51 お悩み相談
翌日、いつも通り日が昇る前に目を覚ました俺は、料理番のヴァンさんに代わりユフィと自分の朝食を作って、それをリビングのテーブルに並べていた。
「美味しそうじゃないか。ユフィもこれを食べることができるなんて羨ましいな」
「うわっ!」
唐突な至近距離からの耳打ちに、俺は驚きのあまりバランスを崩して床へ尻もちをついてしまった。
「はははっ!すまない。まさかそこまで驚くとは思っていなかったのだ」
そう笑いながら俺に手を差し伸べたのは、何故かパーティーハウスの中に入って来たアイリスさんだった。
「もう、びっくりさせないで下さいよ!......というか、どうやってパーティーハウスの中に入って来たんですか⁉」
気配も無く近づいてきた彼女に、俺は怒りと共に疑問をぶつけた。
「実はテセウスから合鍵を預かってきたのだ。二人に何かあった時、助けに来ることができるようにね」
そう言いながら彼女は銀色に光る鍵をこちらに見せた。元々同じパーティーに所属していただけあって、どうやらテセウスはかなりアイリスさんを信頼しているようである。
「......朝っぱらからうるさいわね」
そう呟きながら、ユフィが二階の自室から一階のリビングまで降りてきた。
「ユフィ、おはよう。朝ごはんの準備できていますよ」
「......アンタが作ったご飯なんていらないわよ」
俺の作った朝食を拒否した彼女は、そのままパーティーハウスから出て行ってしまった。
「......朝食が一人分余っているのであれば、私が貰ってもいいかい?」
一人ショックを受けている俺をフォローするためか、アイリスさんが余った分の朝食を一緒に食べることを提案してきた。
◇
朝食を食べ終えた俺とアイリスさんは、しばらく談笑してお腹を休めた後、パーティーハウス裏の訓練場に移動した。
「昨日はユフィと迷宮に行ってきたのだろう?彼女とはうまくやっていけそうかい?」
ユフィが俺の加入に反対していることを知っているアイリスさんは、俺たちの関係を心配してきた。
「それが......。ユフィは俺のことを全く当てにしていないようで、全く戦闘に参加させない方針のようです。とにかく死なないようにだけ気を付けておけと言われてしまって......」
「厳しいことを言うかもしれないが、現状の実力だけを考えたら彼女がそう言い出すのも不思議ではないな」
アイリスさんもユフィと同意見なのかは分からないが、現状の実力という部分を強調してそう言った。
「やっぱり迷宮を進む上で、俺の存在は完全にお荷物ですよね......」
「勘違いしないで欲しい。私はユフィがそう考えてもおかしくないと言っただけで、その思考が正しいとは言っていないよ。私の意見は彼女と真逆で、小迷宮を踏破することを考えたら、キミに経験を積ませて成長を促すべきたと思う」
後ろ向きな発言をした俺を見かねたのか、アイリスさんが励ますように自分の意見を述べた。
「ユフィはテセウス達が帰って来る前、つまり一カ月以内に迷宮を踏破すると言っていました。なので、それを達成するためかなり焦っていて、俺の成長を待っている余裕が無いのだと思います」
「一カ月か......。私もAランクに昇格する直前に小迷宮の単独踏破を達成したが、かなりギリギリだったのを覚えている。その経験と、先日ここで戦った時の実力を勘案すると、彼女の力だけで一カ月以内の踏破を実現するのはかなり厳しいと思う」
アイリスさんから見ても、現状のユフィの実力では小迷宮の単独踏破は難しいという評価のようである。
「やっぱりそうですよね......。俺も一カ月での踏破なんて、無茶な目標だと思います。アイリスさん......はユフィとの関係性を考えると厳しいと思いますが、リゼットさんにお願いして考え直すように説得してもらうことはできないでしょうか?」
俺やアイリスさんが何かを言っても、逆に彼女は意固地になってしまう可能性があるため、年長のリゼットさんに説得してもらうのが一番現実的だろう。
「リゼットでもユフィの考えを変えるのは難しいと思う。それにさっきも言ったが、私は君とユフィの二人でなら、一カ月という短期間での踏破も可能だと思う」
「俺とユフィの二人でなら、ですか......。でも、現状でCランク程度の実力しか持たない俺が多少成長したとしても、それで迷宮を踏破できるようになるとは思えないのですが......」
アイリスさんの意見に対して、自身の能力に疑問を持っている俺は素直に同意することができなかった。
「キミは自分の伸びしろを過小評価しすぎじゃないか?それに、Aランク程度の実力が必要というのは、あくまで単独で踏破する時の話だよ。Bランク以上の実力を持っている二人がしっかり協力すれば、小迷宮は十分攻略可能だ」
そうは言っても、短期間で俺の実力をBランクの冒険者まで実力を伸ばすことなど本当に可能なのだろうか?
それに、仮に俺の実力がアイリスさんの言う通りBランクにまで成長したとして、ユフィと協力するイメージが全く湧かない。
「『ユフィが自分と協力するとは思えない』という顔をしているな。私の予想だと、八十階層の中盤までは、彼女の力だけでも到達できるはずだ。けれど、その先はユフィ一人では突破できなくなると思う」
アイリスさんの見立ては、昨日ユフィが言っていたテセウスの予想と合致しているものであった。
「そうなれば、目標を達成するために手段を選んでいられない彼女としては、キミの力を借りざるを得ないだろう。ウィル君はその時に備えて、彼女の助けになれるように準備をしておくべきだね」
ユフィは自身のプライドを優先して、俺に協力を頼むようなことは無いと思っていたのだが、付き合いの長いアイリスさんはどうやら違った意見らしい。
「ユフィが苦戦するような階層で自分が力になれるか、不安ではありますが、頑張ってみます!」
いつまでも自分の力に自信が無い姿を見せるのも、俺に伸びしろが有ると言ってくれているアイリスさんに失礼だと思ったので、前向きな発言をすることにした。
「いいぞ、その意気だ。では早速、深層でも通用する力を身に着けるためのトーニングに取り掛かろう」




