39 小迷宮《使徒の迷宮》②
振りかぶった棍棒を腕で防がれたゴブリンは、一度引き下がってから再びこちらの頭を目がけて振りかぶった。
俺はそれを再度左腕で受け止め、今度はこちらから反撃するべく、右手に持った剣をゴブリンの頭目がけて力いっぱい振り抜いた。
テセウスが渡してくれた剣は、見た目以上に鋭い切れ味を持っていたらしく、全く抵抗を感じることなくゴブリンの頭部をあっさり上下に割ってしまった。
「よしっ!......うわっ」
先頭の一匹を倒した喜びに浸ってガッツポーズをしていると、残りの二匹から攻撃を受けてしまった。
気が緩んで集中力が落ちていたからか、《魔力障壁》の魔力圧縮も十分ではなくなってしまい、棍棒の攻撃を受けた箇所に軽い痛みが走る。
「アホかっ!敵が目の前に残っているのに油断するな!」
遠くからテセウスの檄が飛んでくるのが聞こえるが、それに反応する間もなくゴブリンたちから打撃の嵐を受ける。
痛みと衝撃に耐えつつも、再び意識を集中して《魔力障壁》を再構成して、俺は反撃に転じるも、一匹やられたことで警戒心を上げたのか、こちらの剣による攻撃は回避されてしまう。
「どうせ相手の攻撃は通用しねぇんだ!一匹に集中して攻撃しろ!」
テセウスの目から見たら、おそらく俺が無駄に二匹の攻撃を気にしてしまい、そのせいで翻弄されているように見えたのだろう。
彼のアドバイスに従い、俺は左側のゴブリンは完全に無視することを決め、右側のゴブリンに正対した。
こちらが完全に一匹を無視するような戦術を取ると思っていなかったのか、俺と向き合う形になったゴブリンは後ずさりをする。
背後からもう一匹のゴブリンが攻撃してくるも、それに構わず俺は目の前のゴブリンとの距離を一気に詰めて、練習した素振りの通り上段から剣を振り下ろした。
棍棒で俺の一撃を受け止めようとしたゴブリンは、棍棒ごと脳天を真っ二つに割られた結果となった。
最初にゴブリンを倒した時と違い、一切の油断を断ち切っていた俺は、そのまま後ろへ振り返り、同じように上から剣を振り下ろしてもう一匹のゴブリンも棍棒ごと両断した。
「やるじゃねぇか。特に三匹目を倒した一撃はなかなか良かったぜ」
「はぁ......はぁ......。『やるじゃねぇか』じゃないですよ!せめて《魔力障壁》をちゃんと教えてから戦闘に入らせて下さい!」
「細かいこと気にすんなよ。結果的に戦闘経験を積めたから良かったじゃねぇか」
「俺が《魔力障壁》を全身に発動することができなかったら、どうするつもりだったんですか⁉今頃ゴブリン達にタコ殴りにされていましたよ⁉」
「手のひらであのレベルの魔力圧縮ができている時点で、しっかり集中すれば全身に応用できると判断したまでだ。そもそも、俺を誰だと思っている?
