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16 試作品の動作試験

 試作品完成を計画していた十二月まであと一週間に迫った日の朝、最初の授業が始まるギリギリのタイミングで俺は急いで教室に入った。


「グランが遅刻しそうになるなんて珍しいね」


 隣の席に座っているアルが授業を始めたセザール先生に気付かれないよう、小さく声をかけてきた。


「ああ、今日は朝まで魔法の開発に熱中してしまっていたんだ。でも、おかげで完成したよ」


「完成した、ってもしかして白熱電球用の魔法が遂にできたのかい!?」


「ああ。二人を待たせて悪かった。放課後、ディオの部屋に集合して試作品の動作確認をしよう」


 俺は親指を立てながらアルに放課後集まるように伝えた。



 ディオの部屋に集合した俺、ディオ、アルの三人はライラの到着を待っていた。


 三人で白熱電球の試作機を準備していると、ノックの音が鳴った。ディオがドアを開けると、ライラが入ってきた。


「お待たせしたわね。で、『雷魔法の可能性を見せる』という約束だったけれど、一体何を見せてくれるのかしら?」


「まずは来てくれてありがとう。今日は雷魔法を使った《新しいランプ》をお披露目したいと思っているんだ」


 《新しいランプ》という説明にライラはあまりピンと来ていないようだった。


「雷魔法で動作するランプをわざわざ作る必要があるのでしょうか?」


「一つはこの白熱電球は既存のランプみたいに燃料を必要としないんだ。設計上では、魔法を一度かければ数百時間は部品の交換せずに光るはずだよ」


「数百時間!?」


 ライラは驚くのも無理はない。既存のランプはオイルの量で持ち時間が左右されるが、一日以上持つものはおそらく無いだろう。


「もう一つ理由があるんだけど、それは実際に観てもらった方がわかりやすいかな。

 一応断っておくけど、俺たちも実際にこれを動作させるのは初めてだから、失敗する可能性もあるんだよね。成功しなくても怒らないで欲しい」


「別に怒りはしないわよ!!失望はするだろうけどね。

 ―――っというか、動作に成功してから私を呼びなさいよ!」


「俺たちもそう言ったんだけど、グランが最初の動作テストにライラも呼びたいって言うことを聞かなくて......」


 失敗してライラの時間を無駄にした時が怖いと思ったのか、アルが彼女に言い訳を始めて俺に責任を押し付けてきた。


「一回光らせることに成功しても二回目にアクシデントが起きてうまく光らない可能性もある。まだ試作段階で、システムとして不安定だからね。そうなったら結局ライラに無駄足を踏んでもらうことになる。

