46 《黄金ノ獅子》メンバーの二人
俺は《黄金ノ獅子》パーティーハウスの自室にあるベッドの上で目を覚ました。
自分の身に何が起きたのか、混濁した意識の中で思考がまとまらなかったが、闘技場で意識を失ったことを思い出し、テセウスがここまで運んだのだろうと理解した。
「痛っ!」
体を起こそうとすると、あちこちから痛みが走る。ユフィの打撃をひたすらガードしていた両腕は特に痛みがひどく、腕全体が赤く腫れあがっていた。
骨折はしていないようだが、ひびが入っていてもおかしくはないだろう。
全身に走る痛みをこらえつつベッドから起き上がり部屋から出ると、一階から話し声が聞こえてきた。
起きたばかりであるため、今何時であるか把握できていないが、窓の外が暗いことを考えると、テセウス達がリビングで夕食を摂っているか談笑しているのだろう。
じんじんとした痛みが治まらない両腕をだらりと下に垂らした状態で、ゆっくりと階段を降りてリビングに入ると、予想通りテセウス達は夕食を摂っていた。
こちらの方向を向いて座っていたテセウスが、俺の存在に気づいて声をかけた。
「ウィル、起きたか。体は大丈夫か?」
口ではこちらを気遣って心配するような発言をしているが、内心ではそんなことを思っていないような表情と喋り方であった。
「大丈夫ですよ。それより俺の食事は......って、え?」
テセウスに返事をしながら、最近定位置となりつつあるテーブルの座席へ移動しようとして、そこに他の人が座っていることに気付いた。
リビングに入った時からなんとなく違和感を覚えていたのだが、その正体はいつもより人数が多いということだったのである。
室内を照らしているのはテーブル上の燭台のみであるため薄暗く、こちらからテーブルに座っている人物はハッキリ見えない。
だが、六人掛けのテーブルと椅子が全て埋まっていて、俺が座ることのできる場所が無いということは分かった。
「ウィル、無事......ではないようだが、目を覚ましたようだな。食事と椅子を準備してやるから、ちょっとそこで待っていろ」
困惑する俺をよそに、腕の負傷で自分用の椅子を運ぶことができないことを気遣ってか、ヴァンさんが他の部屋へ椅子を取りに行ってくれた。
「あ......ありがとうございます」
テセウスが以前、《黄金ノ獅子》には、あと二人メンバーがいると言っていたことを思い出す。
このパーティーハウスで他のメンバーと一緒に夕食を摂っているということは、その二人が帰還して《黄金ノ獅子》が全員揃ったということなのだろう。
初対面のメンバーに挨拶をするべく、二人の顔が見える位置までテーブルに近づくと、二人のうち一人は俺が知っている人間であった。
「テセウスは認めたかもしれないけれど、私はまだアンタの加入を認めてないから!」
その人間とは、闘技場で俺をボコボコにした銀髪の少女、ユフィであった。
◇
ヴァンさんが持ってきてくれた椅子に腰を落ち着けた俺は、正面に座ったユフィからの視線に居心地の悪さを感じつつも、同じくヴァンさんが用意した夕食に手を付け始めた。
「痛ててっ」
主食となる硬いパンを持って、それを千切ろうと腕に力を入れるも、痛みによって中断せざるを得なかった。
今日はパンを食べることを諦めた方が良いかもしれないと判断した俺は、夕食をスープのみで我慢することことにした。
「ちょっと貸しなさい」
その様子を正面から観ていたユフィは、俺が持っていたパンを奪い取って細かく千切り、俺のスープに突っ込んだ。
「ありがとうございます」
闘技場で戦った時も感じたが、彼女は粗暴な口調から受ける印象の割に、相手を思いやる気持ちを持った女性であるということが、節々から伝わってくる。
逆に、それだけ彼女は俺が《黄金ノ獅子》に加入することに対して良くない感情を抱いているということも言えるだろう。
食事を始めることができたので、そろそろ彼女たちを紹介して欲しいと思い、俺はテセウスに視線を向ける。