仮にお前が《魔力障壁》の展開に失敗したとしても、ゴブリン程度、俺ならさっきの距離からでも連中を瞬殺できる」
テセウスの正論に、俺は何も言い返せなくなってしまったため、強引に話題を変えることにした。
「......それにしてもこの剣、すさまじい切れ味ですね。非力な俺が、棍棒ごとゴブリンの頭を両断できるなんて」
「ん?切れ味はそこそこだと思うが、剣自体はその辺の武器屋で売っているものだぞ。棍棒ごとゴブリンを斬れたのは、お前が無意識に剣にも《魔力障壁》を纏わせていたからだ」
そうテセウスに指摘されるも、目の前の敵を倒すことに必死だったので全く自覚が無く、困惑した。
「この前も説明したが、相手の《魔力障壁》を突破するため、武器に《魔力障壁》をかけて闘うのは対人魔法戦闘における必須技術だ。今回のように《魔力障壁》が使えない相手に使うのも有効で、純粋に攻撃の威力を激増させることができる」
「つまり《魔力障壁》を極めれば防御力だけでなく、攻撃力を向上させることができるということですか?」
「その通りだ。お前は今回《魔力障壁》を発動することに成功したが、そこで満足していてはいずれ足元をすくわれるだろう。もっと魔力圧縮に磨きをかけるべきだし、戦闘経験を積まないといけない。......というわけで、ここで時間を無駄にするのはもったいないから、早く移動して次の獲物を探すぞ」
どうやらテセウスは今日一日、ひたすら俺に実戦経験を積ませるつもりのようである。
◇
十分ほど草原を歩いていると、再びゴブリン達に遭遇した。
今度は十匹近くの群れを形成しており、いくら《魔法障壁》で相手の攻撃を完全に防御できると分かっていても、本能的に恐怖を覚えるほどの数である。
「距離も離れているし、《魔弾》の練習にでも使うか。ウィル、《魔力障壁》と同じ要領で手のひらに魔力を圧縮しろ」
テセウスの指示通り、右手を前に突き出して魔力圧縮を行うと、追加で指示が飛んでくる。
「イメージとしては、圧縮した魔力の塊を二つに分けて、手のひらと魔力の塊の間に位置している方の魔力圧縮を解放するんだ。そうすると、自然と圧縮した魔力の塊が《魔弾》として押し出される」
テセウスの指示通り、圧縮した二つの魔力の塊のうち、手のひらに近い方を解放すると、魔力の塊がゴブリン達に向かって打ち出された。
想像していたよりも簡単に《魔弾》を発動できたことに安堵しながら、打ち出された魔力の塊を目で追っていると、その魔力の塊はゴブリン達に到達する前に拡散して消えてしまった。
「あれ......?」
魔力の気配を察知してか、ゴブリン達はこちらの存在に気付いてしまい、一斉に向かってくる。
「おーい!言い忘れていたが、今のお前の実力だと圧縮が足りないからその距離で《魔弾》を打っても意味ないぞ!」
テセウスの声が聞こえた方向を向くと、彼は俺から二百メートル以上離れた場所に寝そべりながら悠々とこちらの様子を観ていた。
俺の《魔弾》が上手く発動しないことが事前に分かっていたため、《魔弾》がゴブリン達の元に届く前から移動を始めていたのだろう。
「クソがぁぁぁぁぁ!」
毎回のように説明不足の状態で戦闘を強いられることにストレスを感じて、強くなったら暁にはテセウスに復讐することを誓いながら、俺は迫ってくるゴブリンとの戦闘を始めた。
◇
その後も無系統魔法について教わりながらゴブリン達を百匹以上倒しつつ、草原の中を進んでいると、地下に続く階段を発見した。
「これが下の階層へ進む階段だ。基本的に階層を降りると魔物の種類と強さが変化するから、誰かが既に踏破した階層であれば事前にしっかり情報収集を行うのがセオリーだ。
今から第二階層まで行っても良いが、そろそろ良い時間だし一旦パーディーハウスまで戻ることにしよう。続きは明日だな」
「その......明日は知り合いの冒険者の方と一緒にトレーニングをする約束をしているので、第二階層に行くのは明後日にずらしてもらっても良いですか?」
「構わないが、同レベルの人間と一緒にトレーニングをするよりも、今は迷宮に潜りながら俺の指導を受けた方が良いと思うが......」
「いえ、同レベルの人ではなく、酒場で働いているときにお世話になったAランク冒険者の方に、色々教えてもらう約束をしていたんですよ」
「Aランク冒険者......?一体誰だ?」
「テセウスと同じで迷宮都市の中で有名なので、ご存じかもしれないですが、アイリスさんという方です」
テセウスは彼女の名前を聞くと明らかに表情が変わった。
「アイリスか......彼女ならウィルに教えるのも問題ないか......。ウィル、だったら明日は《身体強化》について彼女に教わってこい」
どうやらアイリスさんのことをある程度知っている様子だったが、この時俺は二人の関係性について深く質問しなかった。




