3 家族との再会
領軍の訓練が行われているサンフォード家の演習場の隅で、俺は一人母さんから渡された杖を握りながら訓練用に設置された丸太を前に魔法発動についてあれこれ悩んでいた。
結局、初めて魔法の発動を試みてから12日間、何の成果も得られぬまま時間だけがあっという間に経過してしまっていた。
何が原因で魔法が発動しないのか、悩んでいると騒がしかった領軍の訓練の音が唐突に静まりった。
いきなり訪れた静寂に何事かと顔を上げると、一台の馬車が演習場の入り口に泊まっており、兵士たちがその入口付近に整列していた。
馬車にはサンフォード家を示す獅子と太陽が含まれた紋章が大きく刻まれている。ドアが開くと、そこから2人の兄と姉が降りてきた。
「兄さま!姉さま!おかえりなさい!」
思いがけず再会した3人の姿に驚いた俺は、そう叫びながら立ち上がり馬車の方へ駆けた。
3人とも王都の学校に通っており、会える機会が年に2回の長期休暇の帰省期間のみなのだが、魔法のことに悩みすぎて失念していたのである。
「グラン!!ただいま!!」
駆け寄ってきた俺を、4歳年上である姉のエレオノーラが抱きしめてくれた。
我が姉ながらとても美しい容姿をしており、なんとも役得である。
「グラン、久しぶり。また身長伸びたね」
そう言いながら俺の頭を撫でてきたのがサンフォード家次男のライセルである。
5歳上の12歳で何とも羨ましいことに兄弟の中でも1番の美形あり、エレオノーラ姉さま曰く学校ではモテモテらしい。
「ライセル兄さまお久しぶりです!」
「演習場にグランがいるとは珍しいと思ったが、そうか、グランも天授の儀を受ける歳か」
そうつぶやきながら最後に馬車から出てきたのが、サンフォード家長男のアンドレアスである。
昨年中級魔法学校を首席で卒業した秀才で、現在上級魔法学校に通っているサンフォード家次期当主である。
「はい、アンドレ兄さま。2週間前に雷魔法の適性を授かりました」
「魔法の練習は順調か?」
アンドレ兄さまの質問に俺は思わず答えに詰まってしまう。
「魔力操作までは順調だったのですが...。実は魔法がうまく発動しなくて困っているんです」
「魔法が発動しない?魔法陣がうまく作れないとか、発動してもうまく制御できないの間違いじゃねぇの?」
「いいえ、ライセル兄さま。魔力で魔法陣を描画するところまではできるのですが、いざ詠唱すると魔法の発動自体がなされず魔法陣が消えてしまうのです」
「発動せず魔法陣が消える...?一度俺たちに魔法を使うところを実演してみせてくれないか?」
上級魔法学校で魔法を学んでいるアンドレ兄さまでも聞いたことのない現象のようだ。
アンドレ兄さまは兵士たちに訓練に戻るように伝え、俺たちは4人演習場の丸太の前に移動した。
俺は3人から離れた位置を取り、杖を丸太の方向へ構えて魔力で魔法陣の描画を始めた。
連日何度も《雷撃》を試したため、魔法陣の形成スピードは劇的に向上し、5秒程度で魔法陣は完成。
一拍深呼吸を入れた俺は、《雷撃》の詠唱を唱えた。
『我、天より雷を賜る者なり。轟く者よ 我に困難を打破するための兵仗を与えたまえ。《雷撃》』
何百回も唱えただけあって淀みなく唱えられたその魔法は当然のごとく発動せず、魔法陣が消失した。
見守っていた3人の方を見ると、予想通り困惑した表情を浮かべていた。
「本当に発動しなかったわね......」
「母さんにも原因を調べてもらっているのですが、現状手がかりがない状態で困っているんですよ」
「条件が揃っているのに魔法が発動しない、かあ。俺は見たことも聞いたこともねぇなあ。兄貴は?」
「俺も無いが、これに近い現象なら見たことがある。中級魔法学校で始めて魔法を使う平民出身の生徒が同じ様に魔法が発動せず魔法陣が消えてたな」
貴族だけで完全に魔法を独占してしまうと、魔法使いの絶対数が不足してしまい、国力の低下に直結する。
