48 早朝、予期せぬ殴り込み②
「二年前、リーダーのテセウスの判断で、パーティーとして王国との戦争に参加することを決めたのだが、私はそれに強く反対した。他のメンバーはテセウスの決定に賛成したため、その流れを覆すことができないと判断した私は、《黄金ノ獅子》を抜けることにしたのだ」
《竜の吐息亭》で俺に冒険者の説明をしてくれた時も、人の命に手をかけていないことを誇りに思っている様子だったので、当然戦争への参加には強い拒否感があったのだろう。
「アイリス一人で冒険者をやらせるのは心配だったから、私も一緒に抜けて、一緒に《新緑の風》を立ち上げたって訳よ」
アイリスさんの説明にリゼットさんが補足した。
「グラン君。いや、ウィル君と呼んだ方が良いか。ウィル君が自分の意志で王国との戦争に参加するというのであれば、私も引き留めはしないよ。でも、少しでも躊躇する気持ちがあるのであれば、《黄金ノ獅子》を抜けて私たちのパーティーに入らないかい?」
アイリスさんはよっぼど俺に戦争へ参加して欲しくないのか、前回よりも強く勧誘してきた。
「オイオイ、パーティーハウスの中、それもメンバー全員の前で堂々と引き抜きの勧誘をするなんて、冒険者としてのモラルに欠けるんじゃないのか?」
あからさまな引き抜きに流石にテセウスも黙っていられなかったのか、彼女に注意した。
「詳しい事情を話さずにウィル君を加入させたテセウスがそれを言うのか?どうせ彼を加入させる時も、トリストラムのことや《黄金ノ獅子》の最終目的について何も説明しなかったのだろう?」
「うぐっ......。痛いところを突いてくるな......」
見事にテセウスの行動を予想したアイリスさんに、テセウスは何も言い返すことができない。
「まあ、《黄金ノ獅子》に加入させたことはまだ良い。最終的にウィル君がどうするかを自分で決めるべきことだからな。ただ、闘技場での一件は許せない。ユフィ、いつからキミは自分より弱い相手を虐めるような人間になってしまったんだい?」
先程までテセウスとずっとやり取りしていたアイリスさんが、突然ユフィに話を振った。
アイリスさんとしては、俺が闘技場でボコボコにされた一件の方が許せないらしく、熱がこもった様子でユフィを煽った。
「は?戦争が怖くてパーティーから逃げたような、弱虫ちゃんに言われたく無いんですけど⁉だいたい、どの面下げてこのパーティーハウスまで来たワケ?そんなにそのクソガキが大事?このショタコンの異常性癖者が⁉」
「な、な、なんですって⁉」
図星を突かれたのか分からないが、アイリスさんの顔が見る見る赤くなっていった。
そういえば、《竜の吐息亭》で彼女と会った時から、かなり激しいスキンシップをしてきた記憶があるが、そういうことなのだろうか?