すると、彼は食事を既に終えていて暇だったからか、待っていましたとばかりに二人の紹介を始めた。
「そっちの銀髪はウィルも知っているだろう、ユフィだ。歳はお前と比較的近い十五歳で、お前が加入するまで《黄金ノ獅子》の中で最年少だった。今はBランクの冒険者だが、順調に実績を積みながら成長できれば、今年中にAランクへ昇格してもおかしくない」
Bランクといえば、冒険者全体の上位二割に入る上位層であり、彼女の年齢でそのランクに到達できているということは才能はもちろん、相当な努力をしているのだろう。
無系統魔法を習得して間もない俺が、闘技場での戦闘で手も足も出なかったのも納得である。
「で、そっちに座っているのが、ウチに所属している三人目のSランク冒険者、エミリアだ。ユフィに剣術を教えている師匠でもある」
テセウスが手で示した方へ目を向けると、ニコニコと笑顔を浮かべた桃色の髪を持つ女性がこちらを向いて挨拶した。
「ウィル君、初めまして。エミリアです。闘技場での戦い、私も観ていたけれど中々筋が良いわね。それに比べてユフィったら、自分よりも明らかに弱い相手に対し、感情に身を任せて暴力を振るうなんて......。その甘ったれた精神を含めて、まだまだ厳しく鍛える必要がありそうね」
笑顔を浮かべ、ほんわかとした雰囲気のエミリアさんからユフィに対する厳しい意見が飛び出たことに、俺は少し困惑してしまう。
「ウ、ウィルです。宜しくお願いします!」
エミリアさんに挨拶しながら正面に座ったユフィの様子を伺うと、顔面から血の気が引いて真っ青になっており、絶望の表情を浮かべていた。
「ユフィは何故、俺がこのパーティーに加入することに反対なのですか?闘技場で戦う前に交わした会話からだと、いまいち要領を得なかったので......」
自己紹介も終えたので、俺は気になっていたことを率直に訊くことにした。
「それを説明するにはまず、《黄金ノ獅子》の成り立ちから説明する必要がある。実は俺たち六人は、トリストラム王国という十年前、センタゴル連邦によって侵略されてしまった国の出身なんだ」
センタゴル連邦ならば俺でも名前を知っている大国である。ユフィが闘技場で言っていたトリストラムという単語は、彼女たちの故郷となる国のことだったのか。
「そういう事情もあって、《黄金ノ獅子》の創立目的の一つが、トリストラム王国の復権なんだ。パーティー名も実はトリストラム王国の象徴である黄金の獅子から取っている」
「なるほど......。目的が目的だけに、トリストラム王国と縁もゆかりも無い自分の加入に、ユフィさんが反対するのは納得です」
むしろ、テセウスが俺を加入する判断を下し理由の方が不思議である。単に魔法が得意な子供を入れたかっただけとも思えない。
「『じゃあなんで自分を加入させたんだよ』って顔をしているな......。トリストラム王国を復権させようとした時、王国出身の人間だけでそれを実現させようとしても現実的に無理だ。お前みたいに、どこにも居場所の無いような人間を徐々に巻き込んでいって、王国復権に協力してもらうというのが俺のアイディアさ」
確かに、同国の出身者だけで大国から故郷を取り戻すのは至難の業だろう。
だからといって、十歳の子供を巻き込むのはどうかと思うし、協力者を無理にパーティーに入れなくても良いような気がするが......。
「それでも私はウィルの反対です。まだ子供だし、協力してもらうにしてもパーティーに入ってもらう必要は無いと思います」
ユフィも俺と同意見なのか、彼女はそうテセウスに伝えると席を立って二階の自室に戻ってしまった。
「やれやれ、年頃の女の子はやっぱり接し方が難しいな......」
場の空気を和ませるためなのか、テセウスはあえてズレた発言をして、その話題を締めてから別の話題へ移して会話の流れを変えた。
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