35 現代の魔法戦闘技術
「実際に手本を見せた方が早いか」
テセウスの全身から魔力の淡い光が噴出し、全身を覆うように固定化された。
「これが《魔力障壁》で、そのまま使うと魔力の光によって相手に使用していることが一目瞭然だ」
俺が対峙した『透明な壁』の正体が魔力によって造られた壁だったということだろうか?
「《魔力障壁》は実に単純な技術で、己の魔力を体外に放出して、圧縮して留めることで相手の攻撃に対する防御力を高める。
やっていることはシンプルだが、使い手の技量によって防御力が大きく左右される上、勝敗に直結する、一番重要な無系統魔法と言える」
「今から《魔力障壁》を教わる前に訊くことでは無いのかもしれないですが、《魔力障壁》を破るためにはどうしたら良いのでしょう?自分が対峙したときはどうやっても破る方法が思いつかなかったので......」
サイクロプスの《魔力障壁》に貫通性能が高い《雷槍》を放った時、障壁を破ることはできたが、威力が大きく減衰してしまった。
「当然の疑問だな。相手が《魔力障壁》を使ってきた場合の対処方法は主に三つ。一つ目は単純だが相手の《魔力障壁》を貫通する威力の魔法を放つこと。相手との力量差がはっきりしている時は非常に有効な戦術だな」
サイクロプスの《魔力障壁》をシロの放った風魔法が容易に貫通してしまったことを思い出す。
「二つ目は魔法の物量で相手の《魔力障壁》を削り切ってしまう方法だ。《魔力障壁》は純粋な魔力の塊で構成されているから、削られてしまった部分を再構成する場合、通常の属性魔法よりも魔力の消費量が非常に多い。
それを利用して相手に魔法をぶつけ続けることで魔力切れを狙う、というやり方だ」
サイクロプス相手だったら《雷槍》を連打し続けることで俺でも勝てる可能性があったということなのだろうか。
「三つ目が一番実用的で、《魔力障壁》を纏わせた物理攻撃で相手を倒す、という方法だ。帝国の冒険者のほとんどが魔法を使用できるのに、王国の魔法使いと違って杖ではなく殺傷性の高い武器を装備している理由がここにある」
「なるほど。純粋な魔法をぶつけて敵の《魔力障壁》を貫通するのは現実的ではないので、物理的な攻撃ができる武器が重宝される、ということですか......」
魔法一本で闘うという発言をした俺に対して、ギルドマスターのマリアさんが驚いた理由が分かった。
《魔力障壁》の存在を知っていれば、よっぽど自分の魔法に自信があるか、若しくはただの馬鹿じゃないと魔法だけで戦うという発想にならないだろう。
それにしても、遠距離の魔法の打ち合いという古くからあった魔法戦闘のスタイルが、現代では武器による物理的な攻撃を織り交ぜるスタイルに変遷しているとは、王国に居たら知りえなかった知識だろう。
「俺が実際に対峙した相手は、テセウスが見せている《魔力障壁》のように魔力の光が見えなかったのですが、何故ですか?」
「ん?ああ。それは別の無系統魔法と組み合わせて《魔力障壁》を展開していただけだな」
テセウスを覆っていた魔力の光が徐々に減退していき、最終的には完全に消失した。
「これが《隠蔽》だ。体外に放出した魔力を目視できないようにする技術で、これも現代の魔法戦闘では必須技能と言える。《隠蔽》を完全に習得すると《魔力障壁》や次に説明する《魔弾》だけでなく、魔法陣を目視できないように隠すことができる」
「テセウスが《飛行》を使う時、魔法陣がどこにも見当たらなかったのは《隠蔽》で見えないようにしていたのですね」
「そうだ。魔法陣を《隠蔽》することで、もちろん敵に攻撃の前兆を察知されづらくなる。特に短縮詠唱ができる俺や無詠唱で魔法が使用できるお前にとってはかなりのアドバンテージとなるな。
それ以外にも、敵に魔法陣の情報を抜かれる心配がなくなるというメリットもある」
魔法発動の根幹である魔法陣の情報を隠すことができれば、自分が使った魔法を相手に盗まれる心配が無くなるということか。
テセウスが《隠蔽》を解いたことで再び《魔力障壁》が露わになり、彼を覆っていた魔力が手のひらの上に収束していき、魔力の塊を形成した。
「次に見せる《魔弾》は、純粋な魔力の塊を射出する魔法だ。使い手の技量によるが、殺傷性が低い代わりに、属性魔法よりも圧倒的に発動スピードが速いから、相手を牽制するために使われることが多い」
テセウスは手のひらに集まった魔力を三十メートルほど離れた場所の地面に放つと、地表に衝突した魔力の塊は大きな爆発音とともに地面に大きなクレーターを作った。
「殺傷性が低いとは......?」
「ま、力量差があれば《魔弾》でも相手の《魔力障壁》ごと体を貫通できるから、要は練度次第ってことだ」
「な、なるほど......」
「無詠唱で魔法が使えるお前が《魔弾》を習得しても、使う機会はそう多くないとは思うが、知識として持っておくと良いだろう」
「......実は無詠唱で魔法を使うことは当面の間控えて、テセウスのように短縮詠唱に留めようと思っています」
無詠唱で雷魔法を使う少年、という情報だけで俺の出自がバレてしまう可能性があるためである。
「確かにお前の歳で無詠唱魔法が使えるのはあまりにも目立つか......。短縮詠唱でも目立つことには変わりないが、そこも制限するとかなり不便だしなぁ......。まあ、どこまで力を隠すかはお前の判断に任せる」
地下牢に閉じ込められた際も力を隠していたことで、手足を拘束されずに王都を脱出できたので、切り札として無詠唱であることは隠しておいた方が無難だろう。
「最後が《身体強化》だな。これは文字通り魔力で自身の身体能力を向上させる技術だ。
単に力を強化するだけなら比較的簡単に習得できるが、実戦で使用できるほどのレベルまで《身体強化》を仕上げるのはかなりの努力量と魔力操作のセンスが必要だ」
「二年前、俺の《雷撃》を避けた時は流石に《身体強化》を使っていましたよね......?」
《魔力障壁》で防がれたならともかく、《雷撃》を物理的に避けるという離れ業で無効化されたことは未だに鮮烈に記憶に残っている。
「当たり前だろ!素の状態であんな動きができたらそれこそ人間じゃねぇよ!少し手本を見せてやるから離れていろ」
テセウスから二十メートルほど距離を取ると、彼は目を閉じて深く呼吸をしてリラックスした状態になった。
「ハァッッッ!!!!」
大きく吠えたテセウスの姿がブレたと思った刹那、轟音とともに地面が大きく揺れた。
「うわっ!」
驚いてバランスを崩した俺が体制を立て直してテセウスの方を確認すると、大きな地割れを起こした地面に拳を突き立てている姿が目に入った。
「と、まあ《身体強化》を極めればこんなことができるようになる」
ドヤ顔でこちらに向かってくるテセウスにイラつきを感じつつも、その力量には尊敬の念が湧いた。
「ということで、代表的な無系統魔法の紹介は以上だ。これらのすべてに共通して必要なのが、高い魔力制御スキルなんだが、ウィルの魔法陣構築スピードであればそこまで苦労することは無いだろう。
ただ、《魔力障壁》と《魔弾》には魔力を圧縮する工程があるから、今からそれを教える」




