12話 宣戦布告が渋すぎた
若かりしマスターホネットを匂わせる渋い表情。
そして背中にはズシリと重い巨剣を携え、肩にぽてっとした猫を乗せ、背後には控えめな美幼女ちゃんなんか連れちゃってるぅぅん♡
もう渋すぎるのにファンシー要素マシマシでぇん、訳ありの暗い影まで背負っちゃってるじゃないのぉん!
えっ、えっ、待って、待ってぇん。
よぉーく見るとこのイケオジ、『シブ・スギータ』じゃないかしら?
ほら、一部界隈のプレイヤーからすっごい人気を誇ってた、あのシブ・スギータよぉん!
フレンドの天使ちゅわんなんか彼の大ファンで、一時期は『彼の謎を暴くことが錬金術を躍進させる!』とか熱弁してぇん、ストーカー……もとい、研究してたわよねぇん!?
ええっ、実際に生で見るとしっぶすぎて掘れそうだわぁん……!
——待つのよあちき、冷静になるの。
憲兵さんの話じゃ、彼は魔神らしいし、マスターホネットの仇。
うちのバーは今、陛下が出した『魔神討伐クエスト』のせいでS級冒険者の従業員が、あちき以外は出張ってる状態よぉん。
それでもできる限りの最高戦力で迎えましょうねぇん。A級冒険者の従業員に使いを出して、目の前のイケオジを根掘り葉掘りぃん見定めてあげるわぁん。
隙あらば、マスターホネットの敵討ちを……。
「ここは歌って踊るバーよぉん♡ 存分に楽しんでいってねぇん」
「ちょっとぉ、ジョージさんだけずるいわよぉん」
「うちらもシブさんのお話聞きたいわぁん♪」
「ルナちゃんも可愛いね、ほらほらピュアピュアオネェのオレンジじゅーちゅ飲むぅ?」
「ほう————」
「ここの人間も、あったかい……ぱぁぱのおかげ……?」
そんな風に血走ってた若かりしぃ頃のぉ、あちきもいましたとさ♪
聞けば、シブちゃんったらマスターホネットに短剣を託されたらしいのよぉん。
もう、しぶーくグラスをくゆらしながら、『この短剣は託されてな————そうか、ここがホネットじいさんの古巣か——どれ、じいさんの謹製蜂蜜で懐かしい味を共に味わえるといいのだが————』なんて、マスターホネットお手製の蜂蜜までおすそ分けしてもらっちゃいましたぁん♪
お酒にチロっと贅沢に垂らしてぇん、ゴキュゴキュッ飲めばぁんッ!
ああっ、全身に力が漲るぅぅん……! この元気100倍の蜂蜜は間違いなくぅん、マスターホネットの味よぉん。
養蜂ってのはねぇん、管理する者がいなくなるとすぐダメになるのよぉん。
だ・か・ら、これが味わえるってことわぁん、間違いなくマスターホネットが健在の証ぃん。
そうとなると話はだいぶ変わってくるわん。
目の前のイケオジはマスターホネットに認められ、短剣や蜂蜜を贈られるほどの人物ってわけ♪
「だがここは————ナイトバー以外にも生業があるな? (歯医者だよな?)」
「まぁ、さすが察しがいいわねぇん。いいわ、一見様には言ってないんだけど、マスターホネットに短剣を託されるほどのシブちゃんは特別よぉん。ウチはねぇ、お得意様相手に特殊なお仕事も請け負うことがあるわぁん」
暗殺業ねえん、っと。
口に短剣を突っ込む仕草をすればわかってくれるかしら?
