44 現状の実力
「十一番の方。出番が近いのでこちらまで移動お願いします」
一時間以上、控室で待っていたことで少し緊張が薄れてきた頃、運営の女性が自分の番号を呼ぶ声が聞こえてきた。
「はい!」
返事をして女性の後ろをついて行くと、戦闘を行う闘技場の中央にまで続く廊下に到着した。
「闘技場に入っていただく前に、注意事項を確認いたします。まず、持ち込める武器はこちらが事前に用意した、刃を潰した武器だけです。私の説明が終わったら、あちらの中からご自身で選んでください」
女性が手で示した方向を見ると、大量の武器が集められたスペースが廊下の脇にあった。
「分かりました」
自分の体格に合った剣が見つかるだろうか、と思いつつ俺は女性に返事をした。
「次に、属性魔法と《魔弾》は禁止されています。使用が確認された時点で、即敗北となってしまいますので注意して下さい」
「《魔力障壁》や《身体強化》のような他の無系統魔法は使っても良いのですか?」
その二つが使えなければ、純粋な身体能力の勝負となってしまう為、ハッキリ言って俺の勝ち筋は無いに等しいだろう。
「ええ、その二つは使用しても問題ありません。元々これらのルールは魔法を禁止するというよりも、遠距離での攻撃を防ぐために作られたルールです。闘技場の歴史は、今のように魔法が広まるよりもかなり前から続いていまして、武器による近接戦闘を行うことが伝統でした。この属性魔法禁止のルールは、それを存続させる目的で作られた経緯があります」
属性魔法による遠距離攻撃を解禁してしまうと、広範囲の攻撃魔法を連発して相手の《魔力障壁》を削る消耗戦が可能になる。
しかし、そうした戦略は見栄えが良くなく、観客も求めていないため興行として禁止したい側面もあるのだろう。
「最後に、どちらかが降参するか戦闘不能になったら試合終了ですが、相手を死亡させてしまうような攻撃は避けて下さい。万が一、相手を殺してしまった場合はその時点で失格になります。また、故意に相手を殺したと運営が判断した場合は、当然罪に問われます。注意事項は以上ですが、何か質問はありますか?」
プロの剣闘士が闘う場合は分からないが、一般参加の人間による試合の場合は、そこまで過激なことが起きないようにしているのだろうか?
武器について、刃を潰したものをわざわざ闘技場側で用意していることからも、なるべく死者や怪我人が出るようなリスクを極力抑えたい運営方針が見て取れる。
「特にありません。説明ありがとうございました」
「出番になったら会場全体にあなたの名前がアナウンスされますので、それが聞こえたら、この先に進んで下さい。選手紹介の後、五分ほど観客のためのベッティングの時間を設けているので、それが終了したら試合が始まります」
説明を終えた女性は、そのまま次の出場選手を呼びに行ってしまったので、俺は山積みにされた武器の中から、必死に自分に合ったものを探すことにした。
◇
丁度いい長さの剣を発見してから、しばらくその場で緊張しながら待っていると、大きな歓声と共に、闘技場全体に響き渡る声が聞こえてきた。
『バリオン選手、これで二連勝だぁ!どこまで連勝を伸ばすことができるのか⁉お次の対戦相手はウィル選手!経歴は......『元々は酒場で働いていましたが、そこをやめて最近冒険者に転職しました』ですって!』
会場全体に大きな爆笑の渦が発生して、俺の中に恥ずかしさがこみあげてくる。
セザール先生のように風魔法を使い、闘技場全体に聞こえるように声を響かせているのだろうが、そんなことよりも適当に答えた俺の経歴が、まさかそのまま読まれるとは思っていなかった。
『う~ん、これはバリオン選手の三連勝が固いか⁉ベッティングはあと五分で締め切りますので、みなさまお急ぎを!』
なるべく堂々とした振る舞いを意識しながら入場すると、二メートル近い大男が闘技場の中央付近で仁王立ちしていた。
「小僧、俺は相手がガキだからといって手加減はせんぞ」
