第68幕・翻弄奔走
「なッ…ノゾキーマ!?」
コナードゥの目には、遠方で燃え上がる火柱が映っていた。
そしてその火柱が、何を呑み込んだのかも――
「クソッ…あのクソアマッ…!」
砂塵が吹き上がる。
コナードゥは仲間の仇をその視界に捉え、走り出していた。
・ ・ ・
突風。
草原は荒波のように靡き、アミノのローブが風に舞う。
「うわっ、勘弁してよ…セットした髪が乱れるじゃないか!」
…そして、ハルシアンの金髪も。
「向こうから来てくれるなんて…都合が良いわね。」
直後、アミノを取り囲むように残像が現れる。
風が渦を巻き、千切れた草花が空高く舞い上がっていく。
「「「――俺は"瞬速の魔人"ヲツケロッサ・コナードゥ!よくも俺の仲間を焼き殺してくれたな、クソ魔導士!」」」
コナードゥは疾走しながら、アミノへと罵声を浴びせる。
アミノの正面、右側、背後、左側――
絶えず変化する声の主の位置。
それが全方位から話しかけられていると…敵が無数に存在するという錯覚をアミノに押し付けようとしていた。
(…速い。まるで残像の牢獄…退路を断ってきたわね。)
「私の周りをグルグル走りながら喋るのはやめて貰えないかしら?耳元で飛び回る蝿みたいで鬱陶しいわ。」
「「「吐かせ!俺が蝿ならお前は屍肉…とっくのとうに死んでるも同然なんだよ!」」」
…アミノの目は、コナードゥの姿を明確に捉えられずにいた。
そしてコナードゥも、アミノとの距離を狭めぬまま、その周囲を円を描くように走り続けている。
しかし両者の抱く殺意は、既に邂逅を遂げていた。
「――バーンアウト!」
コナードゥの足元で火花が弾ける。
直後、残像の輪を断ち切るように火柱が巻き起こった。
「「「バカが…残像だ!」」」
コナードゥの姿は、既に火柱から遠ざかっていた。
その足は止まらず、未だに残像を描き続けている。
「バーンアウト!…バーンアウト!バーンアウト!」
アミノは取り乱す事なく、高速で動き回る影を何度も指差し続ける。
それに応えた炎が、次々と姿を現した。
無数の火柱が立ち昇り、連なり、炎の壁が形成されていく。
まるで世界を2つに隔ち、空を割るかのように。
火花の雨。渦巻く赤い柱。吹き上がる灰と炭。
それも所詮、コナードゥの足跡をなぞっているに過ぎない。
「――アイツ、速いね。少々苦しい戦いなんじゃないか?アミノ。」
ハルシアンは、アミノの肩を小突いて言った。
「気が散るんで、少し黙って下さい…。」
「…ハッ、聞くまでも無かったみたいだ。」
「「「当たりゃしねえのに何度も御苦労なこった。俺を捕捉してから魔法を撃つまで…その一瞬の隙が命取りだ…!」」」
(アイツ、魔法を回避している間にも加速していた…。今の間にも、どんどん速く――)
アミノは、動き回る敵影を前に舌打ちをした。
「「「ホ〜ラどうした!?撃ってこいよ、魔法を!お前の魔力が尽きたタイミングで蹴り殺してやるからさァ!」」」
為す術も無く、敵の嘲笑だけが耳を突く。
アミノは眉を顰めながら、静かに爪を噛んだ。
To Be Continued




