37 パーティー正式加入
冒険者となると決意し、テセウスからトレーニングを課されてからあっという間に三週間が経過した。
時間の経過を早く感じたのは、毎日のトレーニングと酒場の仕事をこなすことに必死で、充実した一日を過ごしていたことが原因だろう。
《竜の吐息亭》での最終日を終えた夜、メアリーさんとパブロさんが最後の営業を終えた酒場で送別会を開いてくれた。
翌日、《黄金ノ獅子》のメンバーがパーディーハウスに居るうちに挨拶に行くべきだと判断した俺は、メアリーさんとパブロさんに見送られ早朝、日が昇らないうちに《竜の吐息亭》を発つことにした。
「冒険者は体が資本なんだから、体調管理だけには気を使いな」
「......酒場は開いていないが、ここの飯が食いたくなったらいつでも来い」
メアリーさんとパブロさんから、《竜の吐息亭》の入り口で別れの言葉を受け取る。
「お二人とも短い間ですが、お世話になりました。また時間ができたら《竜の吐息亭》に顔を出します。行ってきます!」
「キュイ!」
今生の別れという訳でもないため、再び会うことを約束してから俺は《竜の吐息亭》を出発した。
◇
《黄金ノ獅子》のパーティーハウスは《竜の吐息亭》から一時間ほど歩いた迷宮都市の一番外れに位置している。
朝日が昇り始め、夜空に明るさが出始めた頃、パーディーハウスの前に到着した俺は、やはり早朝すぎて迷惑では無いかということが頭をよぎり不安になる。
一般の冒険者であれば、掲示板に貼り出された依頼の争奪戦に参加するために、今の時間帯に朝食を摂って、ギルドに向かう準備をする。
これは、二年間働いた《竜の吐息亭》の利用客に冒険者が多かったことから得た知識である。
しかし、よくよく考えると《黄金ノ獅子》はSランクの冒険者パーティーで、実は一般の冒険者とは違い依頼書の争奪戦に参加する必要が無い可能性もある。
「......《黄金ノ獅子》に何の用だ?」
ドアの前でノックをするべきかどうか悩んでいると、気配も無く突然背後から声を掛けられた。
「うわっ!」
驚いて振り向くと、そこには黒い外套を身に着けた細身の男が立っていた。
挙動不審な俺の様子を伺っているのか、単に質問の返答を待っているのか分からないが、その男は無言でこちらをじっと見つめて動かない。
「あ......あの、今日から《黄金ノ獅子》に見習いとして加入することになったウィルです!」
「......お前がウィルか。入れ」
男は俺の自己紹介に対して返すこともなく、ただパーディーハウスの中に入ることを促した。この人、もしかしたらパブロさん並みに言葉が少ないかもしれない。
パーディーハウスに入り、奥のリビングまで進むとテセウスと冒険者ギルドで会ったローラさんがソファーでそれぞれくつろいでいた。
「もう来ましたか。きっちり日が昇る時間に来るとは、ウィル君は冒険者として有望ですね」
ローラさんの口ぶりからすると、やはり朝に弱い人間は冒険者に向いていないということなのだろう。
「ローラさん、お久しぶりです。これからお世話になります」
「ウィル。俺が教えたトレーニングはきっちり毎日こなして来たか?」
テセウスはというと、挨拶も省略してトレーニングについての質問をしてきた。
「おはようございます。もちろん、毎日頑張ってこなしましたよ!」
堂々と完遂した宣言をしたものの、実は一度もサボらすできたことに自分でも驚いている。
「なんだ。ウィルの坊主、こんな朝早くから来たのか。来ると知っていたら朝飯も四人分作ったのによぉ」
キッチンの方からエプロンを付けた大男がやって来たと思ったら、冒険者ギルドで会ったヴァンさんだった。
「ヴァンさん。お久しぶりです。今日からお世話になります」
「おう、こちらこそよろしく頼む。ウィルは朝飯食ってきたか?腹減ったなら、ちっとばかし時間をもらうが飯を用意するぜ」
「いえ、食べてきたので大丈夫です。心遣い感謝します」
「分かった。俺はパーティーの料理番をやっているから、腹が減ったらいつでも声をかけてくれよな。特にウィルは成長期なんだから、どんどん食って体をデカくするのも仕事のうちだ。遠慮なく声をかけてくれ」
そう言ってヴァンさんはキッチンの方に引き返していった。
「あの、こちらの方のお名前をお聞きしても......?」
三人は元々冒険者ギルドで自己紹介をしたため知っていたが、先ほど外で出会った男の名前は聞いていない。
「ああ、そいつはグレアム。《黄金ノ獅子》では主に探知や斥候を担当している。地属性の魔法が得意で、裏の闘技場もソイツの作品だ。
普段はほとんど喋らないが、別にお前のことを嫌っている訳ではなくて、元々そういう性格のヤツだから気にしなくていいぞ」
「......よろしく」
「改めまして、ウィルです。こちらはシロ。まだ見習いですが、よろしくお願いします」
挨拶を終えると、ヴァンさんが大きなトレイを持ってリビングにやってきた。
「朝メシを食ったらウィルのトレーニングの成果を確認する。ローラ、その前にウィルに空き部屋を案内してやってくれ」
テセウスはどうやら口頭だけでなく、実際に自分の目で俺がトレーニングをこなしていたかを確認する気のようだ。
「分かったわ」
ローラさんが返事をすると、一同は朝食を摂り始めたため、手持無沙汰になってしまった俺はしばらくの間シロとじゃれ合って時間を潰すことにした。
◇
ローラさんに部屋を案内された後、俺はテセウスと共にパーディーハウス裏の闘技場に来ていた。
「じゃあ、まずは魔力の圧縮を見せてくれ」
テセウスに指示された通り、俺は右腕を前に出して魔力の圧縮を始めた。
一秒と経たずに手の上に集まった魔力は、周囲が明るい中でもハッキリ分かるほどの光を放ち始め、最終的には前回テセウスが見本として示したものよりも明るい状態となった。
「期待以上だ。魔力の圧縮度合いはもちろん、圧縮スピードも中々だな。じゃあ次は素振りを見せてみろ」
地面に置いていた木剣を手に取った俺は、緊張で体に無駄な力が入っていることを自覚した。
もともと魔力制御に長けていたため魔力の圧縮はかなり自信があったが、素振りに関しては三週間、練習を繰り返しても手ごたえを得られず、テセウスの基準に合格できるか不安である。
緊張と不安を和らげるため、一度深呼吸をしてから一拍置き、リラックスした状態に入った俺は、目を閉じて素振りのイメージを固める。
十分に間を取ったあと、木剣を振り上げ、風を切る音を鳴らしながら剣を振り下ろした。
「ま、素振りに関しては及第点ってところか」
落第とならなかったことに安堵した俺は、体から一気に力が抜けてしまった。
「じゃあ、とりあえず迷宮に移動するか」
「迷宮?」
疑問に思った俺は、反射的にテセウスに質問を返したが、気づくと彼の脇に抱えられていた。
「移動するぞぉ。舌を噛まないように気をつけろよ」
「ちょっ。だから《飛行》で移動するなら心の準備をさせてぇぇぇぇぇぇぇっ」
俺の文句などお構いなしに《飛行》で上空まで飛び立ったテセウスは、そのまま空を超速で移動し始めたのだった。




