第67幕・地獄の業火
「…何ガ、アッタ?」
星々が輝く夜空の下、ノゾキーマは草原に立っていた。
「知らねえよ。俺が来た時にはこの状態だった。チッ…誰だか知らねーが、荒らすだけ荒らして去りやがって…。」
足元に散らばったモンスターの亡骸を見下ろし、コナードゥは呟く。
「死ンダノハ、全員雑魚カ?」
「ああ。コイツ等…敵の位置を俺達に知らせる前にくたばりやがって…。随分と網目のデカい包囲網だな…!」
コナードゥは亡骸に向けて怒鳴り声を上げ、地団駄を踏んだ。
「チクショウ、何人たりとも村の境界を跨がせるなとのご指示だったのに…これじゃ昇進の未来もパァだ!」
「…落チ着ケ。我々ノ任務ハマダ終了シテイナイダロウ。」
ノゾキーマはコナードゥを諭すと、村の反対側を指差した。
…そこにあったのは、村を目指して歩み進む人影。
「まだこの村に来る奴が居たとはな…。人数は…2人か?」
「片方ハ全身ニ黒イローブヲ纏ッタ女。恐ラク魔導士ダ。」
「もう片方は…背丈からして子供っぽいな。親子か?」
「ドウデモ良イダロウ。コレカラ殺ス相手ニツイテ知ル必要ハ無イ。」
「…それもそうだな。じゃ、まずお前が攻撃を仕掛けろ。お前が仕留め損なったその時は、俺が尻拭いをしてやる。」
コナードゥはそう言うなり、ノゾキーマの元から姿を消した。
草原の上で、土煙と残像が線となって現れていた。
(…助走ヲ付ケニ行ッタカ。)
コナードゥが視界から消えたのを確認した後、ノゾキーマは微笑を浮かべる。
「"仕留メ損ナウ"カ…舐メテイルナ。次期四大魔人ニナルノハ、コノ"監視ノ魔人"ノゾキーマダ。コナードゥ…君ノ座ル席ハ無イ。」
ノゾキーマの瞳は、2つの人影を捕捉した。
光がノゾキーマの眼前へと集まっていく。
「死ネ」
光線が放たれた。
夜空は朝のように照らされ、瞬きする間も無く人影は呑み込まれる。
草花が燃え、炎が弾ける音が響き渡る。
「無駄足ダ、コナードゥ。君ノ出ル幕ハ始メカラ――!?」
その瞬間、ノゾキーマは自らの聴覚を疑った。
微かに、しかし確かに聞こえたのだ。
光の中から――炎の音に混じる亡霊の声が。
亡霊…その認識すらも、疑うべきなのかも知れない。
間も無くして、答え合わせの時間がやって来た。
光線は止まり、煙が晴れる。
「――ひゅ〜!眩しいなあ、サングラスでも付けてくれば良かった…。」
「…見てないで手伝ってくれませんか?会長。」
そこには、確かに光に呑まれた筈の人影が立っていた。
2人の人間は、ガラスのような半透明の障壁に身を隠している。
(防ガレタ!?馬鹿ナ…!)
ノゾキーマは目の前の光景を疑いつつも、信じざるを得ない事を認識していた。
人間達の足元で、焼けずに残った草花が示している。
"攻撃は気取られ、防がれた"のだと。
「"手伝う"?ヤダね。君の我儘を聞いてやったんだ。"休職して此処に来たい"という我儘をね。…貸しの分は働いて貰うよ。」
金髪の少女が、ローブの女に向けて言った。
「ハア…分かりました。それと貴方。」
ノゾキーマとローブの女の目が合う。
「…突然変異したメガネザルみたいな姿した貴方よ。貴方に言ってんの、ア・ナ・タ。」
ローブの女は、はっきりとノゾキーマを指差した。
(辛ウジテ声ガ届ク距離、加エテ夜ノ闇…マサカ存在ヲ感知サレテイルトハ…。)
「さっきのは不意打ちのつもり?なら大失敗よ。貴方の光線は、無駄に強力なせいで放つ前に魔力が漏れ出ていた…ある程度経験のある魔導士なら、見逃す道理が無いわ。」
「…良イダロウ。気付カレタ以上、正面カラ相手シテ――」
「――例えるなら、そうね…暗殺者が笛付き靴履いて接近して来るようなものよ。技量不足を通り越してコメディだわ。魔王軍より芸人の方が向いてるんじゃないかしら。」
女は、ノゾキーマの言葉を気にも留めずに話し続けた。
「ぷっ…!言うじゃないかアミノ。あいつの表情、かなり面白い事になってるよ。」
嘲笑とも取れる笑みを浮かべ、少女――ハルシアンはノゾキーマを指差す。
現に、ノゾキーマの顔面は怒りによって歪み切っていた。
顔色は水を垂らせば煙が上がりそうな程に赤く、唇は今すぐ罵声を発さんと震えていた。
「キッ…キキキキサッ…貴様ァッ!コノ私ヲ愚弄シタ以上、生キテハ返サナ――」
「…時間稼ぎ終了。」
「――!?」
直後、ノゾキーマの足元で、炎が渦を巻き始める。
「"バーンアウト"。」
アミノの呟いた言葉に呼応するかのように、炎は雲すら貫く巨大な柱となった。
ノゾキーマは炎の中、その灼熱に悶え、叫ぶ。
しかし、ゴウゴウと燃える炎の音が、その悲鳴さえも上書きしている。
(コノ女…!私ヲ挑発スル裏デ、魔法ヲ準備シテ――)
直前まで抱いていた怒りが、死への恐怖に侵食されていく。
(イヤ…装甲車スラ消シ去ル私ノ光線ヲ防ガレタ時点デ…!見誤ッタ…コイツハ…!!!)
燃え上がる火柱の中で、小さなシルエットが粉々に崩れ、消えていった。
「…まずは1体。」
アミノの目線は、既に他方へと向けられていた。
To Be Continued




