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47 早朝、予期せぬ殴り込み①

 闘技場での一件で、両腕を中心に体全体を負傷してしまったため、しばらく本格的な鍛錬ができなくなってしまった。


 そのため、俺は無系統魔法の鍛錬を行いつつ、パーティーハウス内の清掃をはじめとした雑用をこなす日々を送っていた。


 ユフィに関しては、こちらの挨拶に返答してくれるものの、基本的には俺と積極的に関わるつもりはないようであるが、特段衝突することも、仲を深めるような出来事も無かった。


 慣例となっている全員揃っての朝食を終えて、メンバーそれぞれが自分の仕事に行く前にリビングで他のメンバーと談笑している時に事は起きた。


 この時間、いつも一人で寡黙に読書をしているグレアムさんが、唐突に立ち上がった。


 何事かと思った俺は、彼に質問しようとするも、他のメンバーが全員殺気立って物々しい雰囲気を醸し出していることに気づいてやめた。


「何人だ?」


「二人だ。正面から歩いて来ている。二人ともかなりの実力者だ」


 テセウスがグレアムさんに質問した内容から、俺は皆に緊張が走っている理由を察した。


 パーディーハウスの周辺は、グレアムさんの探知魔法で埋め尽くされているため、ここに近づく人間がいれば真っ先に彼が気づく。


 俺が初めてここにやって来た時も、最初にグレアムさんが接触してきたが、それは彼がたまたま玄関先に居たわけでは無く、この探知魔法で俺の存在を把握したからであった。


「ウィル、まあそんなに緊張するな。正面から歩いて来るということは、敵である可能性の方が低い」


 テセウスは俺が初めて経験するこの状況に、緊張と不安を抱いていることを感じ取ってか、話しかけてきた。


「は、はい」


 正直、敵の存在に不安を感じているというよりも、ここにいる《黄金ノ獅子》メンバーが出している殺気に緊張しているのだが、そんなことを言える雰囲気ではなかった。


 コン、コン、コンとリズムよく入口のドアが三回ノックされる。


「俺が出る。もしもの時は援護してくれ」


 テセウスは他のメンバーにそう伝えて、玄関のドアを開けた。


「......アイリスじゃねぇか。久しぶりだな」


 ドアを開けたその先には、険しい表情を浮かべたアイリスさんが立っていた。


「いきなり押しかけてきたが、今日はどういった用件だ?」


 テセウスが質問すると、アイリスさんはこれまで聞いたことの無いほど低い声で答えた。


「胸に手を当てて考えれば、そのくらい分かるだろう?長い話になりそうだし、()の様子も気になるから、中に入らせてくれ」


「あ、ああ......。分かった」


 アイリスさんが中に入って来ると分かり、なんとなく姿を見られるのはマズイと思った俺は、咄嗟にリビングの中を観察できる階段の陰に隠れることにした。



 彼女と一緒にやって来たのは、俺が冒険者ギルドで待ち合わせした時に会ったリゼットさんだった。


 二人はテセウスに連れられてリビングに入ると、メンバー全員が二人と顔見知りだったのか、それぞれと挨拶を交わし始めた。


 少し前にここでアイリスさんの話題が出た時、ローラさんは渋い表情をしていたことは記憶に新しいが、挨拶する様子を観察する限りでは、二人の関係が特段悪いといった訳では無さそうである。


「それで、()はどこにいるのかな?」


 一通り再会の挨拶を終えたアイリスさんは、再びテセウスに詰め寄って質問した。


「分かった、分かったから!呼ぶから少し待っていろ。ウィル!隠れていないで出てこい⁉」


 薄々気付いてはいたが、やはりアイリスさんが探していたのは俺のことだったようである。


 すぐに呼ばれて、姿を見せるハメになるのであれば、最初から隠れなければ良かったと思いながら、俺は階段の陰からリビングに出た。


 隠れてしまったことに気まずさを感じていると、アイリスさんが近づいてきて、俺を強く抱きしめた。


「アイリスさん......。ちょっと苦しいです......」


 柔らかい感触といい匂いに包まれるも、あまりに強い力で抱きしめられたため、息苦しさでそれらを堪能する余裕は無かった。


「ああ!すまない......。こんなにひどい怪我をして......。さぞ痛かっただろう」


 回した腕を離して俺を解放した彼女は、まだ完全に腫れが引いていなかった両腕を見て、心配そうな表情に変わった。


「もう見た目ほど痛みは無いので大丈夫ですよ!それよりも、《黄金ノ獅子》に加入したことをアイリスさんに黙っていて、すみませんでした」


 アイリスさんが心配してくれていることに乗じて、俺は先手を打って彼女に謝罪することにした。


「《黄金ノ獅子》に加入したことを周囲に話すことをためらう気持ちも分かるから、キミがそのことを私に伝えなかったのは賢明な判断だと思っているよ。だから、そこまで気に病む必要は無い」


 俺がとても気にしていた事柄を、彼女は何とも思っていなかったことに少し安堵した。


「だが、そもそも私は君が《黄金ノ獅子》に加入することに強く反対している。まずテセウスは、このパーティーが帝国と王国の間で近々勃発する戦争に参戦する予定であることを、しっかり説明したのか?」


 両国間の緊張感が、最近一層高まっているという噂は最近よく聞くが、戦争になったらそこに俺たちも参加する予定であるというのは初耳である。


「いいえ、初耳です。テセウス、今の話は本当なのですか?」


 彼に質問すると、神妙な面持ちで答えを返してきた。


「ああ、《黄金ノ獅子》全体の方針として、王国との戦争に参加する予定であることは事実だ。だが、お前が戦力としてカウントできる前に戦端が開いた場合は、当然だが参加させないつもりでいた」


 開戦の正確なタイミングを正確に把握することは、Sランク冒険者のテセウスにも難しいのだろう。


 見習いとして加入させ、俺が戦争への参加を拒むか、開戦までに戦力にならなければ連れて行かない、というのは合理的な判断に思えた。


「そういえば、アイリスさんは何故、《黄金ノ獅子》が王国との戦争に参加する方針であることを知っているのですか?普通そういった内容は、外部の人間に教えないよう隠すものだと思っていたのですが......」


「それはな、アイリスがトリストラム王国出身で、二年前までリゼットと一緒に《黄金ノ獅子》のメンバーだったからだ」


 テセウスの説明に、俺は色々と得心がいった。


 以前アイリスさんの名前を出した時、ローラさんが苦い表情を浮かべていたのは、彼女が元々《黄金ノ獅子》のメンバーで、何かしらの経緯で脱退してしまったからなのだろう。


 彼女が若くしてAランクまで昇格できたのも、もちろん才能と努力によるものだろうが、《黄金ノ獅子》という身近に高い目標があったことが強く影響していることが予想できた。



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