男の発言に、思わず気圧されて俺は何も言えなくなってしまったが、緊張を解いて開始の合図とともに体を動かすことができるように、ストレッチだけは入念に行う。
しばらく待っていると、再度会場全体にアナウンスが入った。
『ベッティング、ただいま締め切りました!では、試合開始!』
想像していたよりも唐突に試合開始の合図が入ったため、少し面食らったが、俺は《魔力障壁》と《身体強化》を同時に発動して、相手の攻撃を迎え撃つ態勢を整えた。
「はぁぁぁぁ‼」
威勢のいい掛け声とともに、対戦相手のバリオンという男はこちらに突っ込んで来るが、《身体強化》をあまり得意としていないのか、その動きは予想以上に遅い。
俺は剣を使うまでも無いと判断し、バリオンの懐に入り込んで挨拶代わりの右フックを、相手の《魔力障壁》の上から叩き込んだ。
《身体強化》によって大幅に強化された上に、《魔力障壁》を纏ったその一撃は、バリオンの薄く圧縮されたお粗末な《魔力障壁》を容易に貫通し、彼が装着していた金属鎧に大きな陥没をつくった。
「フゴォッッッ......」
バリオンの体は宙に浮きあがりながら、三メートルほど後方に吹っ飛んで行った。
「あれ......予想以上に弱い......」
思わずそう呟いてしまうほど、普段対戦しているテセウスと実力差がある相手であった。
『ウィル選手、なんと二回りも大きいバリオン選手を瞬殺‼これは期待の超新星の登場か⁉お次に登場するのはデーツ選手です!経歴は、なんと現役のCランク冒険者ですって⁉皆さん、ベッティングはあと五分後に締め切りますので、みなさまお急ぎを!』
そうアナウンスが入ると、控室で俺に絡んできた男が闘技場へ入場してきた。
テセウス達の影響で感覚がおかしくなっているが、Cランクの冒険者とは、一般に一人前と呼ばれるランクであり、現状の自分が楽に勝てる相手ではないだろう。
「ガキが......。すぐ楽にしてやるから、そこで震えて待ってな」
そう宣言したデーツは、腕を組んで余裕の表情を保ちながらじっと俺を見つめる。
一方の俺は、先ほどのバリオンと対戦した時と同じように、緊張と体をほぐすためにストレッチをしながら待つことにした。
『ベッティング、ただいま締め切りました!では、試合開始!』
試合開始と同時に、デーツは《身体強化》を使用したのか、中々のスピードでこちらとの距離を詰めてきた。
バリオンもデーツも、開始直後に突っ込んで来るのは、俺のような子供相手に時間をかけて手こずってしまうのが、恥であると思っているのが理由かもしれない。
そんなことを考えながら、俺は剣を構えて冷静にデーツを迎え打った。
俺は、デーツの放った初撃を正面から剣で受けるどころか、力でそれを弾き返すことで、デーツの態勢を崩すことに成功し、そのままの流れでがら空きの体に《魔力障壁》を纏った剣で一撃を入れた。
脇腹に食らった一撃により、五メートル以上地面を転がったデーツの姿を見て、俺は彼を殺してしまっていないか不安になった。
また、あっさりと二連勝をしてしまったので、戦闘経験を積むという本来の目的はあまり達成できているとは言い難いが、自分の近接戦闘能力が思っていたよりも高い水準にあるということが分かった。
『ああっと!またもやウィル選手が大柄なデーツ選手を一瞬で倒した!もしや、彼はスター剣闘士となるような『本物』なのか⁉お次に登場するのは......え?何?選手変更?少々お待ち下さい!』
次の対戦相手がどんな人間なのかと少しワクワクしながら待っていると、何やら次の対戦相手にトラブルがあったことが耳に入ってきた。
『えー直前に登場選手の変更がありました。お次に登場するのはユフィ選手です!申し訳ありませんが、急遽出場選手が変わったため、彼女の経歴は不明となっております!ベッティングはあと五分後に締め切りますので、みなさまお急ぎを!』
アナウンスと共に、次の対戦相手であるユフィという女性が姿を現した。




