6 王都エルドン
ゴブリンたちを処理したセザリオが俺とアルが待つ馬車の元へ戻ってきた。
ホブゴブリンを俺が魔法で倒したことを認識しているはずだが、《雷撃》が発した爆発音で周囲の魔物が集まって来る前にここを離脱する必要があるため、ホブゴブリンの残骸を一瞥した後、素早く御者台に座り馬車を出発させた。
「グラン、ようやく魔法が発動したね!良かった!!!」
隣のアルは先ほどまでホブゴブリンに恐怖して固まっていたのが噓かの様に饒舌になった。
恐らく豊富で飽和していた精神状態から解放されたことでアドレナリンが出て興奮状態になるのだろう。
俺自身も初めて魔法を発動させ、なおかつホブゴブリンを倒したことで興奮を抑えられずにいたが、俺の魔法について饒舌に語るアルを観ているとそれも収まってきた。
◇
それから二日間の間、魔物に襲撃されることもなく無事王都エルドンに到着することができた。
ゴブリンの襲撃の夜、街道に天幕を置いてきてしまったため馬車の中で横になって睡眠をとることになった。
幸いサンフォード家の馬車ということもあり椅子が柔らかく作られていたため不眠に悩まされることはなかった。
セザリオ曰く、エルドリッジ大森林の街道に使われている石材は魔物除けの効果があるため、あの夜ゴブリンたちがなぜ襲撃してきたのか分からないらしい。
どういった原理で魔物が忌避させているのか分からないが、殺虫剤や防虫剤のように魔物側が耐性を付けて効能が薄くなっているのだろうか?
原因は分からないが、街道の危険性を周知させないとまずいため、セザリオは王都に到着してすぐ父さんに手紙を出すらしい。
王都を守る外壁まで到着すると、俺たちは馬車から降りて貴族用の列に並んだ。
貴族学校の新学期が近いということもあって、普段はあまり混んでいない貴族用の入り口も人が多い。
待っている間、セザリオがこの後の予定について説明を始めた。
「お二人にこの後の予定を具体的にお伝えします。
まずはアルフォンス様をオブライエン家の別邸にお届けいたします。その後、王立図書館に向かいブランディス様に手紙を出します。手紙を出した後、最後にサンフォード家の別邸に到着する予定です」
「俺も一緒に王立図書館に行く必要があるのか?」
「良い機会ですので、僭越ながら王都からの手紙の出し方を教えしたいと思っています」
「だったらアルも一緒に王立図書館に行かない?」
「うん!俺も行ってみたいです!」
「では、検問を通過して王都にはいりましたらまず王立図書館に向かいましょう」
◇
貴族用の検問には貴族の証となる指輪を鑑定する魔道具が設置されていた。
魔道具はこの世界ではオーバーテクノロジー扱いをされている代物で、非常に貴重であるため、一般には普及していない。
貴族であることを証明するための指輪は王家が所有する魔道具のみで製作することが可能である。貴族家に子供が生まれると、王家に申請をして本人用の指輪を製作してもらうのが習わしとなっている。
俺たちは兵士たちに誘導され三人で列の先に進むと、検問所と書かれた部屋に通された。
部屋の中央部には机が置いてあり、その上に板状の魔道具が設置されていた。
「こちらの魔道具に証明用の指輪を付けた方の手を置いて下さい」
俺とアルのどちらでも良かったのだが、魔道具に対する好奇心から自然と俺は魔道具の前に進んでいた。
指輪をはめた右手を魔道具の表面に触れさせると、魔道具全体に取り付けられた石が発光し、『サンフォード伯爵家 グランディス・サンフォード』という文字が空中に浮かび上がってきた。
「グランディス・サンフォード様ですね。確認いたしました。
馬車の中身をこの後確認させていただきますが、そちらが済みましたら通っていただいても大丈夫です。」
その後、数分ほどかけて馬車の内部を検問所の兵士たちに確認してもらい無事王都エルドンの中に入ることができた。
「では、早速王立図書館に向かいましょう」
俺たちは再び馬車に乗り、王都の中心付近にある王立図書館へ向かった。
◇
王立図書館の前に到着すると、図書館から女の人が出てきてこちらに話かけてきた。おそらく伯爵家の馬車であることを気づいて出迎えに来たのだろう。
その女性は175cmとこの世界の女性でも比較的高い身長をしており、艶のある金髪を後ろでまとめ、眼鏡が良く似合う知的な女性であった。あとおっぱいが大きい。
