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17 一つの疑問とお披露目会

 白熱電球の試作品を無事完成させた俺たちは、それぞれの父親宛に手紙を書いて事情を報告し、長期休暇中のお披露目会をセッティングすることに成功した。


 長期休みに入った俺たちは一度自分たちの領地に戻り、一月の中旬にサンフォード領にて新年の挨拶を兼ねたお披露目会を開催することになった。


「まだお披露目会が始まってもいないのに緊張しているの?グランは可愛いわねぇ」


 エレオノーラ姉さまが俺の緊張を察してか、話しかけてくれた。


「仕方がないだろう。友好関係があるとはいえ、オブライエン家とフィゲロア家の当主を呼んでデモンストレーションをするんだ。

 失敗したら大変なことになるし、誰でも緊張するだろ」


 次兄のライセル兄さまは俺をフォローしようと発言したのだろうが、逆にプレッシャーをかける発言を自分がしていることに気付いていない様子である。


「そろそろ両家が到着する。二人とも口を慎め」


 緊張して口数が少なくなっている俺をよそに駄弁っている二人を長兄のアンドレ兄さまが窘めた。


 俺たち四人は屋敷の玄関にて到着予定のオブライエン家とフィゲロア家を出迎えるために待機をしていた。


 もちろん玄関にずっと待機していたわけではなく、使用人が両家の馬車を屋敷の上階から視認してからこうして準備をしている。


 おそらく護衛と思われる二つに挟まれた豪勢な装飾を施された馬車が屋敷の前に到着すると、続けてもう一組同じような車列が百メートルほど距離を開けて進んできた。


 こちらの対応の手間を考えて時間を合わせて到着してきたのか、道中偶然一緒になったのか定かではないが、オブライエン家とフィゲロア家が同時に到着した。


 両家の馬車が停止すると、中からオブライエン夫妻とアル、そしてフィゲロア家当主であるセイデン・フィゲロア男爵とディオがそれぞれ出てきた。


 オブライエン伯爵は前回アルと俺を見送りに来た際も妻を連れて来ていたが、母さんと仲が良いことが理由らしい。ママ友に近い関係なのだろうか。


「ティベール、セイデン、二人とも久しぶりだな。良く来てくれた。道中寒かっただろう。早く中に入ってくれ。皆様も遠慮なく中へどうぞ。」


 俺たち四兄弟の前に立っていた父さんが両家を出迎え、屋敷の中へ案内した。


ティベールがオブライエン伯、セイデンはフィゲロア男爵の下の名前で三人は旧知の中らしい。


 移動中にアルとディオに声を掛けようか迷ったが、少し距離がある二人のところまで駆けて近寄るのも憚られたので、軽く手を振ることに留めた。



 父さんに屋敷内へ案内された一行は、食堂に通され少し遅い昼食を摂ることとなった。


 大人五人と子供六人、別々のテーブルに分けられたので俺たちは子供どうし談笑しながら楽しく食事をすることとなった。


 アルは何度かサンフォード領に遊びに来た経験があるため、俺たち兄弟とは面識があったが、ディオは初めてなので初対面である。


「......ディオクレス・フィゲロアです。ディオって呼んで下さい......」


 初対面で年上の三人を前に緊張している様子のディオを横目に、大人たちが座っている別テーブルに目を向ける。


 ふと疑問に思ったのは、ディオの父であるフィゲロア男爵と父さんはオブライエン伯爵を含めて旧知の仲らしいが、フィゲロア男爵家とサンフォード伯爵家の交流が少ないのは何故だろう?


