15 魔法に隠された秘密
オーク出現という予想外の事態によって生徒五人の犠牲者を出してしまった野外研修は、当然のごとく中止になった。
オークは今回の野外研修の実施場所となった《新緑の森》深層に生息している魔物で、研修を実施した浅層の中でも森の入り口に近い場所では過去出現した記録が無いらしい。
しばらく《新緑の森》は侵入禁止となり、国によって大規模な調査が行われている。
俺たちが王都エルドンへ向かう途中の街道でゴブリン達に襲われた一件は、結局原因が分かっていないらしいが、同様の現象が複数件、別の場所で報告されているらしい。野外研修の件と何か関係があるのだろうか?
また、貴族学校から生徒五人の犠牲者を出してしまったこともあり、学校の安全管理体制にも大規模な調査が入ることになった。
そのため、しばらく貴族学校が休校状態となり、授業が無い日々が二週間ほど続いていた。
時間ができた俺たちは、各々白熱電球の開発に勤しんでいた。俺は、アンドレ兄さまから毎週渡される魔法創作に関する資料を読みながら、先日の野外研修での出来事を思い出していた。
ディオがオークに蹴られそうになった瞬間、俺は詠唱をせずに魔法陣だけで《雷撃》を発動した。
アンドレ兄さまから貰った資料には魔法創作の基本として、魔法の発動原理が記載されていた。
そこには、詠唱とは魔法のイメージを固定化させるルーティンの役割がある、と書かれていた。
逆説的には、詠唱が本質的に魔法の発動に必須ではないということを意味しており、魔法のイメージさえできるのであれば、詠唱せずとも魔法の発動が可能とも解釈できる。
現に野外研修にて、俺は《雷撃》を無詠唱で発動できたので、この仮説は正解である可能性が高い。
ここで、もう一つの疑問が湧き上がってくる。触媒の役割とは一体何であろうか?
疑問に思った俺は兄さまからの資料に触媒に関する記述を探したのだが、不自然なほど記述が無い。
これは、触媒無しでも魔法が発動できることを示唆しているのではないかと仮説を立てた俺は、魔法陣のみで魔法使えるのか試すことを決めた。
休校中で魔法実習場が混みあっていることが予想できるので、自室にて野外研修前の授業で習った雷属性唯一と言ってもいい非攻撃魔法の《閃光》を使用することに。
《閃光》の発動に成功した場合は大きな音が出てしまうが、昼間で外出している学生や休校期間を利用して旅行や帰省している学生も多いので問題無いと判断した。
瞼を閉じ、いつもならば杖を出して先端の触媒に魔法陣を描くところを、今回は手のひらに魔法陣を描き、《雷撃》と異なり比較的低電圧で短い距離の放電現象を起こすことをイメージする。
目を開き、心の中で《閃光》の発動をイメージした瞬間、水道管が破裂したかのような高い爆発音と眩い光が手の先から発せられた。
この日、俺はこの世界の魔法に隠された秘密を一つ発見した。
◇
魔法陣のみで魔法発動に成功した次の日、俺は寮の食堂で昼食を摂っていた。おそらくこの世界の中では上等な食事だと予想できるが、前世の価値観を引き継いでいる自分からすると、味は中の下といったところか。
「グラン!ちょうどいいところにいた!探していたんだよ」
もっと美味しい飯を食べる方法は無いものかと思案していると、ディオを連れたアルが声をかけてきた。
「グランにお願いされた部品があらかた揃ってきたんだけど、試作品を作る前に何回か実験をしてみた方が良いんじゃないかという話をディオとしていたんだ。
グランの魔法開発の進捗次第だとは思うんだけど、どうだろう?」
自分の魔法開発に一杯一杯で他のメンバーの担当部分の実験について完全に失念していたが、実のところ魔法開発の方は順調で、完成するのも時間の問題である。
魔法の基本原理はおおかた理解できたので、あとは『低出力で長時間、安定して電流を流し続ける魔法』に最適な魔法陣を構築する段階に入っている。
魔法陣の構造はあらかた理解できているため、あとは具体的に魔法陣のどの部分をどう改造すれば良いかを把握するフェーズに入っており、アンドレ兄さまにお願いして魔法陣を構築する各種記号の一覧表を作成してもらっているところだ。
おそらくその情報が揃えば、一カ月もあれば白熱電球動作用の雷魔法が完成するだろう。
「まだ魔法が完成していないから実験するのは厳しいかも。ただ、魔法開発自体は比較的順調だよ。
来週アンドレ兄さんから貰う資料で必要な情報が揃うから、そこからひと月もあれば大丈夫なはず」
アルやディオが揃えた部品がきちんと機能するかどうか試したい気持ちはあるが、電気を流す手段が無ければ実験することは難しいだろう。
「そっかあ。いい提案だと思ったんだけどなあ」
気落ちしているディオを横目に、俺は何とか実験ができないか考える。
「―――あ、もしかしたら実験できるかも......」
先ほど二人の提案を却下したばかりの俺の急な思い付きに二人は目を丸くしてこちらを見た。
◇
俺たち三人は白熱電球の基礎試験を行うためにディオの部屋に集まっていた。
「白熱電球に特化した雷魔法はまだ準備できていないけど、既存の魔法で実験できるかもしれない」
「でも、既存の雷魔法だと出力が高すぎるんでしょ?」
アルは自分が準備した白熱電球のフィラメント部分に相当する炭化させた竹の棒に、ディオが準備した銅線を巻き付けながら指摘した。
「そうか、《閃光》の魔法か。あれは目くらまし用の魔法だから、《雷撃》よりも電気の出力が低いはず」
「ご明察」
ディオはどうやら俺が説明する前に気付いたようだった。
雷魔法の中でも最も電圧が低く設定されているであろう《閃光》の魔法を、効果時間を延ばして使うことができれば実験できるのではないかと考えたのだ。
アルが銅線を巻き付けたフィラメントを机の上に固定し、延びている反対側の銅線二本を俺は杖の触媒に貼り付けた。
「じゃあ、危険かもしれないから二人とも少し離れて」
俺は二人が離れたことを確認して、まずは自分の中の《閃光》のイメージを実験用に組み立てていく。
通常の《閃光》は指定した空間上の二点の間に電流を瞬間的に流すことをイメージしていたが、今回の場合は触媒に接触した銅線の二点に電圧をかけて、数秒間の間電流を流すことをイメージした。
イメージが固まった刹那、俺は魔法陣を描画して詠唱を始めた。
『我、天より雷を賜る者なり。轟く者よ 我に全てを照らす灯火を与えたまえ。《閃光》』
先程試した通り詠唱しなくても発動しただろうが、無詠唱魔法がどの程度知られているか分からない技術であるため、俺はあえて不必要な詠唱を行って《閃光》を使った。
瞬間、電流が流れた銅線とフィラメントは破裂音とともに弾け飛んだ。
「............」
突然の現象に戸惑う二人に、俺ははっきりと謝罪した。
「ごめん。どうやら《閃光》でも過剰な出力だったみたいだ。やっぱり専用の魔法を開発しないと、銅線もフィラメントも壊れてしまう」
「―――まあ、しょうがないさ。実験してすぐに上手くいくことなんて早々ないしね」
ディオのフォローに内心感謝しつつ、俺は追加で二人に指示を出した。
「壊してしまってすぐお願いするのは忍びないんだけど、この銅線と竹で作ったフィラメント、試作品のテストまでに太さで分けて何種類か作ってもらうことはできるかい?」
「わかった」
「もちろん」
二人の頑張りに報いるためにも、俺は白熱電球用の雷魔法の開発を急ぐのだった。
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