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重い過去と影を背負いし大剣使い『に見えるだけの凡人』、災害級ヒロインたちを雲らせてしまう 〜渋おじ転生〜  作者: 星屑ぽんぽん


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2話 幼女との一夜が渋すぎた


 ずっと、ずっと私は一人だった。

 魔王城にいても、人間の領域へ逃げ出しても、私には居場所なんてなかった。


 生まれた時から『我を超える次代の魔王となれ』なんて言われ続けて、数多(あまた)の魔法をこの身に刻まれた。

 何度も、何度も、痛めつけられて。

 立ち上がれないと……もっと痛い思いをするから、だから必死に頑張ってきた。


 けどもう限界だった。

 こんな地獄が一生続くのかと思うと、涙も枯れて、ただただ空っぽだった。

 それでも痛いのは嫌だって、そんな惨めな本能だけは残っていたから。

 隙を見て魔王城から逃げ出してしまった。


 そうして逃げた先は……人間の領域は、魔王城と比べ物にならないほどに平和だった。

 野盗とかモンスターなんてのはいたけれど、魔王城で受けた痛みや恐怖の100分の1にも満たない。


 ただ、別の痛みが私の胸をジクジクと()ませていった。


 誰と会っても。

 どこにいても、私を見かけた人々は襲ってくる。

 私の角を見て、『邪悪な魔族』だと。何もしてないのに、強い憎悪と否定の眼差しを向け、剣の切っ先を向けてくる。


 そうして私は理解した。

 この世界に、私の安心できる場所なんてないんだって。

 一人きりでいるしかないんだって。


 だったら、だったら、絵本で読んだ魔神様にお願いしたかった。

 こんな世界を滅茶苦茶に壊してほしいって。

 徹底的に滅ぼして————






「————ほんとは、絵本の中だけの話、だと思ってた」


 パチパチと爆ぜる焚き火を囲みながら。

 角あり美幼女は、ぽつりぽつりと語り始めた。


魔神(ぱぁぱ)が神殿跡にいて、よかった」


 あー……。

 なんか成り行きで、幼女と遺跡キャンプで一夜を過ごす(ワンナイト)って流れになってるけども。

 まず、ぱぁぱ呼びはやめてもらえないだろうか。

 いやでも、好きに呼べって言っちゃったしなあ。


 それに絵本って何の話だ? いくら魔法を使えても、やっぱりその辺はまだ子供なのか、現実と空想の区別がついてないのかもしれない。

 いや、突っ込まないでおこう。

 なにせ幼女が強者っぽいからこそ、こうして悠長に安心な焚き火ができるのだ。


 俺には他に考えることが山ほどあるわけで……。

 今はテキトーに『うんうん』、と言葉少なに相槌をうっておけばいい。


「おかげで、勇者は殺せる。【死が二人を分かつまで(デッドリィ・ポイズン)】、私の魔力が半減する代わりに、私が死なないと解毒、できない」


「ふっ」


 一生懸命に自分で考えた創作話を、いや、絵本の話か? とにかく自慢げに語る幼女に思わず笑みがこぼれる。

 まあ、たまにはこういうのも悪くないか。


 夜の澄んだ空気に、風が奏でる草木の(ささや)き。

 空には星々が瞬き、揺らぐ炎は俺たちの身体を温めてくれる。


 煌びやかに濁った東京の夜には、いい思い出はあまりない……。

 色々と思う事はあれど、すでにMMORPG『クロノ・クロニクル』の世界に来ちゃったなら、のんびりやってもいいかもな。


 幸い、手持ちの路銀を確認すれば金貨は30枚もあるわけで。

 貨幣価値がゲームと同じなら1年は悠々自適に旅ができる。



「ねえ、ぱぁぱ。お城から逃げた姫はどうすればいいと思う?」


 自身を指さす幼女。

 今度はお姫様の絵本に話題が変わったらしい。少女が好みやすい童話だな。


「ん、ああ……逃げてもいい」

