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9 錬金術師志望の少年

 標的となる丸太から十メートル離れた場所から《雷撃》を放ち、十メートル刻みで距離を延ばしてから再度《雷撃》を放つ、ということを繰り返すことで、威力と効果距離、そして制御力の三つを同時に測定するらしい。

 

 俺は最初に設定された十メートルの目印の上に立ち、一度深呼吸をしてから杖を構え、《雷撃》詠唱を始めた。


『我、天より(いかづち)を賜る者なり。轟く者よ 我に困難を打破するための兵仗(ひょうじょう)を与えたまえ。《雷撃》!』


 杖の先端から飛び出した電撃が、大きな轟音を発すると共に丸太を飲み込んだ。



 本日の授業は魔法実技が最後であったため、それぞれの魔法属性グループの実技が全員終わったタイミングで各自解散という形になっていた。


 雷魔法のグループは人数が四人と少なかったため他のグループよりも早く終わり、俺は魔法実習場の外でアルを待っていた。


「アル! こっちだ!!」


 俺は実習場から出てきたアルを発見して声をかけた。声に気付いて周りを見渡した後、俺の姿を見つけたアルは一人の男子生徒と共に近づいてきた。


「グラン、すごかったみたいだね!地属性のグループまでグランの噂が来ていたよ!

『雷鳴のアレクサンドラ』の息子もすごい雷魔法使いになるだろうって話で持ち切りだった!」


 恐らく俺が従軍魔法師になることを期待し、そうした声が出ていることを察して、喜んで良いのか分からず複雑な気分になったので話題を変えるためにアルの隣にいる男子生徒について質問した。


「で、隣の人は誰なの?」


 アルの隣に居たその男子生徒は俺よりも数センチ身長が低く、寝癖が残った黒髪と大きな眼鏡が特徴的な少年であった。


 眼鏡の奥の瞳には薄く隈があり、その茶色い瞳からはあまり覇気を感じられない。


「ああ、紹介が遅れてごめん。彼はディオ。地属性のグループで一緒になって仲良くなったんだ。俺たちと同じBクラスだよ」


 アルがそう説明すると、ディオが自己紹介を始めた。


「グランディス君、初めまして。私はフィゲロア男爵家次男のディオクレス・フィゲロアと申します。」


 ディオは礼儀正しい口調でそう発言した後、俺にお辞儀をした。おそらく実家間の力関係の影響でこうした態度になったのだろう。


「俺はグランディス・サンフォード。グランって呼んで欲しい。お互いに家を継ぐような立場に現状いる訳ではないし、敬語はやめよう」


「わかった、グラン。僕のこともディオって呼んでね」


 俺たちはそのまま三人で男子寮まで戻ることにした。三人で並んで歩きながら、俺たちは午前中の長すぎる入学式に対する愚痴などで盛り上がった。


「グランは将来、お母さまと同じ様に軍に入るのかい?」


 唐突にディオが進路に関する話題を振ってきた。ライラの件もあり、この手の質問に対して慎重になっていた俺は、答えを濁すことにした。


「まだ将来のことは特に決めていないんだ。でも、両親からは軍の魔法団への入団を勧められているね。ディオはどうなの?」


「俺は将来錬金術師になりたいんだ。だから父上に頼んで上級魔法学校まで進ませてもらう予定だよ」


 錬金術師とは、王国一の地属性魔法使いに与えられる称号である。


 『土から金を生成することができると思わせるほどの地属性魔法の使い手』、という意味で錬金術師と呼ばれる。


 歴史に名を遺した偉大な地属性の魔法使いはそのほとんどが錬金術師の称号を持っているらしく、多くの地属性の魔法使いにとっての憧れの対象であり、目標でもある。


 錬金術師は必ずしも宮廷魔法使いである必要はないが、歴史上ほぼ全員が宮廷魔法使いから選出されており、錬金術師を目指す子女はまず上級魔法学校を卒業して宮廷魔法使いを目指すのが近道とされる。