 オブライエン家とは年に二回ほど毎年お互いの領地を訪問して食事会を開いており、かなり友好関係が強いことが伺えるが、フィゲロア男爵とそのような交流をした記憶が一度も無い。


 そういえば、俺は貴族学校でディオに会うまで『フィゲロア』という家を聞いたことが無かった。


 この交流の少なさは両家の交流が歴史的に少なかったのか、それとも伯爵家と男爵家という貴族としての立場の違いに起因するのか、俺には判断がつかなかった。



「では、グラン達が開発したという白熱電球というものを皆で見に行くとしようか」


 昼食を終えてお互いのテーブルの話が落ち着いてきたころ、父さんが立ち上がり別室に移動するように案内を始めた。ついに試作品のお披露目をする時間である。


 俺たち三人は緊張した面持ちで白熱電球の試作品が準備してある客間へと移動した。


 今日のために、俺はサンフォード領に戻ってから毎日のように動作確認をしてきたので、失敗する可能性は非常に低いと分かっている。


 俺は自分の緊張を和らげるため、デモンストレーションの経験が少ないから不安なのは仕方がないことだ、と自身に言い聞かせた。


「ではグラン。説明を頼む」


 客間に到着すると、事前に相談した通り、父さんは俺に場の主導権を渡してきた。俺は頷くと、説明を始めた。


「三男のグランディス・サンフォードです。

 今回紹介する白熱電球は私とアルフォンス、そしてディオクレスの三人で開発したものですが、本日は三人を代表して私が説明いたします。」


 挨拶をしてから一礼して、早速本題の白熱電球の説明に入る。


「大まかな内容はアルフォンスとディオクレスから耳に入れていると思いますが、こちらの白熱電球は既存のランプよりも強い光を発することができます。

 説明するよりも実際に観ていただいた方が早いでしょう」


 俺は使用人に指示を出し、客間のカーテンを閉めさせた。


完全な暗闇にならないよう、複数のランプと燭台にはすでに火が灯されている。


『我、天より(いかづち)を賜る者なり。轟く者よ 我に継続せし(あかり)を与えたまえ。《放電》』


 使用人たちがカーテンを閉めている間に魔法陣を準備していた俺は、暗くなったと同時に白熱電球が可能な限り明るくなるようにイメージして詠唱を唱えた。


 瞬間、白熱電球が眩く発光し、その暖色の光が部屋を包み込んだ。


「おお......」

「―――これは聞いていた以上だな......」


 オブライエン伯爵とフィゲロア男爵の様子を窺うと、事前に息子たちから報告を受けているにも関わらず白熱電球の放つ光に圧倒されていた。


 かなりの好感触に心の中でガッツポーズをしつつ、俺は白熱電球の説明を続けた。



 結果としては、白熱電球のお披露目会は大成功であった。


 デモンストレーションに感銘を受けたオブライエン伯爵とフィゲロア男爵は、俺の説明を一通り後、すぐさま父さんと今後の方針についての相談を始めた。


 おそらく商品化や量産体制の確保、販路や利益の分配の相談だろう。


 俺もその話に加わりたかったが、交ぜろと言っても無理なのは目に見えているため、アル達とプレゼンの成功を祝っていた。


「グラン、お披露目会が無事終わって良かったよ」


 喜んでいる俺たち三人にアンドレ兄さまたちが祝福の声をかけてきた。


「アンドレ兄さまが協力してくれなかったら、白熱電球の完成は何年も先になっていたと思います。ありがとうございます」


「しかし、半年前まで《雷撃》が使えず困っていたグランが、こんなモンまで作っちまうとは、とんでもねぇな」


「グランったら近くに住んでいるのに、これの開発に夢中でちっとも会いに来てくれなかったし、お披露目会が成功したのは喜ばしいけれど、お姉ちゃんはちょっぴり複雑」


 ライセル兄さまとエレオノーラ姉さまは共に中級魔法学校に通っているため、会おうと思えば会える距離に住んでいる。


 どうやら白熱電球の開発ばかりで、こちらから顔を出しに行かなかったことを彼女は不満に思っているらしい。


「すみません、エレオノーラ姉さま。今年はこまめに会いに行きます」


 軍に入る以外の就職先を作り出すための第一歩としては順調な滑り出しに、俺はこの時心の底から安堵していた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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