「どこへ? どうしていいか、わからない。ずっと、ずっと、魔王に閉じ込められてたから」


「ん、ああ————人は……迷ったままでも進めるらしい」


 ひとまずメシ屋を目指すか、風呂屋にするか、どのみち街だな。明日は街に行こう。

 ぼんやりと思考しながら、迷える幼女に手を差し伸べる。

 すると幼女は嬉しそうに頭をこすりつけてくる。

 なんだか猫みたいだと思いながら頭をなでてやる。


「私、魔族に追われてる。人族にも狙われる」

「ん、あぁ……うんうん」


「一緒にいてもいいの?」

「ん、あぁ……うんうん」


魔神(ぱぁぱ)は、聞いてたお話と全然違う」

「ん、あぁ……うんうん」


「魔族も人族も滅ぼさないの?」

「ん————ふああ」


 まだまだ絵本の内容を話し足りないようだが、このまま喋り続けるわけにもいかない。

 なぜなら————


「どうして? 今なら、私、魔力半分。簡単に殺せる」

「今は————その時じゃない」


 ねんむい。


「じゃあ、いつかはやってくるの……? (私を殺す日が)」

「————朝は変わらずやってくる。そういうのでいい」


 早く寝よう。

 ほんと、そういうのでいい。


「変わらず……? 毎日、ずっと一緒に、朝をお迎えするの? ぱぁぱも私も、いなくならないってこと?」

「——あぁ。朝を迎えにいこう」


 ふぁあああ、もう限界だ。

 よし、寝よう。すぐ寝よう。

 俺は幼女の話相手もそこそこに寝転がる。


 今日は色々あったな、と。

 そんな風に思いながら瞳を閉じた。


 ——背中にもぞもぞくっついてくる感覚に、やれやれと思いながら意識はまどろみの中へと落ちていった。





『真実など目にしなくていい』

『ただ、(ほのお)の中で理想を見ればいい——』

『くべろ、炎にくべろ——』

『何もかも捧げ、燃やしてしまえ——』

『さすれば炎のように、形に縛られず、揺らめき、何者でもなく、何者にもなれる——』


 そう仄めかすのは、魔神と呼ばれた者だったか。

 それとも自分の中に燻る狂気か。

 どちらかはわからない。


 ただ、その声に従って、かつて多くの信者たちが。

 数多(あまた)の命を奪い、炎に捧げた。

 それがこの神殿跡地にこびりついた記憶の残滓————


 不意にパチリと薪の崩れた音が響き、その景色が歪む。



「————夢か」


 目を開ければ、すでに空は白み始めていた。

 ぷすぷすと焚き火は消えかけているが、気候は夏寄りの春っぽい気温なので、少しだけ肌寒い。

 幼女はまだ眠っているので、起こさないでおこう。


「——薪を集めるついでに、罠の様子も見に行くか」


 昨日のうちに仕掛けておいた罠を見れば、見事に野ウサギが引っ掛かっていたので、俺は短剣でその命を終わらせる。

 薪を拾いつつ、周囲に炎が燃え広がらないよう、崩れ落ちた石壁や欠けた神像の残骸も運ぶ。


 それから手早く野ウサギの血抜きをして、サクッと解体。

 昨日から不思議に思っていたが……罠の仕掛け方や野営の手順などは身体が覚えていた。これも推しに染みついた記憶なのか……?


 とにかく石壁や神像の欠片を焚き火の周囲に置き、それから野ウサギの肉をじっくりと(いぶ)す。


 すると炎が意思を持つように、俺にまとわりついてきた。

 びっくりして後ずさるも、不思議と熱は感じられない。

 それどころか心地よく、炎の煌めきも美しいとすら感じる。



:【祈りを映す焔神(ドッペル・ミラー)】の神殿跡を喰らいました:

:魔神の一柱は『炎にくべた生贄の姿になり替われる』奇跡をもたらします:

:炎の中に映る理想の姿に焦がれ、信者は多くの命を捧げ、燃やしました:


 おおう、脳内に響く声に驚きつつも、妙な馴染み深さを覚える。

『クロノ・クロニクル』のアナウンスログのような無機質な声だからか?


