32 パーティー強制加入
翌日の早朝、二階の自室から食堂に降りると、メアリーさんとパブロさんが何やら険しい顔で話していた。
「おはようございます!」
「おはよう」
「おはよう、グラン。ちょうど良かった。今日は酒場の営業を休もうと話していたところさ」
「何かあったんですか?」
「焼き串用の肉が手に入らなかったのさ。なんでも肉屋がいつも買っている村からアルバランまで運ぶ道中、魔物達の襲撃を受けてしまったらしい」
酒場で出す肉串は朝、精肉店から受け取った肉を昼営業までにパブロが仕込んでいたものを提供しているため、朝の時点で肉が手に入らなかったら提供することができない。
「今日は酒場を営業しないし、宿の食事提供はパブロがいれば十分だから、グランは一日休みを取っていいわよ。いい機会だし、将来のことについてゆっくり考えな」
「......わかりました」
《竜の吐息亭》で働き始めてから二年、初めての休日が唐突に訪れたが、休める嬉しさよりもどう過ごすか、という迷いの気持ちが先行してしまう。
食堂でパブロさんが作った朝食を食べた後、俺はシロを連れて外を散歩することにした。
◇
シロを肩に乗せて《竜の吐息亭》を出た俺は、迷宮都市の中心街にある市場を訪れていた。
銀貨二枚と少ないながらも毎月メアリーさんから給金を貰っていたのだが、毎日忙しく働いていたため全く使う機会が無く、全て貯めたままだったのである。
いい機会なので何か買い物でもしようかと思っていたのだが、どうしても将来への不安が頭をよぎってしまい、財布をポケットから出して散財する気持ちが湧いてこなかった。
こんな気持ちになるのであれば外出せずに自室でシロと遊んで過ごしていた方が良かった、と思いつつ何か自分の将来のビジョンが湧くような場所を散策することにした。
どうせなら普段お使いで行っている近くの市場では無く、迷宮都市の中心街に行くことにしたところ、他の建物と比較して大きく、人の出入りが激しい建物を発見した。
一体何の施設だろうか、と思いその建物に近づいて観察すると、剣と盾が入った紋章が入口の扉の上に大きく飾ってあった。
もしやここが冒険者ギルドだろうか、と思い出入りする人々を良く観察すると、みな体格が良く鍛えている人ばかりであることに気が付いた。
昨日アイリスさんから冒険者を勧められたことが頭に残っていたため、俺は勇気を振り絞ってその建物に入ってみることにした。
中に入るとまず目に入ったのが巨大な掲示板であり、その前に50人以上の人が集まってその内容を吟味していた。
まだ朝早いということもあって、おそらく依頼が張り出された掲示板の中から本日受けるものを選定しているのだろう。
自分としては冒険者の説明をしてくれる人間を探しているため掲示板から目を離し、受付のような場所が無いか周囲を見渡すと、圧倒的な存在感を放っている一団の存在に気付いた。
男性二人と女性一人の三人で談笑しているが、周囲から大きく距離を置かれており、視線を一身に集めていたのである。
一体何がそこまで周囲の視線を引き付けているのか分からなかったので三人を良く観察すると、一人は背中に大きな戦斧を背負い、無精髭を伸ばした身長二メートルを超える大男で、とてつもない存在感を放っている。
もう一人の男は顔が見えないが、先ほどの大男までとはいかないまでも大柄で、背中に大剣を背負っており、その後ろ姿に俺は既視感を覚えた。
ふと何かを感じ取ったのか、大剣の男が唐突に振り返り俺と目が合った。
瞬間、俺はその男がフィゲロア男爵を襲撃した際に生き残った男であることに気付き、その場から逃げるべくギルドの出口に駆けようとした。
「おいおい、目が合った瞬間逃げるなんて、おじさん傷ついちまうぜ」
ギルドの出口方向に踵を返した直後、そんな掛け声と共にシロが乗った反対側の左肩に男の手が乗った。
「やっぱり帝国側に逃げていたんだな?ここに居るってことは今冒険者をやっているんだろう?ランクはいくつだ?」
俺が帝国に逃げるということを予想していた男とは対照的に、俺はフィゲロア男爵の護衛を務めていたこの男が帝国に居るとは想像もしていなかった。
「......職を失って冒険者になろうかと検討していたところです」
この男に嘘をつく意味も無いと思った俺は、正直に話すことにした。
「ほう、ってことはまだパーティーも組んでねぇのか」
「もちろんです」
そんな会話をしていると、男と話していた二人がこちらに近づいてきた。
「ギルド内でいきなり消えたから何事かと思ったわよ。その少年は知り合いなの?」
眼鏡をかけた金髪の女性が男に話しかけた。
「ああ、ちょっとな。こいつは――――ウィル。かなり才能があるから、俺はコイツを《黄金ノ獅子》に入れようと思っている」
ウィルって誰だよと思ったのだが、俺のことを指していることに一拍考えてから気が付いた。
この男は俺の本名を知っているはずだが、それが広まってはまずいと気を使って咄嗟に偽名で紹介してくれたのだろう。
「......ウィル、ね。まあ良いわ。この子に見込みがあるとテセウスが言うのであれば、私は加入に反対しないわ」
女性は俺の偽名に怪しむ様子を見せたが、どうやら深く突っ込みを入れることをやめたらしい。
「俺もリーダーが決めたのなら文句ねぇぜ」
戦斧を背負った大男は見た目通りの低く野太い声で俺がパーティーに加入することを了承した。
「じゃあ、とりあえずは見習いという扱いで加入させることしよう。歓迎会は残りのメンバーがアルバランに帰ってきてからやるか」
「あの......俺の意志は......?」
何故か俺の意志を完全に無視してこの三人のパーティーに加入する流れになってしまっているため、少しでも抗うために俺は男に質問した。
「えっ?まさか俺のパーティーに入りたくないのか?」
俺の意志を確認するような内容だが、男の口調と目は加入を断った場合どんなことが起きるかを示すような威圧を孕んでいた。
「あ......いえ。もちろん喜んで入ります!」
俺は心の中で涙を流しながら、男のパーティーに加入することを了承せざるを得なかった。
「こちらの自己紹介がまだだったわよね?私はローラ、一応パーティーのサブリーダーを務めているわ。よろしくね」
「ヴァンだ。よろしくな」
「ウィルです。こちらはシロ。こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして俺は見習いとして帝国最強の冒険者テセウスが率いるSランクパーティー《黄金ノ獅子》に加入したのである。




