49 小迷宮の攻略方針
アイリスさんが《黄金ノ獅子》のパーティーハウスに突撃してきた日から三日後、俺とユフィを除いたメンバー五人は偵察依頼のため、王国へ発った。
テセウス曰く、一カ月程度で帰還する予定らしいが、状況によって長引くかもしれないらしい。
アイリスさん達の指導は明日から三日に一度のペースで行うことになったため、俺は今日、ユフィと共に小迷宮に来ていた。
第一階層の草原地帯に足を踏み入れた俺たちは、本格的な攻略に入る前に今後の攻略方針について話し合うことにした。
「この先に進む前に、攻略の方針を決めておきましょう。まず、目標はテセウス達が帰って来るまでの一カ月で百階層からなる小迷宮を踏破すること。ここまでは良いわね?」
実は小迷宮の規模を知らなかったのだが、それは置いておいて、一カ月で踏破するという彼女の目標設定に俺は引っかかった。
「あの......俺が初めてテセウスに連れてこられた時は、半年間で攻略することを目標にするように言われたのですが......」
「そりゃアンタの実力からしたら、半年かけて攻略するのが妥当かもしれないけれど、現状でBランクでも上位の実力がある私が一緒なのよ?テセウス達が帰って来るまでに攻略するのを目標とするのが妥当よ!」
帝国と王国の開戦タイミングを読むことは難しいので、ユフィについてはテセウスから特に迷宮踏破までの期間を設定されていないのだろうか?
しかし、ユフィと一緒の状態で半年での踏破が目標だと言っていた気がするが、それをこの場で彼女に伝えても怒らせてしまうだけだろう。
テセウスが三日に一回、俺たちに鍛錬を付ける名目でアイリスさんとリゼットさんに様子を確認させるようにしたのも、ユフィが無茶な迷宮攻略をしないように止めるためではないかと思えてきた。
「......そうかもしれないです。では、具体的に一カ月で攻略するために、ユフィはどうすれば良いと考えていますか?」
ここで目標設定に異を唱えても仕方がないと判断した俺は、彼女が考えているプランを知るという方針に切り替えることにした。
「まず今回、リゼットさん達との鍛錬が三日に一回ある関係で、一日か二日間しか継続して迷宮に入れないという条件があるわ。まとまった期間迷宮に籠れないというのは、効率良く攻略する上ではかなりの足枷となるのは分かるわね?」
「一度の探索である程度長期間潜る方が、効率が良いのは分かります」
迷宮まで出入りする時間や、一度攻略した階層を移動する時間を考慮すると、確かに一度に潜る期間を長く取った方が、効率が良いだろう。
「そこで、少しでも迷宮探索の効率を上げるために、まずは第十階層までの移動をできるだけ早く行うことを目指すことにするわ」
効率を求めて浅層の移動を早くすることは当然として、『第十階層』という具体的な数字の根拠は何かあるのだろうか?
「えーと、なんで第十階層まで早く移動すると効率が上がるのですか?もっと先の、というかすでに攻略してしまった階層への移動は、全て早くするべきではないですか?」
俺の質問に、ユフィは呆れたのか溜息をついてから答えた。
「はあ、テセウスから何も教えてもらっていないのね。第十階層以降、各階層には転移魔法陣が設置されていて、到達した経験がある階層の間を自由に移動できるの。だから、日帰りで攻略を行う場合は第十階層まで移動するスピードが遅いと話にならないってことよ」
そもそも、転移魔法というものが存在すること自体初耳である。《天授の儀》で授かった属性の魔法以外は基本的に使用できないのではないのか?
ユフィに質問したかったが話が脇道に逸れてしまうため、俺は疑問を自分の中に押し留めた。
「なるほど......。帰りはともかく、行きは戦闘を避けてとにかく全力疾走で第十階層まで走り抜けるということですか......」
ユフィにとっては得意な《身体強化》を使った楽なプランでも、脚の《身体強化》が苦手な俺にとっては、なかなか厳しい効率アップの方法である。
「そういうことよ。短期的な目標としては、第五十階層まで一週間で到達することね。そこまでは、Cランク程度の実力でも対処できる魔物しか出てこないらしいわ」
Cランクということは、今の俺でもなんとか倒すことができる程度の魔物しか出てこないということだろうか?
「ユフィは俺の実力って、Cランクくらいだと思いますか?」
気になったため、ユフィからみた俺の実力について彼女に質問してみることにした。
「闘技場で戦った限りでは、Cランクでも真ん中くらいの実力はありそうね」
どうやら俺の実力に関する自己評価とユフィの評価は一致しているらしかった。
「ちなみに、ユフィは単独でどのくらいの階層までスムーズに進めるのですか?」
彼女の言葉が本当であれば、Bランクでも上位の実力なので、かなり深い階層まで行くことができると予想できる。
「テセウス曰く、今の私なら八十五階層くらいまでは特に困らず行けるらしいわ。でもそこから先は、単独だとAランクでしか対処できないレベルの魔物が出てくるらしいわ。攻略の本番はそこからね」
「Aランクでしか対処できない魔物ですか......」
おそらく今の俺だと全く歯が立たないレベルの相手だし、話を聞く限りだとユフィでも倒すのは難しいだろう。
そんな魔物が跋扈しているであろう深層を、果たして一カ月以内に攻略することができるのだろうか?
「まあ、アンタに戦闘で貢献して欲しいなんて私も思っていないから、安心しなさい。とにかく死なないように立ち回ること。アンタに死なれると、私の評価が下がって王国との戦争に参加できなくなっちゃうわ」
「そんなに王国との戦争に参加したいのは何故ですか?殺し合いをしたい訳ではないのでしょう?」
そこまでしてユフィが王国との戦争に参加したい理由が俺には気になった。
「......アンタには関係ないことよ。さあ、さっさと《身体強化》を発動して、十階層まで移動するわよ!」
そう言って彼女は《身体強化》を発動し、草が生い茂る地面を蹴って第二階層の階段まで駆け始めた。
「ちょっと!いきなり始めないで下さいよ!......シロ、走るからしっかり掴まっていてね」
「キュイ!」
移動中に投げ飛ばされないようにシロに注意した後、《身体強化》を発動した俺は、急いでユフィの後を追った。