そのため、実は貴族だけでなく平民が通うことになる下級学校でも天授の儀が行われており、中でも高い魔法適性を持つ者を中級魔法学校にスカウトするという制度がある。
こうして入学した平民はそれまで魔法に触れた経験がほとんど無いため、中級魔法学校の1年生の授業においては同学年の貴族の子女がチューターのような形で授業を補助するらしい。
「その生徒は寝坊して授業を遅刻してきてな、魔法陣と詠唱の説明だけしか聞かずに魔法を発動しようとした。
だが魔法は発動せず、魔法陣が消えてしまった。なぜこうなってしまったかわかるか?」
「『魔法陣と詠唱だけの説明しか聞かずに魔法を発動しようとした』ということは、触媒が原因でしょうか?」
「いいや、触媒は彼本人の魔法適性に合ったものを使用していいたし、特に問題無かった」
だとすると自分と同じ状況のはずである。
しかし、アンドレ兄さまの口ぶりからすると明確な原因があるはずだ。一体何だろう?
「わかった!もしかしてソイツ、遅刻したせいでその魔法が発動されるところを見たことない状態で試したんだろ!!」
「正解だライセル。彼は『その魔法が使われているところを観る』、という経験がないせいで魔法が発動できなかったんだ」
確かに母さんも『実際に魔法が発動された結果を目視した経験』が必要だと言っていた気がする。
自分の場合は母さんが《雷撃》を使用するところをバッチリ目視していたため彼女の発言を流してしまっていたが、自分が魔法を発動できない原因と何か関係があるのだろうか?
「あまり考えても仕方ないし、私お腹すいたわ。丁度いい時間ですし、みんなでお昼ごはんを食べましょう」
◇
その晩俺は自室で一人、ベッドの上で昼間アンドレ兄さまが教えてくれたエピソードについて考えていた。
『魔法が発動せず魔法陣が消える』という『結果』が共通しているのであれば、『原因』も同じである可能性は高い。
つまり、『実際に魔法が発動された結果を目視した経験』によって満たされる『別の発動条件』があるのかもしれない。
自分の場合は《雷撃》を目視していても、その『別の発動条件』を満たせなかったため魔法が発動できなかった、であるとか。
そういえば、前世の異世界転生モノの設定だと魔法はイメージが重要、のようなものが多い。
前世の記憶の影響でこの世界の人間と俺の間に魔法に対するイメージの差異が生じていて、それが原因で魔法の発動条件を満たせていないのであれば理屈が通る。
俺は母さんの《雷撃》を初めてこの目で見たとき、無意識に『丸太を破壊できる雷のような放電現象を人間が起こせるわけがない』と思っていたのかもしれない。
つまり、無意識に自分が《雷撃》など出せるはずがないと思っていたがゆえに魔法が発動しない可能性がある。
思いついたら居ても立っても居られなくなった俺は、ベッドから飛び起き窓を開いて壁に立かけてあった杖を手に取り外へ向かって構えた。
杖の先端に魔法陣を描きながら、自身が魔法を発動し窓の外に《雷撃》を放つ姿を鮮明に想像する。
イメージが固まった刹那、俺はこれまで自身が唱えた中で一番はっきりとした滑舌で詠唱した。
『我、天より雷を賜る者なり。轟く者よ 我に困難を打破するための兵仗を与えたまえ。《雷撃》!!!』
当然のように発動しない魔法、消失する魔法陣、静寂に包まれた自室。
俺は思わず杖を放り投げ、ベッドに飛び込んだ。
「かなり良いところまで近づいている気がするんだけどなぁ」
瞼を閉じ、魔術が発動しない原因について考察していると、いつのまにか眠っていたようで、目覚めたら朝になっていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価やブックマークをしていただけると今後の執筆の励みになります!




