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24 王都からの脱出

 吐き気が収まってきていることを感じた俺は、遺体に向けて一度手を合わせた後、立ち上がり地下牢の外に出た。


 周囲を見渡すと、騎士の姿が見えない。来る時にはあまり把握できていなかったが、この地下牢は王城の中でも離れた場所にあるようで、騎士たちが詰めている場所もここから距離があるようだ。


 恐らく囚人が脱走した時にすぐ王城に侵入できないようにリスクを減らした結果だろう。アグナル殿下が忍び込むことができたのも納得である。


 空を見上げると、雲一つ無い快晴で満月が輝いていた。久しぶりに地上に出た俺にとって、月明りでさえも眩しく感じた。


 西門へ向けて走り出そうとした俺は、目の前に王城があることを気づき、立ち止まり睨みつける。


「......いつか......必ず......」


 俺は国王への復讐を誓い王城の前から立ち去った。



 西門へ走りながら、俺はここからどう行動するか迷っていた。


 騎士に発見されずに地下牢から脱出できたのは良いことだが、兄さんと姉さんを逃がすために王都内で暴れるという役割がある俺にとっては、仕掛ける場所の選択ができるということである。


 当初の想定では地下牢を脱出した段階で騎士に発見され、そのまま逃げつつ王都の中で適度に暴れる予定だったので、自分が暴れる状況を選べるとは思っていなかった。


 迷った末に、俺はとにかく王都の西側に移動することで、ある程度西門に近い場所でかく乱できるようにした方が良いと判断した。


 ある程度いい場所を発見したら、適当に騎士へ難癖を付けてから戦闘を始めればいいか、と考えていると大きな建物が目に入った。


 『王立騎士団王都西支部』と書かれたその建物は、夜間にも関わらず内部から光が漏れていた。


 ――――いっそのこと、騎士団の支部を奇襲してしまうのも一つの手か、と思った俺は、入り口を警護している騎士二人を観察する。


 やる気なく入口の前に立っている二人は、雑談しつつ欠伸をしており、警戒心の無さが見て取れた。


 二人を攻撃して奇襲することは容易だが、問題は内部にいる騎士の人数が分からないという点である。


 現状俺が使える雷魔法は《閃光》《雷撃》と中級雷魔法の《雷槍》《雷砲》の四種類。


 比較的広範囲を攻撃可能な《雷砲》であっても攻撃範囲は五メートル以下であるため、せいぜい三人程度しか同時に攻撃できない。


 そのため、二から三人ならばともかく、それ以上の集団との戦闘になってしまうと魔法での攻撃が間に合わなくなる可能性がある。


 流石に騎士団の支部を攻撃するのは無理があるか、と諦めかけたその時、あるアイディアが頭の中に浮かび上がった。


 ――――詠唱も触媒も必要としないのであれば、複数の魔法を同時に発動させることも可能なのでは?


 通常であれば触媒の表面に魔法陣を展開して、詠唱を唱えるというプロセスを得てようやく魔法が発動するため、複数の魔法を一人で発動することは困難である、というのが定説だ。


 しかしながら、俺の場合はその二つの制約が無く、魔法陣だけで発動可能なため、空中に魔法陣を展開してしまえば、複数の魔法を同時に使うことができるのではないか。


 騎士団の支部を襲うかどうかは入口を警護している二人を別々の《雷撃》で倒すことができるかを確かめてからでも遅くないと判断した俺は、魔法陣を二つ空中に展開した。


 先程まで騎士を殺めてしまったことに罪の意識を感じていたことが嘘のように、あっさり二人の騎士を攻撃する判断を下した自分に驚きつつも、俺は二つの《雷撃》を発動した。


 立てた仮説の通り、二つの魔法はあっさり同時に発動し、五十メートルほど先で油断していた騎士二人を襲った。


 甲高い音と共に《雷撃》が直撃した二人の騎士は、体から蒸気を発しつつその場に倒れた。


 《雷撃》の放つ轟音に気付いたのか、支部の中から次から次へ騎士が外に出てくる。


 その様子を黙って観ているはずも無く、俺は《雷砲》の魔法陣を三つ同時に展開し、騎士たちに向かって放った。


 《雷撃》以上の轟音とともに支部の入り口から姿を現したばかりの騎士十人以上が三つの《雷砲》によって吹っ飛んだ。


「正面に雷魔法使いが居るぞ!入口から出るな!裏口から出て、散開しつつ包囲しろ!」


 入口から素直に出てくれればそのまま雷魔法で攻撃するだけで良かったのだが、騎士たちも学習したのか、裏口から回ってきて包囲する作戦に切り替えたようである。


 包囲されては面倒なことになると判断した俺は、一発大きな攻撃をしてから逃げることを決断した。


 騎士たちが正面の建物内から出てこない以上、直接攻撃することは困難であるため、十個の《雷砲》を展開した俺は、それを支部の建物にそのまま放った。


 様々な場所に《雷砲》を受けた建物が瓦解を始めたことを確認した俺は、すぐにその場から走りだした。


「いたぞ!あそこだ!まだ小さなガキだぞ!」


 支部が崩れる前に建物の裏口から出ていた騎士たちが、走って正面まで回ってきたのか俺の姿を発見してそう叫んだ。


 このまま西門を目指しても良かったが、まだ兄姉が脱出するための時間が十分稼げていないと感じた俺は、しばらく市街地内を逃げ回りながら騎士を個別に撃破して混乱させることにした。



「北の方角に逃げたぞ!」


 騎士たちが俺を捜索する声を聴きながら西門近くに位置した市街地の路地裏に身を隠しつつゆっくり移動していた。


 騎士の支部を攻撃してからおよそ四時間程度経過しただろうか?


 少数で行動していた騎士たちを魔法で攻撃し囲まれる前に逃げる、ということを何度も繰り返したことで、疲労が限界を迎えようとしていた。


 そろそろかく乱も十分であると判断した俺は、発見されないように西門へ移動している。


 足音を殺しながら歩いていると、西門が徐々に姿を現し、それを観た俺はこれからどうするべきか途方に暮れた。


 西門には、軍の魔法団を意味する金の外套を纏った魔法使いが三人居たのである。



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