21 失意の中の訪問者
――――どうしてこんな事態になってしまったのだろうか。
――――俺がもっと先の展開を予想して動いていれば、父さんもアンドレ兄さまも命を落とすことにならなかったのではないか。
ずっとそんな自責の念に駆られながら、俺は騎士たちを魔法で攻撃して脱出するべきだったかもしれない、と考えていた。
騎士たちのほとんどは平民出身であり、魔法を使える者は本当に限られると聞いたことがある。
おそらく魔法を使えるのがほとんど貴族に限定されるがゆえに、平民に対する治安維持を目的とする騎士には、魔法が使える必要性が低いのだろう。
魔法も使えない騎士相手であれば、触媒も詠唱も必要としない今の俺であれば三人程度、容易に制圧できただろう。
だが問題は、残りの家族の状況が良くわかっていないということである。
まず、自分が捕まったタイミングでサンフォード領に滞在していたはずの母さんが、どういった状況か予想が難しい。
父さんだけ王都に来ており、捕まって処刑されてしまった可能性もあるため、母さんの状況が読めない。
ライセル兄さまとエレオノーラ姉さまは王都の学校に滞在していたため、俺と同じく身柄を拘束されている可能性が高い。
もし俺があのタイミングで自分の衝動に任せて騎士たちと攻撃し、逃亡に成功したとしても、捕らえられているはずの兄姉の処遇は大変なものとなっていたはずである。
そういった意味では、油断した騎士たちを攻撃しなかったのは正解かもしれない。
だが一方で、このまま地下牢に留まっていても、状況が好転しなければサンフォード家全員処刑されてしまう可能性は高い。
そうなってしまった場合は、騎士たちの顔が暗闇で良く観えなかったため後から探し出すことは難しく、連中に復讐する機会を逃してしまったことになる。
そんな思考が終わりなく頭の中をぐるぐると回っていると、石段を下る足音が複数聞こえてきた。
違和感を覚えたのは明らかに一団の足音が小さく、周囲から身を隠していることが予想できる。
金属鎧の音が無く、足音を隠す理由が無いため騎士ではないだろうが、念のため俺はいつでも魔法で攻撃ができるように心の準備をした。
「グラン、安心してくれ。私だ。」
暗闇の中、近づいてきた一団の主はアグナル殿下だった。
◇
牢に近づいて来た一団は四人、アグナル殿下、アル、ライラ、そして二十代から三十代の若い男性が一人。
アルとライラはアグナル殿下にお願いして面会に来たのだろうか?
アルは俺の顔を見るや否や瞳に大粒の涙を浮かべて泣き出してしまった。
「グラン、ごめん......」
開口一番アルは俺に謝罪してきた。おそらく今回の一件の原因が自分にあると罪悪感を抱いているのだろう。
「アル、君が気に病む必要はない。君はお父さんの質問へ素直に答えただけだろう?」
アルは涙を腕で拭いながら頷いた。
「今回の件、発端はフィゲロア男爵が父上に情報を流したことだ。アルフォンス君の父君は積極的に私の父に情報提供したわけではなく、伯爵という立場上、父に協力せざるを得なかったのだ」
アグナル殿下はアルを慰めつつ、今回の件の発端となった人物が誰であったかを俺に伝えた。
「......やはり首謀者はフィゲロア男爵と陛下だったのですね」
「ああ、これは父上に直接確認したので間違いない。ブランディス伯爵は父上の要請で仕方なく情報提供に協力したようだ」
もし仮にここから脱出できた場合、国王とフィゲロア男爵には絶対に復讐することを俺は心の中で誓った。
「ライラ、来てくれてありがとう」
「別に、三人がグランに会いに行くというからついでに付いて来ただけよ!」
俺の感謝の言葉に照れたのか、そう言ってライラはそっぽを向いてしまった。
ライラから目を離し、気になっていたもう一人の男性に目を向けると、彼は自己紹介を始めた。
「グラン君、始めまして。私はライラの父のガンター・アントネッリだ。一応ガントネッリ公爵家の当主で軍の魔法団団長も務めている」
挨拶してきた男性はなんとライラの父親であった。
公爵家の当主かつ軍の魔法団団長という大物であるにも関わらず、伯爵家三男の俺に対して非常に腰が低いことからも、人格的に優れた人物であることが予想できた。
ライラに似て非常に整った容姿をしており、背が高く非常に若々しいため実年齢が分からない。
「グランディス・サンフォードです。ライラさんにはいつもお世話になっています」
挨拶を返しながら俺はアグナル殿下に目線を送ることで、アントネッリ公爵をこの場に連れてきた意図を問うた。
「ガンター卿は君たちの亡命を手伝いたいと申し出たのだ。どうやらアレクサンドラ様に恩があるようでな」
「亡命ですか......」
そういった強硬手段でないと命が助からないほど状況が悪いということか。
だが、未来の話をする前に、一体何が起きたのかを質問するべきだろう。
「その話に移る前に、父さんとアンドレ兄さまに何が起きたのか、詳細を教えて下さい」
「......そうだな。ここに私たちか長時間留まる訳にはいかないので簡潔に説明すると、どうやら父上は随分前からサンフォード家に難癖を付けて陥れることを計画していたようなのだ。
ブランディス卿を捕らえてからの三日で裁判を行い処刑など、異例中の異例だ。裁判官や貴族を予め抱き込んでいなければここまでスムーズにいかないだろう」
「ということは、すでにサンフォード家を粛清しようと計画していた陛下のところに、フィゲロア男爵が丁度良いネタを提供した影響であっという間に処刑まで進んでしまったということですか?」
「ああ、その理解で間違ってない」
自分が想像していたよりも、サンフォード家の置かれた状況というものが厳しかったということか。
「私もサンフォード家を裁くために時間をかけると予想していた......。完全に読み違えてしまった」
友人を救えなかった悔しさを表情に浮かべながらアグナル殿下は説明を続けた。
「君が一緒に裁かれなかったのは、中央広場での公開処刑にするにはあまりに幼いからだろう。
アレクサンドラ様を王都におびき出すための餌としての意味合いもあるが、それは捕らえられている他の二人でも事足りるからな」
「母さんはまだ捕まっていないのですね」
「ああ、ブランディス卿は単身で王都へ来ていたところを捕縛された形になったので、アレクサンドラ様はサンフォード領に残っていて、まだ身柄を抑えられていない」
「兄さまと姉さまもこの地下牢に捕らえられているのですか?」
「ああ、ここは非常に広い構造になっているので、距離を離して収容されているはずだ」
やはり、ライセル兄さまとエレオノーラ姉さまも捕らえられているようである。
俺は単身脱出を試みなかった選択をしなかったことに安堵した。
「教えて下さりありがとうございます。では、先ほど説明しかけていた亡命の計画についてお願いします」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価やブックマークをしていただけると今後の執筆の励みになります!