「錬金術師かぁ。ディオの魔法すごかったから、本当に錬金術師になっちゃうかも」


俺はディオが魔法を使っているところをまだ観たことが無いので、彼の実力は分からないが、先ほどの魔法実技で一緒だったアル曰く、なかなか魔法の実力は高いようだ。



「じゃあ、フィゲロア領って俺たちの領地とかなり近いのか」


 男子寮へ帰宅後、俺たちは食堂で夕食を摂っていた。俺もアルもあまり自分の領地周りの地理に詳しくなかったので知らなかったが、フィゲロア領はサンフォード領とオブライエン領に近く、馬車でも一日かからない距離らしい。


「うん、長期休暇にお互いの実家へ遊びに行ってみるのも楽しいかもしれないね」


 この世界における学校の長期休暇は8月丸ごと1カ月と12月の最終週から1月の末までの2回である。それぞれの長期休暇では基本的に自領に戻るのが慣例ではあるが、王都に残る生徒もいれば、友人の領地へ遊びに行く生徒も多いらしい。


「フィゲロア領は何か特産品とか名所はあるの?」


「うちは男爵領で小さいからね......。あんまり名産品とかは無いかな。強いて挙げるとすれば、銅鉱山が有名かな」


 それを聞いた瞬間、俺の中に雷が落ちたかの如く衝撃が走った。なぜ今まで思いつかなかったのか。


 雷魔法で稼ぐならば、電気で動かすことができる製品を世の中に普及させてしまえばいい。製品を普及させれば、エネルギー源として一番効率が良い雷魔法の一般需要が爆増する可能性が高い。


 すぐ思いつく問題は二つ。まず一つ目は前世の知識があるとはいえ、俺だけで電気で駆動する製品を開発することはまず不可能である点である。


 そもそも電気に関する基本知識があるとはいえ、前世で電化製品を作っていた訳ではないため、俺には圧倒的に専門知識が足りない。


 その上、前世では容易に手に入るような素材も、この世界では入手困難な可能性があり、自分以外の人間にも製品の研究開発に協力してもらう必要がある。


 二つ目の問題は雷魔法を製品のエネルギー源として利用するための魔法である。


 現状俺が知る限りでは雷魔法は《雷撃》をはじめ攻撃魔法に特化している。


 そのため、高電圧を作り出すことに特化していて、低い電圧の電気を生み出すことができる魔法が存在するか分からない。


 場合によっては自分で魔法を開発する必要があるかもしれない。


「グラン、どうしたんだい?そんなに思いつめた顔をして。体調が悪いの?」


 どうやら気づかないうちに思考の世界に没頭してしまっていたようだ。


「いや、銅鉱山という単語を聞いていろいろ考えていたんだ。ディオに質問があるんだが、どうやって銅を精錬している?」


「基本的には溶鉱炉で溶かして精錬しているらしいよ。地属性の魔法でも精錬けど、少量しかできないからね。ただ、上級の地属性魔法だとすごく純度の高い銅が作れるんだ」


 つまり、電化製品において一番欠かせない銅線の安定供給は可能であるということである。電化製品を開発する計画は思っていたよりもかなり現実的なプランかもしれない。


「魔法実技の後、ディオの質問には将来のことは特に決めていない、って答えたのを覚えているかい?」


「ああ。ご両親は従軍魔法師になることを勧めてきたんだろう?」


 俺は自分の計画にディオとアルを巻き込むことを決心し、それまでの話の流れを変えて自分が本当は従軍魔法師にあまりなりたくないこと、そして思いついた雷魔法を使って稼ぐ方法を説明した。


「面白いアイディアだとは思うけど、本当にそんなこと実現可能なんだろうか」


 アルは俺のアイディアに半信半疑なようだが、ディオはどうやら強い興味を持ったらしく、しばらく考え込んだ後質問してきた。


「アイディアとしては面白いけど、協力するか決めるにはまだ判断材料が足りないかな。

具体的にどんなものを試作しようと考えているのかい?」


 ディオの具体的にどのような製品を作る計画なのか、という疑問は尤もである。俺はこの計画を思いついた瞬間に一番初めに試作する製品は心の中で決めていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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