4 友人
魔法が発動できないまま、無情にも時間は過ぎ去り貴族学校への入学まで1週間を切ってしまった。
学校が位置しているアルカイオス王国王都エルドンまで馬車で3日間かかるが、入学に余裕を持って間に合うように、貴族学校に入学する年に限っては到着予定日の5日ほど前にサンフォード領を発つのが慣例である。
「入学までに魔法を使えるようになるの、諦めた方がいいかもなぁ」
8月の茹だるような熱気の中、俺は自室で独り呟いた。すると、唐突に開けていた窓外から石畳の上を走る馬車の音が入ってきた。
座っていた椅子から立ち上がり外を観ると、鷲が入った紋章を掲げた馬車が屋敷の入り口に到着するところであった。
それは隣領であるオブライエン領から同年代の友人であるアルフォンス・オブライエンが到着したことを意味していた。
◇
1階の玄関まで降りると、父さんと母さんがオブライエン家の来客を出迎えていた。
来客は3人でオブライエン夫妻とその息子であるオブライエン家三男のアルフォンスである。
自分よりも10cmほど身長が高いアルに目を向けると俺に気づき手を振ってきた。
「グラン!ひさしぶり!」
アルは伯爵家の三男という自分に近い境遇であることもあり、数年前から度々交流がある友人である。
王都で行われた天授の儀で会えるかもしれないと思っていたのだが、実施日が異なるため会うことは叶わなかった。
アルも俺と同じく今年から王都エルドンの貴族学校に入学するのだが、オブライエン領から王都エルドンの通り道にサンフォード領があるため、オブライエン夫妻も一緒に挨拶へ来たというわけである。
オブライエン夫妻は1日この屋敷に滞在した後、アルは俺と一緒にサンフォード家の馬車で王都エルドンへ行く手筈となっている。
もしアルが長男や次男であったのであれば、友好的な貴族の間柄であっても7歳の子息を他家の馬車へ一人預けるなどということはしないだろう。
貴族家の三男というのはそれだけ重要度が低い、ということを意味していた。
「久しぶり。天授の儀では会えなくて残念だったね。
アルはどの魔法適性だったの?」
無難な話題をアルに振ったつもりであったが、アルの返答に俺は後悔した。
「俺は運よく地属性の適性をもらえたよ!
グランはどうだった?」
アルの魔法適性を質問すれば、当然俺の魔法適性の話題になるに決まっている。
「雷属性だったよ......」
俺がそう答えると、アルはどう相槌すれば良いのか分からない様子で答えに詰まっていた。
隣で両親と話していたオブライエン夫妻の方に目を向けると、俺たちの会話を聞いていたらしく、会話を中断して気まずそうな顔をしていた。
この話題はアルと二人の時にするべきであったと後悔した。
◇
「魔法陣が作れるのに魔法が発動しない...?」
翌日、俺とアルは馬車に揺れながら王都エルドンへ向けてエルドリッジ大森林の街道を進んでいた。
「うん。原因が本当に分からなくて困っているんだよね。
このままじゃあ貴族学校で落ちこぼれ扱いだよ」
学校での評判をそこまで気にしている訳ではないが、貴族の子女として建前上は気にしているフリをする。
「アルはすんなり魔法が使えたの?」
「俺の場合は魔法陣を作るのに苦労してすごく時間がかかったかな。地属性の初級魔法が使えるようになったのは1週間くらい前かな?
まだ魔法陣を完成させるのに30秒くらいかかっちゃうけどね」
アルは魔力の制御がそこまで得意ではないのだろう。
それでも魔法を発動させることができる時点で俺よりも先へ進んでいることが羨ましい。
そんな話をしていると、馬車が唐突に停まった。
「グラン坊ちゃま。本日の旅程はここまでで、これから野営の準備に入ります。
しばし馬車の中でお待ち下さい」
そう話しかけてきたのは御者兼護衛を務めていたサンフォード家の筆頭使用人であるセザリオである。
御年60歳とは思えないほど若々しい肉体とそれに不釣り合いな白髪を持つ、先代サンフォート伯から使えてきた使用人である。
平民出身にも関わらず火属性の魔法を使うことができ、剣を使った近接戦闘能力も高いらしい。
純粋な戦闘能力であればサンフォード家の中で母さんに次ぐ実力者である。
今回の王都エルドンへの道のりには御者兼護衛という名目で俺たちのお目付け役を任されている。
「アル、まだ明るいしセザリオが野営の準備をしている間魔法を見せてもらえない?」
「いいよ。どこか開けた場所に移動しよう」
「グラン坊ちゃま、アルフォンス様。街道は魔物が寄り付かない魔法が施されているため基本的には安全ですが、あまり離れすぎると危険ですのでお気をつけ下さい」
魔物が寄り付かなくなる魔法があるとは初耳であるが、どの属性の魔法だろう?それとも、属性以外の魔法だったりするのだろうか?
ここで疑問をぶつけても良かったがセザリオの野営準備を遅らせることになってしまうため、あと回しにすることにした。
「わかった。あっちの木が少ないスペースにしよう」
何かあった時でも野営の準備をしているセザリオが気づくことができる距離に開けた場所を見つけたため、そちらに移動した。
「じゃあ準備するね」
アルは持っていた杖の先端を保護していたカバーを取り外し、魔法陣の描画を始めた。
杖の先端を観察すると俺が使っている杖とは異なり、金属ではなく光沢のない石が触媒として取り付けられていた。
『我、天より大地の力を賜る者なり。母なる神よ 我全てを護るための具足を与えたまえ。《防壁》』
詠唱を行いながらアルは水平に持っていた杖の向きを90度回転させ、触媒となる石と魔法陣を地面に向けた。
唱え終わった瞬間、彼は杖の先端を地面に打ち付けると魔法が発動し、たちまち地面が隆起し始め、最終的に高さ2メートル幅3メートルほどの土の壁が完成した。
「おお。初級魔法でもここまで大きいサイズの壁が作れるんだ。すごいね」
「実はまだ壁の大きさの調整とかはできないんだ。
手本として父さんに見せてもらった《防壁》がこれくらいのサイズでそれをそのまま真似しているという感じ」
アルの口ぶりからすると、彼はオブライエン伯の魔法をそのままコピーして使用しており、応用としてのサイズ変更ができてない、ということだろうか。
お手本のイメージに強く魔法のイメージが支配されているがために応用ができていないと仮定すると、やはり魔法と使用者のイメージが密接に関わっていると考えていい気がする。
◇
その晩、野営のためにセザリオが準備してくれた天幕の中で俺は魔法の発動とイメージの関係について考えていた。
隣ではアルがぐっすり眠っており、天幕の外ではセザリオが見張りをしてくれている。
魔法の発動が本人のイメージに依存してしまうと仮定して、自分が《雷撃》の発動する姿をイメージしてもうまくいかなかった。
だとすると、もっと別のイメージが必要であるということだろうか。
例えば、《魔力》というエネルギーを《電流》という物理的な現象に変換するイメージ、であるとか。
いや、《電流》ではなくもっと具体的に《杖の先端から対象物に大量の電荷が流れる現象》として自分の中で定義してみるのもアリかもしれない。
こんなことを頭の中でつらつらと考えていると、一つの疑問が浮かんだ。
《雷撃》で生み出された放電のエネルギーと魔法によって消費された《魔力》のエネルギーは果たして釣り合っているのだろうか?
疑問が疑問を呼んでしまい、この夜は完全に眠ることに失敗してしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価やブックマークをしていただけると今後の執筆の励みになります!




