40 朝食のひと時
酒場で働いていた時の習慣で日が昇る前に目が覚めてしまった俺は、二階の自室から一階のリビング降りると、まだ誰も起きていないようであった。
しばらくシロと一緒にリビングで待っていると、ヴァンさんがリビングに降りてきた。
「おはよう、ウィル。俺より早く起きているとは感心だな」
「ヴァンさん、おはようございます。酒場で働いていた時の癖が抜けなくて、早く起きちゃいました。今から皆さんの朝食を準備するんですよね?手伝わせて下さい」
「いいのか?助かる。今日は白身魚と野菜のスープを作ろうと思っていたから、テーブルの上に用意した野菜を一口大に切って準備してくれないか?包丁とまな板は棚の中に入っている」
俺の料理スキルを試したかったのか、それとも酒場で働いていたと聞いたのが理由か分からないが、ヴァンさんは包丁を使う仕事を頼んできた。
「わかりました」
酒場でパブロの仕込みを手伝うことも多かったので、包丁を使うのは慣れている。包丁とまな板を準備した俺は、慣れた手つきで野菜を切っていく。
「なかなか手際が良いな。これからパーティー内での役割とか当番を決めるだろうが、ウィルに料理の分担を入れてもらうか」
パーティー全員で共同生活を送っているだけあって、やはり家事を含めみんなで分担して生活しているのだろう。
見習いとして加入した自分には面倒な雑用が押し付けられていたと予想できるので、料理の分担によってそれが減ってくれるのであればありがたい。
「そういえば、昨日も全員で朝食を摂っていましたが、全員揃って食べるのがルールになっているのですか?」
質問をしながらヴァンさんの方をチラリと見ると、どこから取り出してきたのか分からないが、魚を四匹まな板の上に並べて捌いていた。
「ルールという訳ではないが、ハウスに居るメンバー全員で集まって、その日の予定を喋りながら食べるのが習慣になっているな。毎日全員で行動する訳ではないから、不測の事態に備えて各メンバーのその日の行動をある程度把握するようにしている」
「なるほど。全員で依頼を受けることはあまり多くないんですね」
「ああ。メンバーの半分くらいは個人の冒険者ランクがSランクに到達しているからな。全員が必要な依頼はそうそう無いから、基本的には個々人が好きに依頼を受け、結果をローラに報告して報酬を一度全部彼女に渡している」
どうやら依頼や金銭の管理はリーダーのテセウスではなくサブリーダーのローラさんが担当しているようだ。
テセウスがそうした細かい業務に向いているとは思えないので、妥当な役割分担だと言える。
「そういえば、パーティーのランクと、冒険者個人としてのランクにはどういった違いがあるのですか?個人のランクの方は、先日ギルドでマリアさんから説明を受けたので分かるのですが......」
あの時はテセウス達を待たせていたため、マリアさんが説明を省いていたのかもしれない。...いや、ただ単に面倒で説明を省略した可能性もあるか。
「ん?説明を聞いていないのか?まず、パーティーのランクは個人のランクとは違って昇格のための条件が少し複雑だな。個人のランクと同じで依頼の達成実績はもちろん、所属しているメンバーのランク条件もある。
例えば、Sランクパーティーの場合、個人でSランクに到達しているメンバーが最低でも三人必要だな。実は俺もテセウスと同じでSランク冒険者だ」
ヴァンさんが服の中から首にかけた青紫色に光る認識票を取り出し、俺に見せた。
彼の話からすると、この《黄金ノ獅子》にはテセウスとヴァンさん以外にもう一人、Sランクの冒険者が所属しているということになる。
「個人のランクは、受けることができる依頼が増えるという明確なメリットがありますけど、パーティーのランクにも似たようなメリットってあったりするのですか?」
「実は依頼によってはパーティーのランクを指定したものもあったりする。それ以外の具体的なメリットは正直あまり無いかもな。ちょっと有名になるくらいか」
そんな話をしていると、野菜を切り終わったため、すでに捌き終わっていたヴァンさんの白身魚の切り身と一緒に鍋に入れて火をかけた。
◇
スープに入れた野菜に火が通ってきたころ、他のメンバーも一階まで降りてきた。
リビングの中央に置かれたテーブルに集まり、中央にスープの入った鍋を置いてそれぞれ自分で好きな分を取る形式で朝食を食べ始めた。
「テセウスは今日もウィル君と小迷宮に行くのでしょう?」
ローラさんが千切ったパンをスープに浸して食べながらテセウスに質問した。
「いや、今日はウィルに別の用事があるみたいだから、俺はギルドに行って依頼を受ける。良いのが無ければ大迷宮に潜って適当に稼ぐかな。グレアム、どうぜお前もギルドに行くんだろ?付き合えよ」
「分かった」
グレアムさんは相変わらず寡黙で、表情からも何を考えているか読めない。
「ウィル君の用事って何かしら?詳細は教えてくれなくてもいいけれど、大まかな居場所は把握しておきたいの」
「午前中はギルドの訓練場で知り合いの冒険者の方とトレーニングをする予定です。......多分昼食を摂ったら午後もトレーニングを継続して訓練場に居ると思います」
そういえば、アイリスさんから集合時間は伝えられているが、どの位の時間トレーニングをするかまでは言われていなかった。
「あのアイリスに色々と教えてもらうらしいぞ」
テセウスの発言に、メンバーの空気が重くなるのを感じる。
「あのアイリスと?......そう、彼女に会ったらローラがよろしく言っていたと伝えてね」
ローラさんは口ではそう言いつつ、表情が少し固くなっていた。
昨日アイリスさんの名前を出した時のテセウスの様子と照らし合わせても、《黄金ノ獅子》とアイリスさんの間に何かあったのは明らかである。
何があったのか気になるところだが、あまりに空気が悪かったため俺は質問することをひかえた。
「......ヴァンは今日どうする予定?」
空気の重さに耐えかねたのか、ローラさんが話題を転換してヴァンさんに話を振った。
「俺は今日、依頼を受けずに市場に行って食材の買い出しをしようと思っている。その後はパーディーハウスで保存食を作る予定だ。ローラは今日、依頼を受けないのか?」
「どうしようかしら?たまにはテセウス達について行って体を動かすのもいいかも」
「ちゃんと毎日体を動かさねえと太るぞ」
テセウスが茶々を入れるが、ローラさんはそれを笑顔で受け流した――訳ではなかった。
「......誰のせいで私が事務作業をすることになっているのか、忘れたのかしら?あーあ、リーダーの誰かさんがもっと本来の仕事をしてくれたら、今頃私もSランクに昇格できる実績を積めたのになあ」
「......ごめんなさい。許して下さい」
不用意な発言を後悔したのか、一瞬にして座っていた席から離れたテセウスは、床に額を擦り付けながらローラさんに土下座した。
パーティー内の力関係をなんとなく把握することができた朝食のひと時であった。