「ほう——やはりか(随分と豪快に歯の治療をしそうだな……)」
あちき、察しのいい男ってダ・イ・ス・キ♡
それに比べて、この王都はもうダメね。
シブちゃんを魔神と誤認するなんて、憲兵隊さんも碌な仕事ができなくなってるわ。
「——ここもね、あちきが来た頃とはだいぶ変わったものよ」
シブちゃんの渋い空気に当てられて、あちきも古き良き時代に思いを馳せちゃうん♪
「——時代は移ろうものだが、興味をそそられる話だ (どのように治療法が変わったのか。痛くないのか?)」
「もうねっ、ここ最近は最悪なのよぉん!?」
「なに……? (やはり荒いのか!?)」
「大きな声じゃ言えないけどねぇん、ものすーっごい勢いで搾り取られるのよ」
ここ数年で税の種類は増え続け、王国民の懐を隙あらば削ってくるの。しかも複雑で巧妙な手口を使ってチクチクとね。結局、稼いだ金額の50%まで吸い上げられる仕組みになっててぇん、王都の民は搾取され続けているのよぉん。
何かと理由をつけて税金税金税金って、あちきらの生活は困窮しつつあって、商売あがったりなのよぉん。
「搾り、取られる、だと……それは痛い、な……(虫歯を強引に搾り取る……? 歯茎とか神経とか、大丈夫なのか……?)」
シブちゃんも心底慄いてるみたい。
あら、やだ、共感力の高い男なのもあちき好みねぇん。
「でもねぇん、唯一の希望は跡継ぎなのよぉん。彼は優秀でねぇん、優しいの♪」
愚王の息子、王子は優秀だと遠回しに囁いてあ・げ・りゅっ♡
これなら不敬罪にならないわよねん?
「ほう————信頼に値するか——(若い歯医者の方は痛くないと)」
「でもねぇん、景気が悪いのぉん。既得権益に抑えつけられちゃってぇん、派閥争いは劣勢なのよぉん」
「それは……苦しいな……(どうやら腕はいいのに、相当な経営難らしい)」
シブちゃんは心底、王子とこの国の未来を憂いながらグラスを傾けた。
優しいわぁん。
もうっ、仕草の一つ一つが渋すぎて最高だわぁん……!
今すぐ惚れちゃうわぁああん!
「————ならば行ってやるか」
え、あちきとイってくれるの?
アアッ、そっちじゃないわよね、もうやだあちきったらぁん。
陛下に物申すって意味よねぇんっ!
「そうそう、シブちゃんがドカンと言ってやってよぉ。さっさと世代交代しろってぇん」
「ふっ、こういうのは早めに治した方がいいしな——(最近は夜になると、高確率で奥歯が痛むし)」
「そうそう、どんどん世直ししちゃってぇん!」
「————では紹介を頼めるか? (歯医者の)」
「もちのロンよ♪ ていうか、うちらも協力しちゃうわぁん!」
近いうち、必ず王子に繋げちゃうん♡
あちきら『女王蜂一家』は王族直属の暗部だしぃん、王家のスケジュールは把握済みって感じぃん。
仮にもあちきは『女王蜂一家』を率いるS級冒険者の一人だしぃん、それなりに発言権はあるわぁん。
あっ、ついでに同門出身のノクスフェルム女伯爵ちゃんにも連絡しちゃおーっと♪
彼女がいれば、スムーズにシブちゃんを王子に紹介できそうねぇん。
◇
王都の憲兵隊は、なかなかに優秀なのかもしれない。
『女王蜂一家』で出される料理はどれも美味しいし、用意されたベッドだってかなりのふかふかだ。
みな、店員がオネェでやけにボディタッチが多めだったのを除けば、非常に快適なバーだった。
しかも簡単に、優秀な歯医者に繋いでくれるのも非常に助かる。
これも全てはホネットじいさんが俺に短剣を託してくれたからだ。
俺はホネットじいさんに感謝しながら、ふかふかベッドへ横になる。
すでに寝息を立てているルナと猫をひと撫でし、穏やかな気持ちで瞳を閉じた。
「ふぅ————平和な夜だな——」
◇
その夜。
王宮へ、『魔神襲来』の一報が届く。
王宮内の一部は騒然となり、長きに渡る平和の終わりが訪れようとしていると——特にこの王国の未来を担う、王子派閥は絶望に揺れた。
魔族との戦争をゆるやかに続けてきた王国に、いよいよ本格的な脅威が牙を剝いたのだと、王国の優秀な人材たちは決死の覚悟を胸に抱いたのだった。
誰もがひしひしと感じ始めている。
動乱の夜明けが近いと————




