33 冒険者登録
「冒険者になるか検討しているって言っていたが、登録はもう済んでいるのか?」
「まだです。そもそも冒険者ギルドのシステムもあまり分かっていません」
「依頼を受ける時間帯で受付が混んでいるし、マリアさんに登録と説明をお願いするか」
そう呟いたテセウスは別の冒険者に対応中の受付嬢の元へ向かい、何かを伝えた後、こちらに戻って来た。
テセウスから話しかけられた受付嬢は冒険者の対応を中断し、どこかへ行ってしまった。
「マリアさんを呼んでもらっているからしばらく待っていろ」
「そのマリアさんというのはどなたですか?」
「ん?ああ、マリアさんはこの迷宮都市アルバランの冒険者ギルドのトップだ。もう引退したが、元Sランク冒険者で怒らせると怖いから、ウィルも注意するんだな」
「誰か怒ると怖いですって......?そもそもこの冒険者ギルドで私を怒らせるのは貴方くらいしかいないわよ」
急に背後から女性の声がしたため、俺は驚いて後ろを振り返ると、眼鏡をかけたスタイルの良い女性が立っていた。
「マリアさん、久しぶり!相変わらずギルドマスターの業務、大変そうだな!」
「そう思うなら呼び出さないでちょうだい......。で、要件は何かしら?そちらの子供と関係あるの?」
「ああ、コイツはウィル。《黄金ノ獅子》の新しいメンバーなんだが、まだ冒険者登録もまだでな。マリアさんにお願いしたいんだ」
「そのくらいならお安い御用でけれど、この子が《黄金ノ獅子》の新メンバー......?」
マリアさんは怪訝な顔で俺の全身を舐めまわすように観察した。
「ウィルです。こちらはシロ。冒険者に関する知識を殆ど持ち合わせていないので、ご教示いただけると助かります」
「......マリアよ。テセウスが言っていた通り、ここのギルドマスターを務めているわ。ここだと注目を集めてしまうし、別室に移動しましょう」
マリアさんに言われてから気づいたが、俺たちはギルド内の冒険者からの大きく注目を集めていた。
元々テセウス達が注目されていたのだから当然なのだが、彼らとのやり取りに気を取られて周囲からの視線に気が回っていなかった。
「俺たちはここで待っているから、終わったら声を掛けてくれ」
そう言ってテセウス達三人は掲示板の方へ行ってしまった。
◇
残された俺とシロはマリアさんに連れられて二階の別室に移動した。
おそらくマリアさんの執務室だと予想できるその部屋の机は書類で埋め尽くされており、到着するとマリアさんはその中から何かを探し始めた。
「ええと......確かこのあたりにあったはず......。あった!こちらに情報を記入してもらえるかしら。あ、文字が自分で書けないのであれば、私が代筆するので気にしなくていいわよ」
書類の山から一枚の羊皮紙を取り出したマリアさんは、それを俺に差し出した。
帝国の識字率が分からないため、文字が書けることで素性がバレる可能性に思い至ったが、マリアさんの口ぶりからある程度識字率が高いことを予想した俺は自分で書くことにした。
「自分で書けるので大丈夫です」
マリアさんから受け取った紙の内容を確認すると、名前や年齢、使用武器と魔法の属性を執筆する欄があった。
「あの、いまのところ魔法一本で闘うスタイルなのですが、使用武器の欄は空欄でもいいですか?それとも杖と記載するべきでしょうか?」
「魔法だけで戦うつもりなの?珍しいわね......。参考のために記載してもらっているものだから、空欄でも構わないわ」
「わかりました」
魔法一本で闘う冒険者が珍しいのは、近接戦闘のスキルが必要な理由が何かあるのだろうか?戻ったらテセウスに聞いてみよう。
「書けました」
「早いわね......うん。大丈夫そうね。じゃあ、これが冒険者の証となる識別票よ。最初はEランクで鉄の識別票だから名前が彫られていないけれど、依頼をこなしていけばランクを上げることができて、識別票の材質も変わっていくわ」
