8 貴族学校入学
呆然と立ち尽くす俺に、アルとアイナさんが合流してきた。俺が普段の様子と違うことに気付いたアルが、心配した様子何があったのかを質問してきた。
何があったのかを正直に言った方が良いのか迷ったが、ライラの態度が豹変した理由について、アルが何か知っているかもしれないと思い、ことの顛末を詳細に話した。
「アントネッリ公爵家といえば、かなりの武闘派貴族であることが有名だから、ライラさんの態度が急変したのは、そのあたりが関係してそうだけどなぁ」
俺は全く聞いたことが無い話だったので、アルにもっと教えて欲しいと頼み込んだ。
「公爵家はアルカイオス王国建国当時、アルカイオス王を支えた家に与えられたものだということは知っているよね?アントネッリ家といえば、初代アルカイオス王を軍事面で支えたことで知られているんだよね。
それもあって、アントネッリ家は先祖代々王を軍事面で支えることが習わしになっているらしいよ。なんでも男女関係無く、時期当主である長男ですら一度は軍学校に入らせて軍を経験させるらしいね」
公爵家として軍事面で王国を支えることをそこまで徹底しているのであれば、当然幼少期から厳しい指導がなされるのだろう。ライラの態度が豹変したのは、てっきり俺が『彼女が憧れるアレクサンドラの息子』であることが原因であると考えていたが、どうやら根本は別のところにあるようだ。
「俺の『従軍魔法師になりたくない』とか、『雷魔法で人を攻撃することにあまり気が進まない』という発言を、彼女が教えられてきた貴族としての矜持が許せなかったのかな。彼女が憧れている『雷鳴のアレクサンドラ』の息子であることが怒りに拍車をかけてしまった、と」
「彼女も今年貴族学校に入学するんだよね?クラスメイトになったら気まずいし、同じクラスにならないといいね」
アル。それは盛大なフラグになるからやめてくれ。
◇
三日後、俺とアルは貴族学校の入学式に参加していた。前日に入寮を済ませた俺たちは昨夜寮の新入生歓迎会に参加をして先輩方と同学年の男子生徒たちと交流を深めた。ちなみに貴族学校は全寮制であり、当然男女で建物自体が分かれている。
毎年王族や位の高い貴族が参加するため盛大に実施される入学式は、午前9時から始まり昼まで執り行われた。長男や次男が入学する場合は両親が参加するが、俺やアルの場合は三男なので両親も来ていない。
俺とアルは二人で昼食を摂ったあと、入学式後に案内があった通り本館2Fに集中している1年生の教室へ向かった。階段を上り廊下に出ると、掲示板の前に人だかりができていた。1年のクラス分けが貼り出されているのだろう。
「きっとクラス分けだよ!グラン、早く観に行こうよ!」
アルは俺と同じことを思ったのか、俺を置いて掲示板の元へ駆けて行った。俺もアルに続いて掲示板の元へ歩き、覗きこむとA~Cの3つのクラスに分かれて各クラス約20名の名前が張り出されていた。
自分の名前をBクラスのところに発見すると、続いてアルの名前を発見した。運よくアルと同じクラスになれたことを互いに喜びつつ、他のクラスメイトの名前を目で追っていると、アル建てていたフラグが見事に回収されてしまったことを悟った。Bクラスに『ライラ・アントネッリ』の名前があったのである。
◇
Bクラスの教室に入ると、黒板に座席表が張り出されていたが、まだ教師が来ていないからか、俺とアルのように入学前から顔見知りの生徒どうしで集まって会話していた。一番人が集まっていたグループを観ると、中心にライラが居た。公爵家のご令嬢ということもあり、入学前から交友関係が広いらしい。
「皆さん、着席してください。まだ自分の座席が分かっていない方は黒板まで確認しに来なさい」
俺たちが入室した直後、30代と思われる男性の教師が入ってきた。彼はセザール・アインクラフトと自己紹介をした後、簡単に校内の説明をして、今日のこの後のスケジュールを説明し始めた。
「本日はこの後、1年生全クラス合同で魔法実技の授業を執り行いますので、魔法実習場まで移動します。各人の魔法の習得度を確認するのが本日の目的なので、皆さん方の力を抜いて参加してください」
俺やアルのような伯爵家の人間であれば、入学前から魔法の練習のための教師も魔法教本も揃っているが、男爵家などは授かった属性によって両者をうまく揃えられず魔法を発動するところまで進めていないことがあるらしい。
また、そもそも魔力制御が苦手で魔法陣を描画する最初のステップで躓いた状態で入学する生徒も毎年一定数いるらしい。学校側としてはそうした個々人の魔法の習熟状況を初日に把握したいようである。
◇
魔法実習場まで移動した俺たちは、まず魔力の制御能力を確認するため、魔法陣を描画するスピードを計測された。大半の生徒はまだ60秒以上、魔法陣の描画にかかっていた。自分はどうやら魔力の制御がかなり得意であるということを再確認することができた。
異質だったのがライラで、10秒程度で《雷撃》の魔法陣を完成させていた。セザール先生曰く、貴族学校入学の段階で初級魔法の魔法陣描画スピードが20秒を切っていたらかなり優秀だそうだ。
その事実を知り、俺は自分の番でどの程度のスピードで魔法陣を描画するか迷った。というのも、《雷撃》の魔法陣に関していえば俺は1秒以下で完成させることができてしまうからである。あまりにも目立ちすぎるのは自分の性分に合っていない気がするし、そもそも秒単位で計測を行っているようなので、1秒以下で完成させることを想定していない様である。
「次、グランディス・サンフォードさん。お願いします。雷属性なので《雷撃》の魔法陣で合っていますか?」
どうするか迷っていると、自分の名前が呼ばれてしまった。俺は魔法陣を展開させる直前まで迷った末、5秒程度まで描画のスピードを落とすことにした。
俺が魔法陣を完成させると、セザール先生が感嘆の声をあげながら、褒めてくれた。
「60秒を切る生徒が半分程度いますし、ライラさんは10秒、グランディス君に至っては5秒で魔法陣を完成させるとは、今年の1年生は優秀ですね」
唐突に視線を感じ、振り向くと、20メートル離れたところからライラが怒りの表情を浮かべてこちらを睨んでおり、目が合ってしまった。いきなりの目が合ったため吃驚した俺は思わず目を反らしてしまい、観なかったことにしてアルと会話を始めた。
魔力制御の確認が終わった後は、魔法の発動ができるグループとそうでないグループに分けられた。今年の1年生は56人、入学したらしいが約三分の一である19人はまだ魔法を発動した経験が無いらしく、別のグループに分けられた。残った37人はそれぞれの魔法適性ごとのグループに分けられて、初級魔法の習熟度について確認するらしい。
雷属性のグループで集まると、当然ライラが居た。こちらに気付いているはずであるが、今度は先ほどの様に睨むようなことも無く、知り合いらしい女子と談笑していた。貴族の中では雷魔法の適性がレアであるという噂を聞いたことがあるが、本当であったらしく、37名中4人しかいなかった。魔法適性の種類が5つであることを考えれば、雷属性はなかなかの少数派である。
しばらくすると、雷属性魔法の教師と思われる年配の女性がやってきた。彼女の説明によると、今日は《雷撃》の威力と効果距離、そして制御力をテストするらしい。
先程の魔力制御は最後に行ったが、今度はトップバッターであるため、他の生徒と比較しながら魔法を調節することもできないので、俺は完全に開き直って思う存分自身の《雷撃》の性能をテストすることにした。
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