19 逮捕の真相
「裏切ったということは白熱電球の件を国王陛下に漏らした、ということでしょうか?」
「ああ、その理解で間違っていない」
白熱電球の一件が火種となっていることは分かるが、それとサンフォード家の内乱罪の容疑の関連が見えない。
「両家が父上に情報を提供したことが発端なのは間違いない。だが、根本的な原因はアレクサンドラ様の人気が原因なのだと思う」
「母さんの人気、ですか......」
「アレクサンドラ様が二十年前のエルマンガルド帝国との戦いで大活躍されたことは知っているだろう?
実はあの戦争は当初、王国側がかなり劣勢だったのだ。
国民も敗戦が濃厚であると察し始めた時、アレクサンドラ様が頭角を現し、戦局が大きくひっくり返すことに成功したのだよ」
あまり興味が湧かなかったため調べていなかったが、二十年前の戦争における母さんの貢献度は俺が想像しているよりも高かったらしい。
「王家としても、戦争中は軍全体や国内の士気を上げるため、平民出身の雷魔法使いが英雄的な活躍をしていると国民へ大々的に喧伝した。
あまり知られていないことだが《雷鳴のアレクサンドラ》という二つ名も、王家が彼女の活躍を宣伝するために命名したものなのだ」
王家は母さんを戦争で闘うための純粋な戦力としてだけではなく、プロパガンダにも利用したということか。
「結果として、この戦略がハマって勢いに乗った王国軍は、帝国軍の戦線を大きく押し返すことに成功した。
我が国に侵攻していた帝国軍は押し切れないことを悟って撤退し、形式的には王国の勝利という形で戦争は幕を閉じた。
王家としては勝利を掴み喜ばしい結果を得られたのと同時に、アレクサンドラ様という平民から圧倒的に支持される英雄を作り出してしまったことに頭を悩ませることになった」
アグナル殿下の話を聞いているうちに、今回の顛末の原因がおおよそ見えてきた。
おそらく平民出身という母さんの出自が、王家が当初想定していたよりも母さんの平民人気を押し上げてしまったのだろう。
「アレクサンドラ様が平民のままであれば、多少人気が高くとも問題にはならなかっただろうな。人気はあれども平民のままであれば王家の権威に対する影響は少ない。
しかし、残念ながら彼女はサンフォード家次期当主と婚約してしまい、貴族家の一員となってしまった」
母さんが平民の居てくれるのであれば、万が一にも王家の威信を揺るがすような存在には成りえないということだろう。
裏を返せば、母さんが貴族となってしまい、人気に加えて一定の権力と財力を得てしまうと、将来的に王家を脅かす国内勢力になってしまう恐れがあるということだろう。
「王家としてはこれを阻止するべく、アレクサンドラ様に父上の側室に入る提案をしたそうだが、あっさり断られてしまったと聞く。
当時子爵だったサンフォードを伯爵に上げ領地を増やしたのも、アレクサンドラ様の活躍に対する功績として致し方無かったとはいえ、王家としては苦渋の決断だったらしい」
三男として育てられた俺はサンフォードの歴史を教育されていなかったので知らなかったが、母さんが嫁いで来る前は子爵家で領地も今より狭かったということか。
「特にここ数年は帝国との小競り合いも増えていて、再び大きな戦争が始まるのでは、という不安が平民の間で流れていて、アレクサンドラ様の軍への復帰を願う声も大きいのだ」
二十年前は母さんが居なければ敗北が濃厚だった相手に果たして母さん抜きで勝てるのか、という疑問はあるが、それはそれとして母さんを含むサンフォード家の存在が王家にとっては邪魔なのだろう。
「国王陛下が、というより王家が母さんの存在を理由にサンフォード家を排除したいということはわかりました。
でも、電球開発を普及させようとしたことから内乱罪をでっちあげるのは、いくら国王陛下でも無理があるのではないでしょうか?」
社会にとって有用な道具を普及させることと、内乱罪で処罰することの間には全くつながりが無いはずである
これでサンフォード家を処罰すること、王権の乱用にあたるとして他の貴族たちが反発するはずだ。
