34 無系統魔法
パーティーハウスについて質問する間もなく、ギルドから出るなり俺を脇に抱えたテセウスは、そのまま《飛行》を使って空を飛び移動した。
「はあ......はあ......。《飛行》を使って移動するのであれば初めに言ってください......。流石に心の準備ができないまま飛ぶのはしんどいです」
迷宮都市の中心から離れた外縁部まで一足飛びで移動した俺とテセウスは、貴族の建物かと思うほど大きな屋敷の前に到着した。
「ああ、言って無かったか?悪いな」
そう口では言いながらも全く悪びれる様子も無いテセウスは、扉を開錠してそのまま目の前の建物に入って行った。
「キュイ!」
飛行している間、振り落とされないように外套の中へ隠れていたシロが、恐る恐る顔を出し、地表に到達したことに安心したのか、俺と目が合い可愛い声で鳴いた。
「おい!パーティーハウスを案内するから早く来い!」
シロの姿に癒されながら息を整えていると、テセウスから急かされてしまった。
「はい!今行きます!すいません!」
急いで建物の中に入ると、建物の外観に負けず劣らず豪華な内装が目に入った。
「ここが玄関で、真っすぐ進むと共同スペースになっているリビングとキッチンがある。あと一階には風呂とトイレ、ほとんど使っていないが客間もあるな。
こっちの階段から二階に上がると、個人の部屋として使っている個室が並んでいるから、あとでお前にも空き部屋を振り分ける予定だ」
非常に簡潔にハウス内を説明したテセウスは、こちらが質問する隙も与えず奥に進んで行ってしまった。
わざわざギルドからパーティーハウスまで移動したのでもっと丁寧に内部を案内されると思っていた俺は、あまりにあっさりとした説明に面食らってしまった。
テセウスに続いて奥に進むと、これまた豪華な内装のリビングに出たが、彼はそのままそこを通り抜けて扉から外に出た。
「外に出るんですか?」
「ああ。パーティーハウスの案内はあくまでもついでだ。お前をここに連れて来た理由はこっち」
外に出ると、スタジアムや闘技場のような形状の建造物が目の前にそびえ立っていた。
ここに到着した時はパーティーハウスに隠れていたため、その存在に気づかなかったが、目の前にすると圧倒的なサイズが大きな存在感を放っている。
「うちのパーティーに凄腕の地属性魔法使いが居てな。訓練場が欲しいって言ったらそいつが造ってくれたんだ」
テセウスは誇るように述べたが、訓練場としては明らかに過剰な設備ではないだろうか、と俺は心の中でツッコミを入れた。
「訓練場ということは、これからテセウスが何か教えてくれるのですか?」
「ああ。お前、無系統魔法って分かるか?」
「聞いたことが無い魔法ですが、心当たりはあります。以前、俺の《雷撃》が見えない壁に弾かれてしまうことがあったので、それのことでしょうか?」
王都を脱出した際に出会った魔法団の女性とサイクロプスが使用しており、俺の魔法が全く通用せず困ってしまった。
「察しが良いな。厳密に言うと無系統魔法とは魔法というよりも魔力を使った対人戦闘技術の総称だ。《魔力障壁》はそのうちの一つで、対人魔法戦闘では習得が必須とされている技能だ」
無系統魔法も《魔力障壁》という言葉も、王都でアンドレ兄さまに貰った上級魔法学校の資料にも記載が無かったのが不思議である。
「どうしてそんな必須技能を今まで知る機会が無かったのか不思議な顔をしているな」
疑問に思っていたのが顔に出ていたようでテセウスに指摘されてしまった。
「ええ......。王国に居た際は王立図書館や上級魔法学校の図書館から魔法に関する情報をかなり得ていましたが、そのような魔法は聞いたことが無かったので不思議です」
「最近では帝国の魔法使いの間で一般常識に分類されるほど広く知られている技能なんだがな......。おそらく王国は軍の魔法団以外に無系統魔法が広がることを良しとしていないのだろう」
「帝国内でそれだけ無系統魔法の情報が広がっているのに、王国側が何も手を打っていないのは不自然な気がしますが......。魔法が通用しなくなるとそれだけで帝国相手の戦争が圧倒的に不利になるのは自明ですよね?」
「当然の意見だが事情は少し複雑でな。まず、アルカイオス王国の特徴として、魔法をほぼ貴族と軍が独占しているという点かあるよな?これは、魔法によって市民を守ることが貴族を貴族たらしめていた王国の歴史に起因している」
国外の勢力から市民を守るために、国王を含む現存の貴族家が魔法を使用してきたという歴史は、俺も貴族学校の授業で聴いたことがある。
「平民出身の魔法使いは基本的に軍から退役できないルールとなっているのも、魔法の使用者をいたずらに増やさないようにして、貴族の権威を保つためなのだろう。お前の母のように貴族と結婚する場合は例外だがな」
この情報は初耳である。おそらく俺が貴族だったため耳に入ってこなかったのだろう。
「だから《魔力障壁》やその他の魔法を広めてしまうことで、既存の『市民を守ることによって成立している貴族』という図式が壊れてしまうことを危惧しているのだろうな」
「でも、軍学校で無系統魔法を教えているのですよね?卒業した貴族が自分の家の者に無系統魔法を教えたりしないのでしょうか?」
軍や軍学校でしか無系統魔法を公式に教えていないとはいえ、そこに入るのは貴族出身の人間が多いため、貴族の間に情報が回らないのは不自然である。
「俺も本当かどうかわからないが、例え貴族であっても無系統魔法の情報を軍外部に漏らしたことが判明したら一族ごと極刑になることが王国法で定められているらしい」
実際に《魔力障壁》を使用されて手も足も出なくなってしまった自分としては、王家がそこまでして頑なに軍から無系統魔法の情報を流出させないようにしているのも納得である。
「そもそも王国軍というのは実質的に国王が自身で動かすことができる戦力で、貴族が反乱を起こしてしまった時に鎮圧する役目もあるからな。
貴族に対する王国軍の優位性を確保するために、無系統魔法を秘匿するというのは、必要な措置だと王家は考えているのだろう」
「でも、現状無系統魔法が帝国側に広がっていることを考えると、もう軍の内部だけで秘匿している場合ではないのではないですか?」
「それはそうなんだか帝国という、いつ攻めてくるか分からないような外敵に対応する優先度が王家としてはそこまで高くないのだろう。
常に近くに居る味方かどうかわからない貴族や平民に、ある意味で王家の生命線となる無系統魔法の情報を渡して、寝首を掻かれるのを恐れているように俺には見える」
テセウスの話を要約すると、王家(王国軍)と貴族、そして貴族と平民の間で、それぞれの都合から無系統魔法と魔法の情報を巡って情報統制が行われている。
テセウスがどうしてここまで王国の魔法事情に詳しいのか分からないが、二年前王国に居たことと無関係ではないのだろう。
「少し話が脇道にそれたな。無系統魔法について具体的に説明すると、代表的なのは《魔力障壁》《身体強化》《魔弾》あとは《隠蔽》だな」
《身体強化》は何となくわかるが、《魔弾》と《隠蔽》は一体どういった技術なのだろうか。




