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7 従軍魔法師を夢見る少女

「失礼いたしました。先にここで本を探していたのは貴方なので、この本は譲ります」


 悔しそうな表情を浮かべながら、彼女は俺に本を譲ってくれた。


 彼女を観察すると、燃え盛る炎のような印象を抱く赤い髪と瞳が印象的な少女であった。謝罪しながらも、俺のことをまじまじと観察するその瞳からは彼女の意志の強さを感じた。


 この世界では本が貴重で高価なため、王立図書館でも本の貸し出しをしていない。図書館内で読むか、自身で内容を複写する必要がある。


 そのため、彼女の言った《譲る》というのは、先に図書館の中でこの本を読んでも良いですよ、という意味である。


「ありがとうございます。この本に興味があるということは、あなたも雷魔法の適性を授かったのですか?」


「ええ、もちろん。あなた、見たところ私とあまり歳が変わらないようだけど、もしかしてあなたも今年貴族学校へ入学するのかしら?」


 どうやら、俺が最初に抱いた印象の通り、彼女も同年代で今年貴族学校へ入学する年齢らしい。


「はい。サンフォード伯爵家三男のグランディス・サンフォードです。今年貴族学校に入学します。」


 俺が自己紹介をすると、これまでの冷静な態度から一変して前のめりになって質問してきた。


「サンフォード家ですって!?もしかしてアレクサンドラ様のご子息ですか!?」


 母さんのことを知っている口ぶりであるが、何か個人的なつながりがあるのだろうか?


 いくら母さんが退役する前まで軍の魔法団副団長を務めていたとはいえ、平民出身であり貴族のご令嬢とは接点があるように思えない。


 そもそも、母さんが軍を退役したのは10年以上前で俺たちは生まれていないはずである。


「はい。アレクサンドラというのは俺の母上です......。お知り合いなのですか?」


 俺が困惑しながら答えていることにもお構いなく、彼女は興奮気味に母さんについて語り始めた。


「私がアレクサンドラ様とお知り合いだなんてとんでもない!!!単に彼女のファンなだけです!!!

 《雷鳴のアレクサンドラ》と言えば20年前のエルマンガルド帝国との戦役で大活躍した女性魔法使いとして国内外でとっても有名ですよ!

 あなたアレクサンドラ様のご子息であるにも関わらず、そんなこともご存じないのですか!?」


 彼女はこちらに近づきながら責め立てるように俺に質問してくるが、困ったことに母さんが雷属性であることも、従軍魔法師であることも知ったのはつい最近である。


「あはは......。母さんも他の家族も、あまり過去の活躍を自分の息子にするタイプじゃないですからね。 

 実は母さんが軍に居たことも最近知ったのですよ」


 後ろに仰け反りながらそう答えた俺の姿を観て我を取り戻したのか、彼女は一歩身を引いて深呼吸をした。


「失礼しました。私はアントネッリ公爵家長女のライラ・アントネッリです。御見苦しい姿を見せてしまい申し訳ありません」


 彼女は先ほどまでの自分の発言を恥じたのか耳と頬を少し赤くしながら頭を下げた。


「お互いすぐに貴族学校に入学しますし、もっと砕けた話し方にしませんか?」


 貴族間の作法についてあまり詳しくないため、爵位が低いサンフォード家の俺がこうした提案をするのは本来良くないのかもしれないが、打ち解けるチャンスだと思い提案した。


「わかったわ。私のことはライラと呼んでね。あなたのことは何と呼べばいい?」


「俺のことはグランって呼んで欲しいかな。折角だしこの本、あっちのスペースで一緒に読んでみない?」


 俺は雷魔法についての談義をするチャンスだと思い彼女を自由スペースへと誘った。



 本棚の間にある自由スペースで、俺たちは『雷魔法の歴史』を読みながら談笑していた。


 この世界でも図書館では静かにするのがマナーかもしれないが、周囲に誰もいないため問題ないだろう。


「グランは雷魔法、使えるようになった?」


「うん。《雷撃》だけなんだけどね。

 魔力制御は問題無かったんだけど、うまく魔法が発動しなくて足踏みしていたんだ。最近ようやく使えるようになったけどね。

 ライラはどのくらい使えるの?」


「初級雷魔法《雷撃》と《雷槍》が使えるわ。

 中級雷魔法の《雷砲》は習ったのだけれど、うまく制御できないわね。」


 中級魔法まで習得しようとしていることからも、彼女の雷魔法に対する熱意が感じられた。


「実は《雷撃》以外の雷魔法を知らないんだ。それぞれどんな魔法か教えてくれる?」


「《雷槍》も《雷砲》も有名な雷魔法なのに知らないのは意外ね。

 てっきりアレクサンドラ様に色々な雷魔法を見せていただいていて知識が豊富だと思っていたわ」


《雷槍》は《雷撃》よりも貫通力が高く、また長距離の攻撃が可能となる魔法らしく、《雷砲》は《雷撃》よりも広範囲に攻撃する魔法らしい。言葉からイメージされる通りの魔法だった。


「さっきも言った通り、母さんはあまり昔の自分のことを語るタイプじゃなかったからね。実は母さんが雷魔法の適性であることすら、天授の儀が終わるまで知らなかったんだよね」


「でも天授の儀が終わった後はアレクサンドラ様から直々に雷魔法の手解きを受けたのでしょう?とても羨ましいわ。」


「正直、自分の場合はなかなか《雷撃》がうまく発動できなくて、あまり母さんから魔法を教わる時間は実際あまり取れなかったな。教わる以前の問題だったからね」


 ライラの言う通り、母さんから雷魔法について《雷撃》しか教わることができなかったのは今後魔法を研究する上でかなりの痛手であることは確かである。


 その後もしばらく話していると、午後3時を示す大きな鐘の音が三回連続して鳴った。


「そろそろ良い時間ね。貴族学校が始まる前にグランと会えてよかったわ」


「こちらこそ、入学前に同じ雷魔法を使える人と良かった。学校が始まってもよろしく」


 俺たちは握手を交わしてから自由スペースのソファーから立ち上がり、1階へつながる階段がある方向へ歩き始めた。


「サンフォード家の三男ということは、中級魔法学校卒業後は軍学校に入学して、アレクサンドラ様と同じ様に従軍魔法師になるのでしょう?

 私も同じ進路を志しているから長い付き合いになりそうね」


 ライラのその言葉に対し、俺は思わず本音を返してしまった。


「実は俺、あまり従軍魔法師になりたくないんだよね。雷魔法で人を攻撃するのもあまり気が進まないし。

 どちらかというと、学問として雷魔法を発展させて他の属性の魔法みたいに世の中に役立つ雷魔法を開発したい。」


「.........は?」


 俺の返答を聞いた瞬間、前を歩いていた彼女は歩みを止めそう呟いてからこちらへ振り返った。


「信じられない...。伯爵家の人間で雷魔法という最高の適性を授かったというのに、それを国の防衛のために役立てないなんて、あり得ないわ。

 あなた、あのアレクサンドラ様の息子なのに自分の国を護ろうという気概がないのかしら?心底失望したわ。学校でも話しかけないで」


 ライラはつい先ほどまで俺と笑顔で談笑していたのが夢かと思うような無表情で、そう俺に吐き捨て、そそくさと階段を下って行った。


 一方の俺はというと、いきなり豹変した彼女に驚き、呆然と立ち尽くすしかなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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