 まあそれは建前で、本音は白熱電球開発成功の感動をライラとも共有したいからなんだけど」


 製作過程を共にしていなくても、試作品初のデモンストレーションの成功に立ち会うというのは感情が動くはずである。


「......まあ、グランの言いたいことは何となくわかったわ。

で、肝心の試作品について説明してくれるのかしら?」


 ディオの方に目を向けると、彼は俺の意図を汲み取り、頷いてからライラに説明を始めた。


「装置の構造は比較的単純で、触媒となる魔力の込められた鋼鉄の塊に、銅線がつながっていて、その先は両方とも一本の炭化した竹の線に繋がっているんだ。

 グランが新しく開発した魔法で、低出力の電気を銅線に通してあげると、竹の部分が発光して光る仕組みになっている。

 竹の部分は光るときに熱くなるから、透明なガラスで光だけ通しているんだ」


「......なるほど。低出力の雷魔法を使って発光させるのね」


 細かい原理までは理解できないはずだが、ライラは感覚的に何をしているのか把握したようだ。


「グランが使う魔法はどういったものなの?《閃光》以外に相手を攻撃しない雷魔法は聞いたことないのだけれど」


「詳細は教えることができないけど、自分で開発したんだ。今までの雷魔法の運用思想とは全く異なる魔法だからね。

 高出力の電撃を対象へ向けて瞬間的に放つ《雷撃》とは対極の魔法設計で、低出力の電気を長時間流す魔法設計にしてあるよ」


「......自分で魔法を創った!?」


「上級魔法学校に通っている兄さまに協力してもらったんだ」


 実際は資料を送ってもらった以外は協力してもらっていないのだが、兄さま主導で開発したことにしておいた方が無難だろう。


「お兄さん......なるほどね」


「説明が終わったのなら早く動かしてみようよ!」


 アルが説明の長さに耐えられず急かしてきたが、俺としてもライラにこれ以上魔法について質問されても困っていたので、アルに便乗して試作品のテストを始める。


 通常魔法を発動させる時とは違い、この装置には触媒が組み込まれているため杖は使わない。


 触媒となる鋼鉄の塊に触れ、前回《閃光》で実験に失敗した時とほぼ同じイメージを自分の中で構築する。


 本当に最低限の弱い電力だけ銅線の中を流れるように、数ボルトの電圧をイメージした。


『我、天より(いかづち)を賜る者なり。轟く者よ 我に継続せし(あかり)を与えたまえ。《放電》』


 俺が詠唱を終えると、《雷撃》や《閃光》のように激しい音もなく魔法が発動した。


 白熱電球の方を確認すると、目視で見分けるのは困難だがフィラメントがわずかに発光している。



「何も起こらないじゃない。失敗ってこと?」


 白熱電球の放つわずかな輝きを認識できなかったライラがそう指摘した。


「アル、カーテンを閉じてくれ」


 部屋を暗くして外部からの光を遮断すれば他の三人にも光っていることが分かるはずである。


「本当に光ってる......」


「やったー。成功だー!!!」


 感動しているライラと喜びに浸っているアルをよそに、ディオは冷静に更なる明るさを試すことを提案してきた。


「グラン、もっと明るくできないかい?」


「もちろん。みんな、徐々に明るくする努力はするけどいきなり眩しくなるかもしれない。気を付けてくれ」


 開発した《放電》の魔法は長時間発動させることが可能な上、発動後に触媒から手を離していなければ出力電圧を変更することが可能な作りにしてある。


 俺は数ボルトで固定していた魔法のイメージを百ボルト程度まで徐々に上げていった。


 すると、それに比例して徐々に電球が明るくなっていき、最終的にはカーテンを閉じた部屋全体を明るく照らすことができるまでの光を発することになった。


「―――すごい」


 チラリと三人の方を窺うと、ライラが感嘆の声を漏らしていた。


 ディオとアルはそれぞれここ数カ月の自分たちの苦労が報われたと感じたのか、少し涙目になりつつ握手をしてお互いの健闘を称え合っていた。


「僕はね、ライラ。この白熱電球のような便利な道具を普及させることで、雷魔法が戦闘以外でも活躍できる機会を増やしたいんだ」


「これが世の中で当たり前の様に使われるようになれば、確かに雷魔法使いが活躍できる場面が大幅に増えそうね。

 むしろ社会の雷魔法使いの需要に対して供給が足りなくなりそうだわ。ただでさえ貴族の中でも雷魔法使いは比較的少数派なのに......」


「そうなった場合は平民にも魔法を公開すればいいんじゃないかな」


「平民に魔法を?」


「ああ、個人的な意見だけどね。今はほぼ貴族が独占している状態だけど、いずれは平民にも広く公開するべきだと思う。

 社会的な発展を望むのであれば貴族と平民関係なく適材適所に人員を配置するべきだよ。平民の中で魔法に優れた人材をもっと見つけ出せば、国としてももっと豊かになるはず」


「あなた中々変わった考えをしているのね」


 ライラがそう指摘するのも無理はない。俺がこうした考えを持つのは間違いなく前世での記憶が原因である。


「まあね」



―――何気なくライラと交わしたこの会話を、俺が生涯悔いることになるとは、この時夢にも思っていなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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