「電球の開発という情報だけだったら無理だろうな。けれどもオブライエン家とフィゲロア家から父上に渡された情報はそれだけでは無かったのだ。
サンフォード家が現状ほぼ貴族に独占されている魔法を、平民にも広く普及させようと画策している、という情報だ」
「そんなことサンフォード家は考えていま――――」
アグナル殿下の発言を否定しようとした俺は、思い出してしまったのだ。
初めて白熱電球の試作品をテストしたあの日、成功の喜びに浸りながらライラと交わした会話を。
俺は確かに、『いずれは平民にも魔法を公開するべきだ』と発言してしまった......。
アルもしくはディオを通じてその発言がそれぞれの家の当主にまで伝わってしまったということだろうか。
俺は二人に対する怒りに支配されつつも、冷静にアグナル殿下と会話することに努めた。
「その様子だと何か心当たりが有るようだな」
「......私の個人的な意見が、アルかディオを通じて伝わってしまったのだと思います。
......サンフォード家として魔法を平民に広めようという思想は無いはずです」
サンフォード家が貴族の特権として有する魔法の情報を、平民たちにも公開する動きをしていたとなれば、他の貴族たちも国王陛下に追従してサンフォード家を糾弾するだろう。
自分が想定していた以上に非常にまずい状況であることは理解したが、まだ分からない点がある。
「では、アンドレ兄さまにも内乱の容疑がかけられているのは何故でしょうか。
当主の父さんと、王家にとって都合が悪い存在の母さんに国王陛下が罪を被せようとするのは分かりますし、白熱電球を開発した自分にも容疑がかかるのは理解できます。
でも、アンドレ兄さまは関係無いはずです。次期当主という理由で罪を被せようとしているのでしょうか?」
この質問にアグナル殿下は悔しそうな表情を浮かべながら答えた。
「......アンドレには君たち三人を指揮して白熱電球を開発させた名目で罪を問うつもりらしい。
上級魔法学校から魔法創作に関する書籍を盗み出して情報を君たちに渡していたという情報が挙がっていると聞いた。信じ難いことだが彼の部屋から盗み出した本が発見されてしまった」
父さんと母さんだけではなく、次期当主であるアンドレ兄さまも首謀者の一員とした方がでっち上げた内容に信憑性が出ると国王陛下は考えたのだろう。
俺が兄さんに協力してもらい魔法を創ったこと、そして平民に魔法を普及させるという思想を俺が持っていたこと、その二つを知っているのはアルかディオしかいない。
「オブライエン家とフィゲロア家、どちらもサンフォード家を陥れるために国王陛下に情報を提供したということは何かしらの因縁があったのでしょうか?」
「自分が知る限りでは、オブライエン家とサンフォード家の関係は過去を遡っても良好なはずだ。進んで父上にサンフォード家を陥れるような提案をするとは考えにくい。
サンフォード家を陥れる動機を客観的に持っているのはフィゲロア家だな。元々フィゲロア家に渡されるはずだった土地を、サンフォード家に横取りされてしまった形だからな」
母さまが嫁ぐことで王家から賜った土地は、元々フィゲロア家が拝領するはずだったもので、アグナル殿下の見解では、その恨みを今でも持っていておかしくないとのこと。
「私としては、来る帝国との戦争にはアレクサンドラ様の御力が必要であると考えているし、何より親友であるアンドレを助けたい。
何とか最悪の事態だけは回避するよう尽力することを約束するので、今はここで耐えて待っていて欲しい」
「承知いたしました。アグナル殿下、ご協力感謝申し上げます」
サンフォード家にとっての不幸中の幸いは事情を理解して手を差し伸べて下さるアグナル殿下の存在だろう。
―――この時の俺は、非常に厳しい状況であるにも関わらず、アグナル殿下が動いて下さることで楽観的になっていた。そうでなければ、牢に閉じ込められたまま無為に時間を過ごす、などといった愚行は犯さなかっただろう。
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