13 野外研修
「この研修の目的は、三日間自然の中で過ごすことで、自らの魔法を活かす場面がどれだけ多いのか、ということを理解することである。
それぞれの班には一名ずつ、上級魔法学校からのリーダーとなる生徒が付いている。諸君よりも魔法の経験が豊富なので、積極的に質問をすること」
ライラと魔法実習場で会話した三日後、俺たちは『新緑の森』と呼ばれる王都近郊の森に来ていた。
森の入り口付近の広場に集まった俺たちは、これから二泊三日で行われる野外研修についての説明を担当教員から受けていた。
説明をしていた教員の話を聞きながら、俺は貴族学校の生徒が整列している横の集団に目を向けた。上級貴族学校の生徒が整列している中に、アンドレ兄さまを見つけたのである。
しばらくアンドレ兄さまをチラチラ見ていると、彼もこちらに気付いたようで目が合ってから手を振ってくれた。
アンドレ兄さまが来ているということは、今回俺たち貴族学校の一年生四人の班に、上級魔法学校の四年生がそれぞれ一人ずつ付くということだろうか。
だとしたら、運よくアンドレ兄さまが俺たちの担当になる可能性もあるよな、と俺は密かに期待した。
◇
「私はアグナル・フォン・アルカイオス。知っているかもしれないが、アルカイオス王国第一王子だ。
火属性の魔法を使うことができる。この研修で君たちのリーダーを務めることになった。宜しく頼む」
アンドレ兄さまに担当して欲しいという俺の期待が叶わなかったのは当然として、とんでもない大物が俺たちの班のリーダーになってしまった。
「アグナル殿下、お久しぶりです。アントネッリ家長女、ライラ・アントネッリでございます。
私は先日の天授の儀で雷魔法を授かりましたわ」
「ああ、お父様の誕生日会以来かな。また一段と美しくなられた。これは将来が本当に楽しみだね」
どうやら王家と交流のあるアントネッリ公爵家出身のライラはアグナル王子と面識があるらしい。
ライラに続いてディオ、アルと自己紹介していき、最後に俺の番が回ってきた。
「サンフォード家三男のグランディス・サンフォードです。雷属性の魔法を使います。よろしくお願いいたします」
「君がアンドレの弟のグランディスか。お兄さんとは貴族学校のころから仲良くさせてもらっているよ。
さっきアンドレから君のことをよろしく頼まれたんだ。仲の良い兄弟で羨ましいよ」
アンドレ兄さんが第一王子と仲が良いとは初耳である。アンドレ兄さんもサンフォード伯爵家を継ぐ立場として、王族や貴族との交流を積極的に行っているということだろう。
◇
第一王子がリーダーであるという予想外の出来事に面を食らったものの、その後はスムーズに進んだ。
俺たちまず、今夜の拠点となる場所を探しつつ、食料を確保しながら森の中を進んだ。
事前の情報通り、浅層ということもあってか出会う魔物は一番低い等級であるEランクのスライムやホーンラビットだった。
スライムは食料にならないので今回の探索では全て無視したが、ホーンラビットはその肉が美味であることが有名らしく、見つけ次第四人で連携して狩るようにアグナル殿下に指示された。
俺たち四人は雷属性が二人、地属性が二人なので《土壁》でホーンラビットの逃げ道を塞ぎ、《雷撃》で仕留める、という作戦でホーンラビットを六匹ほど捕まえた。
そうして狩りを行いながら森の中を探索していると、川を発見した。小石が敷かれた川岸も十分な広さがあり、今夜はここで野営をすることになった。
アグナル殿下の指示で、俺とアルは薪となる乾いた木材と、可能であれば山菜を探しに行くことに。残ったディオとライラは天幕を準備することになった。
「そういえばグラン、いつの間にライラと仲直りしたの?普通に喋っていたよね?」
川岸から少し離れた森の中、二人で薪となるような木を集めているとアルから質問が飛んできた。
「仲直りしたと言えるのかな?三日前、偶然ライラと会った時に謝罪したんだ。
そしたら向こうも突然怒ったことに罪悪感を持っていたみたいで、彼女からも謝罪されたよ」
「ちゃんと仲直りできたってことだよね?良かったじゃないか!」
「それがこの話には続きがあって、ライラは怒ったことは謝るけど、自分の考え自体は悪いと思っていないって言ったんだ。
だから俺、雷魔法の可能性を見せるという提案をして、ライラと白熱電球の試作品を見せる約束をしてしまったんだ」
「ええ......。じゃあ試作品のテストの場にライラも呼ぶのかい?」
「それについてはまだ決めてない。試作品がきちんと完成してからライラに見せても良いと思っているけど、彼女を説得する上では一緒に完成させる場に居てもらった方が効果的だと思う」
うまく白熱電球が動作したときの喜びを共有した方が彼女の感情面に訴えかけることができるはずだ。その分、失敗したとき悲惨なことになってしまうが。
「まあそのあたりの判断はグランに任せるよ」
アルとしては俺とライラの関係がどうなろうが、自分に直接的な被害が無ければ関心が無さそうであった。
◇
俺とアルが薪を抱えて川岸まで戻ると、天幕がおおよそ完成したところであった。
「その様子だと山菜はあまり取れなかったみたいだね」
アグナル殿下が俺たちに声をかけてきた。
「すみません。俺たち二人だけだと、どれが安全に食べることができるか判断が付きませんでした」
「気にするな。知識が無いのに下手に毒を持つ食材をもって来られたらどうしようかと考えていたところだ。今日は私が山菜を獲ってくるから、二人は火を起こしてくれないか。
安全に食べられる山菜は明日森の中を探索しながら皆に教えるよ」
そう言ってアグナル殿下は森の方へ入って行った。
第一王子ということで、温室育ちの人間であるという勝手な想像をしていたが、森の中でのサバイバルの知識も持っているらしい。
恐らくアグナル殿下も毎年行われるこの野外研修を通じて身に着けた知識なのだろう。
この野外研修には魔法を工夫して使う、という目的以外にも温い環境になれた貴族家の子女の性根を叩き直す意味も込められているのかもしれない。
◇
夕食を摂り終えた俺たちは日が落ちて暗い中、焚火の前で談笑していた。
夕食はアグナル様殿下が獲ってきた茸と山菜、そしてホーンラビットの肉を塩で煮込んだシチューであった。
味付けは持って来ていた塩のみというシンプルなものであったが、アグナル殿下が獲ってきた茸から出たうまみによって、おいしく食べることができた。
事が起きたのは見張りの順番を決めて、寝る準備を始めた時だった。
『オークの出現を確認!!!野外実習は中止とし、皆急いで森を出ること。森からの脱出が困難である場合は、魔法もしくは照明弾を上空に打ち上げて位置を知らせること。
繰り返す......』
唐突にセザール先生の声が森の中に響き渡った。おそらく風の魔法により声を広範囲に拡散させる魔法だろう。
「皆の者、こちらに集まれ!!」
それぞれ天幕の中で寝る準備をしていた俺たちはアグナル殿下の元に集合した。
「最低限の荷物をもって、今すぐ森の出口まで移動する。オークが複数体いる可能性も考えて、なるべく音を立てずに移動すること。
また、敵の姿を発見しても私の指示があるまで魔法を使用することを禁ずる。あちらがこちらを認識していなければ逃げ切るという選択があるからだ。
私の魔法は火属性であるため、森の延焼につながる大規模魔法は使えない。そのため、仮に戦闘になった場合、お前たちの力が必要になる。頼んだぞ!」
とてつもない緊迫感の中、俺たちは荷物をまとめ、森の出口の方向へ出発した。
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