なるほど。下の掲示板の前に集まった冒険者で首に金属のアクセサリーをかけている人が多かった気がしたが、冒険者の認識票だったのか。
「認識票の着用義務はあったりするのですか?」
「特にそういった義務は無いけれど、自分の冒険者ランクを誇示するために首にかけている人は多いわね。それから、一般に一人前と呼ばれるCランクからは識別票に名前が彫られるルールになっているわ」
名前を彫るのはおそらく盗難された際に悪用されることを防ぐためだろう。
「識別票を紛失してしまった場合は速やかにギルドへ申し出ること。再発行の手数料はランクによって変動します。Eランクの場合は銀貨二枚ね」
「わかりました。......ちなみにSランクだとどの位再発行に必要なのですか?」
「確か金貨三百枚くらいだったかしら?Sランクは認識票がミスリル製だから、材料も加工費も高いのよね」
銀貨一枚は銅貨十枚だが、金貨一枚は銀貨百枚である。贅沢しなければ金貨二十枚で一年暮らすことができると考えると、金貨三百枚がいかに大金かわかる。
「依頼を受ける場合は、一階の掲示板から目的の依頼書を剥がして、受付まで持っていくことになっているわ。
基本的には早い者勝ちだけれど、依頼書を一時間以上剥がしてキープする行為は禁止されていて、悪質だと判断された場合はペナルティを課されるから注意して下さい」
「依頼書の争奪戦になって冒険者どうしが揉めることはあるのでしょうか?」
「ええ、珍しくないわね。その場合はギルドの職員が仲裁に入る規則になっているので、困ったらすぐに呼んで下さい。ウィル君は《黄金ノ獅子》に加入するのでその心配はあまりしなくても良さそうですけどね」
「なるほど......。ちなみに依頼を達成できなかった時にもペナルティを課されるのですか?」
「ものによっては依頼書に失敗時の罰金が設定されているけれど、大半の依頼には失敗時に金銭的なペナルティが無いわ。ただし、失敗してしまうとギルドの記録に残るから、次のランクへの昇格が遠のくことになるわね」
そういえば、ランクを上げることによるインセンティブは何かあるのであろうか?
「ランクを上げることによって何か良いことがあったりするのですか?」
「説明を忘れていたわ。ごめんなさい。依頼ごとにランクが設定されていて、基本的に自分の冒険者ランクの依頼までしか受けることができないことになっています。
高ランクに設定された依頼は、難易度が高い代わりに報酬が高いから、みんなまずは自分の冒険者ランクを上げることを目指すわね」
「基本的に、ということは何か例外があるのですか?」
「ええ、パーティーを組んでいる場合はその中で一番高い人のランクが依頼に設定されたランクに達していれば受けられるわね。あとは、ギルドが特定の冒険者に依頼を斡旋することがあるのだけれど、その場合もランク条件を満たしていなくても良いことになっているわね」
「なるほど......」
Eランクの依頼がどの程度の報酬が貰えるか分からないが、おそらく大した額もらえないことを考えると、テセウス達のパーティーは入れたのは幸運だったかもしれない。
「他に質問が無ければ、説明はこれで終わりよ。あとは依頼を受けながら、ギルドの職員やテセウス達に分からない部分を質問するといいわ」
「ありがとうございます」
あまりテセウス達を待たせたくないため、マリアさんに一礼して部屋を退出し、急いで一階へ向かった。
◇
「お待たせしました!」
一階に戻るとテセウスは一人で掲示板の前に立っていて、相変わらず周囲の視線を集めていた。
「おう。ウィル、お前今日はこの後時間あるか?」
「?ええ、今日は一日休みをもらったので暇ですけど......」
この後一緒に依頼を受けるのだろうか?他の二人がどこかへ行ってしまったことが気がかりだが......。
「まずは俺たちのパーティーハウスに案内してやるよ」