:記憶魔法【魔神の陽炎(かげろう)】を習得:


 よくわからないけど、もしかしてこれが推しの能力だったりするのか?

 俺がしたことは、この地で寝たこと。あとは遺跡の崩れた石壁や、神像っぽい欠片を焚き火に入れたぐらいだ。


「そうか————推し(おれ)は、記憶を喰らう者か——」


 MMORPG『クロノ・クロニクル』に登場するモブキャラ、シブ・スギータには多くの謎があった。

 だが、一夜が明けた今。

 俺はうっすらと推しを感じ取っていた。


「今がクロ・クロにとっていつの時代なのか……その辺も探りながら、自分(推し)を知る旅に出るか……」


:記憶の糧を、同じ灯し火にあたる者に分け与えますか?:


 地平の彼方がうっすらと藤色に染まる。

 陽光が朝霧(あさぎり)を温かく濡らし、大自然の雄大な姿をゆっくりと照らし始めた。

 草々を宝石畑のようにキラキラと彩る朝露(あさつゆ)の中で、未だに眠り込む隣の幼女に視線を落とす。

 

「あぁ……やってみてくれ」


 推しのことをもっと知りたい。

 その欲求に勝てず、俺は幼女に推しの力を行使した。

 すると静かに寝息を立てる幼女へ、煌めく火の粉が降りかかる。


「んん……ぱぁぱ?」


 さすがに何かを感じ取ったのか、重たいまぶたをこすりながら目を開ける幼女。

 

「んんん……【変身魔法Lv1】、習得……?」


 彼女は脳内に響く音声を復唱するよう首をかしげる。

 それから俺をジッと見て、なぜか得心がいったように頷いた。


「ぱぁぱの……祝福……?」


「どうだろうな。何か変化はあるか?」


「むー、むう、角よ、なくなれ」


 幼女は寝起き一発目から魔法を行使する。

 その効果は、角あり幼女を角なし幼女へ変貌させるだけだった。

 なんともしょっぱい魔法だと思ったが……彼女は自身の頭を何度も触り、その効果に感激していた。

 


「これで魔族だってバレない……?」


「ああ、そうかもな」


 おっと。

 焚き火で燻った野ウサギの肉がいい感じになってきている。

 ひとまず今は腹を膨らませておこう。

 俺は無言でウサギ肉を幼女に渡す。

 そして自分も口にするが……調味料がないので臭みもひどく味も最悪だった。

 それでも腹の足しになるから口に入れる他ない。


「もしかして、私……人間からも、魔族からも、逃げなくてもよくなる?」


「ああ、そうかもな」


「ぱぁぱは……すごい、ね」


 幼女は渡されたウサギ肉を見て、それから私を見て、何度も何度も交互に見つめてくる。


「こんな簡単に、何でもないみたいに……私から、孤独をなくすなんて」


 幼女がぽつりとこぼした言葉は、声量が小さすぎて聞き取れなかった。

 ただ、朝焼けを背景に微笑む幼女を見て————






 ヤヴェッ、朝日がクソまぶしい!


「————想像よりも世界は光に満ちている」


「それって……こんな私でも、受け入れてくれる人がたくさんいるってこと……?」


「——まあ、俺は角が生えてる方が気に入ってるがな」


 冗談抜きで眩しすぎる!

 ばかでかい角十本ぐらい生やして日陰を作ってくれ!


「ありのままの私でも……いいの?」


「————好きにしろ」


 あっ、俺が太陽から視線を外せばいいだけだった。

 俺はゆっくりと朝日から視線を逸らし、遠くの方を眺めて、静かに目を休める。

 しばらく視界がしぱしぱするのは治らなかった。




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