゥの足跡さえも覆い隠していく…
・ ・ ・
「いや〜素晴らしい!流石元"レイダース"の面々だ!軍事大国の特殊部隊に身を置いていただけの事はあるよ!」
ハルシアンはゆっくりと拍手をしながら、アミノとペプシの元に歩み寄る。
「カーッハッハッ!そんなに褒められちゃあ、嬉しくなっちまうなァ〜!」
ペプシは満更も無い様子で、笑い声を轟かせる。
「本当に凄いよペプシ君〜!一周回ってドン引きだ!言葉を選ばず言うなら実にキモい!魔法なしでそれ程の力を持っているなんて…魔術学会の会長としては存在すら認めたくない位だよ!何故上裸なんだ?服着ろ?」
ハルシアンは明るい声色とは裏腹に、死んだ魚のような目で言う。
「こんなにベタ褒めして貰えるなんて、俺ァ感激だァ〜!」
「罵倒されてる事に気付きなさいよ、この馬鹿…。」
ペプシの背を小突きながら、アミノは言った。
「君も良くやったね、アミノ。」
「魔法の発動に時間を要す以上、2体目のスピードとは相性が悪かった…敵を引き付けた上でペプシにバトンタッチするのが、私の限界でした。貴女が評価するに値しない働きですよ。」
「お?そうそう!俺のお陰だぜ!」
アミノの横で、ペプシはドヤ顔を浮かべた。
「…不本意ながら、ペプシのお陰です。」
「フッ…敵を引き付けたのは君の判断だろう?」
「あのモンスターのスピード…逃走に転じられたら、阻止する事は困難だったでしょうから。奴がこれ以上被害を生む前に、私達の手で始末したかった…それだけの事ですよ。」
アミノはハルシアンから目を逸らし、答える。
「助けの手を拒んでおきながら、評価されれば謙遜で返す…天邪鬼だな、君は。」
「天邪鬼なんかじゃありません。」
「…はいはい。」
――夜も更けぬ内に、決着はついた。
敗者はこの草原に還り、勝者は目的地へと歩みを進めていく。
「そうだ…ペプシ、コレ着なさい。」
アミノはペプシの背に向かって、丸まったタンクトップを投げつけた。
「…あ?服?筋肉の壁より薄い布切れなんて、邪魔なだけ――」
「そうじゃないわよ…これから村に入るんだから!アンタみたいな2m超かつ上裸の筋肉ダルマなんて、一般人からすればモンスターと見分けつかないわよ!」
「お、おう…分かったぜ…。」
ペプシはアミノに気圧され、渋々タンクトップを頭から被った。
「…でもよぉ、良いのか?この服タダで貰っちまってもよぉ?」
「ええ、さっきの借りのお返しよ。…アナタに借りを作るのは二度と御免だわ。」
アミノは、再び前を向いて歩き始めた。
「行きましょう。仲間が待ってる。」
To Be Continued