「王立図書館へようこそ。司書をしております、アイナ・レクレールと申します。
馬車の方は図書館のスペースに預けることができますがいかがなさいますか?」
「出迎えいただきありがとうございます。私はグランディス・サンフォードです。こちらはアルフォンス・オブライエン。
お手数ですがお言葉に甘えて馬車を預けたいと思います。よろしくお願いいたします」
相手がただの図書館の職員であれば使用人であるセザリオに対応させるのだが、相手がレクレール男爵家の人間であると分かったので俺が直接話すことにした。
決して美人と直接話せて嬉しいという下心から会話しにいったのではない。
アイナさんに連れられて図書館の中に入りつつ、今回図書館を訪問した目的を伝える。
「実は今日王立図書館に訪問した目的は本ではなく手紙を父上に出すことなのです。
至急、父上に連絡を取る必要ができたので」
「承知いたしました。手紙はすでに準備済みでしょうか?」
「いいえ、まだ準備していません」
「でしたらこちらでお手紙のための紙とインクを用意いたします。
グラン様が執筆なさるということでお間違いないでしょうか?」
アイナさんの質問に対して俺が答えようとするとセザリオが話に割り込んできて、こう提案してきた。
「いいえ、手紙は私が執筆いたします。
グラン様、私が手紙を準備している間図書館の中を見学してきてはいかがでしょうか。20分程度で終わるかと思います。」
「わかった。アイナさん。お手数でなければ図書館の中を案内していただけますか?」
「もちろん。喜んで案内いたします」
◇
「本施設は三階建てとなっていまして、1Fには一般にも流通している一般図書、2Fには貴重な学術書や技術書、そして3Fには魔法関連の書籍が所蔵されています。
平民の方々が入れるのは1Fのみで、2Fと3Fは貴族の方しか入ることができません。」
当然というべきか、特に魔法関連の重要な書籍には貴族しかアクセスできないようになっているらしい。
説明を聞きながら1Fの廊下を歩いていると、大きな扉の前に到着した。
「こちらの扉は貴族の指輪をかざしていただくと開くことができ、その先は2階と3階へ進むことができる階段につながっています。お二人のどちらでも良いのですが手をかざしていただけますか?」
検問所の魔道具と同じ、貴族の指輪に反応するシステムらしく、扉本体に触れると開く仕組みとなっているようだ。
「アル、検問所では俺がやったし試してみたらどう?」
「わかった。やってみる」
アルは恐る恐る指輪をはめた右手で扉に触れると、扉は淡く発光して両扉が奥に動き始めた。
◇
階段を上りは始めると、アイナさんが興味のある本について質問してきた。
「興味のある書籍の分野があれば案内いたしますがいかがなさいますか?」
「俺は魔法関連の書籍が見たいから3Fに行きたいんですけど、アルもそれでいいかい?」
「もちろん。俺も地属性の魔法に関する本があれば読んでみたい!」
階段を上り終わると、そこには見渡す限りの本棚があった。
前世の図書館で見慣れた景色であった俺にとっては何の感動も無いが、どうやらアルにとっては違ったらしい。
「すごい本の数だね!しかもこれら全部魔法に関する本なんだよね!?
地属性魔法の本はどこだろう?」
「地属性の魔法に関する書籍はあちらですので案内いたします。
グランディス様も興味がある書籍の種類を教えていただければ案内しますよ。」
「ではどのあたりに雷属性魔法に関する書籍があるか教えていただけますか?
具体的な案内はアルの方にお願いします。」
アイナさんに教えてもらった場所を探していると『雷魔法』と記載された本棚を発見した。
近づいて本棚の中身を一瞥すると『雷魔法の歴史』と記載された本を発見し、思わず手を伸ばした。
伸ばした手が本に触れる直前、別の人の手とぶつかってしまった。
本棚に夢中で近くに人がいることに全く気付いていなかった俺は、びっくりして三歩ほど後ずさりした。
同じ本に手を伸ばそうとした手の持ち主の方へ目をやると、俺と同年代の少女が立っていた。
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