「あ、あの~。二人を止めなくて良いのですか?」
互いに罵詈雑言を浴びせ合う二人を涼しい顔で見つめていたヴァンさんに、俺は質問した。
「ああ。あの二人は昔から犬猿の仲で、顔を合わせるといつも喧嘩していたからな。大抵は闘技場で決闘する流れになって、結局はアイリスが勝って喧嘩も終わるからほっとけ」
そう言ってヴァンさんはテーブルの上に置いてあった食器を片付け、キッチンに行ってしまった。
「二人が喧嘩しているのを見るの、なんだか懐かしいわねぇ」
エミリアさんが紅茶をすすりながら発言している内容からも、これが二人の平常運転なのだということが分かる。
「しばらく会わないうちに耳が遠くなっちゃったのかなあ?ショタを愛でているばかりで鍛錬を怠っているから、老化が進んでいるんじゃないの?」
「......そこまで挑発して私に喧嘩を売りたいのであれば、買ってあげましょう。裏の訓練場で待っています」
そう言い残してアイリスさんは慣れた足どりで裏の訓練場まで行ってしまった。
「いつまでも自分が上だと思っていたら大間違いよ!今に目にもの見せてやるわ!」
ユフィは壁に立かけていた剣を手に取り、アイリスさんに続いて訓練場の方へ行ってしまった。
リビングから飛び出して行った二人を、他のメンバーはいつもの展開だと思っているのか、誰も追いかけない。
「放っておけ。どうせすぐに戻って来る」
二人を追いかけるべきかどうか悩んでいると、テセウスから不要だと言われてしまった。
◇
十五分ほど待っていると、二人は訓練場から戻って来た。
ニコニコとした笑顔を浮かべているアイリスさんとは対照的に、ユフィは全身ボロボロであり、どちらが勝利したのかはその姿から容易に想像できた。
「実はアイリス達に連絡して、ここに来てもらおうと思っていたんだ。だが、そっちから来てもらったことだし、ここで少し話を聞いて欲しい」
急に真面目な顔になったテセウスは、その場に居た全員に向かって話始めた。
「帝都のギルド本部から先日通達があって、王国に対する最後の偵察依頼が来ている。俺はそれを受諾して、ユフィとウィルを除いた四人でこなそうと思う」
最後の偵察ということは、やはり開戦が近いということなのだろう。
「そうなると、ユフィとウィルを指導できる人間が居なくなっちまうから、アイリスとリゼットに二人の面倒を見てもらおうと思っていたんだ」
ユフィと俺だけ残して四人でここを離れることに、テセウスは不安を感じているのだろうか?
「私もその偵察任務、参加したいわ!」
ユフィが自分の参加意思を表明するも、テセウスに一蹴されてしまう。
「自覚はあると思うが、今の実力のままだったら、ユフィを王国との戦争に参加させることはできない。この依頼を受けている間は鍛錬が集中的にできないから、お前はここに残って自分を磨くことを考えるべきだろう」
「......分かったわよ」
テセウスの説明に反論できなかったのか、返事をした後ユフィは黙り込んでしまった。
「ウィル君の指導だったら喜んで引き受けるが、ユフィの指導など無理だ」
流石のアイリスさんでも、関係性を考慮してユフィの指導は断るつもりのようである。
「こっちもアイリスにユフィを指導させることなんて考えてねぇよ。リゼット、ユフィのこと頼んで良いか?」
「もちろん構わないけれど、こっちもタダで受ける訳にはいかないわよ?」
俺たちのために時間を割いてもらうのだから、リゼットさんが対価を要求するのは当然である。
「当然報酬は払うさ。それに、何も毎日会って指導することをお願いしたい訳じゃない。三日に一回くらい、このパーティーハウスに来て鍛錬を付けてくれるだけでいい。残りの時間は、『二人で』小迷宮の攻略をしてもらうつもりでいるしな」
そういえば、最初にテセウスと小迷宮を訪れた時、まだ会っていなかった若いメンバーと一緒に小迷宮を攻略させると言っていたが、ユフィのことだったのか。
「私は...まい......でも......ないが......」
詳しく聞き取れないほど小さな声がどこからか聞こえたが、声の主が誰かは分からなかった。
「はあ?小迷宮の攻略って初耳なんですけど⁉」
一方のユフィは何も聞かされていなかったのか、テセウスに反発した。
「......言ってなかったか?すまん。伝えるのをすっかり忘れてた。エミリアを含め、みんなで考えたユフィが王国との戦争に参加する条件は、ウィルを連れた状態で小迷宮を踏破することだ」
「......それならそうと先に言いなさいよ⁉良いわ。コイツを連れて迷宮踏破、やってやろうじゃない!」
具体的な戦争への参加条件を告げられたからか、ユフィはそれまでの態度を一変させて、やる気を出し始めた。
「ったく本当にわかりやすい奴だな......。アイリス、リゼット。詳細な条件は契約書を作ってそこに書いておくから、そこで確認してくれ。ローラ、悪いが書類の作成を頼む」
「ハイハイ。分かりましたよ」
ローラさんがテセウスに返事をしたところで、俺たちは解散してそれぞれ自分の仕事に行く流れになった。
こうして、テセウス達が迷宮都市を離れている間、俺はユフィと二人で小迷宮を攻略することになったのである。
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