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28 新しい仲間

 セネシ村を跡にして五日、サンフォード領とオブライエン領を急いで抜けた俺は、アインホルン大山脈の浅層に入っていた。


 事前の情報だと、深層になると非常に強い魔物が生息しているらしいが、浅層であればエルドリッジ大森林と大して出現する魔物は変わらない。


 事実、大山脈に足を踏み入れてからというもの、まだゴブリンとしか遭遇していない。


 出会った瞬間に無詠唱の《雷撃》を放つことで対応できてしまうため、今のところは特に問題無く進むことができていた。


 心配していた食料については、野兎が冬眠に入っておらず姿を現していたため、《閃光》を使って視界を奪って捕獲し、セネシ村で食料とともに購入したナイフで解体することで、確保することができた。

 

 解体した兎肉を焚火で炙っていたところ、正面から草木が揺れる音が鳴っていることに気付いた俺は、咄嗟に《雷撃》の魔法陣を展開した。


 しばらく待つと、草木の隙間から手のひらサイズの白狐が顔を出した。


 姿形が可愛いからといって、いきなり攻撃されないとも限らないと思った俺は、魔法を構えたまま、じっと白狐を観察した。


 一方の白狐といえば、そんな俺の警戒をよそに、肉を焼いている焚火に近づいて来て、じっと兎肉を観察した後、俺に向かって甲高い声で鳴いた。


 しばらくの間、白狐を警戒する俺と、可愛らしい鳴き声をあげる白狐の時間が続いた。


 なんとなく、白狐が肉を欲していることを理解したため、どうするべきか考える。


 ――――貴重な食料であるため、野生動物に分ける余裕など無いという考えと、こんなに愛らしい生き物を見捨てて良いのだろうかという葛藤が俺を苦しめた。


 最終的に白狐の魅惑に敗けてしまい、焼いた兎肉を分けることにした。


「ほれ。貴重な肉なんだからちゃんと味わって食えよ」


 焼いていた兎肉の三分の一をナイフで切り分けた俺は、それを白狐の方向へ投げた。


「キュゥゥゥゥ――――」


 興奮した様子の白狐は、一目散に投げられて兎肉にかぶりつき、あっという間に平らげてしまった。


 そんな白狐の様子を見ながら自分も兎肉を食べていると、自分が久しぶりに心の底からリラックスすることができていることに気付いた。



「お前、本当にこのまま俺についてくる気か?」


「キュイ」


 心地よいのか、白狐は俺の頭の上に居座りながら短い鳴き声で問いかけに返答した。どうやら人間の言葉をある程度理解しているようである。


 この白狐と出会ってから三日経過したが、餌付けしたことで懐かれてしまったらしく、俺の後をずっとつけてきた。


 食事のために休憩するたび、出会ったときの様に肉を懇願してくるため非常に煩わしいが、俺もこの白狐に愛着が湧いてきてしまっているため、仕方なく肉を分けてしまっている、ということを繰り返し今に至る。


「はぁ。これは今日も野兎狩りが必要だなぁ。見つかるといいけど......」


 白狐のせいで肉の消費量が増えているため、当初想定していたよりも多くの食料が必要になるが、深層に進むにつれて見かける野兎の数が減っていた。


 遭遇する魔物の強さが上がり、弱い野兎が生息しにくい環境になっているためだろう。


 食料の心配をしながら注意深く歩みを進めていると、地響きのような音が徐々に近づいてくることに気付いた。


 おそらく大型の魔物であるため、戦闘には入るか身を隠してやり過ごすか、迷った末に先制攻撃で撃退することに決めた。


 ここまでの道程で出てきた中でも比較的強いオークのような魔物であっても《雷撃》の一撃で倒せていたため、今回の魔物も魔法で奇襲すれば大丈夫であると判断した。


 足音の方向に目を向けると、身長五メートルは超えるであろう巨大な体躯をもつ、一つ目の巨人がこちらに気付き、全速力で駆けて来た。おそらくサイクロプスと呼ばれる魔物である。


 巨人が近づいて来ることに緊張を感じながらも、俺は《雷砲》をサイクロプス目がけて放った。


 一直線にこちらへ向かってきたサイクロプスの正面から直撃した《雷砲》は、俺の予想とは裏腹に、見えない何かに弾かれた。


「またそれかよ!」


 王都の脱出から今まで二回、正体不明の何かに魔法を阻まれてきたが、その攻略法はいまだに編み出せていない。


 サイクロプスが迫る中、俺は点として攻撃力が高い《雷槍》をサイクロプスに放ったところ、完全に弾かれることは無かったが威力が大きく減衰してしまい、大したダメージを与えることができなかった。


「ウゴォォォォォ」


 俺の元まで到着したサイクロプスが手に持った棍棒を大きく振り上げ、振り下ろした。


 万事休すか――――そう思った刹那、サイクロプスの頭が横に大きくずれた。


 棍棒を振り上げた状態で動きを停めたサイクロプスは、頭が上下に切断されると同時に、崩れ落ちてしまった。


 一体何が起きたのか理解できなかった俺は、周囲を見渡すと白狐がぴょんぴょん跳ねながら喜んでいた。


「......もしかしてお前がやったのか?」


「キュイ!」


「そうか。助かったな。まさか風魔法が使えるとか思っていなかった」


 ドヤ顔で自分の功績をアピールしてくる白狐に俺は感謝の言葉を述べながら、こんなに強力な風魔法が使えるのであれば自分で餌を確保してくれよ、と思った。



「『お前』、じゃあ不便だな。名前を付けてやるか」


 サイクロプス討伐から三日、おそらくアインホルン大山脈の深層を抜け、帝国側の浅層に出たころ、白狐がこのまま帝国まで着いて来るつもりであるということを察した俺は、名前を付けることにした。


「うーん。白いしフワフワだからシロでいいか」


「キュイキュイ!」

 

 自分にネーミングセンスがあまり無いことを自覚しているため、身体的特徴から安直な名前を提案したが、シロは気に入ったようである。


「それじゃあ、あと一日か二日で帝国に到着することだし、もう少し頑張って進みますか!」


「キュイ!」


 疲労困憊の自分自身を鼓舞したつもりで発した言葉であったのだが、新たに仲間になったシロが元気よく反応してくれたことが、自身をさらに鼓舞してくれたことを実感した。

 ここまで読んで下さりありがとうございました。

 これにて第一章アルカイオス王国編は完結です。


 第二章エルマンガルド帝国編は一日か二日開けて、閑話を複数投稿してから開始する予定ですので、続きが気になる方はブックマークや評価をお願いいたします。

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